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第5話:最初の「武器」
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地下への階段を降りきった先には、冷んやりとした空気が漂う石造りの広間があった。
そこは、まるで巨大な金庫の中のようだった。 壁一面に埋め込まれた無数の引き出し。 それぞれに真鍮のプレートが貼られ、日付と個人名らしきものが刻まれている。
「ここは……?」
私の問いに、前を歩くクラウス公爵が足を止めずに答える。
「『影の書庫』だ。我がラインハルト家が代々収集してきた、この国の貴族、王族、豪商、そして他国の要人たちの『秘密』が眠っている」
「秘密……」
「横領、密輸、不倫、殺人教唆、裏帳簿。表には出せない汚泥のような真実だ。これが私の力の源泉であり、同時にこの国を裏から支える楔(くさび)でもある」
公爵は一つの引き出しに手をかけ、愛おしそうに撫でた。
「平和とは、綺麗な言葉や理想だけで保たれるものではない。誰かが泥を被り、誰かの喉元にナイフを突きつけておくことで、初めて均衡が保たれる。私はそのナイフの柄を握っているに過ぎない」
彼は振り返り、氷のような瞳で私を射抜いた。
「アリア。お前が私の『道具』になるということは、この薄汚い泥の中に手を突っ込むということだ。綺麗なドレスを着てお茶を飲むだけの令嬢には戻れない。……それでも、踏み込むか?」
試されている。 この人は、常に私を試す。 崖っぷちに立たせ、落ちるか、飛ぶか、それを見極めようとしている。
私は迷わず一歩前に出た。
「泥なら、もう全身に被っています。今さら指先が汚れるくらい、どうということはありません」
「……フッ。言うようになったな」
公爵は満足げに口元を歪めると、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、私に放った。
「受け取れ」
「これは?」
「小切手だ。金貨二千枚分。王都中央銀行の、私の個人口座から引き出せるようにサインしてある」
心臓が跳ね上がった。 震える手で羊皮紙を開く。 そこには確かに、夢にまで見た金額と、公爵の流麗な署名があった。
「これで……」
「カミロへの借金は返せる。妹も守れるだろう。約束は守ったぞ」
「……ありがとうございます、閣下!」
私はその場で深く頭を下げた。 涙が出そうだったが、こらえた。 ここで泣いては、ただの弱い女に戻ってしまう。
「礼は仕事で返せ。明日からお前の業務が変わる。雑用係は卒業だ」
「では、私は……」
「私の『見習い秘書』として動いてもらう。表向きはただのお茶汲みだが、裏では私の目となり耳となれ。……まずは、この書庫にある主要な貴族の『弱み』をすべて頭に叩き込め。期限は三日だ」
「み、三日!? この量をですか!?」
見渡す限りの引き出し。数千はあるだろう。
「お前の記憶力なら可能だろう? それとも、ハッタリだったか?」
意地悪な笑みを浮かべる公爵。 私は羊皮紙を懐にしまい、顔を上げた。
「……やってみせます。私の脳みそがパンクするのが先か、閣下の秘密が尽きるのが先か、勝負ですね」
「威勢だけはいいな。……死ぬ気で励め」
公爵は踵を返し、闇の中へと消えていった。
残された私は、膨大な情報の海を前に、武者震いをした。 これは地獄だ。 でも、希望のある地獄だ。
「見てなさい……全部、私の血肉にしてやるわ」
私は一番端の引き出しに手をかけた。
◇
それから三日間。 私は文字通り、不眠不休で情報を貪った。
侯爵家の隠し子騒動。 伯爵夫人の浪費癖。 大臣の裏金疑惑。 騎士団長の賭博借金。
ドロドロとした欲望と裏切りの記録。 普通なら気分が悪くなるような内容だが、今の私にはそれが煌めく「弾丸」に見えた。 これを知っていれば、誰もが私にひれ伏す。 そんな万能感すら覚え始めた頃――事件は起きた。
