16 / 20
第16話:氷の領地と、公爵の帰還
しおりを挟む
王都を脱出してから十日が過ぎていました。
私たちの逃避行は、過酷という言葉では生温いものでした。 追っ手の目を欺くため、主要な街道は使えず、獣道のような山越えのルートを選ばざるを得ませんでした。 食料は森で調達した木の実や、川魚。 夜は洞窟や廃屋で身を寄せ合い、互いの体温だけを頼りに眠る日々。
かつて「国一番の淑女」と呼ばれた私が、今では泥と煤にまみれ、髪はボサボサ。 それでも、私の心は折れていませんでした。
「……寒い」
馬車の荷台で、ミラがガタガタと震えています。 この馬車は、途中の宿場町でセバスチャンが「調達(という名の半強制的交渉)」してきた、幌付きの荷馬車です。 隙間風が容赦なく吹き込み、北へ近づくにつれて気温は氷点下へと下がっていました。
「頑張って、ミラ。もう少しよ」
私は自分のショールをミラに巻き付け、さらにその上から抱きしめました。 私の体温など微々たるものですが、少しでもあの子を温めたかったのです。
「……アリア」
御者台に座っていたクラウス様が、幌の隙間から顔を覗かせました。 その眉毛や髪には、白い霜が降りています。
「もうすぐ『境界』だ。あそこを越えれば、私の庭だ」
「境界……」
私は幌を少しめくり、外を見ました。 そこには、世界を一変させるような光景が広がっていました。
見渡す限りの雪原。 鉛色の空から舞い落ちる白い悪魔。 そして、その彼方にそびえ立つ、巨大な山脈。 あれこそが、ラインハルト公爵領『ノースランド』を抱く、北の山々でした。
「……すごい」
その厳しくも美しい光景に、私は言葉を失いました。
「ここが、閣下の故郷……」
「ああ。何もない、凍てついた不毛の大地だ。王都の連中は『流刑地』と呼んで忌み嫌うがな」
クラウス様は自嘲気味に笑いましたが、その瞳には故郷への深い愛着と誇りが宿っていました。
「私にとっては、どんな宝石箱よりも美しい場所です」
私が言うと、クラウス様は少し驚いたように目を見開き、それから優しく微笑みました。
「……お前なら、そう言ってくれると思った」
馬車は雪道を軋みながら進みます。 やがて、吹雪の向こうに、巨大な関所が見えてきました。 『氷狼(フェンリル)の砦』と呼ばれる、ノースランドの玄関口です。
砦の上には、王家の旗ではなく、ラインハルト家の『氷の結晶と狼』の旗が掲げられていました。 しかし、その門は固く閉ざされ、城壁の上には弓を構えた兵士たちが殺気立っています。
「止まれ! 何奴だ!」
城壁の上から、野太い声が響きました。
「怪しい馬車だ! 王都からの回し者か!? 答えねば射るぞ!」
どうやら、王都での政変の噂はここまで届いているようです。 彼らは主君であるクラウス様を守るため、あるいは主君を陥れた王都の勢力に対して、極度の警戒態勢を敷いているのでしょう。
クラウス様は馬車を止め、ゆっくりと立ち上がりました。 そして、被っていたフードを脱ぎ捨てました。
「……私の顔を忘れたか、ヴォルフガング」
吹雪の中、クラウス様の凛とした声が響き渡りました。 それは、魔法で増幅されたわけでもないのに、風の音さえも切り裂いて兵士たちの耳に届きました。
城壁の上がざわめきました。 そして、中央にいた大柄な指揮官が、身を乗り出しました。
「その銀髪……その声……まさか……!」
指揮官は目を疑うように瞬きし、そして叫びました。
「閣下!? クラウス閣下であらせられるか!!」
「遅いぞ。門を開けろ。……ただいま戻った」
その一言で、砦全体が歓喜の渦に包まれました。 「閣下が生きておられたぞ!」 「すぐに開門せよ!」 「伝令! 本城へ知らせろ!」
重厚な門が、地響きを立てて開かれました。 中から、数百人の兵士たちが雪崩れ込んできました。 彼らは皆、粗野で、髭面で、王都の騎士のような洗練された鎧は着ていません。 毛皮を纏い、傷だらけの武器を持った、荒くれ者たちです。
けれど、その全員が馬車の前で膝をつき、涙を流して頭を垂れていました。
「ご無事で……! 王都で処刑されたとの噂が流れ、我らは……!」
指揮官のヴォルフガングという男が、雪に額を擦り付けて泣いています。 クラウス様は馬車を降り、彼に歩み寄ると、その肩を叩きました。
「心配をかけたな。……だが、私は死なん。お前たちを残して、死ねるわけがないだろう」
「ううっ、閣下ぁぁぁ……!」
男たちが号泣しています。 これが、氷の公爵の真の姿。 王都では「冷血漢」と恐れられていましたが、ここでは「家族」として、これほどまでに愛されているのです。
私はその光景を見て、胸が熱くなりました。 この人についてきて、本当によかった。
「……アリア様」
横で、セバスチャンが小声で言いました。 彼もまた、目頭をハンカチで押さえています。
「これが、ノースランドの結束です。ここでは、血筋や身分よりも、魂の絆が全てなのです」
「ええ。……素敵な場所ね」
私は微笑み、ミラの手を握り直しました。 私たちは、ついに安全な場所にたどり着いたのです。
◇
砦での歓迎もそこそこに、私たちは本拠地である『白銀城(シルバー・キープ)』へと急ぎました。 そこは、険しい岩山の上に築かれた、難攻不落の要塞でした。 華美な装飾は一切なく、ただ実用性と堅牢さだけを追求した、黒い石造りの城。
「……寒い」
城内に入っても、石壁から冷気が染み出してきます。 王都の公爵邸のような暖房設備はありません。 暖炉で薪が燃えていますが、広すぎる広間を温めるには不十分でした。
「すまないな、アリア、ミラ。王都の生活とは天と地の差だ」
クラウス様が申し訳なさそうに言いましたが、私は首を横に振りました。
「いいえ。屋根があって、壁があって、追っ手がいない。それだけで十分な贅沢です」
「……強いな、お前は」
到着して早々、軍議が開かれることになりました。 休む間もありません。 ギリアード宰相が率いる王都軍は、すでに北へ向けて進軍を開始しているとの情報が入ったからです。
大広間に集まったのは、ノースランドを統べる諸侯や将軍たち。 熊のような大男、眼帯をした古傷だらけの老人、そして短剣をいじり続ける目つきの鋭い青年。 一癖も二癖もありそうな面々が、巨大な円卓を囲んでいました。
クラウス様が上座に座り、その右隣に私が立ちました。 セバスチャンとミラは、別室で休ませています。
「状況を説明する」
クラウス様が、王都で起きた政変、ギリアードの陰謀、そして私たちが逃亡した経緯を簡潔に話しました。 将軍たちは静まり返り、怒りに震えていました。
「許せねえ……! あの古狸、ついに正体を現しやがったか!」 「閣下を反逆者扱いだと? その首をへし折ってやる!」
怒号が飛び交う中、一人の老将が手を挙げました。 ヴォルフガング将軍の父であり、この地のご意見番でもある、鉄血の騎士・バルバロッサ卿です。
「閣下。お怒りはごもっとも。我らは最後の一兵まで戦う覚悟です。……ですが」
バルバロッサ卿の鋭い視線が、私に向けられました。
「そちらの娘御は、どなたですかな?」
会場の視線が、一斉に私に集まりました。 よそ者を見る目。 値踏みする目。 中には、あからさまな敵意を含むものもありました。
「王都から連れ帰った愛人ですか? それとも、新しいメイドですかな?」
誰かが冷笑混じりに言いました。 クラウス様の目がスッと細まり、殺気を放とうとしましたが、私はそれを手で制しました。 ここで彼に守ってもらっては、私はいつまで経っても「守られるだけの女」です。 この荒くれ者たちを従えるには、私自身が実力を示さなければなりません。
私は一歩前に進み出ました。
「お初にお目にかかります。アリア・ベルンシュタインと申します」
私はカーテシーではなく、北方の騎士の礼――右拳を左胸に当てるポーズをとりました。 それだけで、数人の将軍が「ほう」と眉を上げました。
「愛人でも、メイドでもありません。私は閣下の『秘書官』であり、今回の戦いにおける『参謀』を務めさせていただきます」
「……参謀だと?」
バルバロッサ卿が鼻で笑いました。
「娘さん。ここは舞踏会場ではないのだぞ。戦争だ。血と泥と鉄の臭いがする戦場だ。お前のような細腕の女に、何ができると言うのだ」
「細腕ですが、頭は回ります」
私は懐から、王宮の地下から持ち出した『裏帳簿』を取り出し、円卓の上に叩きつけました。 バンッ! という音が響き、全員が注目します。
「これは……?」
「ギリアード宰相の『アキレス腱』です」
私は帳簿を開き、指し示しました。
「ここには、敵の資金源、武器の調達ルート、そして……帝国と内通している証拠が記されています」
「な、なんだと!?」
「さらに、敵軍の補給線の弱点も分析済みです」
私は壁に貼られた地図の前に移動しました。
「王都軍は総勢五万。対する我が軍は一万。正面からぶつかれば負けます。ですが、敵は大軍ゆえに『飯』を食います」
私は地図上の一点を指差しました。
「現在、王都軍の兵糧は、南方の穀倉地帯からこの『リバーサイド橋』を通って運ばれています。ここを落とせば、敵は三日で干上がります」
「……橋を落とす? 馬鹿な。あそこは敵の後方だぞ。どうやって近づく?」
「近づく必要はありません。……この帳簿によれば、その橋を管理している代官は、かつてギリアードに賄賂を強要され、恨みを持っています。彼を寝返らせれば、橋は内側から崩せます」
会場がどよめきました。 敵の内部事情まで把握した上での、具体的な策。 ただの机上の空論ではありません。
「さらに」
私は言葉を継ぎました。
「私は王都の商人組合にもコネクションがあります。彼らを通じて、王都内で『ギリアードが帝国に国を売ろうとしている』という情報を流布させます。民衆が騒ぎ出せば、敵は足元から揺らぎます。……外からの攻撃と、内からの崩壊。これで勝機は五分まで持っていけます」
一気にまくし立てた後、私は静かに将軍たちを見回しました。
「……私の役目は、閣下の剣が届く距離まで、敵を引きずり下ろすことです。そのために、この命と知恵を使うと誓いました」
沈黙が支配しました。 誰も言葉を発しません。
やがて、バルバロッサ卿がゆっくりと立ち上がりました。 彼は私の目の前まで来ると、その巨大な手で私の肩をバシンと叩きました。
「……ぐっ!」
衝撃でよろけそうになりましたが、なんとか踏ん張りました。
「ガハハハハ! 気に入った! いい度胸だ!」
老将軍は豪快に笑いました。
「『狼の目』をしておるわ! 王都の軟弱な女かと思ったが、中身は北の男よりも肝が座っておる!」
彼は円卓に向き直り、叫びました。
「野郎ども! 聞いたか! この嬢ちゃんは、俺たちの『軍師』だ! 文句のある奴は前に出ろ! 俺がへし折ってやる!」
「異議なし!」 「すげえ姉ちゃんだ!」 「これなら勝てるぞ!」
歓声が上がり、場の空気が一変しました。 よそ者扱いだった空気が霧散し、仲間として受け入れられた瞬間でした。
クラウス様が席を立ち、私の隣に来ました。 そして、私の腰に手を回し、皆に見せつけるように宣言しました。
「紹介が遅れたな。……彼女は私の参謀であり、そして未来の『公爵夫人』だ」
「「「おおおおおッ!!」」」
さらに大きな歓声が上がりました。 口笛を吹く者、机を叩いて喜ぶ者。 荒々しいけれど、温かい祝福。
私は顔が熱くなるのを感じながら、クラウス様を見上げました。 彼は「よくやった」と目で語りかけていました。
◇
軍議が終わった後の深夜。 私は城のバルコニーで、一人雪景色を眺めていました。
作戦は決まりました。 三日後、全軍を出撃させ、王都へ向けて進軍を開始します。 これは、国の命運をかけた内戦の始まりです。 多くの血が流れるでしょう。 私が提案した「兵糧攻め」で、飢える兵士も出るでしょう。
その重圧に、少しだけ手が震えていました。
「……眠れないか?」
背後から、毛布がかけられました。 クラウス様です。 彼は私の隣に立ち、同じ月を見上げました。
「……怖いです」
私は正直に言いました。
「私の策で、人が死にます。もしかしたら、罪のない人も巻き込むかもしれません。……私は、取り返しのつかないことをしているのではないでしょうか」
「戦争とはそういうものだ」
クラウス様は淡々と言いました。
「綺麗事では守れない。お前はそれを知っているはずだ。……だからこそ、お前はカミロの前でも、エレナの前でも引かなかった」
「……はい」
「背負うな。その罪も、血も、全て私が半分持つ。……いや、全軍の指揮官である私が九割持つ。お前は私を信じて、前に進む道だけを照らしてくれればいい」
彼は私の手を握り、その冷たい指先で私の掌に口づけました。
「お前は私の『北極星(ポラリス)』だ。お前がいれば、私は迷わない」
「……クラウス様」
涙がこぼれました。 この人の言葉は、いつだって私の心の凍りついた部分を溶かしてくれます。
「分かりました。……私は貴方の星になります。どんなに暗い夜でも、貴方が道を見失わないように輝き続けます」
私は涙を拭い、彼の胸に飛び込みました。 冷たい風の中で、二人の体温だけが熱く燃えていました。
その時。 夜空の向こう、南の方角から、赤い狼煙(のろし)が上がりました。
「……来たか」
クラウス様の目が鋭くなります。 それは敵軍の接近を知らせる合図ではなく、王都に残した密偵からの緊急信号でした。 色は「赤」。 意味は――『極めて重大な危機』。
「セバスチャン!」
クラウス様が呼ぶと、影からセバスチャンが現れました。 手には、伝書鳩が運んできた小さな紙片を持っています。
「閣下、ご報告いたします」
セバスチャンの声が、珍しく焦りを含んでいました。
「王都にて、エリザベート王女殿下が……拘束されました」
「なっ……!?」
私は息を呑みました。
「罪状は『国王暗殺の共謀罪』。……ギリアードは、国王陛下を毒殺し、その罪を王女殿下と我々に擦り付けたようです」
「陛下が……崩御されたと?」
最悪の事態です。 国王が死に、その罪を着せられた王女が捕らえられた。 これでギリアードは、幼い王子(まだ五歳)を傀儡として即位させ、摂政として全権を握るつもりだ。
「処刑は一週間後。……建国広場にて、公開処刑を行うとのことです」
「一週間……」
ここから王都まで、軍を率いて進めばどんなに急いでも十日はかかります。 間に合いません。 どう考えても、詰みです。
「……どうしますか、閣下」
セバスチャンが問います。
クラウス様は沈黙しました。 ギリリ、と拳を握りしめる音が聞こえます。 怒りで体が震えています。
「……間に合わせる」
クラウス様は顔を上げました。 その瞳は、狂気にも似た決意で燃えていました。
「全軍での進軍は陽動だ。ヴォルフガングに本隊を任せる。……私は、精鋭のみを率いて『最短ルート』を行く」
「最短ルート? まさか……」
私は地図を思い浮かべました。 街道を使わずに王都へたどり着く道。 それは一つしかありません。
「『竜の山脈』を越える」
「自殺行為です!」
私は叫びました。 竜の山脈は、文字通り古代竜が棲むと言われる魔の山。 万年雪に閉ざされ、生きて帰った者はいないとされる場所です。
「だが、それなら三日で着く」
クラウス様は私を見ました。
「アリア。……お前は本隊と共に来い。山脈越えは危険すぎる」
「……嫌です」
私は即答しました。
「置いていかないでください。私は貴方の半身でしょう? 貴方が死地へ行くなら、私も行きます」
「足手まといになるぞ」
「なりません。……竜についての知識なら、『影の書庫』で読みました。竜の巣の場所も、回避ルートも頭に入っています。私がいなければ、貴方は遭難します」
ハッタリではありません。 私は本当に読んでいました。 あらゆる知識を詰め込んだ私の脳みそが、今こそ役に立つ時です。
クラウス様はしばらく私を睨んでいましたが、やがて諦めたようにため息をつきました。
「……分かった。お前の頑固さは、竜の鱗よりも硬いようだな」
彼は私の肩を抱きました。
「行くぞ、アリア。……王女を救い、ギリアードの首を取る。これが最後の賭けだ」
「はい!」
私たちは急いで準備を始めました。 本隊の指揮をバルバロッサ卿に託し、ミラを城の安全な場所に隠し(「必ず帰ってくるから」と約束して)、選抜された十名の精鋭と共に、夜明け前の闇へと出発しました。
目指すは死の山脈。 そしてその先にある、王都の処刑台。
私たちの本当の戦いは、ここからが本番でした。
私たちの逃避行は、過酷という言葉では生温いものでした。 追っ手の目を欺くため、主要な街道は使えず、獣道のような山越えのルートを選ばざるを得ませんでした。 食料は森で調達した木の実や、川魚。 夜は洞窟や廃屋で身を寄せ合い、互いの体温だけを頼りに眠る日々。
かつて「国一番の淑女」と呼ばれた私が、今では泥と煤にまみれ、髪はボサボサ。 それでも、私の心は折れていませんでした。
「……寒い」
馬車の荷台で、ミラがガタガタと震えています。 この馬車は、途中の宿場町でセバスチャンが「調達(という名の半強制的交渉)」してきた、幌付きの荷馬車です。 隙間風が容赦なく吹き込み、北へ近づくにつれて気温は氷点下へと下がっていました。
「頑張って、ミラ。もう少しよ」
私は自分のショールをミラに巻き付け、さらにその上から抱きしめました。 私の体温など微々たるものですが、少しでもあの子を温めたかったのです。
「……アリア」
御者台に座っていたクラウス様が、幌の隙間から顔を覗かせました。 その眉毛や髪には、白い霜が降りています。
「もうすぐ『境界』だ。あそこを越えれば、私の庭だ」
「境界……」
私は幌を少しめくり、外を見ました。 そこには、世界を一変させるような光景が広がっていました。
見渡す限りの雪原。 鉛色の空から舞い落ちる白い悪魔。 そして、その彼方にそびえ立つ、巨大な山脈。 あれこそが、ラインハルト公爵領『ノースランド』を抱く、北の山々でした。
「……すごい」
その厳しくも美しい光景に、私は言葉を失いました。
「ここが、閣下の故郷……」
「ああ。何もない、凍てついた不毛の大地だ。王都の連中は『流刑地』と呼んで忌み嫌うがな」
クラウス様は自嘲気味に笑いましたが、その瞳には故郷への深い愛着と誇りが宿っていました。
「私にとっては、どんな宝石箱よりも美しい場所です」
私が言うと、クラウス様は少し驚いたように目を見開き、それから優しく微笑みました。
「……お前なら、そう言ってくれると思った」
馬車は雪道を軋みながら進みます。 やがて、吹雪の向こうに、巨大な関所が見えてきました。 『氷狼(フェンリル)の砦』と呼ばれる、ノースランドの玄関口です。
砦の上には、王家の旗ではなく、ラインハルト家の『氷の結晶と狼』の旗が掲げられていました。 しかし、その門は固く閉ざされ、城壁の上には弓を構えた兵士たちが殺気立っています。
「止まれ! 何奴だ!」
城壁の上から、野太い声が響きました。
「怪しい馬車だ! 王都からの回し者か!? 答えねば射るぞ!」
どうやら、王都での政変の噂はここまで届いているようです。 彼らは主君であるクラウス様を守るため、あるいは主君を陥れた王都の勢力に対して、極度の警戒態勢を敷いているのでしょう。
クラウス様は馬車を止め、ゆっくりと立ち上がりました。 そして、被っていたフードを脱ぎ捨てました。
「……私の顔を忘れたか、ヴォルフガング」
吹雪の中、クラウス様の凛とした声が響き渡りました。 それは、魔法で増幅されたわけでもないのに、風の音さえも切り裂いて兵士たちの耳に届きました。
城壁の上がざわめきました。 そして、中央にいた大柄な指揮官が、身を乗り出しました。
「その銀髪……その声……まさか……!」
指揮官は目を疑うように瞬きし、そして叫びました。
「閣下!? クラウス閣下であらせられるか!!」
「遅いぞ。門を開けろ。……ただいま戻った」
その一言で、砦全体が歓喜の渦に包まれました。 「閣下が生きておられたぞ!」 「すぐに開門せよ!」 「伝令! 本城へ知らせろ!」
重厚な門が、地響きを立てて開かれました。 中から、数百人の兵士たちが雪崩れ込んできました。 彼らは皆、粗野で、髭面で、王都の騎士のような洗練された鎧は着ていません。 毛皮を纏い、傷だらけの武器を持った、荒くれ者たちです。
けれど、その全員が馬車の前で膝をつき、涙を流して頭を垂れていました。
「ご無事で……! 王都で処刑されたとの噂が流れ、我らは……!」
指揮官のヴォルフガングという男が、雪に額を擦り付けて泣いています。 クラウス様は馬車を降り、彼に歩み寄ると、その肩を叩きました。
「心配をかけたな。……だが、私は死なん。お前たちを残して、死ねるわけがないだろう」
「ううっ、閣下ぁぁぁ……!」
男たちが号泣しています。 これが、氷の公爵の真の姿。 王都では「冷血漢」と恐れられていましたが、ここでは「家族」として、これほどまでに愛されているのです。
私はその光景を見て、胸が熱くなりました。 この人についてきて、本当によかった。
「……アリア様」
横で、セバスチャンが小声で言いました。 彼もまた、目頭をハンカチで押さえています。
「これが、ノースランドの結束です。ここでは、血筋や身分よりも、魂の絆が全てなのです」
「ええ。……素敵な場所ね」
私は微笑み、ミラの手を握り直しました。 私たちは、ついに安全な場所にたどり着いたのです。
◇
砦での歓迎もそこそこに、私たちは本拠地である『白銀城(シルバー・キープ)』へと急ぎました。 そこは、険しい岩山の上に築かれた、難攻不落の要塞でした。 華美な装飾は一切なく、ただ実用性と堅牢さだけを追求した、黒い石造りの城。
「……寒い」
城内に入っても、石壁から冷気が染み出してきます。 王都の公爵邸のような暖房設備はありません。 暖炉で薪が燃えていますが、広すぎる広間を温めるには不十分でした。
「すまないな、アリア、ミラ。王都の生活とは天と地の差だ」
クラウス様が申し訳なさそうに言いましたが、私は首を横に振りました。
「いいえ。屋根があって、壁があって、追っ手がいない。それだけで十分な贅沢です」
「……強いな、お前は」
到着して早々、軍議が開かれることになりました。 休む間もありません。 ギリアード宰相が率いる王都軍は、すでに北へ向けて進軍を開始しているとの情報が入ったからです。
大広間に集まったのは、ノースランドを統べる諸侯や将軍たち。 熊のような大男、眼帯をした古傷だらけの老人、そして短剣をいじり続ける目つきの鋭い青年。 一癖も二癖もありそうな面々が、巨大な円卓を囲んでいました。
クラウス様が上座に座り、その右隣に私が立ちました。 セバスチャンとミラは、別室で休ませています。
「状況を説明する」
クラウス様が、王都で起きた政変、ギリアードの陰謀、そして私たちが逃亡した経緯を簡潔に話しました。 将軍たちは静まり返り、怒りに震えていました。
「許せねえ……! あの古狸、ついに正体を現しやがったか!」 「閣下を反逆者扱いだと? その首をへし折ってやる!」
怒号が飛び交う中、一人の老将が手を挙げました。 ヴォルフガング将軍の父であり、この地のご意見番でもある、鉄血の騎士・バルバロッサ卿です。
「閣下。お怒りはごもっとも。我らは最後の一兵まで戦う覚悟です。……ですが」
バルバロッサ卿の鋭い視線が、私に向けられました。
「そちらの娘御は、どなたですかな?」
会場の視線が、一斉に私に集まりました。 よそ者を見る目。 値踏みする目。 中には、あからさまな敵意を含むものもありました。
「王都から連れ帰った愛人ですか? それとも、新しいメイドですかな?」
誰かが冷笑混じりに言いました。 クラウス様の目がスッと細まり、殺気を放とうとしましたが、私はそれを手で制しました。 ここで彼に守ってもらっては、私はいつまで経っても「守られるだけの女」です。 この荒くれ者たちを従えるには、私自身が実力を示さなければなりません。
私は一歩前に進み出ました。
「お初にお目にかかります。アリア・ベルンシュタインと申します」
私はカーテシーではなく、北方の騎士の礼――右拳を左胸に当てるポーズをとりました。 それだけで、数人の将軍が「ほう」と眉を上げました。
「愛人でも、メイドでもありません。私は閣下の『秘書官』であり、今回の戦いにおける『参謀』を務めさせていただきます」
「……参謀だと?」
バルバロッサ卿が鼻で笑いました。
「娘さん。ここは舞踏会場ではないのだぞ。戦争だ。血と泥と鉄の臭いがする戦場だ。お前のような細腕の女に、何ができると言うのだ」
「細腕ですが、頭は回ります」
私は懐から、王宮の地下から持ち出した『裏帳簿』を取り出し、円卓の上に叩きつけました。 バンッ! という音が響き、全員が注目します。
「これは……?」
「ギリアード宰相の『アキレス腱』です」
私は帳簿を開き、指し示しました。
「ここには、敵の資金源、武器の調達ルート、そして……帝国と内通している証拠が記されています」
「な、なんだと!?」
「さらに、敵軍の補給線の弱点も分析済みです」
私は壁に貼られた地図の前に移動しました。
「王都軍は総勢五万。対する我が軍は一万。正面からぶつかれば負けます。ですが、敵は大軍ゆえに『飯』を食います」
私は地図上の一点を指差しました。
「現在、王都軍の兵糧は、南方の穀倉地帯からこの『リバーサイド橋』を通って運ばれています。ここを落とせば、敵は三日で干上がります」
「……橋を落とす? 馬鹿な。あそこは敵の後方だぞ。どうやって近づく?」
「近づく必要はありません。……この帳簿によれば、その橋を管理している代官は、かつてギリアードに賄賂を強要され、恨みを持っています。彼を寝返らせれば、橋は内側から崩せます」
会場がどよめきました。 敵の内部事情まで把握した上での、具体的な策。 ただの机上の空論ではありません。
「さらに」
私は言葉を継ぎました。
「私は王都の商人組合にもコネクションがあります。彼らを通じて、王都内で『ギリアードが帝国に国を売ろうとしている』という情報を流布させます。民衆が騒ぎ出せば、敵は足元から揺らぎます。……外からの攻撃と、内からの崩壊。これで勝機は五分まで持っていけます」
一気にまくし立てた後、私は静かに将軍たちを見回しました。
「……私の役目は、閣下の剣が届く距離まで、敵を引きずり下ろすことです。そのために、この命と知恵を使うと誓いました」
沈黙が支配しました。 誰も言葉を発しません。
やがて、バルバロッサ卿がゆっくりと立ち上がりました。 彼は私の目の前まで来ると、その巨大な手で私の肩をバシンと叩きました。
「……ぐっ!」
衝撃でよろけそうになりましたが、なんとか踏ん張りました。
「ガハハハハ! 気に入った! いい度胸だ!」
老将軍は豪快に笑いました。
「『狼の目』をしておるわ! 王都の軟弱な女かと思ったが、中身は北の男よりも肝が座っておる!」
彼は円卓に向き直り、叫びました。
「野郎ども! 聞いたか! この嬢ちゃんは、俺たちの『軍師』だ! 文句のある奴は前に出ろ! 俺がへし折ってやる!」
「異議なし!」 「すげえ姉ちゃんだ!」 「これなら勝てるぞ!」
歓声が上がり、場の空気が一変しました。 よそ者扱いだった空気が霧散し、仲間として受け入れられた瞬間でした。
クラウス様が席を立ち、私の隣に来ました。 そして、私の腰に手を回し、皆に見せつけるように宣言しました。
「紹介が遅れたな。……彼女は私の参謀であり、そして未来の『公爵夫人』だ」
「「「おおおおおッ!!」」」
さらに大きな歓声が上がりました。 口笛を吹く者、机を叩いて喜ぶ者。 荒々しいけれど、温かい祝福。
私は顔が熱くなるのを感じながら、クラウス様を見上げました。 彼は「よくやった」と目で語りかけていました。
◇
軍議が終わった後の深夜。 私は城のバルコニーで、一人雪景色を眺めていました。
作戦は決まりました。 三日後、全軍を出撃させ、王都へ向けて進軍を開始します。 これは、国の命運をかけた内戦の始まりです。 多くの血が流れるでしょう。 私が提案した「兵糧攻め」で、飢える兵士も出るでしょう。
その重圧に、少しだけ手が震えていました。
「……眠れないか?」
背後から、毛布がかけられました。 クラウス様です。 彼は私の隣に立ち、同じ月を見上げました。
「……怖いです」
私は正直に言いました。
「私の策で、人が死にます。もしかしたら、罪のない人も巻き込むかもしれません。……私は、取り返しのつかないことをしているのではないでしょうか」
「戦争とはそういうものだ」
クラウス様は淡々と言いました。
「綺麗事では守れない。お前はそれを知っているはずだ。……だからこそ、お前はカミロの前でも、エレナの前でも引かなかった」
「……はい」
「背負うな。その罪も、血も、全て私が半分持つ。……いや、全軍の指揮官である私が九割持つ。お前は私を信じて、前に進む道だけを照らしてくれればいい」
彼は私の手を握り、その冷たい指先で私の掌に口づけました。
「お前は私の『北極星(ポラリス)』だ。お前がいれば、私は迷わない」
「……クラウス様」
涙がこぼれました。 この人の言葉は、いつだって私の心の凍りついた部分を溶かしてくれます。
「分かりました。……私は貴方の星になります。どんなに暗い夜でも、貴方が道を見失わないように輝き続けます」
私は涙を拭い、彼の胸に飛び込みました。 冷たい風の中で、二人の体温だけが熱く燃えていました。
その時。 夜空の向こう、南の方角から、赤い狼煙(のろし)が上がりました。
「……来たか」
クラウス様の目が鋭くなります。 それは敵軍の接近を知らせる合図ではなく、王都に残した密偵からの緊急信号でした。 色は「赤」。 意味は――『極めて重大な危機』。
「セバスチャン!」
クラウス様が呼ぶと、影からセバスチャンが現れました。 手には、伝書鳩が運んできた小さな紙片を持っています。
「閣下、ご報告いたします」
セバスチャンの声が、珍しく焦りを含んでいました。
「王都にて、エリザベート王女殿下が……拘束されました」
「なっ……!?」
私は息を呑みました。
「罪状は『国王暗殺の共謀罪』。……ギリアードは、国王陛下を毒殺し、その罪を王女殿下と我々に擦り付けたようです」
「陛下が……崩御されたと?」
最悪の事態です。 国王が死に、その罪を着せられた王女が捕らえられた。 これでギリアードは、幼い王子(まだ五歳)を傀儡として即位させ、摂政として全権を握るつもりだ。
「処刑は一週間後。……建国広場にて、公開処刑を行うとのことです」
「一週間……」
ここから王都まで、軍を率いて進めばどんなに急いでも十日はかかります。 間に合いません。 どう考えても、詰みです。
「……どうしますか、閣下」
セバスチャンが問います。
クラウス様は沈黙しました。 ギリリ、と拳を握りしめる音が聞こえます。 怒りで体が震えています。
「……間に合わせる」
クラウス様は顔を上げました。 その瞳は、狂気にも似た決意で燃えていました。
「全軍での進軍は陽動だ。ヴォルフガングに本隊を任せる。……私は、精鋭のみを率いて『最短ルート』を行く」
「最短ルート? まさか……」
私は地図を思い浮かべました。 街道を使わずに王都へたどり着く道。 それは一つしかありません。
「『竜の山脈』を越える」
「自殺行為です!」
私は叫びました。 竜の山脈は、文字通り古代竜が棲むと言われる魔の山。 万年雪に閉ざされ、生きて帰った者はいないとされる場所です。
「だが、それなら三日で着く」
クラウス様は私を見ました。
「アリア。……お前は本隊と共に来い。山脈越えは危険すぎる」
「……嫌です」
私は即答しました。
「置いていかないでください。私は貴方の半身でしょう? 貴方が死地へ行くなら、私も行きます」
「足手まといになるぞ」
「なりません。……竜についての知識なら、『影の書庫』で読みました。竜の巣の場所も、回避ルートも頭に入っています。私がいなければ、貴方は遭難します」
ハッタリではありません。 私は本当に読んでいました。 あらゆる知識を詰め込んだ私の脳みそが、今こそ役に立つ時です。
クラウス様はしばらく私を睨んでいましたが、やがて諦めたようにため息をつきました。
「……分かった。お前の頑固さは、竜の鱗よりも硬いようだな」
彼は私の肩を抱きました。
「行くぞ、アリア。……王女を救い、ギリアードの首を取る。これが最後の賭けだ」
「はい!」
私たちは急いで準備を始めました。 本隊の指揮をバルバロッサ卿に託し、ミラを城の安全な場所に隠し(「必ず帰ってくるから」と約束して)、選抜された十名の精鋭と共に、夜明け前の闇へと出発しました。
目指すは死の山脈。 そしてその先にある、王都の処刑台。
私たちの本当の戦いは、ここからが本番でした。
53
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話
鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。
彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。
干渉しない。触れない。期待しない。
それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに――
静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。
越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。
壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。
これは、激情ではなく、
確かな意思で育つ夫婦の物語。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる