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第17話:銀河に脈打つ謎
#18
しおりを挟む『ジュエルダガー』号が到着した第八惑星メヴィラの裏側、救難信号の発信地点にあったのは、複数の宇宙艦と思われる大量の残骸であった。しかも艦の形状からすると、銀河皇国のものではない。
「これは…モルンゴールの、巡航艦クラスの船だよ」
宇宙の暗闇の中、サーチライトに照らし出される艦の残骸を眺めるセランは、副操縦席から身を乗り出して言った。凹凸の多いオークブラウンの外殻は、言葉の通り、モルンゴール帝国の宇宙艦の特徴である。
「どれも爆発の跡があるね」とマニス。
「三隻…いや四隻だな。残骸の半分以上は、爆発の慣性で飛んで行っちまうし」
カートライトが外部ビュアーを見渡し、見解を述べる。重力子パルス航法を行っている船は、慣性がゼロになっているため、爆発を起こして駆動系が停止しても、船体の大半がその場で漂うのだが、弾け飛んだ破片や船の一部には慣性が働いて、そのまま飛び去ってゆくのだ。
三人の言葉を聞いて、操縦室へやって来ていたノアが問う。
「救難信号を出している船は、どれですか?」
スクリーンに眼を落して「一番奥の船よ」と応じるマニスに、カートライトは操縦桿を握り直して告げた。
「これから向かう。長距離センサーを見ててくれマニス。怪しそうな反応が現れたら、すぐにスーパーターボを使う」
『ジュエルダガー』号が速度を上げながら方向を変え始める中、セランが控えめな声で不満を口にする。
「スーパーターボを二回も続けたら、ドック入りが必要になっちゃうよ」
それを聞き咎めたカートライトが、前方を見据えたまま、きっぱりと言う。
「四の五の言うな。客の安全が優先だ」
やはりカートライトは、少なくとも善人のようである。ノアはそう再認識した。すると程なくして『ジュエルダガー』の正面に、救難信号を出しているモルンゴール艦が姿を現した。前部分が大きく引き裂かれた、巡航艦クラスの艦だ。
モルンゴール帝国の艦種分けは、正確には銀河皇国と違い、戦艦・巡航艦・駆逐艦を、大きさによって一等艦・二等艦・三等艦と呼んでいる。『ジュエルダガー』の前方に浮かんでいるのは、全長が五百メートルほどで、銀河皇国では戦艦クラスだが、帝国の艦は相対的に銀河皇国のものより大きいため、二等艦に区別される。
「かなりひどくやられてるな…」
モニターの拡大映像を見詰めて、カートライトは呟く。今は銀河皇国に従属しているモルンゴール人だが、戦闘種族の彼等の艦を四隻も壊滅状態にさせるとは、余程の事である。
「マニス。周囲に異常な反応はないか?」
カートライトの問いに、マニスは「異常なし」と答えた。これを聞いてカートライトは、ノアに振り向いて告げる。
「あの艦に接舷して、俺とセランが乗り込むが、いいか?」
乗客優先で考えるのであれば、カートライトがノアに許可を求めるのも、当たり前の事であった。ノアは同意すると共に、さらに自分達からも協力を申し出る。インターコムの回線を開いて、キャビンにいる家臣達と連絡を取った。
「P1-0号とキスティス、ジュゼ、キュエルの四名は、船長の指示に従って、救援活動を手伝ってください」
どこからどう見ても、武家階級の立ち居振る舞いを見せるノアだが、もはやカートライトはそういう方向で、彼女を勘繰る事はやめている。「かしこまりました」とインターコムで即答して来る、キスティス達の口調を聞けば、彼女達との上下関係がどのようなものかも、すぐ知れる。「船長」と呼び掛けるノアに、カートライトは指示を出す。
「わかった。四人はエアロックへ行って、そこで宇宙服を着てくれ。ああ…アンドロイドに宇宙服は不要か。ともかく俺とセランもすぐ向かう」
