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第17話:王都潜入と、束の間の誓い
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王都までは、馬で数日間の旅だった。
私たちは、公爵とその連れという身分を隠し、腕利きの傭兵団を装って、街道を進んだ。
道中、カイは驚くほど、私に優しかった。
野営の準備は率先して行い、冷たい夜風で私が体を冷やさないようにと、自分のマントを、何も言わずに私の肩にかけてくれる。
夜の見張りも、私を休ませるために、ほとんど一人で引き受けてくれていた。
「カイ、少しは休んでください。私も見張りをしますわ」
「いい。お前は、いざという時のために、力を温存しておけ。お前の瞳が、俺たちの生命線なんだからな」
彼はそう言って、焚き火のそばに座る私の隣に、腰を下ろす。
二人きりの、静かな夜。
パチパチと燃える火の粉が、星の輝く夜空に舞い上がる。
「……王都に着いたら、まず、どうするおつもりですの?」
「協力者がいる。まずは、そいつと接触する」
「協力者?」
「ああ。王宮内の情報を、こちらに流してくれている男だ。口は悪いが、腕は確かだ」
カイは、用意周到に、内通者まで確保していたらしい。
本当に、抜け目のない人だ。
「……心配か?」
私の不安を見透かしたように、彼が尋ねる。
「少しだけ。エドワード殿下や……リナに、また会うのかと思うと」
あの二人の顔を思い出すと、今でも胸の奥が、ずきりと痛む。
すると、カイは、私の肩を、そっと力強く抱き寄せた。
突然のことに、心臓が大きく跳ねる。
「……もう、お前を一人にはしない」
耳元で囁かれた、低い声。
彼の体温が、マント越しに、じんわりと伝わってくる。
「お前を傷つけるものは、すべて俺が排除する。だから、案ずるな」
その言葉は、まるで魔法のように、私の心に深く染み渡り、不安を溶かしていった。
彼の逞しい胸に顔をうずめると、不思議なほどの安心感に包まれて、自然と瞼が重くなってくる。
その夜は、彼の腕の中で、穏やかに眠りについた。
数日後、私たちはついに王都に到着した。
追放された時とは違い、活気に満ちた王都の姿は、どこか懐かしく、そして少しだけ、苦い気持ちにさせた。
私たちは、人目を避けるように裏路地を進み、一軒の、騒がしい酒場へと入った。
カイの協力者との、待ち合わせ場所だ。
酒場の奥の、薄暗い席で待っていると、一人の男が、ひらひらと手を振りながら私たちのテーブルにやってきた。
燃えるような赤毛に、そばかすのある、人の良さそうな顔立ちの青年。
けれど、その瞳の奥には、どんな嘘も見抜きそうな、鋭い光が宿っている。
「……『氷狼(ひょうろう)』か?」
男が、合言葉らしきものを呟く。
カイが、静かに頷いた。
「よぉ、お待ちしてやしたぜ、ヴォルフガント公爵。俺が、情報屋のレオだ」
レオと名乗る青年は、にっと人懐っこい笑みを浮かべて、私たちの向かいの席にどかりと座った。
「いやー、噂通りの、氷の彫刻みてぇな美丈夫ですな! で、そちらのべっぴんさんが、噂の鑑定士様かい? こりゃまた、公爵様が夢中になるわけだ!」
「……口を慎め。殺すぞ」
カイ様の、絶対零度の声に、レオは「ひゃー、こわいこわい!」と、大げさに肩をすくめる。
「こりゃ失礼。で、早速本題だが……王宮の様子は、あんたたちが思ってる以上に、最悪だぜ」
レオは、声を潜めて、真剣な表情で語り始めた。
「例の聖女様、リナとか言ったか? あいつの力の暴走が、もう隠しきれないレベルになってる。王城の周りじゃ、原因不明の天候不順や、植物が次々に枯れる怪現象が多発してるらしい」
「……やはりか」
「国王も王太子も、完全にパニックだ。聖女様の機嫌を損ねないように、甘やかし放題。もう、国政なんてメチャクチャもいいとこだ。近いうちに、本当に国が滅ぶかもしれねぇぞ」
レオの話は、想像以上に深刻だった。
「『真実の鏡』と、禁術の術式がある『至聖所』の場所は、突き止めてある。問題は、どうやって王城に潜入するか、だが……」
「それについては、考えがある」
カイは、一枚の古い羊皮紙をテーブルに広げた。
それは、王城の、驚くほど詳細な、地下水路の見取り図だった。
「これは……!?」
「昔、父が持っていたものだ。……これを使えば、警備の手薄な地下水路から、王城の深部へ潜入できる」
彼は、そこまで準備していたのだ。
私のために。そして、自らの過去に、決着をつけるために。
「……決行は、三日後の夜。王宮で、年に一度の***建国記念舞踏会***が開かれる。王城の警備が、最も外部に集中し、内部が手薄になる夜だ」
カイ様の言葉に、私とレオは、緊張した面持ちで頷いた。
「アリア」
「はい」
「舞踏会には、お前にも潜入してもらう」
「え……?」
「お前の力で、リナの動向を探り、俺が『至聖所』にたどり着くまで、連中の注意を引きつけてほしい。危険な役目だが、お前にしか頼めない」
彼はそう言うと、懐から、一枚の仮面を取り出した。
銀細工の、美しい、蝶の仮面。
「これを。……そして、約束しろ。必ず、***俺の元へ、生きて戻ってくる***と」
彼の、どこか懇願するような、真剣な瞳。
私は、こくりと、力強く頷いた。
「はい。約束しますわ」
三日後。
私たちは、それぞれの戦いに挑む。
カイは、王城の冷たい地下深くへ。
私は、華やかな舞踏会の、光と影が渦巻く中へ。
離れていても、心は一つ。
必ず、再会を果たす。
そう、強く、強く、誓い合った。
私たちは、公爵とその連れという身分を隠し、腕利きの傭兵団を装って、街道を進んだ。
道中、カイは驚くほど、私に優しかった。
野営の準備は率先して行い、冷たい夜風で私が体を冷やさないようにと、自分のマントを、何も言わずに私の肩にかけてくれる。
夜の見張りも、私を休ませるために、ほとんど一人で引き受けてくれていた。
「カイ、少しは休んでください。私も見張りをしますわ」
「いい。お前は、いざという時のために、力を温存しておけ。お前の瞳が、俺たちの生命線なんだからな」
彼はそう言って、焚き火のそばに座る私の隣に、腰を下ろす。
二人きりの、静かな夜。
パチパチと燃える火の粉が、星の輝く夜空に舞い上がる。
「……王都に着いたら、まず、どうするおつもりですの?」
「協力者がいる。まずは、そいつと接触する」
「協力者?」
「ああ。王宮内の情報を、こちらに流してくれている男だ。口は悪いが、腕は確かだ」
カイは、用意周到に、内通者まで確保していたらしい。
本当に、抜け目のない人だ。
「……心配か?」
私の不安を見透かしたように、彼が尋ねる。
「少しだけ。エドワード殿下や……リナに、また会うのかと思うと」
あの二人の顔を思い出すと、今でも胸の奥が、ずきりと痛む。
すると、カイは、私の肩を、そっと力強く抱き寄せた。
突然のことに、心臓が大きく跳ねる。
「……もう、お前を一人にはしない」
耳元で囁かれた、低い声。
彼の体温が、マント越しに、じんわりと伝わってくる。
「お前を傷つけるものは、すべて俺が排除する。だから、案ずるな」
その言葉は、まるで魔法のように、私の心に深く染み渡り、不安を溶かしていった。
彼の逞しい胸に顔をうずめると、不思議なほどの安心感に包まれて、自然と瞼が重くなってくる。
その夜は、彼の腕の中で、穏やかに眠りについた。
数日後、私たちはついに王都に到着した。
追放された時とは違い、活気に満ちた王都の姿は、どこか懐かしく、そして少しだけ、苦い気持ちにさせた。
私たちは、人目を避けるように裏路地を進み、一軒の、騒がしい酒場へと入った。
カイの協力者との、待ち合わせ場所だ。
酒場の奥の、薄暗い席で待っていると、一人の男が、ひらひらと手を振りながら私たちのテーブルにやってきた。
燃えるような赤毛に、そばかすのある、人の良さそうな顔立ちの青年。
けれど、その瞳の奥には、どんな嘘も見抜きそうな、鋭い光が宿っている。
「……『氷狼(ひょうろう)』か?」
男が、合言葉らしきものを呟く。
カイが、静かに頷いた。
「よぉ、お待ちしてやしたぜ、ヴォルフガント公爵。俺が、情報屋のレオだ」
レオと名乗る青年は、にっと人懐っこい笑みを浮かべて、私たちの向かいの席にどかりと座った。
「いやー、噂通りの、氷の彫刻みてぇな美丈夫ですな! で、そちらのべっぴんさんが、噂の鑑定士様かい? こりゃまた、公爵様が夢中になるわけだ!」
「……口を慎め。殺すぞ」
カイ様の、絶対零度の声に、レオは「ひゃー、こわいこわい!」と、大げさに肩をすくめる。
「こりゃ失礼。で、早速本題だが……王宮の様子は、あんたたちが思ってる以上に、最悪だぜ」
レオは、声を潜めて、真剣な表情で語り始めた。
「例の聖女様、リナとか言ったか? あいつの力の暴走が、もう隠しきれないレベルになってる。王城の周りじゃ、原因不明の天候不順や、植物が次々に枯れる怪現象が多発してるらしい」
「……やはりか」
「国王も王太子も、完全にパニックだ。聖女様の機嫌を損ねないように、甘やかし放題。もう、国政なんてメチャクチャもいいとこだ。近いうちに、本当に国が滅ぶかもしれねぇぞ」
レオの話は、想像以上に深刻だった。
「『真実の鏡』と、禁術の術式がある『至聖所』の場所は、突き止めてある。問題は、どうやって王城に潜入するか、だが……」
「それについては、考えがある」
カイは、一枚の古い羊皮紙をテーブルに広げた。
それは、王城の、驚くほど詳細な、地下水路の見取り図だった。
「これは……!?」
「昔、父が持っていたものだ。……これを使えば、警備の手薄な地下水路から、王城の深部へ潜入できる」
彼は、そこまで準備していたのだ。
私のために。そして、自らの過去に、決着をつけるために。
「……決行は、三日後の夜。王宮で、年に一度の***建国記念舞踏会***が開かれる。王城の警備が、最も外部に集中し、内部が手薄になる夜だ」
カイ様の言葉に、私とレオは、緊張した面持ちで頷いた。
「アリア」
「はい」
「舞踏会には、お前にも潜入してもらう」
「え……?」
「お前の力で、リナの動向を探り、俺が『至聖所』にたどり着くまで、連中の注意を引きつけてほしい。危険な役目だが、お前にしか頼めない」
彼はそう言うと、懐から、一枚の仮面を取り出した。
銀細工の、美しい、蝶の仮面。
「これを。……そして、約束しろ。必ず、***俺の元へ、生きて戻ってくる***と」
彼の、どこか懇願するような、真剣な瞳。
私は、こくりと、力強く頷いた。
「はい。約束しますわ」
三日後。
私たちは、それぞれの戦いに挑む。
カイは、王城の冷たい地下深くへ。
私は、華やかな舞踏会の、光と影が渦巻く中へ。
離れていても、心は一つ。
必ず、再会を果たす。
そう、強く、強く、誓い合った。
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