3 / 20
第3話:氷の公爵との面接
しおりを挟む
執事長の後ろ姿を見失わないよう、私は必死についていく。
案内された廊下は、どこまでも続いていた。 足音だけがカツ、カツと響く。 壁に飾られた絵画はどれも名画なのだろうが、描かれている人物の目が、すべて私を監視しているように感じられた。
(息が詰まる……)
これが、公爵家の空気か。 カミロの家もそれなりに裕福だったが、こことは格が違う。 空気に重さがあるのだ。 歴史の重みと、それを維持するための冷徹な規律の重みが。
「ここです」
長い廊下の突き当たりにある、巨大な黒檀の扉の前で執事長が立ち止まった。 扉には、精巧なライオンの彫刻が施されており、その目はまるで生きているかのように私を威嚇していた。
「この中に、ラインハルト公爵閣下がいらっしゃいます。よろしいですか、お嬢さん。閣下の言葉は絶対です。口答えは許されません。また、閣下が『下がれ』と言えば、即座に退室すること。それが五体満足で帰るための唯一の条件です」
執事長の忠告は、脅しではなく事実なのだろう。 私は生唾を飲み込み、震える膝に力を入れた。
「はい。肝に銘じます」
「……では」
執事長が重々しくノックをする。
「閣下、セバスチャンでございます。面接希望者を連れてまいりました」
中からの返事はない。 ただ、ピリリとした肌を刺すような冷気が、扉の隙間から漏れ出してきた気がした。
セバスチャンと呼ばれた執事長は、返事を待たずに静かに扉を開けた。
「失礼いたします。入れ」
促され、私は部屋へと足を踏み入れた。
そこは、部屋というよりは図書館のようだった。 壁一面の本棚には、天井まで届くほど無数の書物が詰め込まれている。 部屋の中央には、執務机と思われる巨大なマホガニーの机があり、書類の山が築かれていた。
そして、その書類の山の向こうに、一人の男が座っていた。
「……」
男は、顔を上げなかった。 ただひたすらに、手元の書類にペンを走らせている。
窓から差し込む月明かりが、彼のアッシュグレーの髪を照らし、銀色に輝かせていた。 整いすぎた横顔は、彫刻家が一生をかけて掘り出した大理石の作品のように美しく、そして冷たい。
彼こそが、クラウス・フォン・ラインハルト公爵。 この国の影の支配者とも噂される、『氷の公爵』だ。
私は息をするのも忘れて、その姿に見入ってしまった。 美しい。 けれど、怖い。 生物としての格の違いを、本能が察知して警鐘を鳴らしている。
セバスチャンが一歩進み出る。
「閣下、こちらが……」
「セバスチャン」
初めて、公爵が口を開いた。 その声は、低く、滑らかで、それでいて絶対零度の響きを持っていた。 聞く者の背筋を凍らせるような、魔性の声だ。
「はい」
「私は言ったはずだ。ゴミを部屋に入れるなと」
公爵は、依然として顔を上げないまま言った。 ペンを走らせる手すら止めていない。
「時間の無駄だ。追い出せ」
私の存在など、視界に入れる価値もない。 そう断言されたのだ。
セバスチャンが困ったように眉をひそめ、私の方を見た。 『言った通りだろう?』という目が語っている。
普通なら、ここで心が折れて泣いて帰るのだろう。 あるいは、恐怖で腰を抜かすのかもしれない。
けれど、私の中で何かが弾けた。
ゴミ。 まただ。 カミロも、銀行員も、パメラも、みんな私をそう呼んだ。
(私はゴミじゃない……!)
私は一歩、前に踏み出した。
「お言葉ですが、閣下!」
私の声が、広い執務室に響き渡った。
セバスチャンが驚愕に目を見開く。 書類をめくる公爵の手が、初めてピタリと止まった。
「私はゴミではありません。アリア・ベルンシュタインと申します」
沈黙が落ちた。 部屋の温度が、一気に五度くらい下がった気がした。
公爵が、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳と目が合った瞬間、私は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。 アイスブルーの瞳。 極寒の湖面のように透き通り、底知れない深淵を宿した瞳が、私を射抜いていた。
「……ベルンシュタイン?」
公爵が、私の名を反芻する。
「ああ、あの没落寸前の? 父親が残した借金で首が回らなくなり、婚約者にも捨てられたという、あのベルンシュタイン家の娘か」
なぜ、そこまで知っているのか。 私が婚約破棄されたのは、つい昨日のことなのに。
「……情報の早さには、恐れ入ります」
「私の耳には、王都のドブネズミの鳴き声すら届くようになっている」
公爵は椅子に深く寄りかかり、組んだ両手を顎の下に添えた。 私を見る目は、珍しい虫を見るような、無感情な観察眼だ。
「それで? そのベルンシュタインの令嬢が、なぜこんな薄汚れた格好で、私の屋敷に迷い込んだ? ここは慈善事業のスープ配給所ではないぞ」
「仕事を探しに参りました。雑用係を募集していると伺いましたので」
「雑用係?」
公爵の片眉が器用に跳ね上がる。
「貴族の令嬢が雑用だと? 笑えない冗談だ。お前のような温室育ちの花に、床磨きができるとでも? それとも、私のベッドを温めるつもりで来たのか? だとしたら、鏡を見てから出直すがいい。その泥だらけの顔では、私の食指は動かん」
強烈な侮辱。 カミロの言葉よりも、知性がある分だけ鋭利な刃物となって突き刺さる。
私は拳を握りしめ、爪が食い込む痛みで理性を保った。
「ベッドを温めるつもりはありません。床磨きでも、皿洗いでも、ドブ掃除でも何でもします。私には金が必要なのです」
「金か。つまらん」
公爵は興味を失ったように、再び書類に視線を落とした。
「セバスチャン、つまみ出せ。二度と敷居をまたがせるな」
「はっ。……さあ、アリア様、こちらへ」
セバスチャンが私の腕を掴む。 強い力だ。 引きずり出されそうになる。
ダメだ。 ここで追い出されたら、すべてが終わる。 ミラの笑顔も、未来も、全部消えてしまう。
私は必死に足を踏ん張り、叫んだ。
「待ってください!! 私には能力があります!!」
「ほう?」
公爵の手が再び止まる。
「能力だと? 何の能もないと評判のベルンシュタイン令嬢にか?」
「評判など、所詮は他人の勝手な評価です! 私を使って見なければ、本当の価値など分からないはずです!」
「……面白い」
公爵は椅子から立ち上がった。 背が高い。 見上げるほどの長身が、私に近づいてくる。 その圧迫感に、セバスチャンが思わず私の腕を離して一歩下がった。
公爵は私の目の前まで来ると、私の顎を冷たい指先で持ち上げ、強引に上を向かせた。
至近距離で見るその顔は、息を呑むほど美しく、そして恐ろしかった。
「いいだろう。プレゼンしてみろ」
公爵の吐息がかかる距離。
「お前に何ができる? 計算は? 魔法は? 剣術は? 他国の言語は話せるか?」
「……計算は、家計簿程度なら。魔法は使えません。剣も持ったことがありません。外国語は……挨拶程度なら」
「無能だな」
公爵は吐き捨てるように言った。
「それが貴族令嬢の平均かもしれんが、私の屋敷では『無能』は『罪』だ。お前を雇うメリットが、私には一ミリも見出せん」
顎を掴む指に力がこもる。痛い。
「お引き取り願おうか、元・令嬢」
公爵が手を離し、背を向けようとした。
その瞬間、私の口が勝手に動いていた。
「記憶力!!」
「……あ?」
「記憶力です! 私、一度見たものや聞いたことは、決して忘れません! 人の顔も、名前も、帳簿の数字も、一度目を通せばすべて頭に入ります!」
公爵が立ち止まり、ゆっくりと振り返る。 その目に、初めて『無関心』以外の色が宿った。 『懐疑』の色だ。
「……絶対記憶か? まさか」
「本当です! 幼い頃から、本の内容を丸暗記するのが得意でした。父の領地経営の書類も、すべて頭に入っています!」
これは賭けだった。 私の記憶力は確かに良いが、『絶対記憶』と呼べるほど完璧なものかは分からない。 でも、今はハッタリでも何でも噛ますしかない。
公爵は目を細め、机の上の書類の山から一枚の紙を無造作に抜き出した。
「なら、試してやる」
彼はその紙を私の目の前に突きつけた。 それは、どこかの商会との取引明細書のようだった。 細かい数字と商品名がびっしりと羅列されている。
「見ろ。十秒だけやる」
「えっ、十秒!?」
「もう二秒経過した」
私は慌てて紙に食らいついた。 文字を追うのではない。 紙全体を『画像』として脳に焼き付けるのだ。
商品名、単価、数量、合計金額、日付、署名……。 集中しろ。 集中しろ、アリア! ミラの顔を思い浮かべろ!
