偽聖女と蔑まれた私、実は【魔力鑑定EX】の持ち主でした~追放先で出会った無愛想な公爵様に見初められ、今更帰ってきて言われてももう遅いです

放浪人

文字の大きさ
18 / 32

第18話:仮面舞踏会、偽りの聖女の絶叫

しおりを挟む
建国記念舞踏会の夜。
王城は、まばゆいほどの光と、甘く、華やかな音楽に包まれていた。
私は、レオが用意してくれた、深紅のドレスに身を包み、カイから渡された銀色の蝶の仮面をつけて、煌びやかな貴族たちの群れに紛れ込んでいた。

(カイは、今頃……)

城の地下深くで、たった一人、危険な戦いに挑んでいるであろう彼のことを思うと、胸が締め付けられる。
でも、感傷に浸っている暇はない。私も、私の役目を果たさなければ。

会場には、見知った顔もちらほらと見える。
皆、きらびやかな衣装をまとい、中身のない笑顔を浮かべて、上辺だけの談笑に興じている。
私が追放された時のことなど、とうに忘れてしまったかのように。

その中に、ひときわ目立つ二人組がいた。
エドワード王太子と、その腕に、まるで寄生するように寄り添う、リナ。

リナは、純白のドレスに、これでもかというほどの宝石を飾り付け、まるで自分がこの国の女王であるかのように、傲慢に振る舞っている。
けれど、私の【魔力鑑定EX】の瞳には、彼女の、その虚飾の下にあるものが、はっきりと視えていた。

(……魔力が、安定していない。まるで、今にも決壊しそうなダムのようだわ……)

彼女の周囲だけ、空気がわずかに淀み、魔力が不自然に揺らいでいる。
普通の人間には感知できない、微細な、しかし、破滅の予兆ともいえる魔力の乱れ。
彼女自身も、それを隠しきれないのか、その表情には、隠せない焦りと、苛立ちが滲んでいた。

私は、人混みに紛れながら、ゆっくりと彼らに近づいた。
目的は、情報収集。そして、いざという時に、カイの援護ができるように、彼らの動向を探るためだ。

「リナ、大丈夫かい? 少し、顔色が優れないようだが」
エドワード様の心配そうな声に、リナは苛立ったように、か細い声で答える。

「だ、大丈夫ですわ、エドワード様。少し、人混みに酔ってしまっただけで……」
その額には、うっすらと、脂汗が浮かんでいた。

その時だった。
私のすぐそばで、グラスが床に落ちて割れる、甲高い音がした。

「きゃっ!」

一人の若い令嬢が、誰かに押されてよろけ、近くの給仕係にぶつかってしまったのだ。
給仕係が持っていた盆の上の、赤い葡萄酒が、派手に宙を舞い、その令嬢の、真っ白なドレスに、べったりと飛び散った。

「申し訳ありません!」
令嬢は、青ざめて、慌ててハンカチでドレスを拭おうとする。
ごくありふれた、舞踏会のハプニング。

だが、次の瞬間、誰もが息を呑む、信じられない光景が広がった。

「……汚らわしい」

リナが、吐き捨てるように言った。
そして、ワインで汚れた令嬢に向かって、すっと手をかざす。

「私の神聖な視界に、そんな汚れたものを入れないでくださる?」

リナの手のひらから、白い光が放たれた。
だが、それは、聖なる力とは程遠い、禍々しく、不純な、破壊的なエネルギーの奔流だった。

「きゃあああああっ!」

令嬢のドレスが、一瞬で発火し、彼女は炎に包まれて、悲鳴を上げてその場に倒れ込む。
会場は、一瞬で、パニックに陥った。

「リナ!? 君は、何を……!」
エドワード様さえも、彼女の突然の凶行に、動揺を隠せないでいる。

「うるさい! 黙ってなさいよ!」

リナは、ヒステリックに絶叫した。
もはや、か弱き聖女の仮面は、完全に剥がれ落ちている。

「どいつもこいつも、私を馬鹿にして! 本当は、分かってるんでしょう!? 私の力が、偽物だって! あの女――***アリアの方が、本物だって!!!***」

彼女の絶叫と共に、その体から、制御を失った魔力が、嵐のように、爆発的に溢れ出す。
天井の巨大なシャンデリアが、激しく揺れ、ガシャン、と音を立てて床に落下する。窓ガラスは、一斉に砕け散った。

「もう、どうにでもなれ! こんな国、こんな奴ら、全部、全部、***壊してやるんだから!!!***」

リナが、狂気の笑みを浮かべ、両手を天に掲げる。
彼女の頭上に、王城の天井を突き破るほどの、巨大な、紫黒の魔力の塊が、急速に形成され始めた。
あれが放たれれば、この王城は、跡形もなく消し飛ぶだろう。

(させない……!)

