白家の冷酷若様に転生してしまった

夜乃すてら

文字の大きさ
63 / 91
2巻後の番外編(読み切り)

6:境界の内と外

しおりを挟む


 飛燕の案内で、竹林を見て回ったが、特に何も無かった。
 雪瑛に言わせれば、虫の妖怪のにおいはするものの、野生動物のにおいと混じって上手く追跡できないらしい。
 奥まで深入りするのは危険と判断して、碧玉達は雲嵐の家まで戻ってきた。

「お帰りなさいませ。しっかり準備を整えておきましたので!」

 灰炎が出迎え、丁寧にあいさつをした。

「手間をかけさせたようだな。ありがとう」

 天祐は集まった村人達に礼を言い、灰炎に命じてささやかな駄賃を一人ずつに配っておく。こんな山奥の村では、金を得るのは大変だ。皆、感謝をして帰っていった。

「彼らは雲嵐殿のことがあるのに、どうして手伝ってくれたんだ?」

 天祐が飛燕に問いかけると、飛燕はそんな天祐のことが不思議だと言わんばかりに答える。

「この村に、領主様が直々にいらっしゃるなんて、何十年ぶりか分かりませんよ。歓迎するのが当然です」
「俺は初めてだが……」

 天祐は碧玉のほうを確認した。

「ああ、ここは平穏でな。特に問題も起きぬゆえ、先々代ですら、訪問していないはずだ」
「あの災厄の時でもですか?」
「そうだ。恐らく、救援要請がなかったのは、松伯様が守られていたからだろう。祓魔は苦手でも、結界で守るくらいはできるのではないか?」

 碧玉自身も来たことはないと遠回しに答える。

「それでは、今回の件はどういうことでしょうか」
「ふむ……。悪しき者を近づけぬようにすることはできても、いったん入りこまれたら追い出す術がないのではないか? 夫婦になるというのは、村とのつながりを作るということだ。よそ者と家族では、出入りのしやすさに違いが出るものだ」

 それに……と碧玉は雲嵐の家の周囲を見回す。

「ここは恐らく、村の境界の外だ。地形を見るに、あの小川が境界になっているはずだ。松伯様の守護範囲外やもしれぬ」

 たいていは地形を利用して結界を作るものだ。
 雲嵐の家の前には、小川が流れており、そこに木板を渡しただけの橋がある。松伯のいる広場を中心に家が集まり、周囲には田畑が作られていた。一番外側には石を積んだだけの塀が築かれ、木製の簡易な門もある。

「この家は、元々は物置だったのを、家に改築したのです。私がいると縁起が悪いから、ここに住むようにと祖父に言われまして……」

 雲嵐は苦笑した。

「村に住まわせてはいるが追い出したようなもの、か。あの老人はなかなかの食わせ物のようだな。なぜ、そうもお前を軽んじる? 直系の男孫ならば、かわいいものではないのか」

 七璃国では男の家系を継ぐものなので、男が生まれただけで喜ばれる場合が多い。

「祖父は私に期待もしていたのでしょうが、それと同じくらい、松伯から私を離したかったのでしょうね」

 雲嵐は少し困った様子で、そう言った。痛みをこらえるように目を伏せる姿に、碧玉は違和感を抱く。

「お前は、松伯様のことを兄のようなものだと言っていなかったか?」
「神と親しくするのを喜ぶばかりではない、ということですよ」

 雲嵐はあいまいなことを言って、すっと家のほうを示す。

「どうぞお入りください。村人が食料を置いていってくれましたので、私は夕餉の支度をいたしましょう」
「雲嵐殿、私も手伝います」

 家の外にある竈に向かう雲嵐を、灰炎が追いかける。
 碧玉は顎に手を当ててつぶやく。

「まったく、これは馬家の問題がからんでいるのか? 面倒だな」

 飛燕のほうを見ると、彼は後ろ頭をかいた。

「そんな風に俺を見られても、分かりませんよ。ただ、雲嵐が霊力を失った途端、村長が冷たくなったのは事実です。村の年配者も、村長をなだめようとしたんですよ? それでもこの通りです」
「ふん。まあいい。まずは雲嵐の妻をどうにかせねばな。飛燕、お前は帰るがいい。間違っても、夜中にここに来ようとするでないぞ。朝日が出るまで、戸締りをして、決して外に出るな」

 碧玉が重々しく忠告すると、飛燕は青ざめる。

「そんなに危ないのですか?」
「もし悪しき者だったら、正体を見た者を生かすと思うか?」
「ひっ。わ、分かりました。村人達にも注意をしておきます! では、俺はこれで失礼します」

 飛燕はあいさつをすると、慌てた様子で、飛ぶように帰っていった。
 天祐は呆れをこめて、碧玉に問いかける。

「兄上、脅しすぎではありませんか?」
「十数年も姿を見せなかった領主が、妖怪退治をするという。見物したいのが人情ではないか?」
「そんなものですかね?」
「この私が、わざわざ忠告してやったのだ。これで見物に来たら、ただの愚か者といえよう。それで巻き添えをくらって死んだとしても、自業自得ゆえ、我らの責任にはならぬ」
「そこまでして見たいものですか?」

 天祐は首を傾げている。

「お前、田舎の娯楽の無さを知らぬようだな。喧嘩と処刑すら娯楽にするものだぞ。人間に危害が加えられぬ妖怪退治ならば、余計に興味が惹かれるだろうよ」

 碧玉は口端を吊り上げる。

「無事に解決した暁には、民らにお前の式神でも見せてやるがよい。大喜び間違いなしだ」
「はあ……。それで俺を支持してくれるなら、安いものですかね」

 妖邪の類が身近にありすぎて、天祐にとっては些事にすぎないらしく、ぴんときていないようだ。
 幼い頃に市井の者と友好を築くように仕向けたわりに、変なところで世間知らずな天祐を眺め、碧玉はやれやれと肩をすくめた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。