悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人

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第42話 悪女の定義

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(視点:リディア)

広場を支配していた熱狂は消え失せ、今は耳が痛くなるほどの静寂が満ちていた。
風の音だけがヒュウと通り抜ける。
王太子セオドールは腰を抜かし、聖女ミレイユは光の中で喘(あえ)いでいる。
民衆は、どう反応していいかわからず、ただ口を開けて呆然としていた。

誰もが、物語の結末を見失っていた。
「聖女が悪女を倒す」というわかりやすい勧善懲悪を期待していたのに、聖女が偽物で、悪女が無実だったのだから。

(……この空気を、終わらせなきゃ)

私は一歩前に進み出た。
木の床を踏む足音が、静寂の中でコツンと響く。
視線が集まる。
私は大きく息を吸い込み、冷え切った冬の空気を肺いっぱいに満たした。

「聞いてください!」

私の声が、広場の隅々まで届く。

「私は聖女ではありません。奇跡も起こせないし、皆様に甘い夢を見せることもできません」

民衆がざわめく。

「ですが、私は悪女でもありません。領地を爆破などしないし、民を苦しめて私腹を肥やすこともしません」

私は視線を巡らせた。
一人一人の目を見るように。

「私はリディア・アルノー。……ただの、一人の人間です」

その宣言は、自分自身への誓いでもあった。
誰かに貼られたレッテルではなく、自分で自分を定義する。
「無能」でも「悪女」でもない。
ただ、生きるために足掻(あが)き、大切なものを守ろうとする、ただの私。

「悪女という役は、もう降ります。……ですから皆様も、誰かに用意された『正義』に酔うのは、もう終わりにしてください」

私の言葉に、広場の空気が変わった。
熱狂から、冷静へ。
人々が顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らす。
自分たちが冤罪に加担していたことに気づき始めたのだ。

「……ふざけないで」

背後から、怨嗟(えんさ)の声が聞こえた。
振り返ると、光に包まれたミレイユが、憎悪に歪んだ顔で私を睨みつけていた。

「私が……私が主役なのに……! あんたなんかが、物語を終わらせるなんて許さない……!」

彼女の瞳から、理性の光が消えていく。
悪女の定義が変わった瞬間だった。
物語のために他者を踏みにじる者こそが、本当の悪なのだと、彼女自身の姿が証明していた。
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