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第三話「怒らない罰と、選べるおやつ」
「……どうして、私のことを叱らないの?」
午後の柔らかな日差しが差し込む客室。 まだ荷解きも終わっていない私の部屋を訪れたミレイユ様は、開口一番、そう言った。
七歳の少女の言葉としては、あまりに悲痛で、そして不可解な響きを持っていた。 彼女はドアノブを握ったまま、部屋の中に入ろうともせず、警戒心を剥き出しにして私を睨みつけている。
「叱る、とは? 今朝のスープのことですか?」
私は手元の刺繍の手を止め、穏やかに問い返した。 ミレイユ様は、私のその落ち着いた態度が気に入らないのか、苛立たしげに小さな足で床を鳴らした。
「そうよ! 私がわざとお皿を落としたことくらい、分かってるくせに! 使用人たちだって皆気づいてたわ。なのに、どうしてあなたは『怪我はないか』なんて聞いたの? 気持ち悪い!」
「気持ち悪い、ですか」
「そうよ。前の……お父様が連れてこようとした人たちは、みんな怒ったわ。『なんて粗野な娘だ』って。あるいは、お父様の前だけニコニコして、あとで私の腕をつねったりした」
ミレイユ様は一気にまくしたてると、肩で息をした。 その瞳が潤んでいる。 怒りではない。これは、恐怖だ。
彼女にとって「悪いことをしたら罰を受ける」というのは、世界の絶対的なルールなのだ。 そのルールが破られたことで、彼女は不安になっている。 「罰」がないということは、無視されているか、あるいは後でもっと恐ろしい報復が待っているのではないか――そんな疑心暗鬼に囚われているのだ。
(……なんて可哀想な子)
私は内心で深く溜息をついた。 この屋敷に来てから、まだ一日も経っていないのに、この子たちが抱える闇の深さに眩暈がしそうになる。 けれど、同情して抱きしめるだけでは、この聡明で拗ねてしまった少女の心は解けない。
私は刺繍枠をサイドテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がった。 そして、彼女の前まで歩み寄り、視線を合わせるように屈んだ。
「ミレイユ様。私はあなたを叱りません。お皿を落としたのは、私への挨拶代わりでしょう? 『私はこんなに悪い子だけど、それでも母親になれるのか』という」
「……っ」
図星を突かれたのか、ミレイユ様が息を呑む。
「あなたのその挑戦、受け取りました。ですから、あの件はおしまいです。……ですが」
私は言葉を切り、少しだけ声を低くした。
「あなたは一つだけ、間違ったことをしました」
「……なに?」
「食べ物を粗末にしましたね。料理人が朝早く起きて作ってくれたスープを、床にぶちまけた。それは、レディとして――いいえ、人として褒められたことではありません」
ミレイユ様が唇を噛む。 反論しようとして、言葉に詰まる。 彼女も本当は分かっているのだ。自分の八つ当たりが、正しくないことくらい。
「ですから、罰を与えます」
「……え?」
「罰を受けていただきます。そうですね……」
私はわざと思案するふりをして、怯える彼女の顔を覗き込んだ。
「今から『おやつの時間』にします。私の部屋で、私と一緒に。それが罰です」
「は……?」
ミレイユ様がぽかんと口を開けた。 想像していた「罰」――地下室に閉じ込められるとか、夕食抜きだとか――とはあまりにかけ離れていたからだろう。
「ちょうど、料理長のドロテアに頼んで、お菓子を用意させたところなの。でも、私一人では食べきれなくて困っていたのよ。手伝ってくださる?」
私は彼女の返事も待たず、使用人に合図を送った。 すぐにワゴンが運ばれてくる。 そこには、湯気を立てる紅茶と、二種類の焼き菓子が載っていた。
一つは、真っ赤なベリーがたっぷり乗ったタルト。 もう一つは、濃厚なチョコレートが詰まったクッキー。
甘い香りが部屋に充満する。 ミレイユ様の視線が、無意識にお菓子へと吸い寄せられた。七歳の子どもが、この香りに抗えるはずがない。
「さあ、座って」
私はローテーブルを挟んで向かいのソファを勧めた。 ミレイユ様は警戒しつつも、おずおずと腰を下ろす。
「どっちがいい?」
私は二つの皿を示した。
「……え?」
「ベリーのタルトと、チョコレートクッキー。どちらがお好きですか? 好きなほうを選んでいいわ」
ミレイユ様は戸惑ったように私と皿を交互に見た。
「……どっちでもいい」
「いいえ、選んでください」
私は譲らなかった。 彼女は、今まで「選ぶ」ということを許されてこなかったのではないか。 継母候補たちの顔色を窺い、父親の期待に応えるために「良い子」を演じ、自分の意思を押し殺してきた。 だから、些細なことでも自分で決めるのが怖いのだ。
「自分の好きなものを、自分で決めるの。それはとても素敵なことよ。さあ、どっち?」
「……」
ミレイユ様は長いこと沈黙していた。 小さな手が、膝の上でドレスの生地を握りしめている。 やがて、彼女は蚊の鳴くような声で言った。
「……チョコ」
「チョコレートクッキーですね。分かりました」
私はにっこりと微笑み、チョコレートクッキーの皿を彼女の前に置いた。 そして、ベリーのタルトを自分の手元に引き寄せる。
「じゃあ、私はタルトをいただきます。……はい、召し上がれ」
ミレイユ様はおずおずとクッキーに手を伸ばした。 サクッ、という軽快な音。 口に入れた瞬間、彼女の表情がふわりと緩んだ。 濃厚なカカオの香りとバターの風味が、強張っていた心を内側から溶かしていくのが見て取れた。
「美味しい?」
「……ん」
素直ではないけれど、否定はしなかった。 私は満足して、自分のタルトにフォークを入れた。
「ミレイユ様。この屋敷では、あなたは自分の好きなものを選んでいいのよ。洋服も、リボンの色も、おやつの種類も。嫌いなものは嫌いと言っていいし、好きなものは好きと言っていい」
「……わがままって、言わない?」
「言いません。自分の気持ちを伝えるのは、わがままとは違いますから」
ミレイユ様は二枚目のクッキーに手を伸ばしながら、私をじっと見つめた。 その瞳には、まだ警戒の色は残っている。 けれど、最初のような敵意だけの冷たい目ではなかった。 探るような、値踏みするような――でも、ほんの少しだけ期待を含んだ瞳。
やがて、三枚のクッキーを平らげ、紅茶を飲み干すと、ミレイユ様はパタリとフォークを置いた。
「……ごちそうさま」
「お粗末様でした」
彼女はソファから飛び降りると、出口へと向かった。 そして、ドアノブに手をかけたところで、一度だけ振り返った。
「勘違いしないでよね。お菓子につられたわけじゃないから」
典型的な捨て台詞。 私は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
「ええ、分かっています。罰を受けてくださって、ありがとう」
「ふん!」
ミレイユ様は顔を真っ赤にして、バタンと扉を閉めて出て行った。 廊下を走る足音が聞こえる。そのリズムは、来た時よりもずっと軽やかだった。
ふう、と息を吐いて、私は冷めかけた紅茶を一口飲んだ。 とりあえず、第二ラウンドも判定勝ちといったところかしら。
「……奥様」
部屋の隅に控えていた老執事のギルベルトが、静かに歩み寄ってきた。 彼はティーカップに新しい紅茶を注ぎ足しながら、感情の読めない声で言った。
「ミレイユお嬢様にあのような対応をされるとは。……いささか、甘すぎるのではありませんか?」
「甘い?」
「はい。あのような我儘を許容しては、示しがつきません。前任の教育係たちは、もっと厳しく規律を教え込みましたが」
ギルベルトの視線は鋭い。 彼は長年この家に仕え、崩壊しかけている公爵家を必死に支えてきた忠臣だ。 だからこそ、私のやり方が「甘やかし」に見え、秩序を乱すものだと危惧しているのだろう。
私はカップをソーサーに戻し、ギルベルトを見上げた。
「ギルベルト。厳しさだけで、この子たちの心は守れましたか?」
「……それは」
「規律は大切です。でも、今のあの子たちに必要なのは、正しい命令に従うことではなく、『自分はここにいてもいいんだ』という安心感です。自分で選び、それが肯定される経験です」
私はきっぱりと言った。
「私はあの子たちの母親になるために来ました。教師でも、看守でもありません。……甘いと言われても結構。これが私のやり方です」
ギルベルトは一瞬、目を丸くした。 それから深く、本当に深く頭を下げた。
「……出過ぎたことを申しました」
その顔が見えなかったので、彼がどんな表情をしていたのかは分からない。 ただ、注がれた紅茶から立つ湯気だけが、揺らめいていた。
その夜のことだ。 夕食の時間になっても、長男のアルフォンス様が食堂に現れなかった。
「アルフォンス様は、執務室で書類の整理をされています。『まだ終わらないから食事はいらない』と……」
使用人の困り切った報告に、レオンハルト様が眉を寄せる。 十歳の子どもが、食事もとらずに仕事?
「またか。……後で部屋に運ばせる」
レオンハルト様はそれだけ言って、食事を始めようとした。 まるでそれが、日常茶飯事であるかのように。
ガタンッ。 私は席を立った。
「クラリス?」
「十歳の子どもが夕食を抜いて仕事をするなんて、異常です。連れ戻してまいります」
「待て。あいつは次期当主としての責任感が強い。邪魔をすると怒るぞ」
「怒らせておけばいいのです。子どもが子どもの時間を捨ててまで背負う責任なんて、この世にはありません!」
私は制止を振り切り、食堂を飛び出した。 次に攻略すべきは、あの小さな、頑張りすぎる当主様だ。
午後の柔らかな日差しが差し込む客室。 まだ荷解きも終わっていない私の部屋を訪れたミレイユ様は、開口一番、そう言った。
七歳の少女の言葉としては、あまりに悲痛で、そして不可解な響きを持っていた。 彼女はドアノブを握ったまま、部屋の中に入ろうともせず、警戒心を剥き出しにして私を睨みつけている。
「叱る、とは? 今朝のスープのことですか?」
私は手元の刺繍の手を止め、穏やかに問い返した。 ミレイユ様は、私のその落ち着いた態度が気に入らないのか、苛立たしげに小さな足で床を鳴らした。
「そうよ! 私がわざとお皿を落としたことくらい、分かってるくせに! 使用人たちだって皆気づいてたわ。なのに、どうしてあなたは『怪我はないか』なんて聞いたの? 気持ち悪い!」
「気持ち悪い、ですか」
「そうよ。前の……お父様が連れてこようとした人たちは、みんな怒ったわ。『なんて粗野な娘だ』って。あるいは、お父様の前だけニコニコして、あとで私の腕をつねったりした」
ミレイユ様は一気にまくしたてると、肩で息をした。 その瞳が潤んでいる。 怒りではない。これは、恐怖だ。
彼女にとって「悪いことをしたら罰を受ける」というのは、世界の絶対的なルールなのだ。 そのルールが破られたことで、彼女は不安になっている。 「罰」がないということは、無視されているか、あるいは後でもっと恐ろしい報復が待っているのではないか――そんな疑心暗鬼に囚われているのだ。
(……なんて可哀想な子)
私は内心で深く溜息をついた。 この屋敷に来てから、まだ一日も経っていないのに、この子たちが抱える闇の深さに眩暈がしそうになる。 けれど、同情して抱きしめるだけでは、この聡明で拗ねてしまった少女の心は解けない。
私は刺繍枠をサイドテーブルに置き、ゆっくりと立ち上がった。 そして、彼女の前まで歩み寄り、視線を合わせるように屈んだ。
「ミレイユ様。私はあなたを叱りません。お皿を落としたのは、私への挨拶代わりでしょう? 『私はこんなに悪い子だけど、それでも母親になれるのか』という」
「……っ」
図星を突かれたのか、ミレイユ様が息を呑む。
「あなたのその挑戦、受け取りました。ですから、あの件はおしまいです。……ですが」
私は言葉を切り、少しだけ声を低くした。
「あなたは一つだけ、間違ったことをしました」
「……なに?」
「食べ物を粗末にしましたね。料理人が朝早く起きて作ってくれたスープを、床にぶちまけた。それは、レディとして――いいえ、人として褒められたことではありません」
ミレイユ様が唇を噛む。 反論しようとして、言葉に詰まる。 彼女も本当は分かっているのだ。自分の八つ当たりが、正しくないことくらい。
「ですから、罰を与えます」
「……え?」
「罰を受けていただきます。そうですね……」
私はわざと思案するふりをして、怯える彼女の顔を覗き込んだ。
「今から『おやつの時間』にします。私の部屋で、私と一緒に。それが罰です」
「は……?」
ミレイユ様がぽかんと口を開けた。 想像していた「罰」――地下室に閉じ込められるとか、夕食抜きだとか――とはあまりにかけ離れていたからだろう。
「ちょうど、料理長のドロテアに頼んで、お菓子を用意させたところなの。でも、私一人では食べきれなくて困っていたのよ。手伝ってくださる?」
私は彼女の返事も待たず、使用人に合図を送った。 すぐにワゴンが運ばれてくる。 そこには、湯気を立てる紅茶と、二種類の焼き菓子が載っていた。
一つは、真っ赤なベリーがたっぷり乗ったタルト。 もう一つは、濃厚なチョコレートが詰まったクッキー。
甘い香りが部屋に充満する。 ミレイユ様の視線が、無意識にお菓子へと吸い寄せられた。七歳の子どもが、この香りに抗えるはずがない。
「さあ、座って」
私はローテーブルを挟んで向かいのソファを勧めた。 ミレイユ様は警戒しつつも、おずおずと腰を下ろす。
「どっちがいい?」
私は二つの皿を示した。
「……え?」
「ベリーのタルトと、チョコレートクッキー。どちらがお好きですか? 好きなほうを選んでいいわ」
ミレイユ様は戸惑ったように私と皿を交互に見た。
「……どっちでもいい」
「いいえ、選んでください」
私は譲らなかった。 彼女は、今まで「選ぶ」ということを許されてこなかったのではないか。 継母候補たちの顔色を窺い、父親の期待に応えるために「良い子」を演じ、自分の意思を押し殺してきた。 だから、些細なことでも自分で決めるのが怖いのだ。
「自分の好きなものを、自分で決めるの。それはとても素敵なことよ。さあ、どっち?」
「……」
ミレイユ様は長いこと沈黙していた。 小さな手が、膝の上でドレスの生地を握りしめている。 やがて、彼女は蚊の鳴くような声で言った。
「……チョコ」
「チョコレートクッキーですね。分かりました」
私はにっこりと微笑み、チョコレートクッキーの皿を彼女の前に置いた。 そして、ベリーのタルトを自分の手元に引き寄せる。
「じゃあ、私はタルトをいただきます。……はい、召し上がれ」
ミレイユ様はおずおずとクッキーに手を伸ばした。 サクッ、という軽快な音。 口に入れた瞬間、彼女の表情がふわりと緩んだ。 濃厚なカカオの香りとバターの風味が、強張っていた心を内側から溶かしていくのが見て取れた。
「美味しい?」
「……ん」
素直ではないけれど、否定はしなかった。 私は満足して、自分のタルトにフォークを入れた。
「ミレイユ様。この屋敷では、あなたは自分の好きなものを選んでいいのよ。洋服も、リボンの色も、おやつの種類も。嫌いなものは嫌いと言っていいし、好きなものは好きと言っていい」
「……わがままって、言わない?」
「言いません。自分の気持ちを伝えるのは、わがままとは違いますから」
ミレイユ様は二枚目のクッキーに手を伸ばしながら、私をじっと見つめた。 その瞳には、まだ警戒の色は残っている。 けれど、最初のような敵意だけの冷たい目ではなかった。 探るような、値踏みするような――でも、ほんの少しだけ期待を含んだ瞳。
やがて、三枚のクッキーを平らげ、紅茶を飲み干すと、ミレイユ様はパタリとフォークを置いた。
「……ごちそうさま」
「お粗末様でした」
彼女はソファから飛び降りると、出口へと向かった。 そして、ドアノブに手をかけたところで、一度だけ振り返った。
「勘違いしないでよね。お菓子につられたわけじゃないから」
典型的な捨て台詞。 私は思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
「ええ、分かっています。罰を受けてくださって、ありがとう」
「ふん!」
ミレイユ様は顔を真っ赤にして、バタンと扉を閉めて出て行った。 廊下を走る足音が聞こえる。そのリズムは、来た時よりもずっと軽やかだった。
ふう、と息を吐いて、私は冷めかけた紅茶を一口飲んだ。 とりあえず、第二ラウンドも判定勝ちといったところかしら。
「……奥様」
部屋の隅に控えていた老執事のギルベルトが、静かに歩み寄ってきた。 彼はティーカップに新しい紅茶を注ぎ足しながら、感情の読めない声で言った。
「ミレイユお嬢様にあのような対応をされるとは。……いささか、甘すぎるのではありませんか?」
「甘い?」
「はい。あのような我儘を許容しては、示しがつきません。前任の教育係たちは、もっと厳しく規律を教え込みましたが」
ギルベルトの視線は鋭い。 彼は長年この家に仕え、崩壊しかけている公爵家を必死に支えてきた忠臣だ。 だからこそ、私のやり方が「甘やかし」に見え、秩序を乱すものだと危惧しているのだろう。
私はカップをソーサーに戻し、ギルベルトを見上げた。
「ギルベルト。厳しさだけで、この子たちの心は守れましたか?」
「……それは」
「規律は大切です。でも、今のあの子たちに必要なのは、正しい命令に従うことではなく、『自分はここにいてもいいんだ』という安心感です。自分で選び、それが肯定される経験です」
私はきっぱりと言った。
「私はあの子たちの母親になるために来ました。教師でも、看守でもありません。……甘いと言われても結構。これが私のやり方です」
ギルベルトは一瞬、目を丸くした。 それから深く、本当に深く頭を下げた。
「……出過ぎたことを申しました」
その顔が見えなかったので、彼がどんな表情をしていたのかは分からない。 ただ、注がれた紅茶から立つ湯気だけが、揺らめいていた。
その夜のことだ。 夕食の時間になっても、長男のアルフォンス様が食堂に現れなかった。
「アルフォンス様は、執務室で書類の整理をされています。『まだ終わらないから食事はいらない』と……」
使用人の困り切った報告に、レオンハルト様が眉を寄せる。 十歳の子どもが、食事もとらずに仕事?
「またか。……後で部屋に運ばせる」
レオンハルト様はそれだけ言って、食事を始めようとした。 まるでそれが、日常茶飯事であるかのように。
ガタンッ。 私は席を立った。
「クラリス?」
「十歳の子どもが夕食を抜いて仕事をするなんて、異常です。連れ戻してまいります」
「待て。あいつは次期当主としての責任感が強い。邪魔をすると怒るぞ」
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