底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

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第6章

第26話

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「おい、起きろ!」
「なんでこんなところで寝てるのかしらね」

 そう声が聞こえたことで瞼を開けたら、姐さんの顔が目の前にあって驚いた。

「うわ!ビックリした。寝起きの姐さんのドアップは心臓に悪いね」
「何よその言い方は!失礼しちゃうわね」
「ククク、流石のお前でも寝起きで見るダンクの顔はキツイか」

 膨れっ面の姐さんに俺を見て笑うシオン。
 姐さんには悪かったと謝って、今日グレンの元に向かうのに同行したいことを伝えたら、彼は少し考えたのち分かったと一言そう言って、行くぞと宿を出てしばらくの間、無言のまま歩き出す。

 しばらく歩いたのち転移屋に入る。
 転移屋では転移する場所によって値段が違っており、一番安いところでのギルド本部で一万Pとなっている。指示した場所への転移は何人でも一度で百万Pとなっており、中々に高額な値段設定になっているのに驚いたものの、魔法陣に何人で入ってもそのPなら高いけど妥当かなっと思い直し、俺の持ちPで足りるかどうか分からないが、自分のギルド証を出そうとしたら彼が代わりに出してくれて共に転移した。

 転移した場所の街並みは、ギルド本部周りの街並みと変わらない感じでしばらく沈黙のまま歩くこと数十分。
 彼は気まずそうに口を開いた。

「ミーツ、グレンのこと黙ってて悪かった。
 グレンとの付き合いが短いお前に、あの状態のあいつを見せていいものか悩んだんだ。
 ダンクでさえ、今のグレンを見るのは辛そうだからな」
「それはいいけど、具体的にどんな状態なんだ?身体欠損によるただの寝たきりなら、俺の魔法で治せるけど違うのか?」
「ああ、違う。まあ見てみれば分かることだが、恐らくお前でも無理だろう」

 そう言ったあと、彼は遠くを見るように空を見上げた。それからは再び沈黙のまま街中を走る魔導車と呼ばれるタクシーに乗り、目的地に向かった。

 運賃の費用は、またも彼が無言のまま払ってくれ、目的地となる場所は黄色の×印の絵が描いてある大きな病院のような施設で、入口から刑務所を連想するような鉄の大きな門扉に、明らかに限られた者しか出入りができないような見て分かる結界までもが張られていた。

 シオンは大きな鉄の門を叩き、あらかじめ用意していたカードを魔法鞄から取り出して叩いた門の反応を待つこと数秒。
 鉄の門から声が聞こえてきた。

「本日は何ようで参りましたか?
どなたか家族の入院でしょうか」
「今日は此処にいる者の面会に来にきた。許可証も持参している」
「分かりました。ではこちらに翳(かざ)して下さい」

 声しか聞こえない門扉とシオンとの会話を聞くことしか出来ないが、彼は翳して下さいと言われた言葉をそのまま言葉通りに門に向かって、先程から持っていたカードを翳す。
その瞬間に門扉は開き、一人の老婆が開いた門の前に立っていた。

「本日は入院患者グレンさまの面会でございますね。グレンさまは変わりないようですが、お会いになられますか?」
「ああ。そのために来たんだ。今日は申請してなかったが、コイツも入っていいだろうか」

 彼は正面を向いたまま、横にいる俺に向かって親指で指差した。

「ええ、本日の入館証の制限はありませんでしたから問題ないです。では、係の者がご案内いたします」

 そう老婆が言ったのち、手を二回叩いた。
 そうすると、地面に魔法陣が現れて二人のエプロン姿の女性型と男性型の魔導人形が現れた。 
 皇宮で見たような人間そっくりではない、作りが少々雑な魔導人形のカタコトの言葉で案内される。

 施設内では異様な臭いに頭がぼーっとしそうになったものの、シオンにこれでも噛んどけと一枚の葉っぱを手渡された。
 それを口に含んだら、ミント系のスッキリした爽快感が口いっぱいに広がる。
 俺は石版にあったスキルで全状態異常耐性を習得しているため、一瞬頭が呆けたように感じたものの、葉を口に入れる前から正常であった。

「ここは精神的にイカれちまった奴らが入るところだ。ここの匂いを嗅ぐと、耐性を持ってる奴でも正常じゃいられなくしちまうんだ」

 彼はそう話しながらも、口に何枚も同じ葉を口にしていた。ここは元の世界でいうなれば、精神病院にあたる場所なのだろうと推測する。
 現に腐人みたいな目的なく、フラフラと涎を垂らしながら歩いている人たちが所々に見受けられたからだった。

 院内に入ってから何度か階段の上り下りを繰り返し、魔法陣にも乗って移動したところでようやく案内の終わった魔導人形たちは帰りはこれを使って下さいと、二つのピンポン玉サイズの模様が入った玉と一つの鍵を手渡して去って行った。

 シオンはノックもせずに案内された部屋の扉を開けたら、また扉が現れ、それを開けたら鉄格子が現れる。
 先程貰った鍵を使って鉄格子を開ける、そしたら鍵は消えて無くなり、部屋の中ではベッドでスヤスヤと眠るグレンの姿があった。

「おいグレン、起きろ。ミーツが来てくれたぞ。といっても、分からねえだろうがな」

 眠っている彼の頭を叩いて起こし出すシオンに慌てて止めた。

「眠っているのに起こすなんて悪いよ。
また次の機会にでも来よう」
「あ?いいんだよ。コイツは普段から眠ってるようなもんだからな」

 そう彼は言いながら、押さえた俺の手を退けて、ペシペシとグレンの頭を叩く手を止めない。次第に叩く力が強くなっているのが音で分かるようになった頃、眠っていた彼が目を指で擦りながら、大きな欠伸をして上半身を起こした。見るからに彼の手足は復元されていた。

「あ!シオンおじちゃん、今日はどうしたの?ボク、いい子にしてたよ?お土産ちょうだい」

 グレンはシオンの顔を見るなり、そう言って両手を彼に差し出す。

「シオン、まさかと思うけど、グレンさんは幼児返りなのか?」
「ああ、そうだ。グレンは今まで生きてきた記憶がぶっ飛んで、幼い子供になっちまったんだ。失った身体の部位は既にヤマト国内にいる聖女だか聖者だかが治療したんだろうが、精神的に参っちまった今のコイツにはどうすることもできねえんだよ」

 彼の説明に言葉を失った。
 今の彼に何をどう話せばいいか分からず、グレンに飴玉を渡すシオンの姿を見ることしか出来ないでいる。

「シオンおじちゃん。そっちのおじちゃんはだ~れ?お友達?」
「コイツはミーツというんだ。
少しの間だけだが、お前と会って少しだけだが、お前は世話したこともあるんだぞ」
「えー、ウッソだー。この前のダンクって名前のおじちゃんも、弟って言ってたけど、ボクの弟はもっと小さいもん。あれ?でも、なんかこのおじちゃん見たことあるような気がする」

 姐さんが今の彼と会いたくない理由も分かった。だが、俺は彼に元に戻って欲しいと願うも、果たして彼を元に戻して精神的に大丈夫だろうかという気持ちもある。
 とりあえずのところ、彼に挨拶をしようと頬を膨らませてシオンを睨みながらも、チラチラ俺を見る彼に手を差し出した。

「俺はミーツ。今はミツルギともいうけど、それはまた今度話そうと思う。シオンの言った通り、グレンさんには世話になったんだ。手土産に久々にプリンでもどうかな?」
「え?どっちなの?ミーツ?ミツルギ?どっち?分かんないよ。ボクおじちゃんのこと知らないよ。でも何かくれるなら早くちょーだい」
「プリンっていうんだ。それは貴方が一番といっても良いくらい好きなスイーツだと思うよ」
「プリン?どんなのどんなの?でも、おじちゃん何も持ってないよね。嘘ついたの?」

 そう言う彼の手を掴んで想像魔法で出した平べったい皿を手の上に出しただけで、凄い凄いとはしゃぎ出す。だがこれで終わりじゃないと彼に言って、皿の大きさギリギリのプリンを同じく想像魔法によって出したら、ぽかーんと口を半開きにしたまま動きがない彼の姿があった。

「あれ?プリンは好きなはずだけど、どうしたのかな?」
「うん。なんか不思議だね、プルプルしてお母さんのおっぱいみたい。ねえねえ、これって食べられるの?食べていいのかなあ」
「どうぞ。美味しいし、貴方はプリンの宗教でも作るんじゃないかと思うほど、これが大好きだったんだよ」

 そう彼に微笑んで、同想像魔法で出したスプーンを渡したら、大きく口を開けて一口食べた途端、持っていた皿を落とした。

「ゔゔゔ、頭が痛い。頭が痛いよう」

 そう彼は頭を押さえて苦しみ出した。

「おい、ミーツ、何したんだ!」
「いや、見ての通りプリンを想像魔法で出しただけだけど、これで記憶が呼び覚まされるのかな」
「そんな訳ねえだろうが!けど、今のグレンの反応は初めてだ。おい、なにかもっと何かねえのか。グレンが何か思い出しそうな品について」
「それは逆にシオンの方がありそうだけど、俺はプリンかゼリーくらいしか彼の好きなものであげたことないから、とりあえずまたプリンを出して食べてもらおうよ」

 頭を押さえて苦しむ彼にプリンなんぞ与えていいものかと思ったが、それで記憶が戻るのならと想像魔法でプリンを出したところで、シオンが手掴みで無理矢理グレンの口に押し込んだ。苦しそうに咳き込みながらもプリンを口に含んで飲み込んだところで、彼は白目を剥いて気を失った。

「ふう、これで次に目を覚ました時にでも元に戻ってくれればいいがな」
「これで戻るって、どれだけプリンが好きなんだよって話なんだけどね」

 そう話すシオンとの会話を最後に一時間、二時間と沈黙のまま彼が起きるのを待った。

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