やがて『ジュエルダガー』はモルンゴール二等艦に接舷。カートライト達六名が艦内へ入って行った。そして三十分ほどが過ぎた時、四名の生存者を発見し、連れ帰って来る。四名はいずれもモルンゴール星人らしい。
これを聞いてノアの侍女兼護衛役のカレンガミノ姉妹と、『ホロウシュ』のランは緊張の面持ちとなる。彼女達にとって、モルンゴール星人でアザン・グラン家武将であった、ネオターク・ジュロス=マガランとトクルガル軍との、“アネス・カンヴァーの戦い”での死闘は、ノヴァルナの土産話で聞かされていた。
それに、そもそものモルンゴール星人の、戦闘種族としての身体能力の脅威ぶりは、銀河皇国の軍事関係者であれば、誰でも知るところである。
だがカートライトや、P1-0号達が運んで来た四人のモルンゴール星人は、いずれも酷い怪我をしており、一名は虫の息だった。
その重症の一名を医療コーナーへ運び、あとの三名はキャビンで応急処置を施す事を、カートライトは即断する。当然これに対しては、ノアも異論はない。自らも積極的に手を貸し、医療用手袋を嵌めた両手を、モルンゴール星人特有の紫色の血液に染めながら、処置にあたる。
最上級士官らしきモルンゴール星人の男の右胸に出来た、大きな裂傷に治癒再生パッドを張り付けるノアのもとへ、医療コーナーで処置をしていたカートライトらが、戻って来る。
「駄目だった…」
視線を落としてため息交じりに言うカートライト。医療コーナーへ運んだ重傷のモルンゴール星人は、助からなかったようだ。カートライトはノアが手当てをしている、モルンゴールの最上級士官に声を掛けた。
「済まない艦長。出来るだけの事は、したんだが」
最上級士官は、救難信号を出していた宇宙艦の艦長らしい。爬虫類のそれを思わせる濃緑色の肌に金色の瞳を持つ、身長が二メートルぐらいの男である。
「いいや。我々の方こそかたじけない。船長」
神妙な口調の銀河皇国公用語で礼を言う、モルンゴール星人艦長。そして彼は手当てを終えたノアにも、穏やかに感謝の言葉を告げる。
「ありがとう、お嬢さん」
モルンゴール星人艦長の紳士的な態度に、ノアは「どういたしまして」と応じながら、印象の違いに戸惑いを覚えた。戦闘民族と呼ばれている彼等であるから、普段からもっと攻撃的で、猛々しい性格をしているものだと思っていたからだ。
ただノアも考え方は柔軟であった。自分のモルンゴール星人に対する攻撃的な印象が、ステレオタイプのモルンゴール星人に過ぎないのだと、すぐに考えを改めて友好的に声を掛け、偽名ではあるが自分から名乗る。
「私はライザ・メージェル=ウェーバーと申します。宜しければ貴方のお名前を、お教え願えますか?」
「私はモルンゴール自衛軍二等艦艦長、ベルボビク・エクル=ランヴェラ」
ノアも星大名家の奥方として、日々数多くの人間と交流がある。そのため初対面から、他人の本質を見抜く眼にも長けていた。もっとも、あまりにも複雑怪奇な性格をしていた、ノヴァルナとの出逢いの際は、流石のノアでも例外として、それなりに時間が必要となったが。
そんなノアの見立てでは、このモルンゴール星人のランヴェラ艦長は、裏表の無い性格のようである。さらにランヴェラ艦長は、キャビンのソファーで体を休めている、二人の部下を紹介した。メッヘル=カランクとサヌヴァス=ベーグと言う名で、カランクは航宙士、ベーグは砲術士だという。
「…そして、さっき死んだのが、ウキア=アッザイド。機関士だ」
ランヴェラ艦長はそう言って、長い溜息をついた。そこへ一拍の間を置いてカートライトが、俯き気味のランヴェラ艦長の顔を覗き込むようにして、最も懸念すべき事を問い掛ける。
「いったい誰にやられた? そもそもこの星系はどうなっている?
▶#19につづく
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