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第40話 偽聖印の影
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(視点:レージ)
広場の空気が変わった瞬間を、私は見逃さなかった。
リディア様が、感情論という濁流の中に、理屈という杭(くい)を打ち込んだのだ。
見事だ。
私の主人は、私が思うよりもずっと強く、そして美しい。
「さて……仕上げといきましょうか」
私は懐から証拠の品を取り出し、傍らに控えていた近衛騎士団長に目配せをした。
彼とは事前に話がついている。
「王家の正義を守るため」という名目で、中立的な立場での介入を約束させていた。
「異議あり!」
私は静かに、しかしよく通る声で発言し、審問台へと歩み出た。
執事が許可なく裁判に介入するなど前代未聞だが、今の空気なら通る。
「アルノー家執事、レージと申します。……先ほどの『横領』について、決定的な物証を提出したく存じます」
私は手に持っていた革袋を逆さにし、中身をテーブルの上にぶちまけた。
ジャララッ!
硬質な音と共に、無数の白く輝く石が転がる。
「白銀晶……?」
王太子が眉をひそめる。
「はい。これは密輸団のアジトから押収したものです。……そして、これをご覧ください」
私はもう一つ、小さな包みを開いた。
そこにあるのは、ミレイユ様が奇跡を起こす際に使う「聖印」の欠片(かけら)だ。
彼女が前回の儀式で使い捨てたものを、密かに回収していたのだ。
「聖女様の聖印と、この白銀晶。……成分が完全に一致します」
「な……!?」
ミレイユ様の顔色が、土気色に変わる。
「本来、聖印とは神に選ばれた証であり、物質ではありません。ですが、彼女が使っているのは、白銀晶を加工し、魔力を増幅させる『増幅器』に過ぎません」
私は淡々と事実を告げる。
「白銀晶は、強力な魔力を生む代わりに、使い手の精神を蝕(むしば)み、依存性を高めます。……ミレイユ様、最近、手の震えが止まらないのではありませんか?」
図星だったのだろう。
ミレイユ様が反射的に自分の左手を右手で押さえた。
その手は、小刻みに震えている。
焦げ臭い匂いが漂い始めた。
彼女の懐に入っている「偽聖印」が、主の動揺に呼応して暴走し始めているのだ。
「ち、違う……これは、神の力が強すぎて……!」
「いいえ。それは副作用です。あなたは奇跡を起こしているのではなく、寿命と精神を削って、魔力を暴走させているだけだ」
「やめて! 言わないで!」
ミレイユ様が叫ぶ。
その瞬間、彼女の胸元がカッと眩(まぶ)しく発光した。
バチバチッ!
空気が焦げる音。
光が彼女の制御を離れ、不規則に明滅する。
「う、あぁぁ……!」
彼女はその場にうずくまり、胸を押さえて苦悶(くもん)の声を上げた。
民衆が悲鳴を上げて後ずさる。
それは神聖な奇跡の光ではなく、明らかに危険な、破壊の光だった。
「真実は痛いものです」
私は冷ややかに見下ろした。
これで、彼女の魔法は解けた。
人々は見たのだ。
聖女の正体が、薬物に依存した哀れな少女に過ぎないことを。
王太子の「正義」が、偽りの土台の上に立っていたことを。
リディア様が、風に煽られる髪を押さえながら、その光景をじっと見つめている。
その瞳には勝利の喜びはなく、ただ深い悲しみだけがあった。
彼女は知っていたのだろう。
悪を倒した後には、誰も幸せにならない焼け野原が残るだけだということを。
広場の空気が変わった瞬間を、私は見逃さなかった。
リディア様が、感情論という濁流の中に、理屈という杭(くい)を打ち込んだのだ。
見事だ。
私の主人は、私が思うよりもずっと強く、そして美しい。
「さて……仕上げといきましょうか」
私は懐から証拠の品を取り出し、傍らに控えていた近衛騎士団長に目配せをした。
彼とは事前に話がついている。
「王家の正義を守るため」という名目で、中立的な立場での介入を約束させていた。
「異議あり!」
私は静かに、しかしよく通る声で発言し、審問台へと歩み出た。
執事が許可なく裁判に介入するなど前代未聞だが、今の空気なら通る。
「アルノー家執事、レージと申します。……先ほどの『横領』について、決定的な物証を提出したく存じます」
私は手に持っていた革袋を逆さにし、中身をテーブルの上にぶちまけた。
ジャララッ!
硬質な音と共に、無数の白く輝く石が転がる。
「白銀晶……?」
王太子が眉をひそめる。
「はい。これは密輸団のアジトから押収したものです。……そして、これをご覧ください」
私はもう一つ、小さな包みを開いた。
そこにあるのは、ミレイユ様が奇跡を起こす際に使う「聖印」の欠片(かけら)だ。
彼女が前回の儀式で使い捨てたものを、密かに回収していたのだ。
「聖女様の聖印と、この白銀晶。……成分が完全に一致します」
「な……!?」
ミレイユ様の顔色が、土気色に変わる。
「本来、聖印とは神に選ばれた証であり、物質ではありません。ですが、彼女が使っているのは、白銀晶を加工し、魔力を増幅させる『増幅器』に過ぎません」
私は淡々と事実を告げる。
「白銀晶は、強力な魔力を生む代わりに、使い手の精神を蝕(むしば)み、依存性を高めます。……ミレイユ様、最近、手の震えが止まらないのではありませんか?」
図星だったのだろう。
ミレイユ様が反射的に自分の左手を右手で押さえた。
その手は、小刻みに震えている。
焦げ臭い匂いが漂い始めた。
彼女の懐に入っている「偽聖印」が、主の動揺に呼応して暴走し始めているのだ。
「ち、違う……これは、神の力が強すぎて……!」
「いいえ。それは副作用です。あなたは奇跡を起こしているのではなく、寿命と精神を削って、魔力を暴走させているだけだ」
「やめて! 言わないで!」
ミレイユ様が叫ぶ。
その瞬間、彼女の胸元がカッと眩(まぶ)しく発光した。
バチバチッ!
空気が焦げる音。
光が彼女の制御を離れ、不規則に明滅する。
「う、あぁぁ……!」
彼女はその場にうずくまり、胸を押さえて苦悶(くもん)の声を上げた。
民衆が悲鳴を上げて後ずさる。
それは神聖な奇跡の光ではなく、明らかに危険な、破壊の光だった。
「真実は痛いものです」
私は冷ややかに見下ろした。
これで、彼女の魔法は解けた。
人々は見たのだ。
聖女の正体が、薬物に依存した哀れな少女に過ぎないことを。
王太子の「正義」が、偽りの土台の上に立っていたことを。
リディア様が、風に煽られる髪を押さえながら、その光景をじっと見つめている。
その瞳には勝利の喜びはなく、ただ深い悲しみだけがあった。
彼女は知っていたのだろう。
悪を倒した後には、誰も幸せにならない焼け野原が残るだけだということを。
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