「……終わりだ」
公爵が無慈悲に紙を取り上げた。
「さて、上から三番目の品目と、その単価、数量を言ってみろ」
私は目を閉じ、脳裏に焼き付けた残像を呼び起こす。
「……『北国産・白銀狐の毛皮』……単価、金貨三枚……数量、十二……」
「合計は?」
「金貨、三十六枚」
「一番下の署名は?」
「……『ゴルド商会代表、バルガス』……日付は、今月の三日……」
沈黙。
私は恐る恐る目を開けた。 公爵は手元の紙を見つめ、そして私を見た。
その表情は変わらない。 だが、その瞳の奥にある氷が、ほんの少しだけ溶けかかっているように見えた。
「……合っているな」
公爵は紙を机に放り投げた。
「悪くない。その程度の記憶力があれば、伝書鳩よりは役に立つかもしれん」
「では……!」
「だが、それだけだ」
公爵は冷たく言い放つ。
「記憶力が良いだけの人間なら、他にもいる。それだけでお前に高額な報酬を払う理由にはならん。ましてや、お前は危険分子だ」
「危険、分子……?」
「借金まみれの貴族など、スパイの格好の的だからな。私の情報を敵に売れば、大金になるぞ? お前がそうしないという保証がどこにある?」
痛いところを突かれた。 確かに、今の私は金のためなら何でもしそうな状況だ。 信用されるわけがない。
「信用は……これから作ります」
「信用とは、積み上げるには十年かかるが、崩れるのは一瞬だ。私はギャンブルは嫌いでね」
公爵は机に戻り、再びペンを執ろうとした。
万事休すか。 記憶力だけでは、足りない。 もっと、もっと彼にとって決定的な『利益』か、あるいは『保証』を提示しなければ。
私は焦った。 思考をフル回転させる。 彼が求めているものは? 『氷の公爵』と呼ばれる彼が、誰も寄せ付けない彼が、必要とするもの。
それは、能力だけではない。 『絶対的な服従』だ。
私はスカートを捲り、その場に膝をついた。 汚れた床に、貴族の娘が膝をつくなど、本来ならあり得ない屈辱だ。 だが、私は頭を垂れた。
「閣下。取引をさせてください」
「取引?」
「私を雇ってください。そして、給金を前借りさせてください。金貨……二千枚」
セバスチャンが「っ!?」と声を上げた。 公爵の手が止まる。
「……ほう。雑用係の分際で、金貨二千枚の前借りだと? 王国の年間予算の一部にも匹敵する大金を?」
公爵の声には、呆れを通り越して殺気すら混じっていた。
「私の命がいくら安いと言っても、そこまでふざけた要求を聞かされる覚えはないぞ。殺されたいのか?」
「命なら、差し上げます」
私は顔を上げ、公爵を睨みつけた。 懇願ではない。 これは、魂を懸けた交渉だ。
「私の命、私の人生、私の能力、そして私の『未来』。すべてを担保として、閣下に差し出します」
「……なんだと?」
「金貨二千枚で、私という人間のすべてをお買い上げください。私は一生、閣下の所有物となり、犬のように働き、奴隷のように尽くします。裏切れば、即座に殺していただいて構いません。私の妹も人質に取っていただいても結構です!」
「……妹を人質に?」
「はい。私にとって、妹は命よりも重い存在です。その妹の命を閣下に預けるということは、私が絶対に裏切らないという何よりの証明になるはずです」
狂っている。 自分でもそう思う。 最愛のミラを人質にするなんて。 でも、こうでも言わなければ、この鉄壁の男の心は動かせない。
公爵は椅子から立ち上がり、ゆっくりと私に近づいてきた。 そして、跪く私の前に立ち、見下ろした。
「……面白い女だ」
公爵は私の髪を掴み、強引に顔を上げさせた。 痛い。けれど、私は目を逸らさない。
「金貨二千枚で、己の人生を売るか。安いものだな、貴族の矜持とやらは」
「矜持で妹は守れません。守れるなら、ドブにでも捨てます」
「フッ……」
公爵の口元が、わずかに歪んだ。 それは、初めて見せる『笑み』だった。 ただし、獲物を見つけた肉食獣の、残忍な笑みだが。
「気に入った。その眼が良い。飢えた野良犬の眼だ」
公爵は髪から手を離し、懐から一枚の硬貨を取り出した。 それを親指で弾き、宙に舞わせる。 キラリと光る金貨が、私の目の前に落ちた。 カラン、と高い音が響く。
「採用だ、アリア・ベルンシュタイン」
「……っ! 本当、ですか!?」
「ただし」
公爵は低い声で釘を刺す。
「勘違いするな。金貨二千枚は、そう簡単に貸せる額ではない。まずはお試しだ。一ヶ月……いや、一週間だ」
「一週間……?」
「一週間、この屋敷で生き残ってみせろ。私の出す無理難題をすべてこなし、雑用係として完璧な成果を上げろ。それができたら、正式な契約を結び、金を貸してやる」
「一週間……」
カミロの期限まで、あと一ヶ月。 一週間なら、間に合う。
「もし、一週間もたずに逃げ出したり、無能さを露呈したりすれば……」
公爵が私の耳元に顔を寄せ、囁いた。 その息遣いは氷のように冷たく、私の鼓膜を震わせた。
「その時は、違約金としてお前の眼球と、その可愛らしい妹の心臓をもらう。……それでも、契約するか?」
背筋がゾッとした。 この人は本気だ。 冗談や比喩ではない。 失敗すれば、私は本当に殺され、ミラも失う。
これは、悪魔との契約だ。
私は震える手を抑え、ゴクリと唾を飲み込んだ。
逃げたい。 今すぐ「やっぱりやめます」と言って逃げ出したい。 でも、逃げた先に待っているのは、カミロという別の悪魔だ。
ならば。 私は、より強く、より美しい悪魔を選ぶ。
「……謹んで、お受けいたします」
私は床に落ちた金貨を拾い上げ、握りしめた。 冷たい金属の感触が、私の覚悟を焼き付ける。
「後悔するなよ」
公爵は楽しそうに目を細め、セバスチャンに向き直った。
「セバスチャン、こいつを一番下の部屋へ案内しろ。制服は……そうだな、ボロ布で十分だ」
「承知いたしました」
セバスチャンが私に手を差し伸べる。 その目は、先ほどよりも少しだけ、哀れみを含んでいるように見えた。
「立ちなさい、アリア。……地獄へようこそ」
私はふらつく足で立ち上がった。 足の感覚がない。 極度の緊張から解放された反動で、めまいがする。
けれど、私は勝ったのだ。 第一関門を突破したのだ。
「ありがとうございます、閣下。……失礼いたします」
私は深々と頭を下げ、部屋を後にしようとした。
「おい」
背後から声がかかる。
「はい」
振り返ると、公爵はすでに書類に向き直っていた。 その横顔は、再び氷の彫像のように無表情に戻っている。
「名前だ」
「え?」
「ゴミではなく、アリアと呼んでやる。……精々、死なないように足掻け」
「……はい!」
私は力強く返事をして、重い扉を閉めた。
廊下に出た瞬間、私は壁に手をついて崩れ落ちた。 心臓が破裂しそうだ。 冷や汗でドレスが肌に張り付いている。
(怖かった……)
本当に、殺されるかと思った。 あの目は、人間を見る目じゃなかった。
けれど、手の中には確かな重みがある。 拾った金貨一枚。 これが、私の新しい人生の契約金だ。
「立てますか、アリア」
セバスチャンが声をかけてくる。 口調が少しだけ柔らかくなっていた。 「様」が取れて呼び捨てになったのは、私が正式に使用人――つまり部下になったからだろう。
「はい……大丈夫です」
私は壁を伝って立ち上がる。
「では、案内します。あなたの寝床は屋根裏部屋です。ネズミが出ますが、まあ、すぐに慣れるでしょう」
「……ネズミなら、友達になれそうです」
私が軽口を叩くと、セバスチャンは口の端をほんの少しだけ上げた。
「その減らず口があれば、三日は持つかもしれませんな」
