15 / 26
第15話:第二の妨害と黒い嫉妬
しおりを挟む
王妃様主催のガーデンパーティーが、三日後に迫っていた。
私たちの工房では、パーティーで披露する『宝石のショートケーキ』の準備が、大詰めを迎えていた。
「よし! 材料は全て揃ったな!」
「あとは、最高の状態で作り上げるだけですね!」
ギルさんと私は、顔を見合わせて気合を入れる。
このパーティーが成功すれば、私たちのスイーツは、王侯貴族たちの間で一気に広まるはずだ。
そう、信じていた。
――あの報せが、届くまでは。
翌朝。
いつものように、材料の仕入れ先である大手の商会へ向かったギルさんが、血相を変えて工房に駆け込んできた。
「リナお嬢! 大変だ!」
「どうしたんですか、ギルさん! そんなに慌てて……」
「砂糖だ! 砂糖が、どこにも売ってねぇ!」
「えっ!?」
ギルさんの話によると、昨日まで山のように積まれていた砂糖が、王都中のどの店からも、忽然と姿を消してしまったというのだ。
「そんな、馬鹿な……。何かあったんですか?」
「ああ。どうやら、ヴァレンティン公爵家が、王都に流通する全ての砂糖を、独占的に買い占めちまったらしい」
――ヴァレンティン公爵家。
その名前に、私の背筋が凍りついた。
それは、あのイザベラ様の実家だ。
「……まさか」
「間違いねぇ。俺たちへの、嫌がらせだ」
ギルさんは、悔しそうに歯を食いしばる。
石鹸の時のように、悪評を流すのではない。
今度は、もっと直接的で、致命的な妨害。
原材料の供給を断つ、というあまりにもえげつないやり方だ。
砂糖がなければ、ケーキは作れない。
私たちの新たな挑戦は、始まる前に、その芽を摘まれようとしていた。
「なんて、こと……」
工房の床に、へなへなと座り込む。
頭が、真っ白になった。
あと、たったの二日しかないのに。
今から、どこで砂糖を手に入れろというの?
絶望が、じわじわと心を蝕んでいく。
やっぱり、平民上がりの私が、公爵家のような強大な権力に立ち向かうなんて、無謀だったのかもしれない。
その日の午後。
工房の前を、一台の豪華な馬車が通りかかった。
窓から顔を覗かせたのは、勝ち誇ったような笑みを浮かべた、イザベラ様だった。
彼女は、絶望に打ちひしがれる私を一瞥すると、あざ笑うかのように、扇子で口元を隠した。
その目が、こう言っているようだった。
『身の程知らずの、哀れな虫けら。これが、わたくしに逆らった罰ですわ』
悔しくて、悔しくて、涙が出そうになる。
でも、彼女の前で泣いたら、負けだ。
私は、唇を強く噛みしめ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
「……くそっ!」
ギルさんが、壁を殴りつける。
工房の中は、重く、冷たい沈黙に包まれた。
甘いはずのケーキの香りが、今は虚しく漂っているだけ。
もう、終わりなのか。
私たちの夢は、ここで潰えてしまうのか。
諦めの気持ちが、胸の大部分を占めようとしていた、その時。
「……いや」
絞り出すような声が、自分の口から漏れた。
「まだ……まだ、終わりじゃない」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、絶望の代わりに、新たな闘志の炎が宿り始めていた。
「砂糖がダメなら、別の甘みを探せばいいじゃない……!」
そうだ。
前世の知識を、もっと、もっと深く掘り起こすんだ。
砂糖以外にも、甘いものを作り出す方法は、きっとあるはずだ。
私の言葉に、ギルさんがハッとして顔を上げる。
彼の目にも、再び光が戻っていた。
「……そうか。そうだな、リナお嬢。諦めるのは、まだ早ぇ!」
絶体絶命のピンチ。
しかし、私たちは、まだ終わらない。
イザベラ様の想像を、遥かに超える方法で、この逆境をひっくり返してみせる。
――私たちの本当の戦いは、ここから始まるのだ。
私たちの工房では、パーティーで披露する『宝石のショートケーキ』の準備が、大詰めを迎えていた。
「よし! 材料は全て揃ったな!」
「あとは、最高の状態で作り上げるだけですね!」
ギルさんと私は、顔を見合わせて気合を入れる。
このパーティーが成功すれば、私たちのスイーツは、王侯貴族たちの間で一気に広まるはずだ。
そう、信じていた。
――あの報せが、届くまでは。
翌朝。
いつものように、材料の仕入れ先である大手の商会へ向かったギルさんが、血相を変えて工房に駆け込んできた。
「リナお嬢! 大変だ!」
「どうしたんですか、ギルさん! そんなに慌てて……」
「砂糖だ! 砂糖が、どこにも売ってねぇ!」
「えっ!?」
ギルさんの話によると、昨日まで山のように積まれていた砂糖が、王都中のどの店からも、忽然と姿を消してしまったというのだ。
「そんな、馬鹿な……。何かあったんですか?」
「ああ。どうやら、ヴァレンティン公爵家が、王都に流通する全ての砂糖を、独占的に買い占めちまったらしい」
――ヴァレンティン公爵家。
その名前に、私の背筋が凍りついた。
それは、あのイザベラ様の実家だ。
「……まさか」
「間違いねぇ。俺たちへの、嫌がらせだ」
ギルさんは、悔しそうに歯を食いしばる。
石鹸の時のように、悪評を流すのではない。
今度は、もっと直接的で、致命的な妨害。
原材料の供給を断つ、というあまりにもえげつないやり方だ。
砂糖がなければ、ケーキは作れない。
私たちの新たな挑戦は、始まる前に、その芽を摘まれようとしていた。
「なんて、こと……」
工房の床に、へなへなと座り込む。
頭が、真っ白になった。
あと、たったの二日しかないのに。
今から、どこで砂糖を手に入れろというの?
