悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第41話 見たいものしか見ない

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(視点:王太子セオドール)

喉が渇いて、舌が上顎に張り付く。
目の前で起きていることが、頭に入ってこない。
ミレイユがうずくまっている。
彼女の胸元から溢れ出る光は、かつて私を癒やした温かなものではなく、ジジジ……と不快な音を立てて空気を焦がす、禍々(まがまが)しい稲妻のようだ。

「……嘘だ」

私は玉座のような審問席から立ち上がり、手すりを握りしめた。
手のひらに汗が滲(にじ)み、革の手袋がヌルリと滑る。

「あり得ない……。ミレイユは、聖女だ。彼女の祈りが、私の頭痛を治し、国の干ばつを救ったのだぞ……!」

私は叫んだが、その声は誰にも届かない。
広場の民衆は、恐怖に顔を引きつらせて後退りしている。
執事のレージが掲げた「証拠」――白銀晶と聖印の欠片。
あれが真実だというのか?
私が愛し、正義の象徴として掲げてきた少女は、禁忌の鉱石に手を出した詐欺師だったというのか?

「殿下」

低い声に、ビクリと肩が跳ねる。
見下ろすと、リディアが立っていた。
かつて私の婚約者だった女。
冷たくて、可愛げがなくて、いつも私の理想に水を差すような現実ばかり口にした女。

「目を逸らさないでください。これが、あなたが信じたものの正体です」

「黙れ……っ!」

「いいえ、黙りません。あなたはいつもそうやって、自分の見たいものだけを見て、都合の悪い真実には『冷たい』『無慈悲』とレッテルを貼って耳を塞いできた」

リディアの瞳が、私を射抜く。
その目は、昔の冷ややかなものではない。
もっと熱く、それでいて静かな、揺るぎない光を宿している。

「あなたは正義を行いたかったのではない。……自分が気持ちよくなるための『物語』が欲しかっただけです」

「ち、違う! 私は……私は民のために……!」

反論しようとして、言葉が詰まる。
民のため?
本当に?
私はミレイユの涙を見て、可哀想だと思い、彼女を救う英雄になりたかっただけではないのか?
そのために、リディアという「悪役」を必要としたのではないのか?

バチッ!
ミレイユの悲鳴と共に、光が一層激しく弾けた。
焦げ臭い匂いが鼻を突く。
それは甘い花の香りではない。
肉と精神が焼けるような、破滅の匂いだ。

「あ……あぁ……」

私は膝から崩れ落ちた。
認めたくない。
認めてしまえば、私は正義の味方ではなく、冤罪(えんざい)を生み出した愚かな加害者になってしまう。
その恐怖が、私の足をすくませ、思考を白く塗りつぶしていく。
誰か、嘘だと言ってくれ。
この悪夢を終わらせてくれ。
私の心の中で、何かが音を立てて砕け散った。
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