底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂

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第6章

第25話

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 翌朝、目を覚ますなりカレーの匂いが部屋中に充満しており、口周りカレーのルーだらけにしているヤスドルが隣のベッドで幸せそうな表情の寝顔が目に入った。
 俺が想像魔法で浮かせた水で顔を洗う音で、彼は目を覚まし、起きて早々にカレーと呟いた。俺の顔を見て反射的に呟いただけのようで、すぐに目を閉じて眠った。
 ただでさえ部屋中に匂うカレーの匂いでも辛いのに、起きて早々にカレーを出すのは嫌だと思っていただけに、直ぐに眠った彼はそのままにそっと部屋を出て背伸びをして固まった身体をほぐす。

「あれ、ミーツさん。こんな朝早くに珍しいですね」

 士郎が水が張った桶を手に俺の名前を呼ぶも、仮面を外している状態での俺はミーツではないため、仲間たちしか居ない宿の階とはいえ誰がどのように俺がミーツとミツルギの同一人物であることが知られるか分からないから、彼には呼び方について注意しなければならない。

「士郎か、俺が仮面を外している時はミツルギと呼べと言ったじゃないか。何処で誰が聞いているか分からないんだから、俺たちしかいない階の宿とはいえ呼び方は徹底しようよ」
「あー、すみません。自然に名前が出ちゃって、もういっそのことパーティで住む共同の家でも借りませんか?ミー、ミツルギさんの稼ぎだけじゃなく、パーティとしての稼ぎもそこそこあると思いますし、家なら防音防護壁の魔法も掛け放題だと聞きますよ。
 この宿も安全ではありますけど、どうせなら自分たちのそれぞれの個室があったほうが後々便利ですし」

 朝から寝起きで頭が働かない状態でそう提案する彼の言葉に、確かにそれもいいかもと考える。だが、今ここで俺がそうしようと決めるのは早計であって、今度仲間たち皆んなで話し合おうってことでこの話は保留となり、軽い挨拶を済ませた彼と別れて用務員としての仕事に出勤した。自由学園都市は朝から賑わっていて、学園に通うであろう講師らしい者や生徒などが多く見られ、俺も一用務員のNo.1と呼ばれる者と待ち合わせしていた場所に向かって行く。

「あのお方からのお願いとはいえ、朝から面倒だ。あのお方に気に入られるくらいの実力者だとしても、なんで俺が朝からクソ底辺以下の番号のおっさんの世話をしなきゃいけないんだ!」

 昨日はNo.0と一緒で色々教えてくれていたが、今日からはNo.1と呼ばれる用務員と行動することになったものの、彼は面倒そうに欠伸をしながらそう愚痴愚痴と言い放った。

「それは済まない。俺にできる魔力ボックスの補充の場所さえ教えてくれれば、勝手に行って仕事してくるから、なんとか今日だけは我慢してもらえると助かる」
「テメエ、一番クソ以下のくせに敬語も喋れねえのか!俺さまは用務員で一桁でしかも一番様なんだぞ!おっさんなんか、千番に負けて早く用務員失格になればいいのにな」

 横柄な態度の彼に我慢して話しかけたが、話し方がなってないと叱られてしまった。確かに俺より年下とはいえ、先輩である彼に敬語を使わなかった俺が悪い。ここは素直に謝ろう。

「それは申し訳ございませんでした。
でも俺、いえ自分もそれなりに実力者であること自負していますので、その願いは叶えられないと思います」
「チッ、だろうな。あ~あ、なんでこんなおっさんばっかりが入っちまうんだろうな。
 どうせなら元気で可愛い女の子でも入ってくれれば、俺さまが手取り足取り腰取り丁寧に教えてやれるのになあ。
 あの生徒と仲良くなりたいけど接点はないし、教師と講師の連中は俺たちを見下しているしなあ」

 ただのエロいだけのクソ野郎だと思いつつも、魔力ボックスのある設置ポイントを用務員だけが持つ通信機で教えてもらったあとの彼は、欠伸をしながら後は一人で勝手に補充しとけと言って去って行った。

 街中でポツンと残された俺は、さっさと終わらせようと設置ポイントの地図を通信機を使用して見る。
 学園都市の用務員は校舎だけではなく、都市で経営している店の側にある魔力ボックスにも補充しなければならないようで、全ての魔力ボックスは数え切れないほどあるようだ。
 学園都市の校舎だけでも大小合わせたら、全部で十万を越える建物があって、その校舎が大きければ大きいほど、一つの校舎に対して幾つもの魔力ボックスがあるようだ。

 今回俺が補充しなければならない魔力ボックスは、早ければ今日明日には空になるものがあって、そういうものは通信機のマップで赤く点滅している。
 転移して回っても良いが、歩いて近いところから回ろうと魔力ボックスの設置ポイントに向かっていると、登校中であろうアマとアミにばったり会ってしまった。