絶望が、じわじわと心を蝕んでいく。
やっぱり、平民上がりの私が、公爵家のような強大な権力に立ち向かうなんて、無謀だったのかもしれない。
その日の午後。
工房の前を、一台の豪華な馬車が通りかかった。
窓から顔を覗かせたのは、勝ち誇ったような笑みを浮かべた、イザベラ様だった。
彼女は、絶望に打ちひしがれる私を一瞥すると、あざ笑うかのように、扇子で口元を隠した。
その目が、こう言っているようだった。
『身の程知らずの、哀れな虫けら。これが、わたくしに逆らった罰ですわ』
悔しくて、悔しくて、涙が出そうになる。
でも、彼女の前で泣いたら、負けだ。
私は、唇を強く噛みしめ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
「……くそっ!」
ギルさんが、壁を殴りつける。
工房の中は、重く、冷たい沈黙に包まれた。
甘いはずのケーキの香りが、今は虚しく漂っているだけ。
もう、終わりなのか。
私たちの夢は、ここで潰えてしまうのか。
諦めの気持ちが、胸の大部分を占めようとしていた、その時。
「……いや」
絞り出すような声が、自分の口から漏れた。
「まだ……まだ、終わりじゃない」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、絶望の代わりに、新たな闘志の炎が宿り始めていた。
「砂糖がダメなら、別の甘みを探せばいいじゃない……!」
そうだ。
前世の知識を、もっと、もっと深く掘り起こすんだ。
砂糖以外にも、甘いものを作り出す方法は、きっとあるはずだ。
私の言葉に、ギルさんがハッとして顔を上げる。
彼の目にも、再び光が戻っていた。
「……そうか。そうだな、リナお嬢。諦めるのは、まだ早ぇ!」
絶体絶命のピンチ。
しかし、私たちは、まだ終わらない。
イザベラ様の想像を、遥かに超える方法で、この逆境をひっくり返してみせる。
――私たちの本当の戦いは、ここから始まるのだ。
74
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
会えば喧嘩ばかりの婚約者と腹黒王子の中身が入れ替わったら、なぜか二人からアプローチされるようになりました
黒木メイ
恋愛
伯爵令嬢ソフィアと第一王子の護衛隊長であるレオンの婚約は一年を迎えるが、会えば口喧嘩、会わなければ音信不通というすれ違いの日々。約束を破り続けるレオンと両親からの『式だけでも早く挙げろ』という圧に我慢の限界を迎えたソフィアは、ついに彼の職場である王城へと乗り込む。
激しい言い争いを始めた二人の前に現れたのは、レオンの直属の上司であり、優雅な仮面の下に腹黒な本性を隠す第一王子クリスティアーノ。
王子は二人が起こした騒動への『罰』として、王家秘伝の秘薬をレオンに服用させる。その結果――なんとレオンとクリスティアーノの中身が入れ替わってしまった!全ては王子の計画通り。
元に戻るのは八日後。その間、ソフィアはこの秘密がバレないよう、文字通り命がけで奔走することとなる。
期限付きの入れ替わり生活は、不器用な婚約者との関係をどう変えるのか?
そして、この騒動を引き起こした腹黒王子の真の目的とは?
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※他サイトからの転載。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
悪役を演じて婚約破棄したのに、なぜか溺愛モードの王子がついてきた!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢ミュールは、重度のシスコンである。「天使のように可愛い妹のリナこそが、王妃になるべき!」その一心で、ミュールは自ら「嫉妬に狂った悪役令嬢」を演じ、婚約者であるキース王太子に嫌われる作戦に出た。
計画は成功し、衆人環視の中で婚約破棄を言い渡されるミュール。「処罰として、王都から追放する!」との言葉に、これで妹が幸せになれるとガッツポーズをした……はずだったのだが?
連れて行かれた「追放先」は、王都から馬車でたった30分の、王家所有の超豪華別荘!?
しかも、「君がいないと仕事が手につかない」と、元婚約者のキース殿下が毎日通ってくるどころか、事実上の同棲生活がスタートしてしまう。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる