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第四話「夜泣きの歌」
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執務室の重厚な扉の前に立つと、見張り番の騎士が困惑した顔で私を見下ろした。 手には、湯気を立てるバスケット。 中身は、厨房から強奪――いえ、急遽用意させたホットサンドと、温かいポタージュスープだ。
「奥様、アルフォンス様は『誰も通すな』と……」
「あら、私は『誰か』ではありませんわ。この屋敷の『母親』です」
騎士が口ごもる隙を見計らって、私は迷わず扉を開け放った。
「失礼いたします」
部屋の中は、インクと古紙の匂いが充満していた。 広すぎる執務机の向こうに、書類の山に埋もれるようにして座っている少年の姿があった。 長男のアルフォンス様だ。 まだ十歳の体には大きすぎる椅子。ペンを走らせる手は休むことを知らず、顔色はランプの灯りの下でも分かるほど青白い。
「……何ですか。ノックもなしに」
顔も上げずに、彼は冷たく言い放った。 その声には苛立ちと、それ以上の疲労が滲んでいる。
「夕食のお時間ですわ、アルフォンス様。食堂にいらっしゃらないので、お持ちしました」
私はバスケットをサイドテーブルに置いた。 アルフォンス様は、そこで初めてペンを止め、私を睨みつけた。 その瞳は、父であるレオンハルト様と同じアイスブルー。けれど、そこにあるのは冷徹さではなく、悲壮なほどの焦燥感だった。
「いらないと言ったはずです。僕は忙しい。父上が境界の視察で忙しい今、僕が領地の決裁を止めれば、どれだけの民が困るか……あなたには分からないでしょう」
「ええ、分かりませんね」
私はあっさりと肯定した。 アルフォンス様が「なんだと」と言いたげに眉をひそめる。
「私は領地経営の細部は分かりません。ですが、これだけは分かります。――上に立つ者が倒れれば、民はもっと困るということです」
私は彼の目の前に、ホットサンドの皿を置いた。 パンの焼ける香ばしい匂いと、とろりと溶けたチーズの香りが漂う。 彼の喉が、ごくりと鳴ったのを私は見逃さなかった。
「お腹が空いていては、判断力が鈍ります。数字の一つも見間違えるようになりますわ。それは、当主代行として無責任ではありませんか?」
「……っ」
痛いところを突かれた、という顔。 彼は完璧主義だ。だからこそ「無責任」という言葉には弱い。
「全部食べろとは言いません。ですが、このサンドイッチ一つだけは召し上がってください。そうすれば、私はすぐに退室します」
これは取引だ。 彼のようなタイプは、情に訴えるよりも、条件を提示したほうが動かしやすい。
アルフォンス様は、忌々しげに私とサンドイッチを交互に睨み、やがて乱暴に一つを掴み取った。
「……食べればいいんでしょう、食べれば」
彼は大口を開けてサンドイッチに噛みついた。 行儀は悪いが、その勢いは彼がいかに空腹であったかを物語っていた。 もぐもぐと咀嚼し、飲み込む。 その瞬間、彼の強張っていた肩の力が、ふっと抜けたように見えた。
温かい食事には、理屈を超えて人を緩ませる力がある。
約束通り、彼が一つ食べ終えるのを見届けて、私は踵を返した。 本当は「もう寝なさい」と言いたい。 けれど、今の彼にそれを言えば、意固地になって心を閉ざすだろう。 彼の「頑張り」を否定せず、しかし体だけは守る。 今はその距離感が精一杯だ。
「……おいしかったなら、次は食堂にいらしてくださいね。みんなで食べたほうが、もっと美味しいですから」
最後にそれだけ言い残し、私は部屋を出た。 背後で、再びペンが走り出す音が聞こえたが、そのリズムは先ほどより少しだけ落ち着いているように感じられた。