「ミツルギさん!え?ミツルギさんも学園で働いているんですか?まさか講師とか?だとしたら絶対受講しますから、どんなことを教えているか教えて下さい!」
「ちょっとアミ落ち着きなよ。なにもおじさんが講師と決まった訳じゃないでしょ。あたしたちの後輩かもしれないんだよ?」
「え!まさかの生徒お!?」

 俺の顔を見るといきなり二人で喋りだすも、周りの目があるから宿で話すと言って、そそくさとこの場を後にして設置ポイントに向かって行くと、数人の男子生徒に囲まれてしまった。

「アマちゃんとアミちゃんに何を話しかけられたんですか?なにやら親しいようでしたけど、おじさんは何者ですか?」

 俺を囲んだ男子生徒の中の一人がそう話しかけてきたものの、彼女らと以前から面識があって挨拶程度に話しかけられたことを彼らには説明したら、ホッとした表情をした。
 彼らは彼女らが通う学園の生徒らで、彼女たちの親衛隊であるらしく、彼女たちを近くで守っているだとか。だが、最近になってアミに彼氏ができたとの話を聞いた彼らは気が気でなく、その彼氏について調べるも全く情報がない状況で、彼女らがこの学園都市で話す人を片っ端から調べているのだとか。
 彼女らの通う学園のみならず、他の学園の生徒らにも人気があるらしい。

 ここで俺がその彼氏ですとでも言おうものなら冗談だと笑われるか、集団で暴行を受けるかのどちらかだろうが、俺はミーツととして彼女と付き合うつもりであるから、今のミツルギではただの友人か、近所の親しいおじさん程度の付き合いで済ますつもりだ。
 ミーツとミツルギが同一人物であることも、今は隠したいというのが本当の理由でもある。

「じゃあ、俺は仕事があるからここで失礼するよ。彼女たちのことをそんなに知りたいなら、彼女らが泊まってる宿の身辺調査でもしたら良いんじゃないかな」
「おじさん!彼女たちが泊まってる宿の情報知っているんですか!彼女たちは転移の指輪で通学しているから、誰も彼女たちが何処の地域に住んでいるか分からないんですよ!」

 さっさとこの場を去りたくて、余計な一言を言ってしまった。彼らは俺たちが泊まっている宿の情報を知らなかったようで、集団と俺の距離が縮まった。

「え~と、俺が話したら彼女たちからの信用を無くすし、彼女たちが話してもいいと言ったら話すよ。流石に無許可では話せないかな」
「幾らですか?幾ら払えば彼女たちが何処から来ているか話してくれますか?見たところお金に困ってそうですし、お金さえ払えばなんでも教えてくれますよね。僕たちはこう見えてもエリートなんで、将来が約束されているんですよ。ですから貴方の望む額を言ってくれれば、払えます」


 居場所について話せないことを伝えるも、彼らは尋常じゃないくらい興奮して幾らでも金を払うと言って話を聞かない。この場から逃げようと目的地とする魔力ボックスまで転移で逃げた。今後も彼らが俺に接触してくることがあるだろうが、かなり面倒なことになったなと思いながらも魔力ボックスに魔力を注入する。
 一瞬で終わる作業とはいえ、こんなことを一日中やっていると、退屈で気がどうかなりそうだ。ここは想像魔法で、学園都市全体の赤く点滅している魔力ボックス全てに魔力注入ができるか試してみることにして、地図を見ながらそれぞれの魔力ボックスを頭に入れて想像する。

 手に魔力を集めて、一気に手を頭上に伸ばして想像した魔力ボックスに向かって放射する。
 そうしたら、地図の赤い点滅は消えているところ成功したようだが、念のため近場の点滅していた魔力ボックスを見に行ったら、魔力ボックスを取り囲むように回りに人だかりが出来ていた。
 偶々、魔力ボックスに何かあったのだろうと思って、同じく想像魔法で補充した別の魔力ボックスの所に行ったら、人だかりは出来ていないものの、呆然と見上げている生徒が数人いた。

 何を見上げているのだろうかと思いながら、彼らが見上げる視線の先を見てみると、魔力ボックスと同じ大きさと形の歪んだ空気の塊が魔力ボックスに積み重なっていた。
 俺の魔力なのだろうか、魔力ボックスに入り切れなくなった魔力がこのような形で残ってしまったようだ。だからといって触っても問題ないようだ。勇気ある一人の生徒が触ったところ、授業で消費した魔力が回復したと喜んで去って行ったからだ。

 俺が注入した魔力ボックスはあちこちで次第に騒ぎになっていき、生徒はもちろんのこと、教師と講師さえも魔力ボックスの回りは立ち入り禁止にし、教師たちが通信機を使ったりしての話し合いが行われた。
 俺もこれらの魔力ボックスの魔力注入を任されていたことから、俺と魔力ボックスの魔力注入を任せた一番の用務員が駆り出され、教師と講師陣の輪の中で問い詰められるも、一番はなにがどうなっているか分からない様子で始終混乱していた。

 取り敢えずのところ危険はないとのことで、途中からシュトレーゼマンがやってきて教師講師陣を含めた全ての人をしばらくの間、異常な状況の魔力ボックス付近の立ち入り禁止を発令し、皆んなが散り散りになって行くなか、俺も一緒に別の場所に移動しようとした時にシュトレーゼマンに肩を掴まれた。

「それで、この異常な状態の魔力ボックスについて何をしたんだい?」
「えーと、何がですか?」

 彼は俺が何かしたのを勘づいているのだろうが、取り敢えず知らないふりをしてみた。

「は~~、私が何も知らないとでも思っているのかい?学園都市の至る所に魔導監視カメラが設置されているし、魔力ボックスがこうなる前に異常なほどの魔力をキミから感知されていたし、なにやら手を上にあげるポーズまで取っていたというのにも関わらず、まだシラを切るのかい?それに、私はキミの動向をしばらく監視すると言ったの忘れた?」

 もう既に、俺の所為でこういう状況になってしまっているのがバレてしまっていた。
 想像魔法については隠して、とあるスキルで離れた所から魔力を飛ばして魔力ボックスに注入したと話したら、目をキラキラさせて詰め寄ってきた。比喩ではなく、本当に目をキラキラ光っているのが怖い。

「そ、そ、そそそれで!どどどのようにやったんだい?是非!私の研究室で今回キミがやったことの再現を!」
「わ、分かった。だから、ちょっと離れてもらえるかな」
「え、あ、ごめんごめん。私の美貌でキミを魅了させちゃったかな。よく秘書に言われるんだよね。私はエルフの中でも美しい方だから、あまり魅力耐性がない人に近づくなってね。
それから昔、私の育ったエルフの国ではモテて困ったものだったよ…」

 彼は自分の容姿に余程自信があるのだろう、自分の容姿で俺を魅了させてしまったと話すも、俺はただ彼が近づき過ぎて鬱陶しかっただけなのだ。
 彼の容姿は確かに綺麗であるが、特に魅了されているわけではない。ここは敢えて、勘違いさせたままにして置くのが面倒でなくて丁度良いと思って、自身の美貌について昔話をしている彼の話をうんざりしながら黙って聴いていると、彼の背後から紙を丸めた棒で頭を叩く女性が現れた。

「またナルシストレーゼが発動しましたようです」
「痛、あ、私の恋人兼秘書よ、待ってましたよ。ミツルギくん、彼女は私の恋人兼秘書のシャトルです」
「誰が恋人ですか!気持ち悪い。訴えますよ?
レーゼさん、ほらさっさと来る!」
「またまた~、そうやって照れ隠しするう。
この都市では、私のことを愛称で呼ぶのキミくらいなんだからさ」
「は~、もういいです。仕事が溜まっているんで早く来て下さい。シュト・レーゼ・マン・さん!」

 彼の頭を叩いた女性は彼の秘書なようで、彼は恋人兼秘書だと紹介した。
 彼女はそれが心底嫌なようで、嫌悪感丸出しの顔をして彼の襟首を掴んで引き摺って行った。彼女は去り際にチラリと俺を見て、軽く会釈して行った。

 魔力ボックスについては有耶無耶になったことで胸を撫で下ろした。心配ごとがなくなったことで、この学園都市の何処に高難易度ダンジョンがあるのかと、事前に調べていた図書館に行ってみる。
 見た目の図書館は至って普通で、中は普通と違うのだろうと入ってみたら、中は学園生徒らしき制服やローブを着た学生ばかりが静かにタブレットのような物を使って読んでいた。
 本は図書館入口付近の入ったところでは見当たらなく、館内を見て回っていると、分類別に扉があって魔法学、魔物学、錬金学、言語録、歴史、地図と順番に並んでいたことから、地図の扉に入った。

 他にも商売学や剣技など色々と書かれていた扉が並んでいたが、俺は地図に用があったため、地図に入ったら数人の学園生らしき子がいるだけで、長テーブルが数点があって閑散としていた。

 だが、地図についても豊富にあって、ヤマトの皇宮がある浮遊大陸と上位貴族が暮らす地域以外のヤマトの全てと書かれた本が100巻以上に渡って並んでいたのを見て、時間のある時にでも覗こうと思ってスルーし、他の部類別で本棚を見ていたら、『下陸の地図』『下陸のダンジョン』『上陸のダンジョン』とそれぞれがタイトル別に本棚にあることから、上陸の本棚を見て回るも、ヤマト以外の聞きなれない国らしき名前を見て一冊の本を手に取って見てみようと手に取ろうとしたら、バチンと電流が指先に走った。

「おじさん、操作しないで勝手に触ったらいけないんですよ」

 一人の生徒がそう教えてくれた。

「ああ済まない。ここの仕組みが分かってなくてね、良かったら教えてくれないだろうか」
「いいけど、おじさんは誰ですか?学園都市の許可のない部外者は読んじゃいけないんですよ」

 彼は怪しんだ表情で俺を見てそう言うも、彼の言うことはもっともだと思い、俺は用務員になったばかりだと渡してもらったばかりの用務員の通信機を見せるが、彼は俺から数歩後退りして逃げて行った。
 ふと、回りを見れば他に数人いた生徒たち皆んなが居なくなっおり、完全に不審者扱いとなった俺はどうすれば本を手にできるのだろうかと思いながらも、一度部屋を出ようと扉に手を掛けたその時、部屋全体が真っ赤に染まって本棚はシャッターが閉まり、扉のドアノブは強めの電流が走り、ブザーまでもが響いた。

 扉の向こう側からは悲鳴が聴こえ、何か尋常じゃないことが起こったのだと思って、身体中に走る電流を我慢して力ずくでドアノブを捻り壊して外に出たら、俺が出てきたところを取り囲むように複数の警備員の服装を着たマネキン人形がバチバチと電流が流れているであろう刺股を持って構えていた。

「この人です!許可なく本を触って僕を脅して来たんだ!」

 先程俺と話した生徒が俺に指差してそう言い放ったことで、マネキン人形たちが俺に刺股を突き刺して来たことに、この騒動は俺が原因かと思って大人しく電流を受け入れて捕まった。
 マネキン人形たちは大人しくなった俺を図書館から無言のまま連れ出して、連行して行って一度だけ転移したら、牢屋があるフロアに行き着いて、無言のまま檻に入れて去って行く。

 周りを見渡したら、俺の他に檻に入れられた者たちが幾つもあって、大人しく座り込んでいる者や、出せと叫んでいる者などがいた。
 俺もどうしたものか少々考えたのち、他の檻に入っている者たちに話を聞いたところ、万引きや恐喝に暴行など学園都市でやらかした犯罪者ばかりだった。
 俺みたいに何もしてないのに捕まった人がいるかと思いきや、そういう人は一人もおらず、転移で脱走しようと思ったその時、笑い声と共にシュトレーゼマンが姿を現した。

「アーッハッハッハ、ミツルギくんって本当に面白いですね。監視映像を観た限り貴方には何の落ち度もない様子でしたから、私が直々に迎えにきたんですよ。それに、貴方にはあの冒険者パーティのリーダーを紹介してもらいたいのですから、さっさと行きましょう」

 彼はそう言い放ったのち、手を翳して俺と共に転移して図書館前に転移した。

「貴方はまだ正式な用務員じゃないですから、学園都市の施設は使用できない所が多いんですよね。でも図書館で何を調べたいか分かりませんが、特別に私が許可しましょう」

 彼はそう言い、銀色の桜の花びらを一枚手渡してそれを受け取ったら、彼はまた今度お茶しながら話そうと言い残して転移して行った。
 残された俺は再度図書館に入ったら、先程の騒動で俺を見て憶えていた生徒たちが怯えて逃げて行くのを見て、ここは時間を置いてまた来ようと思うも、一部の生徒たちが俺の姿に怯えているというだけであるなら、ミーツとして仮面を装着しようと思って、一度学園都市から転移によって宿に戻り、仮面を装着して図書館に直接転移して戻った。

 図書館に戻って入口で気付いたことだが、入口に許可のない者入館禁止、用務員が入館する時は許可証を提示して下さいと書かれていた。
 そのせいで本棚を触ったら電気が走ったのかと納得し、入口付近にいた司書らしき人にシュトレーゼマンに貰った花びらを見せたら、問題なくどうぞと通された。
 入口近くに他にも図書館の本の閲覧の説明も書かれているところから、よく読んでから地図の扉に再び入って手に取れなかった本を手に取ってみて本を開いたら、液晶画面が正面に現れて、本の内容が現れる。

 指や手でスライドしたら次のページに行くといった感じだが、俺が読みたい内容ではなかった。書かれていたのは、ヤマト国内や他国の、とあるダンジョンと有名冒険者パーティ名にダンジョンの特性に攻略されている地図であって、今の俺には必要ないものだと判断した。
 100巻以上並ぶ本棚に行って本のタイトルを眺めながら見てみると、ヤマトが誇る超難易度ダンジョンの進めと書かれた本を見つけ、手にとって開いてみる。

 何処かで見たことがある内容だと思いながらも何処で見たか思い出してみたら、彼の書物塔の主兼ギルドマスターである、あの男から貰った冊子に書いてあった内容とほぼ同じものだった。読んでいた本は閉じて仕舞って、学園都市に関するタイトルを探して見ていたら、ローブを着たあの時とは別の学生に声をかけられた。

「あの~、何かお手伝いしましょうか?」
「助かるよ。じゃあ、お願いしようかな。
この学園都市の何処かにあるらしい、超難易度ダンジョンの場所が書かれている本を探しているんだけど、知っていたら案内して貰えると助かるよ」

 そう学生に頼むと、彼は少し考えるように顎に手を触ると、学園都市の超難易度ダンジョンは地図ではなく、歴史にあるのではと言って、図書館の入口に居たのとは別の司書の所まで案内までしてくれたものの、司書から話を聞けば、超難易度ダンジョンについての本は偉い人からの紹介状か、学園都市の認められた一部の教師と一緒でないと閲覧禁止で案内もできないと言われた。

 ここでシュトレーゼマンにもらった銀色の桜の花びらを再度見せたら、慌てた様子で待たされて、司書二人がやってきて案内をしだして、案内された場所は関係者以外立ち入り禁止と書かれた通路で、そこまで俺を案内した司書から別の胸に金のバッチを付けた二人の司書に代わってまた別の通路に入って案内され、通路の突き当たりの魔法陣が書かれた扉まで案内された。

 二人の司書は魔法陣にせーのという掛け声で同時に手を着いたら、魔法陣が光って魔法陣の形の穴が空いた。二人の司書のお入り下さいと言う言葉に言われるがままに扉にぽっかり空いた穴に入ったら、本棚が一つだけある小部屋だった。本棚に並ぶ本は一冊一冊が古そうで、慎重に扱わないと破れそうなくらいボロボロになっている本もあり、タイトルはどれもが読めなくてどうしたものか悩むも、取り敢えず慎重に一冊の本を手に取って中を開いたら、一瞬で本の中身が頭の中を駆け巡った。それは石板を手にした感覚と同じようだが、石板の時よりは短くて頭も大して痛くないのに、本の中身全てが分かった。本の内容は、学園都市の一般的に知られてはいけない過去の歴史と戦争についての裏情報が本の内容だった。

 それからは他の本も手に取るも、禁術と呼ばれる魔法なのに俺が憶えた石版よりかなり劣る魔法や、学園都市の隠された道や店などが書かれていた本で欲しい知識は得られないまま、幾つもの本を手に取って、俺にとっては不要な知識ばかり頭に入ってきていたが、残り三冊となってようやく学園都市の超難易度ダンジョンについての知識と場所を憶えたものの、どのダンジョンも冒険者ランクが最低でもSSランクでないと入ることができないのが分かった。

 仮面を被った状態の俺はSSランクだから問題ないが、仮面を外した状態のミツルギで行く時は気を付けようと思った。
 取り敢えずダンジョン場所は分かって、の入口だけでも行って入れるかどうかの確認をしようと部屋を出ようとしたら、俺をこの部屋まで案内してくれた司書たちが無言で不機嫌そうな表情で立っていた。

 今まで気付かなかったが、シュトレーゼマンの紹介である桜の花びらがあっても俺みたいな怪しい奴を一人にするはずがなく、一言、長い時間申し訳ないですと謝って頭を下げ、監視人としての司書らに図書館の入口まで見送って貰ってから外に出ると、既に外は暗くなっていた。

 これだけ遅い時間まで居たら、いくらシュトレーゼマンの紹介状を持っていたとはいえ、司書らが不機嫌になっていても納得できる。
 今度時間がある時にでも迷惑かけた詫びで菓子折りでも持って行ってやろう。そう思って図書館を出て、数歩歩いたところで鈍い音でガチャリと鍵が掛かる音が聞こえた。しかも、扉の向こう側から声も聴こえる。

「はあ~~、やっと解放された~~!」
「本当よねえ。いくらシュトレーゼマンさまの紹介だからって、長居し過ぎよ!」

 先程の司書たちである彼女らの愚痴だった。
 これ以上愚痴を聞きたくなくて、この場を後にした。本によると目的地となるダンジョンは、それぞれ学園都市全体を三角に囲むように存在するらしく、今まで学園都市のダンジョンの簡単な所から超難易度までの全てを踏破したパーティは数組だけで、単独でだとたったの一人だけであるようだ。これは冒険者だけではなく、騎士団や勇者などの実力者も挑んだ結果であることが本で得た知識で分かったことである。

 ダンジョンは前にもらった冊子に書いてあった海底、天空、地獄の三つのダンジョンがこの学園都市にあって、思い返してみるとダンジョンの説明ではーー。

『海底ダンジョンー文字通り海の底にあるダンジョン難易度SS~SSS
天空のダンジョンー空に浮かぶ浮遊地のダンジョン難易度SSS +α
地獄のダンジョンー地の底に続くダンジョン難易度XX』

 こう書いてあったのを思い出しながらも、本に書いてあった難易度のSSとかは、五人組の冒険者全員がSSランクで挑んだ場合の難易度であって、SSS+aやXは同じく冊子で得た知識で冒険者ランクがSSS以上のランクであることだ。俺は、これらを踏破したらヤマトの何処かにある神の塔と呼ばれるダンジョンに挑むことができるというものだが、神の塔はランク関係なく入ることができるらしいが、生半可な覚悟で入れば入ったら最後、最初の階層で全滅は珍しくないようなのである。
 決まった階層まで上がらなければ、外に出ることが出来ない仕様になっているらしく、遥か昔は一度入れば二度と出ることが出来なかったらしい超難易度ダンジョンであったとのこと。
 踏破した人は、冒険者ギルド本部のギルドマスターのみだというのに驚いた。

 俺は先ず、三つの中で難易度が低い海底ダンジョンに向かってみるも、そこに行くための交通手段である魔導列車と呼ばれる魔力で動く列車が営業停止時間であることで泣く泣く諦めて、そういう交通手段が必要ないダンジョンに向かおうとするも、転移屋も時間外で営業終了しており、今日のところはどうすることも出来ない状況に宿に帰り、朝に士郎からの提案で一軒屋を借りるというのを宿で最初に会ったシオンに話してみると、どちらでもいいとの返答に困り、彼の近くにいた姐さんに同じ話をしてみたところ、部屋で話し合おうとのことになって俺の部屋に入って話の続きを始めた。

「まあ!やっとパーティホームに住めるのね。
あたしは大賛成よ。きっと、他の皆んなも賛成してくれるわ。それで、何処の地域で借りるか決めたの?もし決めてなかったら、皆んなで探しましょうよ」
「おいダンク。好きな地域で家を借りても、俺たちの基本的な所属ギルドが彼処である限り、ギルドの行き来が面倒になるだけだぞ。毎回ギルド本部を使ったとしても、色々と面倒だろうが」
「そうなのよねえ、でも、今は転移屋もあるし、稼ごうとするならギルド本部を利用した方が稼げるわ。どうせならギルド本部の近くで家を借りない?ちょこっと家賃は高いと思うけど、皆んなで協力したら家賃くらい簡単に払えるわよ」
「お前なあ、簡単にそう言うが、ミーツ以外は学園に行っているだろうが。休みの日や仕事の無い日などの合間に冒険者としての活動したからといって、俺はそう簡単に稼げるとは思えないんだがなあ」
「あ、ミーツちゃんに言ってなかったけど、ミーツちゃん以外の皆んなは自由学園都市と呼ばれる学園で講師と生徒として通っているのよ。だから、前のように皆んな冒険者としての活動が前ほどは出来ないの。ただし、ヤスドルちゃんだけは学園を休みがちで、一人で鍛錬に励んでダンジョンに行っているけどね。って、ごめんなさいね、今みたいな仮面外しているときは、ミツルギちゃんって呼ばなきゃだったわよね。ついつい今まで通りに呼んじゃうわね」

 俺は蚊帳の外の状態でシオンと姐さんが家を借りることを話し合っている中、黙って聞いていたら、突然学園都市の話が出て、俺以外の皆んなが学園都市に通っていることを話しだす。
 ここで俺も用務員として働いていると言いそうになるも、まだ正式な用務員でないため、喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。

「そうなんだね。いつも姐さんらが何処かに出掛けていたのは知っていたけど、何処に行っているんだろうと思っていたんだよ。まあ、呼び方も徐々に慣れていってくれればいいよ」

 ここは敢えて知らないふりをした。
 ついでに名前の呼び方についても、徐々に慣れて欲しいことも伝える。

「今まで黙っててごめんなさいね。あたしが教えている授業は人気があって、あまり休むことが出来ないの。でも、普通に決められた休みの日や、この前のミー、ミツルギちゃんが決闘をしたときみたいな仲間が一大事のイベント時は休むことが出来るし、意外と融通が聞くのよ。
ここのところシオンちゃんはあまり講師としての仕事に行ってないみたいだけどね。シオンちゃんの騎士剣技も人気があるんだけどねえ」
「ふん!俺はやる事が多いんだ。とりあえず、そこで聞き耳を立ててる奴らも一緒に話し合ったらどうだ」

 シオンはそう言って扉を開けると、ヤスドル以外のメンバーが部屋になだれ込んだ。
 俺も彼らが部屋の中から扉に張り付いていたことに気付いていたが、扉を開けた途端になだれ込んでくるとは思わなかった。

「なんか凄く興味がある話が聴こえちゃって、アミと扉の前で聴いていたら、兄ちゃんと士郎さんが来たんだよ。って、兄ちゃんら重いよ!
あたしとアミが潰れちゃう」
「ああ、スマンスマン」
「アマちゃんとアミちゃんごめんね」
「どうせ上に乗られて潰されるならミツルギさんが良かった」

 アマとアミの上に乗っていたシーバスと士郎は彼女らに謝って退き、興味津々といった感じで家を借りる話について聞いてきた。

「まだ何処に借りるかは未定だけど、近々宿を出るつもりだから、そのつもりでいて欲しい。
希望の場所があれば参考にするけど、何処かあるかい?姐さんはギルド本部の近くがいいと言っているんだけど、どうだろう」
「はいはいはーい!あたしは自由学園都市が良いと思う!買うわけじゃないし、学園都市なら何処の地域にも行きやすいし、凄く便利だと思う!」
「そうねえ、確かにあの場所はどの地域にもない特別な場所だから便利は便利だけれど、移動に転移屋とか魔導列車とかしか使えない物は閉まるのが早いのが難点かしらね。
シオンちゃんはどう思う?」
「俺は何処でもいいが、俺はギルド本部やアイツの様子を見に行くのに不便じゃなければ何処でもいい」
「俺もシオンさんと一緒の意見だけどよお、学園都市って、監視の目が強くねえか?」
「僕は学園都市で借りるのは賛成ですね。これからのアキラの教育にもいいですしね」
「私はミツルギさんが決めた所なら何処でも良いです。出来れば、ミツルギさんの部屋の隣か同室を希望します」

 自室ですぐ側で寝ているヤスドルは後で聞くとして、仲間たちそれぞれの意見を聞いて決めようと思っていただけに、学園都市で家を借りる話でほぼ決まりそうな皆んなの意見を参考にして探そうと思ったものの、拠点を学園都市にしたときのデメリットはシーバスの言う通りである幾つもの監視カメラがあることだ。
 だがメリットはどの地域にも行きやすく、超難易度のダンジョンが三つもあることで、どうするか悩む。学園都市に住むとなったら、早いうちにでシュトレーゼマンに実は俺がミーツであることを告げて便宜を図ってもらうかとも考えた。

「皆んなの意見を踏まえて再度考えてみるよ。
ちなみにアミの俺と同室というのは却下だ。
隣か、近いところにできるようにしたいと思うけどね」
「むー、やっぱり恋人同士なのにダメですか。でも!私まだ諦めません!」
「最終的にどうするかは、ミツルギちゃんが決めればいいと思うわ」

 最後に姐さんの一言で皆んなが頷いて俺を見つめることで、一旦この話はここで終わった。

「ダンク。明日、俺はグレンのところに行くが、お前はどうする?」
「あ、シオンちゃんは明日、お兄ちゃんのところに行くのね。あたしは今回もパスするわ。
本当はあたしがお兄ちゃんを支えなきゃいけないんだけど、今のお兄ちゃんは放って置くのが一番だと思うから」

 家を借りる話が終わって、メンバーそれぞれが自室に戻って行き、俺もトイレに行こう立ち上がった時にシオンが姐さんと話をするのが耳に入って、グレンもこのヤマトに来ているのかと驚いて行こうとした足を止めた。

「シオン!グレンさんもこのヤマトに来ているのか!ああ、あの国では世話になったし、久々に会いたいし、明日会いに行くなら俺も付いて行っていいか?」

 俺の発言に姐さんはコソッとシオンに、ミツルギちゃんにあのこと話してないの?と言っているのが聴こえるも、なんのことだろうと思っていたら、シオンは椅子に座っていた状態からわざわざ立ち上がって、閉まっている扉を一度開けて扉の前に誰もいないのを確認したあとに再び閉めて、見覚えのある魔導具を起動させた。魔導具は防音の魔導具だった。

「お前は、俺たちが出国したあとの、あの国がどうなったかを知らないのだろうが、一言でいえば、あの国は滅んだ。大量の魔物と魔族に襲われて壊滅状態になったのだそうだ」

 彼の言葉に頭が真っ白になった。
 あの国には愛やアリスにジャスなどの、少し面倒を見てやっただけだが、仲良くなった元の世界の同じ転移者たちに、モブポケビビの可愛い奴らや、他にも多少なりとも仲良くなった人らの顔が真っ白になった頭の中で思い出された。

「な、なんで…」

 言葉が上手く出ず一言、それしか言えなかった。

「俺もダンクも、このヤマトに到着してからお前の生存を確認したあとレイン殿下に渡された資料の中に入っていたんだ。
 殿下は俺が知りたかったことを事前に調べてくれていてな、その結果の報告書の中に滅んだことが書かれていたうえ、殿下の口からも滅んだ経過の話を聞かされたんだ。
 ついでに言えばな、お前が想像魔法で作った村も、早々に王都を捨てた王と騎士団長を含む一個騎士団と勇者が、村の回りを守っていた三本角たちを殺して村を占拠し、中でほのぼのと暮らしていた村人たちをコキ使っているのだそうだ。見せしめとして、最初に反抗した数人をその場で斬り捨てたそうだ。 あとの詳しい話はコレを読めば分かるだろう」

 彼は自身の魔法鞄から分厚い封筒を取り出して手渡してきたものの、彼の話がとてもじゃないが信じられなくて、受け取るのを拒否するも、無言で無理矢理持たされ、誰にも見つからないところで読めと言われてシオンたちは部屋を出て行った。
 残された俺は封筒を片手に呆然と立ち尽くすも、ふらふらとベッドに腰掛けてベッド回りに魔法で作り出した壁を囲んで明かりを付ける。
 ついでに強めの結界を張って、厚めの封筒から中身を取り出して中の文章を読み始める。

『クリスタル国の近況報告書1』
《ミーツと呼ばれる冒険者が出国のあと、しばらく経過したのち王都で盛大に勇者のお披露目パレードが行われた。一部の町人だけにしか知らされてなかったパレードに困惑する町人たち。けれども、国中の兵士と騎士を導入することで無理矢理にでもパレードは終了する。
パレード終了後に、勇者と騎士団長が一部の冒険者たちと揉める》

『クリスタル国の近況報告書2』
《パレード後、度々街中で勇者と騎士団長を見かけるようになった。二人は恋仲らしく、仲睦まじい印象である。同時に別の依頼である騎士団長のケインも調査中である。
 我が母国ヤマトから来た冒険者である天性者パーティは、ヤマトでレイン殿下の依頼でこそこそと新人冒険者の育成をしながら行動中とのこと》