こうして、私の公爵邸での生活が始まった。 それは、噂通り、いや噂以上の地獄の日々の幕開けだった。
『氷の公爵』クラウス。 彼が求めているのは、ただの雑用係ではない。 それに気づくのは、もう少し先の話だ。
今はただ、この命が繋がったことに感謝しよう。 そして、絶対に勝ち残ってやる。
私は窓の外、遠くに見える暗闇に向かって、心の中で叫んだ。
(待ってて、ミラ。お姉ちゃん、まずは一歩、進んだよ)
手の中の金貨が、月明かりを浴びて、希望のように輝いていた。
案内された廊下は、どこまでも続いていた。 足音だけがカツ、カツと響く。 壁に飾られた絵画はどれも名画なのだろうが、描かれている人物の目が、すべて私を監視しているように感じられた。
(息が詰まる……)
これが、公爵家の空気か。 カミロの家もそれなりに裕福だったが、こことは格が違う。 空気に重さがあるのだ。 歴史の重みと、それを維持するための冷徹な規律の重みが。
「ここです」
長い廊下の突き当たりにある、巨大な黒檀の扉の前で執事長が立ち止まった。 扉には、精巧なライオンの彫刻が施されており、その目はまるで生きているかのように私を威嚇していた。
「この中に、ラインハルト公爵閣下がいらっしゃいます。よろしいですか、お嬢さん。閣下の言葉は絶対です。口答えは許されません。また、閣下が『下がれ』と言えば、即座に退室すること。それが五体満足で帰るための唯一の条件です」
執事長の忠告は、脅しではなく事実なのだろう。 私は生唾を飲み込み、震える膝に力を入れた。
「はい。肝に銘じます」
「……では」
執事長が重々しくノックをする。
「閣下、セバスチャンでございます。面接希望者を連れてまいりました」
中からの返事はない。 ただ、ピリリとした肌を刺すような冷気が、扉の隙間から漏れ出してきた気がした。
セバスチャンと呼ばれた執事長は、返事を待たずに静かに扉を開けた。
「失礼いたします。入れ」
促され、私は部屋へと足を踏み入れた。
そこは、部屋というよりは図書館のようだった。 壁一面の本棚には、天井まで届くほど無数の書物が詰め込まれている。 部屋の中央には、執務机と思われる巨大なマホガニーの机があり、書類の山が築かれていた。
そして、その書類の山の向こうに、一人の男が座っていた。
「……」
男は、顔を上げなかった。 ただひたすらに、手元の書類にペンを走らせている。
窓から差し込む月明かりが、彼のアッシュグレーの髪を照らし、銀色に輝かせていた。 整いすぎた横顔は、彫刻家が一生をかけて掘り出した大理石の作品のように美しく、そして冷たい。
彼こそが、クラウス・フォン・ラインハルト公爵。 この国の影の支配者とも噂される、『氷の公爵』だ。
私は息をするのも忘れて、その姿に見入ってしまった。 美しい。 けれど、怖い。 生物としての格の違いを、本能が察知して警鐘を鳴らしている。
セバスチャンが一歩進み出る。
「閣下、こちらが……」
「セバスチャン」
初めて、公爵が口を開いた。 その声は、低く、滑らかで、それでいて絶対零度の響きを持っていた。 聞く者の背筋を凍らせるような、魔性の声だ。
「はい」
「私は言ったはずだ。ゴミを部屋に入れるなと」
公爵は、依然として顔を上げないまま言った。 ペンを走らせる手すら止めていない。
「時間の無駄だ。追い出せ」
私の存在など、視界に入れる価値もない。 そう断言されたのだ。
セバスチャンが困ったように眉をひそめ、私の方を見た。 『言った通りだろう?』という目が語っている。
普通なら、ここで心が折れて泣いて帰るのだろう。 あるいは、恐怖で腰を抜かすのかもしれない。
けれど、私の中で何かが弾けた。
ゴミ。 まただ。 カミロも、銀行員も、パメラも、みんな私をそう呼んだ。
(私はゴミじゃない……!)
私は一歩、前に踏み出した。
「お言葉ですが、閣下!」
私の声が、広い執務室に響き渡った。
セバスチャンが驚愕に目を見開く。 書類をめくる公爵の手が、初めてピタリと止まった。
「私はゴミではありません。アリア・ベルンシュタインと申します」
沈黙が落ちた。 部屋の温度が、一気に五度くらい下がった気がした。
公爵が、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳と目が合った瞬間、私は心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。 アイスブルーの瞳。 極寒の湖面のように透き通り、底知れない深淵を宿した瞳が、私を射抜いていた。
「……ベルンシュタイン?」
公爵が、私の名を反芻する。
「ああ、あの没落寸前の? 父親が残した借金で首が回らなくなり、婚約者にも捨てられたという、あのベルンシュタイン家の娘か」
なぜ、そこまで知っているのか。 私が婚約破棄されたのは、つい昨日のことなのに。
「……情報の早さには、恐れ入ります」
「私の耳には、王都のドブネズミの鳴き声すら届くようになっている」
公爵は椅子に深く寄りかかり、組んだ両手を顎の下に添えた。 私を見る目は、珍しい虫を見るような、無感情な観察眼だ。
「それで? そのベルンシュタインの令嬢が、なぜこんな薄汚れた格好で、私の屋敷に迷い込んだ? ここは慈善事業のスープ配給所ではないぞ」
「仕事を探しに参りました。雑用係を募集していると伺いましたので」
「雑用係?」
公爵の片眉が器用に跳ね上がる。
「貴族の令嬢が雑用だと? 笑えない冗談だ。お前のような温室育ちの花に、床磨きができるとでも? それとも、私のベッドを温めるつもりで来たのか? だとしたら、鏡を見てから出直すがいい。その泥だらけの顔では、私の食指は動かん」
強烈な侮辱。 カミロの言葉よりも、知性がある分だけ鋭利な刃物となって突き刺さる。
私は拳を握りしめ、爪が食い込む痛みで理性を保った。
「ベッドを温めるつもりはありません。床磨きでも、皿洗いでも、ドブ掃除でも何でもします。私には金が必要なのです」
「金か。つまらん」
公爵は興味を失ったように、再び書類に視線を落とした。
「セバスチャン、つまみ出せ。二度と敷居をまたがせるな」
「はっ。……さあ、アリア様、こちらへ」
セバスチャンが私の腕を掴む。 強い力だ。 引きずり出されそうになる。
ダメだ。 ここで追い出されたら、すべてが終わる。 ミラの笑顔も、未来も、全部消えてしまう。
私は必死に足を踏ん張り、叫んだ。
「待ってください!! 私には能力があります!!」
「ほう?」
公爵の手が再び止まる。
「能力だと? 何の能もないと評判のベルンシュタイン令嬢にか?」
「評判など、所詮は他人の勝手な評価です! 私を使って見なければ、本当の価値など分からないはずです!」
「……面白い」
公爵は椅子から立ち上がった。 背が高い。 見上げるほどの長身が、私に近づいてくる。 その圧迫感に、セバスチャンが思わず私の腕を離して一歩下がった。
公爵は私の目の前まで来ると、私の顎を冷たい指先で持ち上げ、強引に上を向かせた。
至近距離で見るその顔は、息を呑むほど美しく、そして恐ろしかった。
「いいだろう。プレゼンしてみろ」
公爵の吐息がかかる距離。
「お前に何ができる? 計算は? 魔法は? 剣術は? 他国の言語は話せるか?」
「……計算は、家計簿程度なら。魔法は使えません。剣も持ったことがありません。外国語は……挨拶程度なら」
「無能だな」
公爵は吐き捨てるように言った。
「それが貴族令嬢の平均かもしれんが、私の屋敷では『無能』は『罪』だ。お前を雇うメリットが、私には一ミリも見出せん」
顎を掴む指に力がこもる。痛い。
「お引き取り願おうか、元・令嬢」
公爵が手を離し、背を向けようとした。
その瞬間、私の口が勝手に動いていた。
「記憶力!!」
「……あ?」
「記憶力です! 私、一度見たものや聞いたことは、決して忘れません! 人の顔も、名前も、帳簿の数字も、一度目を通せばすべて頭に入ります!」
公爵が立ち止まり、ゆっくりと振り返る。 その目に、初めて『無関心』以外の色が宿った。 『懐疑』の色だ。
「……絶対記憶か? まさか」
「本当です! 幼い頃から、本の内容を丸暗記するのが得意でした。父の領地経営の書類も、すべて頭に入っています!」
これは賭けだった。 私の記憶力は確かに良いが、『絶対記憶』と呼べるほど完璧なものかは分からない。 でも、今はハッタリでも何でも噛ますしかない。
公爵は目を細め、机の上の書類の山から一枚の紙を無造作に抜き出した。
「なら、試してやる」
彼はその紙を私の目の前に突きつけた。 それは、どこかの商会との取引明細書のようだった。 細かい数字と商品名がびっしりと羅列されている。
「見ろ。十秒だけやる」
「えっ、十秒!?」
「もう二秒経過した」
私は慌てて紙に食らいついた。 文字を追うのではない。 紙全体を『画像』として脳に焼き付けるのだ。
商品名、単価、数量、合計金額、日付、署名……。 集中しろ。 集中しろ、アリア! ミラの顔を思い浮かべろ!
