14 / 25
第十四話:目覚めの朝と月の雫草
しおりを挟む
深い眠りから覚めると、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
柔らかな朝日が、木の葉の隙間から差し込んでいる。
「……ここは……」
わたくしはゆっくりと身を起こし、周囲を見渡した。
そこは、森の賢者の小屋の中だった。簡素な寝台に横たえられていたらしい。
傍らには、アレクシス様が静かな寝息を立てて眠っていた。
彼の顔色は穏やかで、苦しんでいた様子はもうどこにもない。
(アレクシス様……!)
安堵感と共に、昨夜の出来事が鮮明に蘇ってくる。
勇気の石の力、アレクシス様の苦悶、そして、わたくしたちの絆が生んだ奇跡。
「……目が覚めたかね、娘よ」
静かな声に振り返ると、森の賢者が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「賢者様……アレクシス様は……」
「うむ。騎士殿の呪いは、完全に浄化されたようだ。お主の強い想いと、騎士殿の勇気が、古の呪いに打ち勝ったのじゃ」
賢者の言葉に、わたくしの目から再び涙が溢れそうになる。
本当に、よかった……。
「そして、約束通り、これを授けよう」
賢者はそう言うと、小屋の隅に置かれていた小さな木の箱を手に取った。
そして、その箱をわたくしの前に差し出す。
「これは……?」
おそるおそる箱を開けると、そこには、月明かりのように白く輝く、美しい花が数輪、大切に収められていた。
その花びらは、まるで絹のように滑らかで、中心からは微かな甘い香りが漂ってくる。
「月の雫草じゃ。昨夜、お主たちの絆の力に呼応するように、月影の泉に咲き誇っておった」
「まあ……!」
これが、幻の薬草、月の雫草……!
わたくしは、感動のあまり言葉を失った。その美しさは、どんな宝石よりも気高く、神秘的だった。
「この花は、持ち主の治癒の力を高め、あらゆる傷や病を癒すと言われておる。じゃが、最も大切なのは、それを使う者の心じゃ。清らかな心と、他者を想う強い気持ちがあってこそ、真の力を発揮する」
賢者は、わたくしの目をじっと見つめて言った。
「娘よ、お主にはその資格がある。この月の雫草を、大切に使うがよい」
「……はい! ありがとうございます、賢者様!」
わたくしは深々と頭を下げ、月の雫草の入った箱を大切に受け取った。
これで、アレクシス様の古傷の心配はもうない。そして、この力があれば、もっと多くの人を助けることができるかもしれない。
その時、寝台で身じろぎする気配がした。
「……ん……リリア……?」
アレクシス様が、ゆっくりと目を開けた。
まだ少し眠たげな瞳が、わたくしを捉える。
「アレクシス様! お目覚めですのね!」
わたくしは彼のそばに駆け寄り、その手を握った。
彼の体からは、もうあの呪いの気配は感じられない。代わりに、穏やかで力強い生命力が満ちている。
「……ああ。体が、軽い。まるで、生まれ変わったようだ」
アレクシス様は、自分の胸に手を当て、信じられないといった表情を浮かべている。
そして、わたくしの顔を見て、ふっと微笑んだ。
「お前のおかげだ、リリア。……ありがとう」
その笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも晴れやかで、わたくしの心を温かく満たした。
「いいえ、アレクシス様。わたくしは、何も……」
「また、それか」
アレクシス様は悪戯っぽく笑うと、わたくしの手を強く握り返した。
「お前がいなければ、俺は今頃どうなっていたか分からない。お前は、俺の命の恩人だ」
彼の真摯な言葉に、胸がいっぱいになる。
わたくしたちは、しばし見つめ合った。言葉はなくても、互いの想いが通じ合っているのを感じた。
夜明けの光が、二人を優しく照らしている。
長い苦しみから解放された騎士と、彼を支え続けた薬師。
二人の間には、確かな絆と、そして新たな未来への希望が輝いていた。
柔らかな朝日が、木の葉の隙間から差し込んでいる。
「……ここは……」
わたくしはゆっくりと身を起こし、周囲を見渡した。
そこは、森の賢者の小屋の中だった。簡素な寝台に横たえられていたらしい。
傍らには、アレクシス様が静かな寝息を立てて眠っていた。
彼の顔色は穏やかで、苦しんでいた様子はもうどこにもない。
(アレクシス様……!)