◇
屋敷に深夜の静寂が訪れる。 北方の夜は、音さえも凍りつくように静かだ。
私は寝支度を整え、ベッドに入ろうとしていた。 ふと、耳を澄ます。
昨夜のような、魔力の暴走による風切り音は聞こえない。 けれど――。
「……うぅ……っ……」
微かな、本当に微かな泣き声が、廊下の向こうから響いてきた。 ノア様だ。
私はガウンを羽織り、ランプを手に部屋を出た。 廊下は冷え切っている。 北棟の子ども部屋へと急ぐ。
ノア様の部屋の前には、夜勤の侍女が困り果てた顔で立っていた。
「奥様……あの、ノア様がまた……」
「いいわ。私が診ます。あなたは下がって休んでいて」
「ですが……」
「大丈夫。昨日のような暴走の気配はありません」
侍女を下がらせ、私は静かに扉を開けた。 部屋の中は暗く、寒かった。 ベッドの上で、小さな塊が震えている。 布団を頭から被り、声を押し殺して泣いているのだ。
昨日のような派手な氷の魔法はない。 ただ、純粋な、幼子の孤独な夜泣き。
「……ノア様」
私が声をかけると、布団の塊がビクリと跳ねた。 私はベッドサイドにランプを置き、光量を絞った。 オレンジ色のほのかな灯りが、闇を優しく押し広げる。
「怖い夢をご覧になったの?」
布団の上から、そっと背中を撫でる。 返事はない。ただ、嗚咽だけが漏れ聞こえてくる。 母親がいない夜。 父も忙しく、兄や姉もそれぞれの不安を抱えている。 三歳の子供にとって、この広い屋敷の夜は、どれほどの孤独だろう。
私はベッドの端に腰掛けた。 そして、ポケットから小さな包みを取り出した。 昼間、温室で見つけておいた乾燥ハーブを入れたサシェ(匂い袋)だ。
「いい匂いですよ。ラベンダーと、少しだけカモミール」
枕元に置く。 ふわり、と清涼で甘い香りが漂った。 布団の隙間から、ノア様が鼻をひくつかせたのが分かった。
「怖くないわ。私がここにいます」
私は一定のリズムで、彼の背中をトントンと叩き始めた。 心臓の鼓動に近い、ゆっくりとしたリズム。 人は、このリズムを感じると、胎内にいた頃の記憶が呼び覚まされ、安心すると言われている。
そして、私は歌った。 実家のローゼンフェルト領に伝わる、古い子守歌だ。
「――眠れ、眠れ、森の奥。 星の雫が、降る夜に。 痛いものも、怖いものも、 朝の光が、溶かしてく――」
決して上手な歌ではないかもしれない。 けれど、この歌には、微弱だが『鎮(しずめ)』の魔力を込めてある。 昂った神経を鎮め、恐怖を和らげる、治癒魔法の一種。
私の魔力は、攻撃には向かないけれど、こういう時には役に立つ。 声を紡ぐたびに、部屋の空気が柔らかく、温かいものへと変わっていく。
トントン、トントン。 背中を叩く手と、歌声。 繰り返すうちに、布団の中の震えが少しずつ収まっていった。
やがて、布団からそろりと小さな顔が出てきた。 涙で濡れたまつ毛。赤くなった鼻。 ノア様は、潤んだ瞳でじっと私を見つめている。 私は歌うのを止めず、ただ微笑みかけた。
敵意も、警戒も、今は感じられない。 あるのは、温もりを求める本能だけ。
ノア様の手が、布団から這い出てきた。 小さく、頼りない手。 その手が、私のガウンの袖を掴み――そして、私の小指を、ぎゅっと握りしめた。
温かい。 その熱が、指先から胸の奥へと伝わってくる。
言葉はない。 「ママ」とも、まだ呼んではくれない。 けれど、この小さな手が私を求めてくれた。 それだけで、胸が締め付けられるほど愛おしかった。
「おやすみなさい、ノア様。いい夢を」
私は指を握らせたまま、もう一度歌い始めた。 今度はもっと小さな声で、ハミングのように。
ノア様の呼吸が深くなり、やがて安らかな寝息へと変わるまで、私はそうしていた。 窓の外では雪が降り始めたようだが、この部屋の中だけは、春のように穏やかだった。
翌朝。 私はいつものように少し早起きをして、ノア様の様子を見に行った。 彼はまだぐっすりと眠っていた。 その顔は、昨日までのような強張ったものではなく、あどけない子供の寝顔だった。 枕元には、私が置いたハーブのサシェが大切そうに握りしめられている。
(まずは一歩、ね)
私は心の中でガッツポーズをした。 まだ言葉は交わしていないけれど、少なくとも「安心できる存在」としては認識してもらえたはずだ。
意気揚々と食堂へ向かう。 今日の朝食は、昨日宣言した通り、私がメニューを一新させたものだ。 温かいオムレツに、野菜たっぷりのポトフ。焼きたてのパン。 ミレイユ様も、今日は文句を言わずに食べてくれるだろうか。
そんなことを考えながら食堂の扉を開けた私は、異様な光景に足を止めた。
「……アルフォンス?」
食卓には、レオンハルト様とミレイユ様、そしてノア様(まだ来ていないが)の席が用意されている。 しかし、アルフォンス様の姿がない。
昨夜、あれだけ仕事に打ち込んでいた彼だ。また寝坊か、あるいは朝から執務室に籠もっているのか。
「ギルベルト、アルフォンス様は?」
私が尋ねると、執事のギルベルトが沈痛な面持ちで首を振った。
「それが……お部屋にいらっしゃらないのです。執務室にも」
「え?」
嫌な予感が背筋を走った。 その時、廊下の向こうからバタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。 血相を変えた侍女が、礼儀も忘れて飛び込んでくる。
「だ、旦那様! 奥様! 大変です!」
「どうした、騒々しい」
レオンハルト様が不機嫌そうにナイフを置く。 侍女は息を切らしながら、蒼白な顔で告げた。
「アルフォンス様が……玄関ホールで、倒れられました!」
ガタンッ! レオンハルト様の椅子が倒れる音が響いた。
私の予感は、最悪の形で的中してしまった。 あの小さな体で、限界まで張り詰めていた糸が、ついに切れてしまったのだ。
「奥様、アルフォンス様は『誰も通すな』と……」
「あら、私は『誰か』ではありませんわ。この屋敷の『母親』です」
騎士が口ごもる隙を見計らって、私は迷わず扉を開け放った。
「失礼いたします」
部屋の中は、インクと古紙の匂いが充満していた。 広すぎる執務机の向こうに、書類の山に埋もれるようにして座っている少年の姿があった。 長男のアルフォンス様だ。 まだ十歳の体には大きすぎる椅子。ペンを走らせる手は休むことを知らず、顔色はランプの灯りの下でも分かるほど青白い。
「……何ですか。ノックもなしに」
顔も上げずに、彼は冷たく言い放った。 その声には苛立ちと、それ以上の疲労が滲んでいる。
「夕食のお時間ですわ、アルフォンス様。食堂にいらっしゃらないので、お持ちしました」
私はバスケットをサイドテーブルに置いた。 アルフォンス様は、そこで初めてペンを止め、私を睨みつけた。 その瞳は、父であるレオンハルト様と同じアイスブルー。けれど、そこにあるのは冷徹さではなく、悲壮なほどの焦燥感だった。
「いらないと言ったはずです。僕は忙しい。父上が境界の視察で忙しい今、僕が領地の決裁を止めれば、どれだけの民が困るか……あなたには分からないでしょう」
「ええ、分かりませんね」
私はあっさりと肯定した。 アルフォンス様が「なんだと」と言いたげに眉をひそめる。
「私は領地経営の細部は分かりません。ですが、これだけは分かります。――上に立つ者が倒れれば、民はもっと困るということです」
私は彼の目の前に、ホットサンドの皿を置いた。 パンの焼ける香ばしい匂いと、とろりと溶けたチーズの香りが漂う。 彼の喉が、ごくりと鳴ったのを私は見逃さなかった。