「……終わりだ」
公爵が無慈悲に紙を取り上げた。
「さて、上から三番目の品目と、その単価、数量を言ってみろ」
私は目を閉じ、脳裏に焼き付けた残像を呼び起こす。
「……『北国産・白銀狐の毛皮』……単価、金貨三枚……数量、十二……」
「合計は?」
「金貨、三十六枚」
「一番下の署名は?」
「……『ゴルド商会代表、バルガス』……日付は、今月の三日……」
沈黙。
私は恐る恐る目を開けた。 公爵は手元の紙を見つめ、そして私を見た。
その表情は変わらない。 だが、その瞳の奥にある氷が、ほんの少しだけ溶けかかっているように見えた。
「……合っているな」
公爵は紙を机に放り投げた。
「悪くない。その程度の記憶力があれば、伝書鳩よりは役に立つかもしれん」
「では……!」
「だが、それだけだ」
公爵は冷たく言い放つ。
「記憶力が良いだけの人間なら、他にもいる。それだけでお前に高額な報酬を払う理由にはならん。ましてや、お前は危険分子だ」
「危険、分子……?」
「借金まみれの貴族など、スパイの格好の的だからな。私の情報を敵に売れば、大金になるぞ? お前がそうしないという保証がどこにある?」
痛いところを突かれた。 確かに、今の私は金のためなら何でもしそうな状況だ。 信用されるわけがない。
「信用は……これから作ります」
「信用とは、積み上げるには十年かかるが、崩れるのは一瞬だ。私はギャンブルは嫌いでね」
公爵は机に戻り、再びペンを執ろうとした。
万事休すか。 記憶力だけでは、足りない。 もっと、もっと彼にとって決定的な『利益』か、あるいは『保証』を提示しなければ。
私は焦った。 思考をフル回転させる。 彼が求めているものは? 『氷の公爵』と呼ばれる彼が、誰も寄せ付けない彼が、必要とするもの。
それは、能力だけではない。 『絶対的な服従』だ。
私はスカートを捲り、その場に膝をついた。 汚れた床に、貴族の娘が膝をつくなど、本来ならあり得ない屈辱だ。 だが、私は頭を垂れた。
「閣下。取引をさせてください」
「取引?」
「私を雇ってください。そして、給金を前借りさせてください。金貨……二千枚」
セバスチャンが「っ!?」と声を上げた。 公爵の手が止まる。
「……ほう。雑用係の分際で、金貨二千枚の前借りだと? 王国の年間予算の一部にも匹敵する大金を?」
公爵の声には、呆れを通り越して殺気すら混じっていた。
「私の命がいくら安いと言っても、そこまでふざけた要求を聞かされる覚えはないぞ。殺されたいのか?」
「命なら、差し上げます」
私は顔を上げ、公爵を睨みつけた。 懇願ではない。 これは、魂を懸けた交渉だ。
「私の命、私の人生、私の能力、そして私の『未来』。すべてを担保として、閣下に差し出します」
「……なんだと?」
「金貨二千枚で、私という人間のすべてをお買い上げください。私は一生、閣下の所有物となり、犬のように働き、奴隷のように尽くします。裏切れば、即座に殺していただいて構いません。私の妹も人質に取っていただいても結構です!」
「……妹を人質に?」
「はい。私にとって、妹は命よりも重い存在です。その妹の命を閣下に預けるということは、私が絶対に裏切らないという何よりの証明になるはずです」
狂っている。 自分でもそう思う。 最愛のミラを人質にするなんて。 でも、こうでも言わなければ、この鉄壁の男の心は動かせない。
公爵は椅子から立ち上がり、ゆっくりと私に近づいてきた。 そして、跪く私の前に立ち、見下ろした。
「……面白い女だ」
公爵は私の髪を掴み、強引に顔を上げさせた。 痛い。けれど、私は目を逸らさない。
「金貨二千枚で、己の人生を売るか。安いものだな、貴族の矜持とやらは」
「矜持で妹は守れません。守れるなら、ドブにでも捨てます」
「フッ……」
公爵の口元が、わずかに歪んだ。 それは、初めて見せる『笑み』だった。 ただし、獲物を見つけた肉食獣の、残忍な笑みだが。
「気に入った。その眼が良い。飢えた野良犬の眼だ」
公爵は髪から手を離し、懐から一枚の硬貨を取り出した。 それを親指で弾き、宙に舞わせる。 キラリと光る金貨が、私の目の前に落ちた。 カラン、と高い音が響く。
「採用だ、アリア・ベルンシュタイン」
「……っ! 本当、ですか!?」
「ただし」
公爵は低い声で釘を刺す。
「勘違いするな。金貨二千枚は、そう簡単に貸せる額ではない。まずはお試しだ。一ヶ月……いや、一週間だ」
「一週間……?」
「一週間、この屋敷で生き残ってみせろ。私の出す無理難題をすべてこなし、雑用係として完璧な成果を上げろ。それができたら、正式な契約を結び、金を貸してやる」
「一週間……」
カミロの期限まで、あと一ヶ月。 一週間なら、間に合う。
「もし、一週間もたずに逃げ出したり、無能さを露呈したりすれば……」
公爵が私の耳元に顔を寄せ、囁いた。 その息遣いは氷のように冷たく、私の鼓膜を震わせた。
「その時は、違約金としてお前の眼球と、その可愛らしい妹の心臓をもらう。……それでも、契約するか?」
背筋がゾッとした。 この人は本気だ。 冗談や比喩ではない。 失敗すれば、私は本当に殺され、ミラも失う。
これは、悪魔との契約だ。
私は震える手を抑え、ゴクリと唾を飲み込んだ。
逃げたい。 今すぐ「やっぱりやめます」と言って逃げ出したい。 でも、逃げた先に待っているのは、カミロという別の悪魔だ。
ならば。 私は、より強く、より美しい悪魔を選ぶ。
「……謹んで、お受けいたします」
私は床に落ちた金貨を拾い上げ、握りしめた。 冷たい金属の感触が、私の覚悟を焼き付ける。
「後悔するなよ」
公爵は楽しそうに目を細め、セバスチャンに向き直った。
「セバスチャン、こいつを一番下の部屋へ案内しろ。制服は……そうだな、ボロ布で十分だ」
「承知いたしました」
セバスチャンが私に手を差し伸べる。 その目は、先ほどよりも少しだけ、哀れみを含んでいるように見えた。
「立ちなさい、アリア。……地獄へようこそ」
私はふらつく足で立ち上がった。 足の感覚がない。 極度の緊張から解放された反動で、めまいがする。
けれど、私は勝ったのだ。 第一関門を突破したのだ。
「ありがとうございます、閣下。……失礼いたします」
私は深々と頭を下げ、部屋を後にしようとした。
「おい」
背後から声がかかる。
「はい」
振り返ると、公爵はすでに書類に向き直っていた。 その横顔は、再び氷の彫像のように無表情に戻っている。
「名前だ」
「え?」
「ゴミではなく、アリアと呼んでやる。……精々、死なないように足掻け」
「……はい!」
私は力強く返事をして、重い扉を閉めた。
廊下に出た瞬間、私は壁に手をついて崩れ落ちた。 心臓が破裂しそうだ。 冷や汗でドレスが肌に張り付いている。
(怖かった……)
本当に、殺されるかと思った。 あの目は、人間を見る目じゃなかった。
けれど、手の中には確かな重みがある。 拾った金貨一枚。 これが、私の新しい人生の契約金だ。
「立てますか、アリア」
セバスチャンが声をかけてくる。 口調が少しだけ柔らかくなっていた。 「様」が取れて呼び捨てになったのは、私が正式に使用人――つまり部下になったからだろう。
「はい……大丈夫です」
私は壁を伝って立ち上がる。
「では、案内します。あなたの寝床は屋根裏部屋です。ネズミが出ますが、まあ、すぐに慣れるでしょう」
「……ネズミなら、友達になれそうです」
私が軽口を叩くと、セバスチャンは口の端をほんの少しだけ上げた。
「その減らず口があれば、三日は持つかもしれませんな」
こうして、私の公爵邸での生活が始まった。 それは、噂通り、いや噂以上の地獄の日々の幕開けだった。
『氷の公爵』クラウス。 彼が求めているのは、ただの雑用係ではない。 それに気づくのは、もう少し先の話だ。
今はただ、この命が繋がったことに感謝しよう。 そして、絶対に勝ち残ってやる。
私は窓の外、遠くに見える暗闇に向かって、心の中で叫んだ。
(待ってて、ミラ。お姉ちゃん、まずは一歩、進んだよ)
手の中の金貨が、月明かりを浴びて、希望のように輝いていた。
63
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる