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第18話:仮面舞踏会、偽りの聖女の絶叫
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建国記念舞踏会の夜。
王城は、まばゆいほどの光と、甘く、華やかな音楽に包まれていた。
私は、レオが用意してくれた、深紅のドレスに身を包み、カイから渡された銀色の蝶の仮面をつけて、煌びやかな貴族たちの群れに紛れ込んでいた。
(カイは、今頃……)
城の地下深くで、たった一人、危険な戦いに挑んでいるであろう彼のことを思うと、胸が締め付けられる。
でも、感傷に浸っている暇はない。私も、私の役目を果たさなければ。
会場には、見知った顔もちらほらと見える。
皆、きらびやかな衣装をまとい、中身のない笑顔を浮かべて、上辺だけの談笑に興じている。
私が追放された時のことなど、とうに忘れてしまったかのように。
その中に、ひときわ目立つ二人組がいた。
エドワード王太子と、その腕に、まるで寄生するように寄り添う、リナ。
リナは、純白のドレスに、これでもかというほどの宝石を飾り付け、まるで自分がこの国の女王であるかのように、傲慢に振る舞っている。
けれど、私の【魔力鑑定EX】の瞳には、彼女の、その虚飾の下にあるものが、はっきりと視えていた。
(……魔力が、安定していない。まるで、今にも決壊しそうなダムのようだわ……)
彼女の周囲だけ、空気がわずかに淀み、魔力が不自然に揺らいでいる。
普通の人間には感知できない、微細な、しかし、破滅の予兆ともいえる魔力の乱れ。
彼女自身も、それを隠しきれないのか、その表情には、隠せない焦りと、苛立ちが滲んでいた。
私は、人混みに紛れながら、ゆっくりと彼らに近づいた。
目的は、情報収集。そして、いざという時に、カイの援護ができるように、彼らの動向を探るためだ。
「リナ、大丈夫かい? 少し、顔色が優れないようだが」
エドワード様の心配そうな声に、リナは苛立ったように、か細い声で答える。
「だ、大丈夫ですわ、エドワード様。少し、人混みに酔ってしまっただけで……」
その額には、うっすらと、脂汗が浮かんでいた。
その時だった。
私のすぐそばで、グラスが床に落ちて割れる、甲高い音がした。
「きゃっ!」
一人の若い令嬢が、誰かに押されてよろけ、近くの給仕係にぶつかってしまったのだ。
給仕係が持っていた盆の上の、赤い葡萄酒が、派手に宙を舞い、その令嬢の、真っ白なドレスに、べったりと飛び散った。
「申し訳ありません!」
令嬢は、青ざめて、慌ててハンカチでドレスを拭おうとする。
ごくありふれた、舞踏会のハプニング。
だが、次の瞬間、誰もが息を呑む、信じられない光景が広がった。
「……汚らわしい」
リナが、吐き捨てるように言った。
そして、ワインで汚れた令嬢に向かって、すっと手をかざす。
「私の神聖な視界に、そんな汚れたものを入れないでくださる?」
リナの手のひらから、白い光が放たれた。
だが、それは、聖なる力とは程遠い、禍々しく、不純な、破壊的なエネルギーの奔流だった。
「きゃあああああっ!」
令嬢のドレスが、一瞬で発火し、彼女は炎に包まれて、悲鳴を上げてその場に倒れ込む。
会場は、一瞬で、パニックに陥った。
「リナ!? 君は、何を……!」
エドワード様さえも、彼女の突然の凶行に、動揺を隠せないでいる。
「うるさい! 黙ってなさいよ!」
リナは、ヒステリックに絶叫した。
もはや、か弱き聖女の仮面は、完全に剥がれ落ちている。
「どいつもこいつも、私を馬鹿にして! 本当は、分かってるんでしょう!? 私の力が、偽物だって! あの女――***アリアの方が、本物だって!!!***」
彼女の絶叫と共に、その体から、制御を失った魔力が、嵐のように、爆発的に溢れ出す。
天井の巨大なシャンデリアが、激しく揺れ、ガシャン、と音を立てて床に落下する。窓ガラスは、一斉に砕け散った。
「もう、どうにでもなれ! こんな国、こんな奴ら、全部、全部、***壊してやるんだから!!!***」
リナが、狂気の笑みを浮かべ、両手を天に掲げる。
彼女の頭上に、王城の天井を突き破るほどの、巨大な、紫黒の魔力の塊が、急速に形成され始めた。
あれが放たれれば、この王城は、跡形もなく消し飛ぶだろう。
(させない……!)
私は、仮面の下で、唇を強く、噛みしめた。
ドレスの裾を翻し、貴族たちの悲鳴の中を駆け抜け、彼女の前に躍り出る。
「――そこまでですわ、リナ」
凛とした私の声に、リナは驚いて目を見開いた。
エドワード様も、信じられないといった顔で、私を見ている。
「……その声……その魔力……まさか、アリア!? どうして、ここに……!?」
私は、ゆっくりと、蝶の仮面を外した。
「ええ。あなたの好き勝手には、させません」
「お姉様……! 生きていたのね! ***あなたさえいなければ! あなたさえいなければ、私は、本物の聖女になれたのに!!!***」
リナの顔が、驚愕から、純粋な憎悪へと変わる。
彼女の頭上の魔力の塊が、さらに巨大化していく。もう、一刻の猶予もない。
私は、懐に忍ばせていた、カイから渡されたものを、強く握りしめた。
彼の、強大な魔力を、極限まで圧縮して封じ込めた、小さな、小さな、氷の結晶。
『――もしもの時は、これを使え。お前の清浄な魔力を触媒にすれば、一時的にだが、俺の力をお前が使えるはずだ』
(カイ……力を、お借りしますわ!)
私は、氷の結晶を、天に高く掲げた。
そして、自分の清浄な魔力を、その一点に、全力で注ぎ込む。
「――***聖域結界(サンクチュアリ)!***」
私の体から、まばゆい白銀の光が放たれ、リナの邪悪な魔力を包み込む、光のドームを形成した。
リナの魔力の塊が、結界の壁に激突し、世界が揺らぐほどの、凄まじい衝撃が会場を襲う。
けれど、結界は、破れない。
カイの力と、私の力が合わさったこの結界は、彼女の、借り物の、暴走した力に、決して屈しはしなかった。
「そんな……馬鹿な……! 私の力が、この私の聖なる力が……!」
呆然とするリナ。
その時、大広間の、瓦礫と化した扉が、内側から、蹴破られるようにして、勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、返り血で服を汚し、満身創痍でありながらも、その瞳に、確かな勝利の光を宿した――***カイ***だった。
「……間に合ったか、アリア」
彼は、私を見て、安堵の笑みを浮かべた。
私たちの、運命の再会だった。
王城は、まばゆいほどの光と、甘く、華やかな音楽に包まれていた。
私は、レオが用意してくれた、深紅のドレスに身を包み、カイから渡された銀色の蝶の仮面をつけて、煌びやかな貴族たちの群れに紛れ込んでいた。
(カイは、今頃……)
城の地下深くで、たった一人、危険な戦いに挑んでいるであろう彼のことを思うと、胸が締め付けられる。
でも、感傷に浸っている暇はない。私も、私の役目を果たさなければ。
会場には、見知った顔もちらほらと見える。
皆、きらびやかな衣装をまとい、中身のない笑顔を浮かべて、上辺だけの談笑に興じている。
私が追放された時のことなど、とうに忘れてしまったかのように。
その中に、ひときわ目立つ二人組がいた。
エドワード王太子と、その腕に、まるで寄生するように寄り添う、リナ。
リナは、純白のドレスに、これでもかというほどの宝石を飾り付け、まるで自分がこの国の女王であるかのように、傲慢に振る舞っている。
けれど、私の【魔力鑑定EX】の瞳には、彼女の、その虚飾の下にあるものが、はっきりと視えていた。
(……魔力が、安定していない。まるで、今にも決壊しそうなダムのようだわ……)
彼女の周囲だけ、空気がわずかに淀み、魔力が不自然に揺らいでいる。
普通の人間には感知できない、微細な、しかし、破滅の予兆ともいえる魔力の乱れ。
彼女自身も、それを隠しきれないのか、その表情には、隠せない焦りと、苛立ちが滲んでいた。
私は、人混みに紛れながら、ゆっくりと彼らに近づいた。
目的は、情報収集。そして、いざという時に、カイの援護ができるように、彼らの動向を探るためだ。
「リナ、大丈夫かい? 少し、顔色が優れないようだが」
エドワード様の心配そうな声に、リナは苛立ったように、か細い声で答える。
「だ、大丈夫ですわ、エドワード様。少し、人混みに酔ってしまっただけで……」
その額には、うっすらと、脂汗が浮かんでいた。
その時だった。
私のすぐそばで、グラスが床に落ちて割れる、甲高い音がした。
「きゃっ!」
一人の若い令嬢が、誰かに押されてよろけ、近くの給仕係にぶつかってしまったのだ。
給仕係が持っていた盆の上の、赤い葡萄酒が、派手に宙を舞い、その令嬢の、真っ白なドレスに、べったりと飛び散った。
「申し訳ありません!」
令嬢は、青ざめて、慌ててハンカチでドレスを拭おうとする。
ごくありふれた、舞踏会のハプニング。
だが、次の瞬間、誰もが息を呑む、信じられない光景が広がった。
「……汚らわしい」
リナが、吐き捨てるように言った。
そして、ワインで汚れた令嬢に向かって、すっと手をかざす。
「私の神聖な視界に、そんな汚れたものを入れないでくださる?」
リナの手のひらから、白い光が放たれた。
だが、それは、聖なる力とは程遠い、禍々しく、不純な、破壊的なエネルギーの奔流だった。
「きゃあああああっ!」
令嬢のドレスが、一瞬で発火し、彼女は炎に包まれて、悲鳴を上げてその場に倒れ込む。
会場は、一瞬で、パニックに陥った。
「リナ!? 君は、何を……!」
エドワード様さえも、彼女の突然の凶行に、動揺を隠せないでいる。
「うるさい! 黙ってなさいよ!」
リナは、ヒステリックに絶叫した。
もはや、か弱き聖女の仮面は、完全に剥がれ落ちている。
「どいつもこいつも、私を馬鹿にして! 本当は、分かってるんでしょう!? 私の力が、偽物だって! あの女――***アリアの方が、本物だって!!!***」
彼女の絶叫と共に、その体から、制御を失った魔力が、嵐のように、爆発的に溢れ出す。
天井の巨大なシャンデリアが、激しく揺れ、ガシャン、と音を立てて床に落下する。窓ガラスは、一斉に砕け散った。
「もう、どうにでもなれ! こんな国、こんな奴ら、全部、全部、***壊してやるんだから!!!***」
リナが、狂気の笑みを浮かべ、両手を天に掲げる。
彼女の頭上に、王城の天井を突き破るほどの、巨大な、紫黒の魔力の塊が、急速に形成され始めた。
あれが放たれれば、この王城は、跡形もなく消し飛ぶだろう。
(させない……!)
私は、仮面の下で、唇を強く、噛みしめた。
ドレスの裾を翻し、貴族たちの悲鳴の中を駆け抜け、彼女の前に躍り出る。
「――そこまでですわ、リナ」
凛とした私の声に、リナは驚いて目を見開いた。
エドワード様も、信じられないといった顔で、私を見ている。
「……その声……その魔力……まさか、アリア!? どうして、ここに……!?」
私は、ゆっくりと、蝶の仮面を外した。
「ええ。あなたの好き勝手には、させません」
「お姉様……! 生きていたのね! ***あなたさえいなければ! あなたさえいなければ、私は、本物の聖女になれたのに!!!***」
リナの顔が、驚愕から、純粋な憎悪へと変わる。
彼女の頭上の魔力の塊が、さらに巨大化していく。もう、一刻の猶予もない。
私は、懐に忍ばせていた、カイから渡されたものを、強く握りしめた。
彼の、強大な魔力を、極限まで圧縮して封じ込めた、小さな、小さな、氷の結晶。
『――もしもの時は、これを使え。お前の清浄な魔力を触媒にすれば、一時的にだが、俺の力をお前が使えるはずだ』
(カイ……力を、お借りしますわ!)
私は、氷の結晶を、天に高く掲げた。
そして、自分の清浄な魔力を、その一点に、全力で注ぎ込む。
「――***聖域結界(サンクチュアリ)!***」
私の体から、まばゆい白銀の光が放たれ、リナの邪悪な魔力を包み込む、光のドームを形成した。
リナの魔力の塊が、結界の壁に激突し、世界が揺らぐほどの、凄まじい衝撃が会場を襲う。
けれど、結界は、破れない。
カイの力と、私の力が合わさったこの結界は、彼女の、借り物の、暴走した力に、決して屈しはしなかった。
「そんな……馬鹿な……! 私の力が、この私の聖なる力が……!」
呆然とするリナ。
その時、大広間の、瓦礫と化した扉が、内側から、蹴破られるようにして、勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、返り血で服を汚し、満身創痍でありながらも、その瞳に、確かな勝利の光を宿した――***カイ***だった。
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