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第16話:新たな決意と、反撃の狼煙(のろし)
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母君の日記を見つけたあの日から、カイと私の間には、穏やかで、そして、どこか甘やかな空気が流れるようになっていた。
彼は以前よりも、少しだけ表情が柔らかくなったように感じられる。
時折、遠くを見つめて物思いに耽っていることもあるけれど、それはもう、かつてのような暗く、冷たいものではない。
失われた過去を取り戻すように、何かを確かめるような、穏やかな時間だった。
そして、私との関係も、また少し変化した。
「アリア」
「はい、カイ」
「……いや、なんでもない。お前の顔が見たくなっただけだ」
執務室で、彼は時々、そんな風に、不意に私を呼ぶようになった。
そして、私が返事をすると、満足そうに、ほんの少しだけ微笑むのだ。
その度に、私の心は、温かいもので満たされる。
彼の、あの深い孤独を、少しでも、私が埋められているのなら、こんなに嬉しいことはない。
そんなある日、カイは私を執務室に呼び、いつになく真剣な、そして強い光を宿した瞳で言った。
「アリア。俺は、王国へ行く」
「え……?」
突然の言葉に、私は耳を疑った。
「王国へ、ですって? どうして、今、このタイミングで……」
「父が犯した罪を、そして、俺自身の運命を、清算するためだ」
彼の青い瞳は、燃えるような決意の色を宿していた。
「母の日記にあった、禁忌の魔術。その術式本体が、王城の地下深く……『忘れられた至聖所』に封印されているらしい。それを、この手で、完全に破壊する」
「そんな、危険すぎますわ……!」
「放置すれば、第二、第三の俺が生まれるかもしれん。それに、あの魔術の存在そのものが、リナのような輩につけこむ隙を与えている。元凶を、根こそぎ断たなければならん」
彼の言う通りだった。
リナが森で使った『魔力汚染陣』も、おそらく、その禁忌の魔術を応用したものだろう。
根源を断たなければ、悲劇はまた、いつか繰り返される。
「そして、目的はもう一つある」
カイは、私を真っ直ぐに見つめた。
「お前の、潔白を証明する」
「……私の?」
「そうだ。お前を『偽りの聖女』だと断罪した、すべての者の前で、お前の名誉を完全に回復させる。お前を貶め、その尊厳を傷つけた者たちに、その罪を、骨の髄まで思い知らせてやる」
彼の言葉は、力強く、私の胸を激しく打った。
私のために、怒ってくれている。
自分のこと以上に、私のことを、真剣に考えてくれている。
その想いが、ただ、ただ嬉しかった。
「……でも、どうやって?」
「お前の【魔力鑑定EX】の力と、俺の力を使えば可能だ。王城の大聖堂にあるという***『真実の鏡』***を使えばいい」
『真実の鏡』。
それは、王家に代々伝わる、神聖な古代の魔道具(アーティファクト)。
その者の魔力を映し出し、魂の本質を、万人の目に視える形で可視化するという。
普段は、王位継承の儀式など、国家の最重要儀式にしか使われない、特別なものだ。
「あの鏡を使えば、お前の魔力の清浄さと、リナの魔力の歪さを、誰の目にも明らかに示すことができる。そうなれば、どちらが本物の聖女かなんて、言うまでもないだろう」
「……!」
確かに、それなら、私の無実を証明できるかもしれない。
でも、そのためには、王城に乗り込み、エドワード様や国王の許可なく、『真実の鏡』を、半ば強奪するような形で使わなければならない。
それは、もはやヴォルフガング公爵家による、王国への***宣戦布告***にも等しい行為だ。
「……危険すぎますわ。カイ、あなた一人では……」
「一人じゃない」
カイは、私の手をとり、その力強い両手で、ぎゅっと握りしめた。
「お前と一緒なら、危険ではない」
「え……」
「俺一人では、まだ魔力の完全な制御はできない。いつ、また暴走するとも限らん。だが、お前が隣にいてくれるなら、俺は、誰よりも強くなれる。俺は、最強だ」
その言葉に、もう、迷いはなかった。
彼の、私への絶対的な信頼。
私を、ただ守られるべきか弱い存在ではなく、共に戦うパートナーとして、必要としてくれている。
(……この人の、隣で)
もう、守られているだけじゃない。
私も、彼の剣になる。彼の盾になる。
二人で、この過酷な運命に、立ち向かうんだ。
「……分かりましたわ」
私は、彼の瞳を見つめ返し、はっきりと、力強く告げた。
「私も、行きます。カイと、一緒に。あなたの凍てついた過去を終わらせるために。そして、私自身の未来を、この手で掴み取るために」
私の覚悟を受け止めて、カイは深く、深く頷いた。
その顔には、初めて見るような、闘志に満ちた、不敵な笑みが浮かんでいた。
「ああ。……頼りにしている、アリア」
その瞬間、私たちの間にある、最後の壁が、完全に取り払われた気がした。
主と従者でも、公爵と鑑定士でもない。
共に戦い、背中を預け合える、唯一無二の『相棒』として。
私たちは、すぐさま準備に取り掛かった。
カイは、信頼できる少数の騎士たちを集め、計画を伝える。
ゼバスさんは、心配で泣きそうな顔をしながらも、私たちのために、旅の準備を完璧に整えてくれた。
数日後。
夜の闇に紛れて、私たちは、ヴォるふがんぐの城を後にした。
目指すは、王都。
すべての始まりの場所であり、そして、すべての決着をつける場所。
これは、逃避行ではない。
奪われたものを取り戻すための、私たちの、***反撃の旅***だ。
胸に秘めた決意は、熱く、熱く燃えている。
隣には、誰よりも信頼できる、愛しい人がいる。
もう、何も怖くはなかった。
彼は以前よりも、少しだけ表情が柔らかくなったように感じられる。
時折、遠くを見つめて物思いに耽っていることもあるけれど、それはもう、かつてのような暗く、冷たいものではない。
失われた過去を取り戻すように、何かを確かめるような、穏やかな時間だった。
そして、私との関係も、また少し変化した。
「アリア」
「はい、カイ」
「……いや、なんでもない。お前の顔が見たくなっただけだ」
執務室で、彼は時々、そんな風に、不意に私を呼ぶようになった。
そして、私が返事をすると、満足そうに、ほんの少しだけ微笑むのだ。
その度に、私の心は、温かいもので満たされる。
彼の、あの深い孤独を、少しでも、私が埋められているのなら、こんなに嬉しいことはない。
そんなある日、カイは私を執務室に呼び、いつになく真剣な、そして強い光を宿した瞳で言った。
「アリア。俺は、王国へ行く」
「え……?」
突然の言葉に、私は耳を疑った。
「王国へ、ですって? どうして、今、このタイミングで……」
「父が犯した罪を、そして、俺自身の運命を、清算するためだ」
彼の青い瞳は、燃えるような決意の色を宿していた。
「母の日記にあった、禁忌の魔術。その術式本体が、王城の地下深く……『忘れられた至聖所』に封印されているらしい。それを、この手で、完全に破壊する」
「そんな、危険すぎますわ……!」
「放置すれば、第二、第三の俺が生まれるかもしれん。それに、あの魔術の存在そのものが、リナのような輩につけこむ隙を与えている。元凶を、根こそぎ断たなければならん」
彼の言う通りだった。
リナが森で使った『魔力汚染陣』も、おそらく、その禁忌の魔術を応用したものだろう。
根源を断たなければ、悲劇はまた、いつか繰り返される。
「そして、目的はもう一つある」
カイは、私を真っ直ぐに見つめた。
「お前の、潔白を証明する」
「……私の?」
「そうだ。お前を『偽りの聖女』だと断罪した、すべての者の前で、お前の名誉を完全に回復させる。お前を貶め、その尊厳を傷つけた者たちに、その罪を、骨の髄まで思い知らせてやる」
彼の言葉は、力強く、私の胸を激しく打った。
私のために、怒ってくれている。
自分のこと以上に、私のことを、真剣に考えてくれている。
その想いが、ただ、ただ嬉しかった。
「……でも、どうやって?」
「お前の【魔力鑑定EX】の力と、俺の力を使えば可能だ。王城の大聖堂にあるという***『真実の鏡』***を使えばいい」
『真実の鏡』。
それは、王家に代々伝わる、神聖な古代の魔道具(アーティファクト)。
その者の魔力を映し出し、魂の本質を、万人の目に視える形で可視化するという。
普段は、王位継承の儀式など、国家の最重要儀式にしか使われない、特別なものだ。
「あの鏡を使えば、お前の魔力の清浄さと、リナの魔力の歪さを、誰の目にも明らかに示すことができる。そうなれば、どちらが本物の聖女かなんて、言うまでもないだろう」
「……!」
確かに、それなら、私の無実を証明できるかもしれない。
でも、そのためには、王城に乗り込み、エドワード様や国王の許可なく、『真実の鏡』を、半ば強奪するような形で使わなければならない。
それは、もはやヴォルフガング公爵家による、王国への***宣戦布告***にも等しい行為だ。
「……危険すぎますわ。カイ、あなた一人では……」
「一人じゃない」
カイは、私の手をとり、その力強い両手で、ぎゅっと握りしめた。
「お前と一緒なら、危険ではない」
「え……」
「俺一人では、まだ魔力の完全な制御はできない。いつ、また暴走するとも限らん。だが、お前が隣にいてくれるなら、俺は、誰よりも強くなれる。俺は、最強だ」
その言葉に、もう、迷いはなかった。
彼の、私への絶対的な信頼。
私を、ただ守られるべきか弱い存在ではなく、共に戦うパートナーとして、必要としてくれている。
(……この人の、隣で)
もう、守られているだけじゃない。
私も、彼の剣になる。彼の盾になる。
二人で、この過酷な運命に、立ち向かうんだ。
「……分かりましたわ」
私は、彼の瞳を見つめ返し、はっきりと、力強く告げた。
「私も、行きます。カイと、一緒に。あなたの凍てついた過去を終わらせるために。そして、私自身の未来を、この手で掴み取るために」
私の覚悟を受け止めて、カイは深く、深く頷いた。
その顔には、初めて見るような、闘志に満ちた、不敵な笑みが浮かんでいた。
「ああ。……頼りにしている、アリア」
その瞬間、私たちの間にある、最後の壁が、完全に取り払われた気がした。
主と従者でも、公爵と鑑定士でもない。
共に戦い、背中を預け合える、唯一無二の『相棒』として。
私たちは、すぐさま準備に取り掛かった。
カイは、信頼できる少数の騎士たちを集め、計画を伝える。
ゼバスさんは、心配で泣きそうな顔をしながらも、私たちのために、旅の準備を完璧に整えてくれた。
数日後。
夜の闇に紛れて、私たちは、ヴォるふがんぐの城を後にした。
目指すは、王都。
すべての始まりの場所であり、そして、すべての決着をつける場所。
これは、逃避行ではない。
奪われたものを取り戻すための、私たちの、***反撃の旅***だ。
胸に秘めた決意は、熱く、熱く燃えている。
隣には、誰よりも信頼できる、愛しい人がいる。
もう、何も怖くはなかった。
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