「お腹が空いていては、判断力が鈍ります。数字の一つも見間違えるようになりますわ。それは、当主代行として無責任ではありませんか?」
「……っ」
痛いところを突かれた、という顔。 彼は完璧主義だ。だからこそ「無責任」という言葉には弱い。
「全部食べろとは言いません。ですが、このサンドイッチ一つだけは召し上がってください。そうすれば、私はすぐに退室します」
これは取引だ。 彼のようなタイプは、情に訴えるよりも、条件を提示したほうが動かしやすい。
アルフォンス様は、忌々しげに私とサンドイッチを交互に睨み、やがて乱暴に一つを掴み取った。
「……食べればいいんでしょう、食べれば」
彼は大口を開けてサンドイッチに噛みついた。 行儀は悪いが、その勢いは彼がいかに空腹であったかを物語っていた。 もぐもぐと咀嚼し、飲み込む。 その瞬間、彼の強張っていた肩の力が、ふっと抜けたように見えた。
温かい食事には、理屈を超えて人を緩ませる力がある。
約束通り、彼が一つ食べ終えるのを見届けて、私は踵を返した。 本当は「もう寝なさい」と言いたい。 けれど、今の彼にそれを言えば、意固地になって心を閉ざすだろう。 彼の「頑張り」を否定せず、しかし体だけは守る。 今はその距離感が精一杯だ。
「……おいしかったなら、次は食堂にいらしてくださいね。みんなで食べたほうが、もっと美味しいですから」
最後にそれだけ言い残し、私は部屋を出た。 背後で、再びペンが走り出す音が聞こえたが、そのリズムは先ほどより少しだけ落ち着いているように感じられた。
◇
屋敷に深夜の静寂が訪れる。 北方の夜は、音さえも凍りつくように静かだ。
私は寝支度を整え、ベッドに入ろうとしていた。 ふと、耳を澄ます。
昨夜のような、魔力の暴走による風切り音は聞こえない。 けれど――。
「……うぅ……っ……」
微かな、本当に微かな泣き声が、廊下の向こうから響いてきた。 ノア様だ。
私はガウンを羽織り、ランプを手に部屋を出た。 廊下は冷え切っている。 北棟の子ども部屋へと急ぐ。
ノア様の部屋の前には、夜勤の侍女が困り果てた顔で立っていた。
「奥様……あの、ノア様がまた……」
「いいわ。私が診ます。あなたは下がって休んでいて」
「ですが……」
「大丈夫。昨日のような暴走の気配はありません」
侍女を下がらせ、私は静かに扉を開けた。 部屋の中は暗く、寒かった。 ベッドの上で、小さな塊が震えている。 布団を頭から被り、声を押し殺して泣いているのだ。
昨日のような派手な氷の魔法はない。 ただ、純粋な、幼子の孤独な夜泣き。
「……ノア様」
私が声をかけると、布団の塊がビクリと跳ねた。 私はベッドサイドにランプを置き、光量を絞った。 オレンジ色のほのかな灯りが、闇を優しく押し広げる。
「怖い夢をご覧になったの?」
布団の上から、そっと背中を撫でる。 返事はない。ただ、嗚咽だけが漏れ聞こえてくる。 母親がいない夜。 父も忙しく、兄や姉もそれぞれの不安を抱えている。 三歳の子供にとって、この広い屋敷の夜は、どれほどの孤独だろう。
私はベッドの端に腰掛けた。 そして、ポケットから小さな包みを取り出した。 昼間、温室で見つけておいた乾燥ハーブを入れたサシェ(匂い袋)だ。
「いい匂いですよ。ラベンダーと、少しだけカモミール」
枕元に置く。 ふわり、と清涼で甘い香りが漂った。 布団の隙間から、ノア様が鼻をひくつかせたのが分かった。
「怖くないわ。私がここにいます」
私は一定のリズムで、彼の背中をトントンと叩き始めた。 心臓の鼓動に近い、ゆっくりとしたリズム。 人は、このリズムを感じると、胎内にいた頃の記憶が呼び覚まされ、安心すると言われている。
そして、私は歌った。 実家のローゼンフェルト領に伝わる、古い子守歌だ。
「――眠れ、眠れ、森の奥。 星の雫が、降る夜に。 痛いものも、怖いものも、 朝の光が、溶かしてく――」
決して上手な歌ではないかもしれない。 けれど、この歌には、微弱だが『鎮(しずめ)』の魔力を込めてある。 昂った神経を鎮め、恐怖を和らげる、治癒魔法の一種。
私の魔力は、攻撃には向かないけれど、こういう時には役に立つ。 声を紡ぐたびに、部屋の空気が柔らかく、温かいものへと変わっていく。
トントン、トントン。 背中を叩く手と、歌声。 繰り返すうちに、布団の中の震えが少しずつ収まっていった。
やがて、布団からそろりと小さな顔が出てきた。 涙で濡れたまつ毛。赤くなった鼻。 ノア様は、潤んだ瞳でじっと私を見つめている。 私は歌うのを止めず、ただ微笑みかけた。
敵意も、警戒も、今は感じられない。 あるのは、温もりを求める本能だけ。
ノア様の手が、布団から這い出てきた。 小さく、頼りない手。 その手が、私のガウンの袖を掴み――そして、私の小指を、ぎゅっと握りしめた。
温かい。 その熱が、指先から胸の奥へと伝わってくる。
言葉はない。 「ママ」とも、まだ呼んではくれない。 けれど、この小さな手が私を求めてくれた。 それだけで、胸が締め付けられるほど愛おしかった。
「おやすみなさい、ノア様。いい夢を」
私は指を握らせたまま、もう一度歌い始めた。 今度はもっと小さな声で、ハミングのように。
ノア様の呼吸が深くなり、やがて安らかな寝息へと変わるまで、私はそうしていた。 窓の外では雪が降り始めたようだが、この部屋の中だけは、春のように穏やかだった。
翌朝。 私はいつものように少し早起きをして、ノア様の様子を見に行った。 彼はまだぐっすりと眠っていた。 その顔は、昨日までのような強張ったものではなく、あどけない子供の寝顔だった。 枕元には、私が置いたハーブのサシェが大切そうに握りしめられている。
(まずは一歩、ね)
私は心の中でガッツポーズをした。 まだ言葉は交わしていないけれど、少なくとも「安心できる存在」としては認識してもらえたはずだ。
意気揚々と食堂へ向かう。 今日の朝食は、昨日宣言した通り、私がメニューを一新させたものだ。 温かいオムレツに、野菜たっぷりのポトフ。焼きたてのパン。 ミレイユ様も、今日は文句を言わずに食べてくれるだろうか。
そんなことを考えながら食堂の扉を開けた私は、異様な光景に足を止めた。
「……アルフォンス?」
食卓には、レオンハルト様とミレイユ様、そしてノア様(まだ来ていないが)の席が用意されている。 しかし、アルフォンス様の姿がない。
昨夜、あれだけ仕事に打ち込んでいた彼だ。また寝坊か、あるいは朝から執務室に籠もっているのか。
「ギルベルト、アルフォンス様は?」
私が尋ねると、執事のギルベルトが沈痛な面持ちで首を振った。
「それが……お部屋にいらっしゃらないのです。執務室にも」
「え?」
嫌な予感が背筋を走った。 その時、廊下の向こうからバタバタと慌ただしい足音が近づいてきた。 血相を変えた侍女が、礼儀も忘れて飛び込んでくる。
「だ、旦那様! 奥様! 大変です!」
「どうした、騒々しい」
レオンハルト様が不機嫌そうにナイフを置く。 侍女は息を切らしながら、蒼白な顔で告げた。
「アルフォンス様が……玄関ホールで、倒れられました!」
ガタンッ! レオンハルト様の椅子が倒れる音が響いた。
私の予感は、最悪の形で的中してしまった。 あの小さな体で、限界まで張り詰めていた糸が、ついに切れてしまったのだ。
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