◇
公爵邸の正面玄関が、物々しい空気に包まれていた。 多数の馬車と、武装した護衛兵たち。 彼らが纏う鎧は、この国のものとは違う。 黒鉄(くろがね)色に輝く、重厚な甲冑。
北の軍事大国、「ガリア帝国」の外交団だ。
「おい、急げ! 粗相のないようにしろ!」
セバスチャンが珍しく声を張り上げ、使用人たちに指示を飛ばしている。 私も新しい制服――雑用係のボロ布ではなく、シンプルだが仕立ての良い紺色のメイド服に身を包み、広間の隅に控えていた。
今日行われるのは、両国の国境付近にある鉱山地帯の採掘権を巡る交渉だという。 一歩間違えれば戦争にもなりかねない、極めて重要な会談だ。
「アリア、お前は控えの間で待機だ。余計なことはするなよ」
通りがかりにセバスチャンが釘を刺す。
「はい、承知しております」
私は殊勝に頷いた。 だが、胸の内では別のことを考えていた。 (ガリア帝国……『影の書庫』によれば、今回の代表団を率いるバルバロス将軍は、極度の女嫌いで有名。そして、大の酒好き……)
知識が、頭の中でリンクする。
やがて、重い足音と共に代表団が入ってきた。 先頭を歩くのは、熊のような大男。 顔には古傷があり、猛禽類のような鋭い眼光を放っている。 彼がバルバロス将軍だ。
出迎えた公爵は、完璧な礼儀で彼らを出迎えた。 だが、将軍は挨拶もそこそこに、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン。相変わらず軟弱な国だ。空気まで甘ったるい」
ガリア語だ。 独特の喉を鳴らすような発音。 公爵はガリア語も堪能だと聞いているが、公式の場では通訳を介するのがルールだ。
ところが。
「……おい、通訳はどうした?」
公爵が低い声でセバスチャンに問う。
「そ、それが……急な腹痛で倒れまして……代わりの者が今、こちらに向かっておりますが、到着まであと一時間はかかると……」
「一時間だと? この短気な将軍を待たせるつもりか?」
公爵の眉間にシワが寄る。 最悪のタイミングだ。 これも敵対派閥の妨害工作かもしれない。
「なんだ、通訳も用意できんのか? 我々を愚弄しているのか!」
バルバロス将軍が声を荒らげた。 通訳がいなくても、怒っていることくらいは誰にでも分かる。
「将軍、少々トラブルがありまして。すぐに代わりを用意させます」
公爵が流暢なガリア語で答える。 しかし、将軍の機嫌は直らない。
「貴様が喋れるのは知っている。だが、対等な交渉の場において、当事者が通訳を兼ねるなど聞いたことがない! これは外交儀礼への侮辱だ! 帰らせてもらう!」
将軍が踵を返そうとする。 まずい。 ここで帰られたら、交渉決裂どころか、外交問題に発展する。 公爵のメンツも丸潰れだ。
公爵の目が、凍てつくような殺気を帯びる。 無理やり引き止めるか? いや、それでは火に油だ。
その時。 私の足が、勝手に動いていた。
「お待ちください、閣下!」
凛とした声が、広間に響き渡った。 全員の視線が、私に集中する。
「……アリア?」
公爵が目を見開く。 セバスチャンが青ざめる。 「馬鹿な、下がれ!」というセバスチャンの声が聞こえたが、私は止まらなかった。
私は将軍の前に進み出ると、ガリア式の軍礼――右拳を左胸に当てるポーズ――を完璧な角度で決めた。
「バルバロス将軍閣下。遠路はるばるのご来訪、心より歓迎いたします。本日の通訳を務めさせていただきます、アリアと申します」
私の口から出たのは、滑らかなガリア語だった。
将軍が足を止め、怪訝そうに私を見下ろした。
「……女? しかも、メイドか? 貴様のような小娘に、我々の言葉が分かるのか」
「はい。私の亡き母はガリアの北地方出身でして、幼い頃より子守唄代わりにガリアの英雄譚を聞いて育ちました」
