白家の冷酷若様に転生してしまった

夜乃すてら

文字の大きさ
62 / 95
2巻後の番外編(読み切り)

5:お人好しで頑固者



 まずは雲嵐の自宅から調査しようと話し合い、目の前の家に向かう。

「銀嶺、雪瑛と共に、少し待っていて下さい」

 天祐は地面にいる雪瑛をひょいと抱き上げて碧玉に渡すと、灰炎を連れて先に雲嵐の家へ入る。少し時間が過ぎてから、二人は戻ってきた。

「少し陰気が残っていますが、特に問題ありませんね。銀嶺も中へどうぞ」
「相変わらず、過保護だな」

 碧玉はつぶやいた。天祐は当然だという態度で返す。

「罠があってはいけませんから」
「私が避けられないとでも?」
「避けられると分かっていても、できるだけ危険は排除したいのです。ご理解ください」
「それでは、この狐はどうして置いていった?」
「雪瑛がうっかり罠を発動させる可能性が高かったので」

 天祐の言う通り、雪瑛にはそういう間抜けな面もあった。碧玉は納得した。

「ならばしかたがない」
「どうして、今、わたくしは馬鹿にされたんですか?」

 雪瑛は当たり前のように抗議したが、碧玉は無視した。
 しかし、突然、狐がしゃべったせいで、雲嵐と飛燕を驚かせた。しかたがなく、村長に続いて彼らにも説明して理解を得た。妖怪を従えている碧玉へ、尊敬の眼差しが向けられる。
 碧玉としては鬱陶しいが、高評価を受ける分にはまんざらでもない。

「ひどいです。何もしてないのにー」

 ぷんすかと怒る雪瑛を、碧玉は地面へ下ろす。

「雪瑛、すねていないで、中に入ってみよ。変なことがあれば教えなさい」
「はーい」

 雲嵐の家に入った雪瑛は途端に毛を逆立て、すぐに戻ってきた。

「ひぎゃっ! なんですか、この家は。虫くさいです!」
「虫ですか? 小さな虫くらいはいるでしょうが……」

 雲嵐が戸惑いを見せて、家の中を見回す。

「虫の妖怪ですよ! こんなにぷんぷんにおうなら、下級ではありません。ほら、わたくしの毛が逆立っているでしょう?」
「つまり、どういうことだ」
「それはもちろん、主様。わたくしより強いってことです! だからわたくしが縄張りに入ると怖気がするんです」

 雪瑛が堂々と主張して、白い毛が総毛だっている様を見せつける。碧玉は呆れた。

「お前、自分が弱いと宣伝するでない」
「わたくしが野狐でしたら、隠しますけど、今は主様がいますもの!」

 雪瑛は碧玉が守ってくれると信じているらしい。

「おとりに使うとは思わぬのか?」
「ちゃんと回収してくれると信じてますわ。だってこんなにかわいいわたくしが死んだら、灰炎様が悲しみますものね!」
「……」

 碧玉は黙ったまま、雪瑛の後ろ首をむんずとつかんで持ち上げる。

「調子に乗るな。今すぐ毛皮にしてやってもいいのだぞ」
「ひっ。ごめんなさいー! えっ、主様? わたくし、中は嫌です。怖いです。毛が逆立って……嫌ですってば―!」

 碧玉は雪瑛を持ったまま、ずかずかと家の中に入る。

「雪瑛、口がすぎるぞ。私でもかばいきれぬからな」
「そんなあ、灰炎さまぁーっ」

 後ろから灰炎が苦笑とともに釘を刺し、雪瑛は泣きの入った声で叫ぶ。

「宗主様、放っていてよろしいのですか……?」

 雲嵐の問いに、天祐は頷く。

「ああ、問題ない。銀嶺は懐に入れた者には情をかけるからな。恐らく図星を突かれて腹が立ったから、ああやって嫌がらせをしているのだろう」
「はあ、なるほど……」

 碧玉は天祐を振り返って文句を言おうかと思ったが、それではまるで肯定しているようなので、沈黙を貫いた。



 雲嵐の家は質素だ。
 村人ならばこんなものだと思うだろうが、村長の孫息子の家だと思うと寂れている。

「孫でも、もう少しましな家を与えればいいだろうに」

 碧玉は床に落ちている光に気づいて、上を見る。なんと、屋根に穴が開いていた。雲嵐は苦笑する。

「いえ、家と土地を分けてくれただけいいほうですよ。能力無しは村から出されることもあります」
「他の村と婚姻か?」
「それならまだいいほうで、奉公に出ることもあります」

 雲嵐がそう言うのも分かる。婚姻は村や家とのつながりがあるので、そうひどいことにはならない。奉公は主人によるので、当たり外れが大きい。

「屋根は気にしないでください。後で修理をしますので」

 雲嵐は背負い籠を床に置いた。碧玉は家の裏手にある竹林を思い出して、雲嵐に質問する。

「雲嵐、お前は山のほうから下りてきたな。嫁とは、山で頻繁に会っていたのか?」

「私は普段は農作業の合間に竹を採ったり、キノコや薬草を採集しているんですが、桂英と山で会ったのは、嫁入りしたいと言われた時だけですね」

 村長から竹林の管理を任されているのだと、雲嵐は言った。彼の言う通り、籠の中には薬草が入っている。
 今度は天祐が問う。

「その桂英とやらは、薬草を嫌がらないのか?」
「薬草ですか?」

 雲嵐は不思議そうに首を傾げて考え、そういえばと話す。

「妻はにおいが嫌いだと言っていましたね。薬草は外で干してほしいと頼まれました。どうしてですか?」
「虫の妖怪……というより、悪しき者は薬草を嫌うからな。嫁を追い払いたいなら、薬草を家の四方に置くといいだろう」

 雲嵐はなんとも言えない表情を浮かべる。

「申し訳ありませんが、私はいまだに彼女が妖怪だと信じられません。それに……もし私を愛して、人の姿で嫁入りしてくれたのでしたら、私は見ないふりをしたいのです」

 雲嵐はお人好しでありながら、頑固者でもあるようだ。
 天祐が雲嵐を説得しようとする。

「しかし、そのうなじのあざが……」
「何か理由があるかもしれません!」

 雲嵐は頑迷だった。
 碧玉は天祐を手招いて、ひそひそと問う。

「どう思う?」
「どうもこうも、相手は妖怪ですよ。雪瑛みたいな者もまれにいますが……」
「相手は虫ですよ? 夫への情があるわけないじゃないですか」

 碧玉に抱えられたままの雪瑛が口を出した。
 碧玉と天祐は雪瑛を見つめる。雪瑛は途端に慌て始める。

「なっ、なんですか?」
「お前の話す妖怪論が興味深いだけだ」
「雪瑛は、虫の妖怪をそんなふうに思ってるんだな」

 碧玉と天祐がそれぞれ言うと、雪瑛は説明する。

「そりゃあ、動物の妖怪には、生まれた子を食べる者もいますよ? でも、たいていは……事情がない限り、夫は食べませんもの。虫の妖怪は、夫を食べて卵を産む者もいますから」

「まあ確かに、妖怪の生態は、動物や昆虫と同じようなものだな」

 碧玉は納得した。

「家を見たところ、特に術をかけられている様子はない。お前ならばどうする、天祐」
「目印を付けたということは、そろそろ喰う時期が近づいているはずです。今日はこの家に結界を張り、桂英を締め出して様子を見てみましょう。怒って正体をあらわすかもしれません」

「山の調査はどうする?」
「夕方まで、近場を見てましょう。今日は深入りはしません」
「そうだな。下手な真似をして逃げられるほうが厄介か」

 今後の方針が決まった。

「あの……」

 雲嵐がおずおずとした態度でこちらをうかがっている。

「今日、ここに泊まり、妻を締め出して様子を見る。妖怪ならば入ってこれぬが、人間ならば入ってこられる。妖怪だったとして、問題があるかどうかも今日ではっきりするはずだ」

 碧玉はそう言ったが、松伯の言っていた「邪悪な何か」という点があるので、それはないだろうと思った。
 ただ、雲嵐を言いくるめるのに必要だっただけだ。

「は、はい! 分かりました! では、泊まれるように準備しますので、しばらくお出かけになっていてください。村人にも手伝ってもらいますから」

「雑魚寝で構わぬぞ」
「「駄目です!」」

 碧玉は野宿のつもりで言ったが、雲嵐と灰炎の声が重なった。

「ここで休まれるのでしたら、私も掃除します!」

 灰炎はそう主張した。どうやら陣頭指揮をとるつもりのようだ。

「では、銀嶺。ここは灰炎殿に任せて、俺達は山を調査しましょう」

 天祐も特に否定せず、碧玉を促して家の外に出る。

「二人と一匹でよいのか? お前にしては珍しい」
「深入りはしませんし、怪しい女が、日がある間は山に戻るのなら、そこまで強くないはずです。異常があれば撤退しますよ」

 天祐は雪瑛に話しかける。

「何か気づいたら教えるように」
「はいっ、お任せください!」

 雪瑛がやる気を見せているので、碧玉は雪瑛を地面に置いた。
 二人の前を歩き始める。

「お待ち下さい、雲嵐の仕事場ですよね。俺が案内しますので! 慣れない者が入ると迷いやすいんです」

 飛燕が追いかけてきて、道案内に立った。
 碧玉達はさっそく竹林に踏みこんだ。
感想 28

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 表紙は、Pexelsさまより、Tetyana Kovyrinaさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点