安堵感と共に、昨夜の出来事が鮮明に蘇ってくる。
勇気の石の力、アレクシス様の苦悶、そして、わたくしたちの絆が生んだ奇跡。
「……目が覚めたかね、娘よ」
静かな声に振り返ると、森の賢者が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「賢者様……アレクシス様は……」
「うむ。騎士殿の呪いは、完全に浄化されたようだ。お主の強い想いと、騎士殿の勇気が、古の呪いに打ち勝ったのじゃ」
賢者の言葉に、わたくしの目から再び涙が溢れそうになる。
本当に、よかった……。
「そして、約束通り、これを授けよう」
賢者はそう言うと、小屋の隅に置かれていた小さな木の箱を手に取った。
そして、その箱をわたくしの前に差し出す。
「これは……?」
おそるおそる箱を開けると、そこには、月明かりのように白く輝く、美しい花が数輪、大切に収められていた。
その花びらは、まるで絹のように滑らかで、中心からは微かな甘い香りが漂ってくる。
「月の雫草じゃ。昨夜、お主たちの絆の力に呼応するように、月影の泉に咲き誇っておった」
「まあ……!」
これが、幻の薬草、月の雫草……!
わたくしは、感動のあまり言葉を失った。その美しさは、どんな宝石よりも気高く、神秘的だった。
「この花は、持ち主の治癒の力を高め、あらゆる傷や病を癒すと言われておる。じゃが、最も大切なのは、それを使う者の心じゃ。清らかな心と、他者を想う強い気持ちがあってこそ、真の力を発揮する」
賢者は、わたくしの目をじっと見つめて言った。
「娘よ、お主にはその資格がある。この月の雫草を、大切に使うがよい」
「……はい! ありがとうございます、賢者様!」
わたくしは深々と頭を下げ、月の雫草の入った箱を大切に受け取った。
これで、アレクシス様の古傷の心配はもうない。そして、この力があれば、もっと多くの人を助けることができるかもしれない。
その時、寝台で身じろぎする気配がした。
「……ん……リリア……?」
アレクシス様が、ゆっくりと目を開けた。
まだ少し眠たげな瞳が、わたくしを捉える。
「アレクシス様! お目覚めですのね!」
わたくしは彼のそばに駆け寄り、その手を握った。
彼の体からは、もうあの呪いの気配は感じられない。代わりに、穏やかで力強い生命力が満ちている。
「……ああ。体が、軽い。まるで、生まれ変わったようだ」
アレクシス様は、自分の胸に手を当て、信じられないといった表情を浮かべている。
そして、わたくしの顔を見て、ふっと微笑んだ。
「お前のおかげだ、リリア。……ありがとう」
その笑顔は、これまで見たどんな笑顔よりも晴れやかで、わたくしの心を温かく満たした。
「いいえ、アレクシス様。わたくしは、何も……」
「また、それか」
アレクシス様は悪戯っぽく笑うと、わたくしの手を強く握り返した。
「お前がいなければ、俺は今頃どうなっていたか分からない。お前は、俺の命の恩人だ」
彼の真摯な言葉に、胸がいっぱいになる。
わたくしたちは、しばし見つめ合った。言葉はなくても、互いの想いが通じ合っているのを感じた。
夜明けの光が、二人を優しく照らしている。
長い苦しみから解放された騎士と、彼を支え続けた薬師。
二人の間には、確かな絆と、そして新たな未来への希望が輝いていた。
62
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる