貧乏令嬢ですが、前世の知識で成り上がって呪われ王子の呪いを解こうと思います!

放浪人

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第4話:初めての試作品と立ちはだかる壁

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「できた……! できたわ……!」

数日後。
私は、キッチンの隅で歓喜の声を上げていた。

目の前には、淡い紫色の、美しい石鹸。
ラベンダーの優しい香りが、ふわりと鼻をくすぐる。

前世の記憶を頼りに、何度も失敗を繰り返して、ようやく完成させた試作品第一号だ。
鍋を火にかけ、オイルと苛性ソーダ(これは灰汁からなんとか抽出した)を混ぜ合わせ、温度管理に細心の注意を払う。
最後に、乾燥させたラベンダーのハーブを練り込む。

その工程は、まるで魔法の薬を作っているようで、夢中になった。

「すごい……泡立ちもいいし、洗い上がりもしっとりしてる……!」

実際に使ってみると、その効果は想像以上だった。
この世界のゴワゴワした石鹸とは、比べ物にならない。
これなら、絶対に売れる。

私は胸を躍らせ、完成した石鹸をいくつか布に包み、意気揚々と王都の市場へ向かった。

「さあ、いらっしゃいませ! 新発売の、肌に優しくて良い香りのする魔法の石鹸ですよー!」

市場の隅っこに小さな布を広げ、私は精一杯声を張り上げた。
しかし。

「……なんだい、嬢ちゃん。石鹸? 石鹸なら間に合ってるよ」
「見た目は綺麗だけど、高いんじゃないのかい?」

道行く人々は、ちらりと私に視線をくれるものの、誰も足を止めてはくれない。
たまに興味を持ってくれた人がいても、値段を言うと顔をしかめて去っていく。

材料費や手間を考えると、どうしても従来の石鹸よりは高くなってしまうのだ。

「そんな……こんなに良いものなのに……」

昼過ぎになっても、売れたのはたったの一つだけ。
それも、物珍しさで買ってくれたおばあさん一人だけだった。

現実は、そんなに甘くない。
良いものを作れば、自然と売れる。そんなのは幻想だったのだ。

私には、商売のノウハウも、売るためのコネも、何もない。
あるのは、この石鹸だけ。

「うぅ……どうしよう……」

夕暮れの市場で、一人ぽつんと座り込む。
あれだけ燃え上がっていた決意の炎が、冷たい現実の風に吹かれて、消えかかっていた。

やっぱり、私なんかにできるわけなかったんだ。
貧乏な男爵令嬢が、一人で何かを成し遂げるなんて……。

涙が滲んできて、視界がぼやける。

その時だった。

「……そこの嬢ちゃん。その石鹸、ちょっと見せてみな」

不意に、頭上からしゃがれた声が降ってきた。
顔を上げると、そこに立っていたのは、人の良さそうな顔をしているけれど、どこか鋭い目つきをした、中年の男性だった。
服装はみすぼらしいが、その佇まいには、只者ではない雰囲気があった。

「……え?」

「いいから、見せてみろってんだ。そいつは、ただの石鹸じゃねぇ匂いがする」

男性はそう言うと、私の前にしゃがみ込み、商品を手に取った。
そして、鼻をくんくんと鳴らし、指先でその質感を確かめるように触れる。

その真剣な眼差しに、私はなぜか、ゴクリと喉を鳴らした。

――この出会いが、私の運命を再び大きく動かすことになるなんて。
絶望の淵にいた私は、まだ知る由もなかった。
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