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第十三話:信頼の絆と癒しの光
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アレクシス様の体は、勇気の石から放たれる赤い光と、古傷から溢れ出す黒い瘴気のようなものに包まれ、激しく苦悶していた。
「アレクシス様! しっかりしてくださいまし!」
わたくしは彼の肩を掴み、必死に呼びかける。
しかし、彼の意識は朦朧としているようで、焦点の合わない瞳が虚空を彷徨っている。
「賢者様! これは一体……!?」
わたくしは助けを求めるように、森の賢者を見た。
賢者は、静かに首を横に振る。
「あれは、騎士自身の選択じゃ。勇気の石は、持ち主の勇気に呼応し、その力を増幅させる。彼は、その力を利用して、己の内の呪いと正面から向き合おうとしておるのじゃろう。……だが、それはあまりにも危険な賭けじゃ」
賢者の言葉に、血の気が引くのを感じた。
アレクシス様は、自らの命を危険に晒してまで、呪いを克服しようとしているのだ。
(そんな……! わたくしのために、ここまで……)
彼の献身的な想いが、痛いほど胸に突き刺さる。
わたくしにできることはないのだろうか。このまま、彼が苦しむのを見ていることしかできないのだろうか。
いいえ、諦めてはいけない!
わたくしは薬師だ。彼を救うために、ここまで来たのだから。
「賢者様! わたくしに、何かできることはありませんか!? このままでは、アレクシス様が……!」
わたくしの必死の訴えに、賢者はしばし黙考した後、静かに口を開いた。
「……三つ目の試練、『信頼の絆』。あるいは、それが鍵となるやもしれぬ」
「信頼の絆……?」
「月の雫草は、清らかな心を持つ者にしか力を与えぬと言ったな。そして、その力は、深い信頼で結ばれた者同士の間で、より強く発揮される。……娘よ、お主の騎士への想いが真実であるならば、その想いを力に変えるのじゃ」
賢者の言葉は、まるで啓示のようにわたくしの心に響いた。
アレクシス様への想い。それは、紛れもなく真実だ。
わたくしは、アレクシス様の傍らに膝をつき、彼の冷たくなった手を強く握りしめた。
そして、目を閉じ、心の奥底から彼への想いを呼び起こす。
(アレクシス様……わたくしは、あなた様をお慕いしております。どうか、戻ってきてくださいまし。わたくしは、あなた様のいない世界なんて考えられません……!)
溢れ出す想いと共に、わたくしの手のひらから、温かな光が生まれ始めた。
それは、これまでで最も強く、そして優しい光。
その光は、アレクシス様の体をゆっくりと包み込み、勇気の石の赤い光と、古傷の黒い瘴気に触れていく。
すると、不思議なことが起こった。
赤い光と黒い瘴気が、わたくしの放つ優しい光に導かれるように、徐々に調和し始めたのだ。
激しく抵抗していた黒い瘴気が、少しずつその勢いを弱めていく。
「……リリア……」
アレクシス様の唇から、か細い声が漏れた。
彼の瞳が、わずかにわたくしを捉えている。
「アレクシス様! わたくしが、そばにおりますわ!」
わたくしは、さらに強く彼の手を握りしめる。
そして、ありったけの想いを込めて、光を送り続けた。
どれほどの時間が経っただろうか。
アレクシス様の体から発せられていた赤い光と黒い瘴気は、いつしか完全に消え去り、わたくしの放つ穏やかな光だけが、彼を包んでいた。
苦悶に歪んでいた彼の表情は、安らかな寝顔に変わっている。
規則正しい寝息が聞こえ始め、わたくしは安堵のあまり、その場に崩れ落ちそうになった。
「……見事じゃ、娘よ。お主たちの信頼の絆が、奇跡を起こしたのじゃな」
森の賢者が、静かにそう言った。
その声には、深い感嘆の色が込められている。
わたくしは、涙で濡れた頬をそのままに、アレクシス様の寝顔を見つめた。
彼の胸に手を当てると、穏やかな鼓動が伝わってくる。
ああ、よかった……本当によかった……!
疲労と安堵感で意識が遠のきそうになる中、わたくしはアレクシス様の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
深い信頼の絆が、二人を救ってくれたのだ。
「アレクシス様! しっかりしてくださいまし!」
わたくしは彼の肩を掴み、必死に呼びかける。
しかし、彼の意識は朦朧としているようで、焦点の合わない瞳が虚空を彷徨っている。
「賢者様! これは一体……!?」
わたくしは助けを求めるように、森の賢者を見た。
賢者は、静かに首を横に振る。
「あれは、騎士自身の選択じゃ。勇気の石は、持ち主の勇気に呼応し、その力を増幅させる。彼は、その力を利用して、己の内の呪いと正面から向き合おうとしておるのじゃろう。……だが、それはあまりにも危険な賭けじゃ」
賢者の言葉に、血の気が引くのを感じた。
アレクシス様は、自らの命を危険に晒してまで、呪いを克服しようとしているのだ。
(そんな……! わたくしのために、ここまで……)
彼の献身的な想いが、痛いほど胸に突き刺さる。
わたくしにできることはないのだろうか。このまま、彼が苦しむのを見ていることしかできないのだろうか。
いいえ、諦めてはいけない!
わたくしは薬師だ。彼を救うために、ここまで来たのだから。
「賢者様! わたくしに、何かできることはありませんか!? このままでは、アレクシス様が……!」
わたくしの必死の訴えに、賢者はしばし黙考した後、静かに口を開いた。
「……三つ目の試練、『信頼の絆』。あるいは、それが鍵となるやもしれぬ」
「信頼の絆……?」
「月の雫草は、清らかな心を持つ者にしか力を与えぬと言ったな。そして、その力は、深い信頼で結ばれた者同士の間で、より強く発揮される。……娘よ、お主の騎士への想いが真実であるならば、その想いを力に変えるのじゃ」
賢者の言葉は、まるで啓示のようにわたくしの心に響いた。
アレクシス様への想い。それは、紛れもなく真実だ。
わたくしは、アレクシス様の傍らに膝をつき、彼の冷たくなった手を強く握りしめた。
そして、目を閉じ、心の奥底から彼への想いを呼び起こす。
(アレクシス様……わたくしは、あなた様をお慕いしております。どうか、戻ってきてくださいまし。わたくしは、あなた様のいない世界なんて考えられません……!)
溢れ出す想いと共に、わたくしの手のひらから、温かな光が生まれ始めた。
それは、これまでで最も強く、そして優しい光。
その光は、アレクシス様の体をゆっくりと包み込み、勇気の石の赤い光と、古傷の黒い瘴気に触れていく。
すると、不思議なことが起こった。
赤い光と黒い瘴気が、わたくしの放つ優しい光に導かれるように、徐々に調和し始めたのだ。
激しく抵抗していた黒い瘴気が、少しずつその勢いを弱めていく。
「……リリア……」
アレクシス様の唇から、か細い声が漏れた。
彼の瞳が、わずかにわたくしを捉えている。
「アレクシス様! わたくしが、そばにおりますわ!」
わたくしは、さらに強く彼の手を握りしめる。
そして、ありったけの想いを込めて、光を送り続けた。
どれほどの時間が経っただろうか。
アレクシス様の体から発せられていた赤い光と黒い瘴気は、いつしか完全に消え去り、わたくしの放つ穏やかな光だけが、彼を包んでいた。
苦悶に歪んでいた彼の表情は、安らかな寝顔に変わっている。
規則正しい寝息が聞こえ始め、わたくしは安堵のあまり、その場に崩れ落ちそうになった。
「……見事じゃ、娘よ。お主たちの信頼の絆が、奇跡を起こしたのじゃな」
森の賢者が、静かにそう言った。
その声には、深い感嘆の色が込められている。
わたくしは、涙で濡れた頬をそのままに、アレクシス様の寝顔を見つめた。
彼の胸に手を当てると、穏やかな鼓動が伝わってくる。
ああ、よかった……本当によかった……!
疲労と安堵感で意識が遠のきそうになる中、わたくしはアレクシス様の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
深い信頼の絆が、二人を救ってくれたのだ。
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