貧乏令嬢ですが、前世の知識で成り上がって呪われ王子の呪いを解こうと思います!

放浪人

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第6話:小さな成功と次なる一手

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「いいかい、リナお嬢。普通の人間は、知らないものには手を出さねぇ」
ギルさんは、腕を組みながら言った。
ここは、市場の隅にある安酒場。私たちが即席で立てた作戦司令部だ。

「だから、まずは『知ってもらう』ことが重要なんだ。それも、タダでな」
「タダ、ですか?」

「おうよ。いわゆる『試供品』ってやつだ」

ギルさんの作戦はこうだ。
まず、石鹸を小さく切り分け、綺麗な小袋に入れる。
そして、それを市場の女性たちに、無料で配って回るのだ。

「『一度使ってみてくださいな。きっと驚きますぜ』ってな。使って良さがわかれば、次からは金を出してでも欲しくなる。それが人間の心理ってもんだ」

なるほど、と思った。
前世のデパ地下やドラッグストアで、よくやっていた手法だ。
この世界では、まだ誰も思いついていない、画期的な販売戦略だった。

「わかりました! すぐに準備します!」

私とギルさんは、早速行動を開始した。
私が夜なべして石鹸を作り、ギルさんがそれを小分けにして、宣伝文句を書いた小さな札を付ける。

そして翌日。
私たちは、再び市場に立っていた。

「さあさあ、奥さん! こちら、新開発の美容石鹸! 今ならお試し品を無料で差し上げますよ!」

ギルさんの威勢のいい声が響き渡る。
最初こそ遠巻きに見ていた人々も、「タダ」という言葉に惹かれて、一人、また一人と集まってきた。

「あら、本当にくれるのかい?」
「いい香りねぇ……」

小袋を受け取った女性たちは、興味深そうに中身を覗き込んでいる。
その反応は、昨日とは比べ物にならないほど良かった。

そして、その効果は、数日後に劇的に現れた。

「あのう、この間の石鹸、まだありますか?」
「娘がすごく気に入っちゃって。一つ売って欲しいんだけど」

なんと、無料サンプルを配った人たちが、次々と石鹸を買いに戻ってきたのだ!

「すごい……ギルさん、すごい……!」
「へっ、当たり前でさァ。俺を誰だと思ってる」

ギルさんは得意げに鼻を鳴らす。
その日、私たちが用意した石鹸は、昼過ぎには全て売り切れてしまった。

初めて、自分の手でまともな収入を得た。
ずっしりと重い銅貨の入った袋を握りしめ、私は感動で震えていた。

「……ありがとうございます、ギルさん」
「礼を言うのはまだ早ぇよ、お嬢。こいつは、まだ序の口だ」

ギルさんは、ニヤリと笑う。
「市場の連中を掴んだら、次はいよいよ本丸だ」

「本丸……?」

「――王城さ」
ギルさんは、王が住む壮麗な城を指差した。

「城で働く侍女たちや、貴族の奥方様。本当に金を持ってるのは、そっちの連中だ。彼女たちに認めさせることができれば、この商売は一気に跳ね上がるぜ」

王城。
その言葉に、私の脳裏にあの人物の顔が浮かんだ。
漆黒の髪、血のように赤い瞳。そして、寂しげな横顔。

――アレクシス様。

また、あの人に会えるかもしれない。
そんな淡い期待が、胸をよぎった。

いやいや、私は商売のために行くんだ。
不純な動機はダメだ。

そう自分に言い聞かせながらも、私の心臓が少しだけ速く脈打つのを感じていた。

次なる舞台は、王城。
そこには、新たな出会いと、そして思いがけない困難が待ち受けていることを、私はまだ知らなかった。

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