嘘だ。 母は生粋の王国貴族だ。 ガリア語は、この三日間、図書室の辞書と文法書を丸暗記して叩き込んだものだ。 発音は、たまたま屋敷にいたガリア出身の庭師に、休憩時間にしつこく話しかけて矯正してもらった。 「北地方出身」という設定にしたのは、私の方言(訛り)をごまかすためだ。
「ほう……北の出身か。どおりで、懐かしい訛りがあると思った」
将軍の表情が、わずかに緩んだ。 賭けに勝った。
「公爵閣下は、将軍との会談を何よりも重要視しており、本来の通訳では力不足と判断されました。そこで、将軍の故郷の言葉を解する私ごときを、あえて抜擢されたのです」
私は公爵の方をチラリと見た。 公爵は無表情を貫いているが、その目は「うまくやれ」と語っていた。
「私の未熟なガリア語が、将軍の偉大さを損なうことがあれば、その場で首を刎ねていただいて構いません。……どうか、お席についていただけないでしょうか」
私は深く頭を下げた。 首を差し出す覚悟。 それが、武人である将軍の琴線に触れたようだ。
「……いい度胸だ。女にしておくには惜しい」
将軍は豪快に笑い、公爵に向き直った。
「ラインハルト公。面白い隠し玉を持っていたな。よかろう、話を聞こうではないか」
◇
会談は、応接室で行われた。 私は公爵と将軍の間に立ち、言葉の橋渡しを行った。
「我が帝国は、鉄鉱石の関税撤廃を要求する」
「撤廃は無理です。我が国の鍛冶ギルドが反発します」
内容はシビアなものだった。 専門用語が飛び交う。 だが、私の頭の中には『影の書庫』の知識がある。 両国の経済状況、将軍の性格、裏の事情。 それらをフル活用し、単なる直訳ではなく、相手の感情を逆撫でしない「意訳」を瞬時に組み立てていく。
「将軍は『撤廃しろ』と仰っていますが、本音では『七割減』あたりが落とし所かと。彼の領地では最近、ストライキが起きているそうですから、成果を焦っているようです」
私は公爵に耳打ちをする。 公爵は眉一つ動かさず、小さく頷く。
「ならば、こう伝えろ。『撤廃はできないが、技術提携という形で、加工済みの鉄製品を優先的に輸出する枠を設ける』と」
「かしこまりました」
私がそれを伝えると、将軍は腕を組み、考え込んだ。
「……技術提携か。悪くない話だ。だが、それだけでは部下への示しがつかん」
将軍がテーブルを指先で叩く。 空気が張り詰める。
その時、私は思い出した。 『影の書庫』にあった、将軍の個人的な秘密を。
私はお茶を注ぎ足すふりをして、将軍に近づいた。
「将軍閣下。……余談ではございますが、この屋敷の地下には、百年物の『火竜の血(ドラゴンブラッド)』という希少なワインが眠っているそうです」
「なに? 『火竜の血』だと?」
将軍の目が輝いた。 酒好きの彼にとって、それは伝説の美酒だ。
「公爵閣下は、もし本日の交渉が円滑にまとまりましたら、そのワインを祝い酒として開けようと考えておられるようです。……あくまで、私の独り言ですが」
これは公爵への無茶振りだ。 そんなワインがあるかどうか、私は知らない。 でも、公爵の財力なら、似たようなものはあるはずだ。
将軍はゴクリと喉を鳴らし、公爵を見た。
「……公爵。貴殿はなかなか、話の分かる男のようだな」
公爵は何のことか分かっていないはずだが、私の目配せを見て、即座に話を合わせた。
「ええ。友と酌み交わす酒は、古ければ古いほど良いと言いますからな」
「ガハハ! 違いない!」
将軍は上機嫌でテーブルを叩いた。
「よかろう! その条件で手を打つ! 細かい詰めは部下に任せるとして、我々は酒宴と行こうではないか!」
◇
嵐のような数時間が過ぎた。 将軍たちは、公爵秘蔵のヴィンテージワイン(セバスチャンが慌てて用意した最高級品)に舌鼓を打ち、千鳥足で帰っていった。
夜の静寂が戻った応接室。 残されたのは、私と公爵だけだった。
私は、どっと疲れが出て、その場に座り込みそうになった。 だが、まだ終わっていない。 公爵の「審判」が残っている。
「……アリア」
公爵が、ワイングラスを片手に私を呼んだ。 その声には、怒りは感じられない。 だが、油断はできない。
「はい、閣下」
「今の発言、誰の許可を得てした?」
公爵が私の前に立ち、見下ろす。 「火竜の血」の件だ。 勝手な約束を取り付けたことへの追求。
私は背筋を伸ばし、公爵を真っ直ぐに見上げた。
「許可は得ておりません」
「……」
「ですが、閣下の利益を守るためです。あの場面、将軍の虚栄心と欲望を満たすには、理屈よりも感情に訴える必要がありました。結果として、関税撤廃という最悪の事態を回避し、技術提携という有利な条件を引き出せました」
言い訳はしない。 結果だけを提示する。 それが、この男に対する唯一の正解だと学んだからだ。
沈黙が流れる。 公爵はグラスの中の赤い液体を見つめ、それからふっと笑った。
「……『火竜の血』なんて酒は、ウチにはないぞ」
「あら。セバスチャン様がお持ちになったのは、ラベルを張り替えたただの古酒でしたか?」
「口の減らない女だ」
公爵はグラスを置き、私の肩に手を置いた。 その手は、冷たいけれど、どこか認めるような重みがあった。
「お前のハッタリに、救われたな」
「……!」
公爵が、私を認めた。 「道具」としてではなく、一人の「戦力」として。
「ガリア語、どこで覚えた?」
「図書室の本と、庭師の爺やからです」
「たった三日でか?」
「死ぬ気でやりましたから」
「……化け物め」
公爵は呆れたように笑い、それから私の顎を指で持ち上げた。
「アリア。そのメイド服は脱げ」
「えっ……」
まさか、ここで? 私が身構えると、公爵は私の額を指でピンと弾いた。
「痛っ!」
「馬鹿な想像をするな。明日から、その服を着る必要はないと言ったんだ」
公爵は机の引き出しから、小さな箱を取り出した。 中には、銀色に輝くバッジが入っていた。 氷の結晶を模した、ラインハルト家の紋章。 その中央には、小さな青い宝石が埋め込まれている。
「これは、公爵家直属の『秘書官』の証だ。これをつけていれば、屋敷のどこへでも入れるし、私の代理として発言する権限も与えられる」
「秘書官……私が?」
「見習いだがな。今日の働きへの報酬だ。……受け取れ」
公爵が私の胸元にバッジをつけてくれた。 冷たい銀の感触が、胸の鼓動と重なる。
「ありがとうございます……閣下」
「勘違いするなよ。権限が増えるということは、それだけ責任も重くなるということだ。次に失敗すれば、眼球と心臓だけでは済まさんぞ」
「はい。肝に銘じます」
私はバッジに手を添え、深く一礼した。 雑用係アリアは、今日で死んだ。 ここからは、氷の公爵の懐刀、アリアとしての人生が始まる。
「さて、アリア。仕事だ」
公爵はすでに切り替えていた。 彼は窓の外、王都の夜景を見据えながら言った。
「来週、王宮で夜会がある」
「夜会、ですか」
「ああ。そこがお前の社交界デビューだ。私のパートナーとして同行しろ」
「えっ!? パートナー!?」
「壁の花避けだ。うるさい有象無象の令嬢どもを追い払うのに、お前のような気の強い番犬はうってつけだろう?」
公爵は意地悪く微笑んだ。
「それに、あの元婚約者……カミロも来るはずだ」
カミロ。 その名を聞いた瞬間、私の中で眠っていた怒りの炎が揺らめいた。
「……分かりました。お供します」
「準備をしておけ。ダンス、マナー、会話術。セバスチャンの特訓は、これからが本番だぞ」
「望むところです」
私は窓ガラスに映る自分を見た。 胸に光る銀のバッジ。 そして、その瞳は、もはや「助けを求める少女」のものではなかった。
獲物を狩る、狼の目だ。
(待っていなさい、カミロ。そして、私を笑った社交界の皆さま)
私はニヤリと笑った。
「倍返し……いえ、百倍返しにして差し上げますわ」
私の復讐劇は、ここから加速する。 公爵という最強の盾と、知識という最強の矛を手にして。
そこは、まるで巨大な金庫の中のようだった。 壁一面に埋め込まれた無数の引き出し。 それぞれに真鍮のプレートが貼られ、日付と個人名らしきものが刻まれている。
「ここは……?」
私の問いに、前を歩くクラウス公爵が足を止めずに答える。
「『影の書庫』だ。我がラインハルト家が代々収集してきた、この国の貴族、王族、豪商、そして他国の要人たちの『秘密』が眠っている」
「秘密……」
「横領、密輸、不倫、殺人教唆、裏帳簿。表には出せない汚泥のような真実だ。これが私の力の源泉であり、同時にこの国を裏から支える楔(くさび)でもある」
公爵は一つの引き出しに手をかけ、愛おしそうに撫でた。
「平和とは、綺麗な言葉や理想だけで保たれるものではない。誰かが泥を被り、誰かの喉元にナイフを突きつけておくことで、初めて均衡が保たれる。私はそのナイフの柄を握っているに過ぎない」
彼は振り返り、氷のような瞳で私を射抜いた。
「アリア。お前が私の『道具』になるということは、この薄汚い泥の中に手を突っ込むということだ。綺麗なドレスを着てお茶を飲むだけの令嬢には戻れない。……それでも、踏み込むか?」
試されている。 この人は、常に私を試す。 崖っぷちに立たせ、落ちるか、飛ぶか、それを見極めようとしている。
私は迷わず一歩前に出た。
「泥なら、もう全身に被っています。今さら指先が汚れるくらい、どうということはありません」
「……フッ。言うようになったな」
公爵は満足げに口元を歪めると、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、私に放った。
「受け取れ」
「これは?」
「小切手だ。金貨二千枚分。王都中央銀行の、私の個人口座から引き出せるようにサインしてある」
心臓が跳ね上がった。 震える手で羊皮紙を開く。 そこには確かに、夢にまで見た金額と、公爵の流麗な署名があった。
「これで……」
「カミロへの借金は返せる。妹も守れるだろう。約束は守ったぞ」
「……ありがとうございます、閣下!」
私はその場で深く頭を下げた。 涙が出そうだったが、こらえた。 ここで泣いては、ただの弱い女に戻ってしまう。
「礼は仕事で返せ。明日からお前の業務が変わる。雑用係は卒業だ」
「では、私は……」
「私の『見習い秘書』として動いてもらう。表向きはただのお茶汲みだが、裏では私の目となり耳となれ。……まずは、この書庫にある主要な貴族の『弱み』をすべて頭に叩き込め。期限は三日だ」
「み、三日!? この量をですか!?」
見渡す限りの引き出し。数千はあるだろう。
「お前の記憶力なら可能だろう? それとも、ハッタリだったか?」
意地悪な笑みを浮かべる公爵。 私は羊皮紙を懐にしまい、顔を上げた。
「……やってみせます。私の脳みそがパンクするのが先か、閣下の秘密が尽きるのが先か、勝負ですね」
「威勢だけはいいな。……死ぬ気で励め」
公爵は踵を返し、闇の中へと消えていった。
残された私は、膨大な情報の海を前に、武者震いをした。 これは地獄だ。 でも、希望のある地獄だ。
「見てなさい……全部、私の血肉にしてやるわ」
私は一番端の引き出しに手をかけた。
◇
それから三日間。 私は文字通り、不眠不休で情報を貪った。
侯爵家の隠し子騒動。 伯爵夫人の浪費癖。 大臣の裏金疑惑。 騎士団長の賭博借金。
ドロドロとした欲望と裏切りの記録。 普通なら気分が悪くなるような内容だが、今の私にはそれが煌めく「弾丸」に見えた。 これを知っていれば、誰もが私にひれ伏す。 そんな万能感すら覚え始めた頃――事件は起きた。
◇
公爵邸の正面玄関が、物々しい空気に包まれていた。 多数の馬車と、武装した護衛兵たち。 彼らが纏う鎧は、この国のものとは違う。 黒鉄(くろがね)色に輝く、重厚な甲冑。
北の軍事大国、「ガリア帝国」の外交団だ。
「おい、急げ! 粗相のないようにしろ!」
セバスチャンが珍しく声を張り上げ、使用人たちに指示を飛ばしている。 私も新しい制服――雑用係のボロ布ではなく、シンプルだが仕立ての良い紺色のメイド服に身を包み、広間の隅に控えていた。
今日行われるのは、両国の国境付近にある鉱山地帯の採掘権を巡る交渉だという。 一歩間違えれば戦争にもなりかねない、極めて重要な会談だ。
「アリア、お前は控えの間で待機だ。余計なことはするなよ」
通りがかりにセバスチャンが釘を刺す。
「はい、承知しております」
私は殊勝に頷いた。 だが、胸の内では別のことを考えていた。 (ガリア帝国……『影の書庫』によれば、今回の代表団を率いるバルバロス将軍は、極度の女嫌いで有名。そして、大の酒好き……)
知識が、頭の中でリンクする。
やがて、重い足音と共に代表団が入ってきた。 先頭を歩くのは、熊のような大男。 顔には古傷があり、猛禽類のような鋭い眼光を放っている。 彼がバルバロス将軍だ。
出迎えた公爵は、完璧な礼儀で彼らを出迎えた。 だが、将軍は挨拶もそこそこに、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン。相変わらず軟弱な国だ。空気まで甘ったるい」
ガリア語だ。 独特の喉を鳴らすような発音。 公爵はガリア語も堪能だと聞いているが、公式の場では通訳を介するのがルールだ。
ところが。
「……おい、通訳はどうした?」
公爵が低い声でセバスチャンに問う。
「そ、それが……急な腹痛で倒れまして……代わりの者が今、こちらに向かっておりますが、到着まであと一時間はかかると……」
「一時間だと? この短気な将軍を待たせるつもりか?」
公爵の眉間にシワが寄る。 最悪のタイミングだ。 これも敵対派閥の妨害工作かもしれない。
「なんだ、通訳も用意できんのか? 我々を愚弄しているのか!」
バルバロス将軍が声を荒らげた。 通訳がいなくても、怒っていることくらいは誰にでも分かる。
「将軍、少々トラブルがありまして。すぐに代わりを用意させます」
公爵が流暢なガリア語で答える。 しかし、将軍の機嫌は直らない。
「貴様が喋れるのは知っている。だが、対等な交渉の場において、当事者が通訳を兼ねるなど聞いたことがない! これは外交儀礼への侮辱だ! 帰らせてもらう!」
将軍が踵を返そうとする。 まずい。 ここで帰られたら、交渉決裂どころか、外交問題に発展する。 公爵のメンツも丸潰れだ。
公爵の目が、凍てつくような殺気を帯びる。 無理やり引き止めるか? いや、それでは火に油だ。
その時。 私の足が、勝手に動いていた。
「お待ちください、閣下!」
凛とした声が、広間に響き渡った。 全員の視線が、私に集中する。
「……アリア?」
公爵が目を見開く。 セバスチャンが青ざめる。 「馬鹿な、下がれ!」というセバスチャンの声が聞こえたが、私は止まらなかった。
私は将軍の前に進み出ると、ガリア式の軍礼――右拳を左胸に当てるポーズ――を完璧な角度で決めた。
「バルバロス将軍閣下。遠路はるばるのご来訪、心より歓迎いたします。本日の通訳を務めさせていただきます、アリアと申します」
私の口から出たのは、滑らかなガリア語だった。
将軍が足を止め、怪訝そうに私を見下ろした。
「……女? しかも、メイドか? 貴様のような小娘に、我々の言葉が分かるのか」
「はい。私の亡き母はガリアの北地方出身でして、幼い頃より子守唄代わりにガリアの英雄譚を聞いて育ちました」
嘘だ。 母は生粋の王国貴族だ。 ガリア語は、この三日間、図書室の辞書と文法書を丸暗記して叩き込んだものだ。 発音は、たまたま屋敷にいたガリア出身の庭師に、休憩時間にしつこく話しかけて矯正してもらった。 「北地方出身」という設定にしたのは、私の方言(訛り)をごまかすためだ。
「ほう……北の出身か。どおりで、懐かしい訛りがあると思った」
将軍の表情が、わずかに緩んだ。 賭けに勝った。
「公爵閣下は、将軍との会談を何よりも重要視しており、本来の通訳では力不足と判断されました。そこで、将軍の故郷の言葉を解する私ごときを、あえて抜擢されたのです」
私は公爵の方をチラリと見た。 公爵は無表情を貫いているが、その目は「うまくやれ」と語っていた。
「私の未熟なガリア語が、将軍の偉大さを損なうことがあれば、その場で首を刎ねていただいて構いません。……どうか、お席についていただけないでしょうか」
私は深く頭を下げた。 首を差し出す覚悟。 それが、武人である将軍の琴線に触れたようだ。
「……いい度胸だ。女にしておくには惜しい」
将軍は豪快に笑い、公爵に向き直った。
「ラインハルト公。面白い隠し玉を持っていたな。よかろう、話を聞こうではないか」
◇
会談は、応接室で行われた。 私は公爵と将軍の間に立ち、言葉の橋渡しを行った。
「我が帝国は、鉄鉱石の関税撤廃を要求する」
「撤廃は無理です。我が国の鍛冶ギルドが反発します」
内容はシビアなものだった。 専門用語が飛び交う。 だが、私の頭の中には『影の書庫』の知識がある。 両国の経済状況、将軍の性格、裏の事情。 それらをフル活用し、単なる直訳ではなく、相手の感情を逆撫でしない「意訳」を瞬時に組み立てていく。
「将軍は『撤廃しろ』と仰っていますが、本音では『七割減』あたりが落とし所かと。彼の領地では最近、ストライキが起きているそうですから、成果を焦っているようです」
私は公爵に耳打ちをする。 公爵は眉一つ動かさず、小さく頷く。
「ならば、こう伝えろ。『撤廃はできないが、技術提携という形で、加工済みの鉄製品を優先的に輸出する枠を設ける』と」
「かしこまりました」
私がそれを伝えると、将軍は腕を組み、考え込んだ。
「……技術提携か。悪くない話だ。だが、それだけでは部下への示しがつかん」
将軍がテーブルを指先で叩く。 空気が張り詰める。
その時、私は思い出した。 『影の書庫』にあった、将軍の個人的な秘密を。
私はお茶を注ぎ足すふりをして、将軍に近づいた。
「将軍閣下。……余談ではございますが、この屋敷の地下には、百年物の『火竜の血(ドラゴンブラッド)』という希少なワインが眠っているそうです」
「なに? 『火竜の血』だと?」
将軍の目が輝いた。 酒好きの彼にとって、それは伝説の美酒だ。
「公爵閣下は、もし本日の交渉が円滑にまとまりましたら、そのワインを祝い酒として開けようと考えておられるようです。……あくまで、私の独り言ですが」
これは公爵への無茶振りだ。 そんなワインがあるかどうか、私は知らない。 でも、公爵の財力なら、似たようなものはあるはずだ。
将軍はゴクリと喉を鳴らし、公爵を見た。
「……公爵。貴殿はなかなか、話の分かる男のようだな」
公爵は何のことか分かっていないはずだが、私の目配せを見て、即座に話を合わせた。
「ええ。友と酌み交わす酒は、古ければ古いほど良いと言いますからな」
「ガハハ! 違いない!」
将軍は上機嫌でテーブルを叩いた。
「よかろう! その条件で手を打つ! 細かい詰めは部下に任せるとして、我々は酒宴と行こうではないか!」
◇
嵐のような数時間が過ぎた。 将軍たちは、公爵秘蔵のヴィンテージワイン(セバスチャンが慌てて用意した最高級品)に舌鼓を打ち、千鳥足で帰っていった。
夜の静寂が戻った応接室。 残されたのは、私と公爵だけだった。
私は、どっと疲れが出て、その場に座り込みそうになった。 だが、まだ終わっていない。 公爵の「審判」が残っている。
「……アリア」
公爵が、ワイングラスを片手に私を呼んだ。 その声には、怒りは感じられない。 だが、油断はできない。
「はい、閣下」
「今の発言、誰の許可を得てした?」
公爵が私の前に立ち、見下ろす。 「火竜の血」の件だ。 勝手な約束を取り付けたことへの追求。
私は背筋を伸ばし、公爵を真っ直ぐに見上げた。
「許可は得ておりません」
「……」
「ですが、閣下の利益を守るためです。あの場面、将軍の虚栄心と欲望を満たすには、理屈よりも感情に訴える必要がありました。結果として、関税撤廃という最悪の事態を回避し、技術提携という有利な条件を引き出せました」
言い訳はしない。 結果だけを提示する。 それが、この男に対する唯一の正解だと学んだからだ。
沈黙が流れる。 公爵はグラスの中の赤い液体を見つめ、それからふっと笑った。
「……『火竜の血』なんて酒は、ウチにはないぞ」
「あら。セバスチャン様がお持ちになったのは、ラベルを張り替えたただの古酒でしたか?」
「口の減らない女だ」
公爵はグラスを置き、私の肩に手を置いた。 その手は、冷たいけれど、どこか認めるような重みがあった。
「お前のハッタリに、救われたな」
「……!」
公爵が、私を認めた。 「道具」としてではなく、一人の「戦力」として。
「ガリア語、どこで覚えた?」
「図書室の本と、庭師の爺やからです」
「たった三日でか?」
「死ぬ気でやりましたから」
「……化け物め」
公爵は呆れたように笑い、それから私の顎を指で持ち上げた。
「アリア。そのメイド服は脱げ」
「えっ……」
まさか、ここで? 私が身構えると、公爵は私の額を指でピンと弾いた。
「痛っ!」
「馬鹿な想像をするな。明日から、その服を着る必要はないと言ったんだ」
公爵は机の引き出しから、小さな箱を取り出した。 中には、銀色に輝くバッジが入っていた。 氷の結晶を模した、ラインハルト家の紋章。 その中央には、小さな青い宝石が埋め込まれている。
「これは、公爵家直属の『秘書官』の証だ。これをつけていれば、屋敷のどこへでも入れるし、私の代理として発言する権限も与えられる」
「秘書官……私が?」
「見習いだがな。今日の働きへの報酬だ。……受け取れ」
公爵が私の胸元にバッジをつけてくれた。 冷たい銀の感触が、胸の鼓動と重なる。
「ありがとうございます……閣下」
「勘違いするなよ。権限が増えるということは、それだけ責任も重くなるということだ。次に失敗すれば、眼球と心臓だけでは済まさんぞ」
「はい。肝に銘じます」
私はバッジに手を添え、深く一礼した。 雑用係アリアは、今日で死んだ。 ここからは、氷の公爵の懐刀、アリアとしての人生が始まる。
「さて、アリア。仕事だ」
公爵はすでに切り替えていた。 彼は窓の外、王都の夜景を見据えながら言った。
「来週、王宮で夜会がある」
「夜会、ですか」
「ああ。そこがお前の社交界デビューだ。私のパートナーとして同行しろ」
「えっ!? パートナー!?」
「壁の花避けだ。うるさい有象無象の令嬢どもを追い払うのに、お前のような気の強い番犬はうってつけだろう?」
公爵は意地悪く微笑んだ。
「それに、あの元婚約者……カミロも来るはずだ」
カミロ。 その名を聞いた瞬間、私の中で眠っていた怒りの炎が揺らめいた。
「……分かりました。お供します」
「準備をしておけ。ダンス、マナー、会話術。セバスチャンの特訓は、これからが本番だぞ」
「望むところです」
私は窓ガラスに映る自分を見た。 胸に光る銀のバッジ。 そして、その瞳は、もはや「助けを求める少女」のものではなかった。
獲物を狩る、狼の目だ。
(待っていなさい、カミロ。そして、私を笑った社交界の皆さま)
私はニヤリと笑った。
「倍返し……いえ、百倍返しにして差し上げますわ」
私の復讐劇は、ここから加速する。 公爵という最強の盾と、知識という最強の矛を手にして。
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