私は、仮面の下で、唇を強く、噛みしめた。
ドレスの裾を翻し、貴族たちの悲鳴の中を駆け抜け、彼女の前に躍り出る。

「――そこまでですわ、リナ」

凛とした私の声に、リナは驚いて目を見開いた。
エドワード様も、信じられないといった顔で、私を見ている。

「……その声……その魔力……まさか、アリア!? どうして、ここに……!?」

私は、ゆっくりと、蝶の仮面を外した。

「ええ。あなたの好き勝手には、させません」

「お姉様……! 生きていたのね! ***あなたさえいなければ! あなたさえいなければ、私は、本物の聖女になれたのに!!!***」

リナの顔が、驚愕から、純粋な憎悪へと変わる。
彼女の頭上の魔力の塊が、さらに巨大化していく。もう、一刻の猶予もない。

私は、懐に忍ばせていた、カイから渡されたものを、強く握りしめた。
彼の、強大な魔力を、極限まで圧縮して封じ込めた、小さな、小さな、氷の結晶。

『――もしもの時は、これを使え。お前の清浄な魔力を触媒にすれば、一時的にだが、俺の力をお前が使えるはずだ』

(カイ……力を、お借りしますわ!)

私は、氷の結晶を、天に高く掲げた。
そして、自分の清浄な魔力を、その一点に、全力で注ぎ込む。

「――***聖域結界(サンクチュアリ)!***」

私の体から、まばゆい白銀の光が放たれ、リナの邪悪な魔力を包み込む、光のドームを形成した。
リナの魔力の塊が、結界の壁に激突し、世界が揺らぐほどの、凄まじい衝撃が会場を襲う。

けれど、結界は、破れない。
カイの力と、私の力が合わさったこの結界は、彼女の、借り物の、暴走した力に、決して屈しはしなかった。

「そんな……馬鹿な……! 私の力が、この私の聖なる力が……!」

呆然とするリナ。
その時、大広間の、瓦礫と化した扉が、内側から、蹴破られるようにして、勢いよく開かれた。

そこに立っていたのは、返り血で服を汚し、満身創痍でありながらも、その瞳に、確かな勝利の光を宿した――***カイ***だった。

「……間に合ったか、アリア」

彼は、私を見て、安堵の笑みを浮かべた。
私たちの、運命の再会だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、英雄にも聖女にもなりません

鷹 綾
恋愛
王太子からの婚約破棄。 悪役令嬢として断罪され、処刑エンド確定―― その瞬間、エレナは前世の記憶を思い出した。 ここは乙女ゲームの世界。 そして自分は、必ず破滅する“悪役令嬢”。 だが彼女は、復讐も、英雄になることも選ばなかった。 正義を掲げれば、いずれ誰かに利用され、切り捨てられると知っていたから。 エレナが選んだのは、 「正しさ」を振りかざさず、 「責任」を一人で背負わず、 明日も続く日常を作ること。 聖女にも、英雄にもならない。 それでも確かに、世界は静かに変わっていく。 派手なざまぁはない。 けれど、最後に残るのは―― 誰も処刑されず、誰か一人が犠牲にならない結末。 これは、 名前の残らない勝利を選んだ悪役令嬢の物語。

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、 誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。 「地味で役に立たない」と嘲笑され、 平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。 家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。 しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。 静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、 自らの手で破滅へと導いていく。 復讐の果てに選んだのは、 誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。 自分で選び取る、穏やかな幸せ。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が 王太子を終わらせたあと、 本当の人生を歩き出す物語。 -

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

婚約破棄したくせに、聖女の能力だけは貸して欲しいとか……馬鹿ですか?

マルローネ
恋愛
ハーグリーブス伯爵家には代々、不思議な能力があった。 聖女の祈りで業務の作業効率を上げられるというものだ。 範囲は広いとは言えないが、確実に役に立つ能力であった。 しかし、長女のエメリ・ハーグリーブスは婚約者のルドルフ・コーブル公爵令息に婚約破棄をされてしまう。そして、進めていた事業の作業効率は計画通りには行かなくなり……。 「婚約破棄にはなったが、お前の聖女としての能力は引き続き、我が領地経営に活かしたいのだ。協力してくれ」 「ごめんなさい……意味が分かりません」 エメリは全力で断るのだった……。

処理中です...