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4幕 家守の鏡
14 昼寝
しおりを挟む部屋には窓などないので、当然ながら暗い。灰炎は荷から蝋燭と燭台を取り出して火を灯す。
ほとんど物置みたいな狭さの場所に、竹製の牀頭が二つ置かれている。長椅子くらいの幅の狭いものだった。
「安宿の寝台と変わりませんね」
灰炎は残念そうにつぶやくと、雑巾でほこりを簡単に払い落とす。
天祐は部屋を見回して感想を言う。
「意外と綺麗なものだな」
「たまに桃家の者が使うのではないか?」
碧玉は推測を口にした。そうでなければ、もっとほこりっぽくなっているはずだ。
「黒公子が来ることが決まったので、念のため、先に使用人に掃除をさせておいたのですよ。こんな場所なので、どうしても砂っぽくなるのはご容赦ください」
碧玉達の話し声が聞こえていたのか、後ろから安が言った。
「その口ぶりですと、桃家の方もそうそう来ない場所なんですか?」
天祐が好奇心で問う。安は頷いた。
「ええ。普段は桃家の薬草園で間に合っていますからね。ですが、季節ごとに生える薬草が違いますので、二ヶ月に一度くらいは参りますよ」
安は桃家の次期後継者だから忙しいだろうが、それくらいならば気分転換になって良さそうだと、碧玉は思った。
そこで、隣室から紫曜が顔を出した。
「安殿、どちらの牀頭を使う? 私はどちらでも構わんぞ」
「紫曜兄上のお好きなほうでいいですよ」
安が隣室に入ると、灰炎は戸を閉めた。
「主君、宗主様、今のうちにお召し替えください」
「私は自分で着替えるから、銀嶺の世話をしてくれ」
天祐は灰炎が取り出した着替えを受け取ると、手前の牀頭に置いて、さっさと着替え始める。
「天祐が手前の牀頭でよいのか?」
碧玉は念のために確認した。だいたいにして、身分が高いほうが奥側を使うものだ。
「ええ。出入り口に近いほうは、私が使いますよ。銀嶺は静かなほうが好きでしょう」
「野営の時まで気にせぬが、お前がよいならこちらを使おう」
碧玉は奥の牀頭に荷を置いて、灰炎の手伝いを受けて、衣服を脱いだ。水に濡れて肌に張り付いているので、一人では着替えにくい。乾いた布で簡単に拭いてから、着替えに袖を通す。
碧玉が着替え終えた時には、天祐も身支度を終えていた。
「では、この衣は隣で乾かしておきますね。後で茶をお持ちしますので、ゆっくりしていてください」
灰炎は濡れた衣服を預かると、すぐに部屋を出て行った。灰炎が戸を開けると、白狐の雪瑛が灰炎にじゃれつく。
「灰炎様、わたくし、お腹が空きました」
「おっと、危ないだろう、雪瑛。お前は水気をぬぐったのか?」
「出入口でブルブルしたので大丈夫です。わたくしは狐ですもの!」
「私は水気を拭きたいから、少し待ちなさい」
道中が静かだったので碧玉は忘れていたが、そういえば雪瑛も連れてきているのだった。雪瑛が静かな時は、周りを警戒してびびっていることが多い。天祐が遠くに妖怪の気配があると言っていたので、恐らく怖がって大人しくしていたのだろう。
竹の牀頭に座り、雪瑛を呼んで暖をとろうかと考えていた碧玉に、天祐が声をかける。
「銀嶺、申し訳ありませんが立ってください」
「ん?」
碧玉が促されるままに立つと、天祐は碧玉が座っていた牀頭をひょいと持ち上げ、自分の牀頭の隣にぴったりと寄せた。
「これでよし、と。あとはこれで完璧です」
天祐が何をするつもりなのかと見ていた碧玉は、天祐に手を引かれた。牀頭に腰かけた天祐の膝の上に、碧玉が座る格好になる。
「なんだ?」
「兄上、雪瑛で暖をとろうかなと考えておられたでしょう? 私がいるのですから、あんな狐は呼ばなくて結構です」
後ろからぎゅっと抱きしめて、天祐は碧玉の耳元でささやいた。耳がこそばゆくて、碧玉は身をすくめたものの、天祐の体温は高いほうなので、その温もりに体がほころんだ。雨に濡れたせいで、思ったよりも体が冷えていたようだ。
「また雪瑛を邪険にしているのか?」
碧玉の声に呆れがにじむ。
「あの狐は、しょっちゅう兄上の膝を独占しているではありませんか」
「まったく、馬鹿馬鹿しい」
天祐がすねた調子で言うので、碧玉は鼻で笑う。それからもぞもぞと動いて姿勢を変え、天祐の膝の上に横向きに座り、胸元に頭を預ける格好に落ち着いた。ついでに上半身に抱き着くと、天祐がぴしりと動きを止める。
「えっ、兄上?」
「お前がぬくいからいけないのだぞ。少し寝る」
居心地が良すぎて眠気を覚え、どうせ夕餉までは暇だからと、碧玉は昼寝することにした。
「は、はいっ。今晩も一緒に寝ましょうね」
天祐はさりげなく勝手に約束を取りつけ、天祐も壁に背を預けて目を閉じた。
結局、その夜も、碧玉は狭い牀頭の上で天祐に抱きしめられて眠った。
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