『クリスタル国の近況報告書3』
《突然だった。とあるほのぼのとした日の昼過ぎに空から夥しい(おびただしい)数の魔物と魔物を操る魔族が降って来た。街はパニックになり、街中に潜入し密偵中の部下を数人失うことになった。
 魔物たちは街ではもちろんのこと暴れ回るが、その行動が不自然であることに気づく。
 知性のない魔物たちは無差別に街中で暴れ回って人を襲っているが、多少知性がある魔物は目の前に人がいるのに、そこを無視して目の前の店をひたすらに潰している。その店は以前に勇者と騎士団長が行った店であることに気付いた。どういうことか観察したい気持ちだったものの、気付かれては依頼を遂行できないと判断したのち、魔物と魔族に見つからないよう多少の人を助けながらもこの状況を観察し続ける》

『クリスタル国近況報告書4』
《魔物と魔族からの奇襲から二日目。
勇者と騎士団長を含む一個騎士団を連れて国王が王都を捨てて逃亡する。城から逃げるときはもっと沢山の騎士たちがいたが、王と勇者を逃すために自ら犠牲になった。時折、逃亡する王たちに助けを求めて近寄る町人はその場で斬り伏せた。彼らの行く先は別の監視員に任せることにする》

『クリスタル国近況報告書5』
《同日二日目。冒険者ギルドが動いた。
まだなんとか破壊されてない建物を死守していた町人たちを助けるべく、ギルドマスターが指揮を取って、生き残って尚且つ戦える冒険者たちを使い、町中で暴れ徘徊する魔物と魔族を倒して行く。何故、ここでギルドマスターが指揮を取ってまで目立つように動くか観察していると、コソコソと裏通りなどで、彼の妻が闇市場の方に生き残った人や誘導しやすい人らを連れて行っていた。
 別の村や街での他の監視員の報告によると、この奇襲は王都だけではなく、この国全体で行われたもようであることが分かった。
 他の村々では、一度倒した魔物と魔族は補充されないようである》

『クリスタル国近況報告書6』
《奇襲から三日目。ギルドも疲弊していっているのが分かるが、この状況を観察して報告しなければならない立場なため、こちらの命に関わるような手出しは出来ない。
 魔物は倒せば倒しただけ、空から新たに降りて来ていた。終わりのない戦いの中、とうとうギルドマスターが片腕を食いちぎられて負傷する。負傷した彼を慕うギルドの職員たちによって、闇市場に連れて行かれる。
 天性者パーティは何処にいるのか、見えないところ、もう既に依頼を遂行して帰ったと思われる》

『クリスタル国近況報告書7』
《奇襲から四日から五日の二日にかけて街中の生き残った人を闇市場の誘導に成功した。
ここで町人を含む冒険者の大半が死亡した。
六日目。闇市場に魔族が侵入。
 闇市場内は阿鼻叫喚。正直、思い出しただけで報告書を書く手が震える。あそこまで酷い状況は中々なかった。闇市場で生き残ったギルド職員と冒険者たちが命懸けで魔族と戦うも、無惨に殺されて行く。
 ギルドマスターも善戦するも、残った腕を斬り落とされ、両足をも突き刺され、魔族に身体を押さえつけられて身動きが出来ない状態にされ、保護した町人やギルド職員に冒険者たちが無惨に殺されていくざまを見せつけられる。
 血の涙を流すギルドマスターの前に、素っ裸にされた状態の彼の妻が投げ出される。
 彼女も奮闘したのだろう、身体中傷だらけであった。魔族らはゲラゲラと笑いながらも、ギルドマスターの妻を一思いに殺さず、彼女の指を斬り落としながら痛めつけ始める。
 泣き叫ぶ彼女の口には、舌を噛み切らせないよう猿ぐつわが噛ませられているもよう。
 同じくギルドマスターにも猿ぐつわが噛ませられ、妻の拷問されるさまを見せつけて見るに堪えない状況を観察していたその時、闇市場の空がヒビ割れ、仮面を装着した一人の人間が降り立った。
 我が国のギルド本部のギルドマスターが普段から装着している仮面に似ている。
 仮面の者は一振り手を振っただけで、闇市場内にいた魔族が消えた。酷い拷問により正気を失った彼女に手を翳したら、身体中の傷が癒えるも、失った部位は元に戻らない。
 失った部位を癒すのは、聖女や聖者レベルでないと難しいので仕方ないと思われる。
 仮面の者である冒険者ギルド本部のギルドマスターは、こんな辺境の国にどうしてやって来たのだろうという疑問があるものの、報告のために観察を続ける》

『クリスタル国近況報告書8』
《別の村々や町に向かわせていた部下の殆どが、魔物と魔族の奇襲によって命を落とした。
 レイン殿下のお気に入りの冒険者が作った村は、村を守護する三本角の群れによって深い傷を負いながらも魔物と魔族は撃退されたとのこと。だがしかし、王都から逃げ延びた勇者含む騎士団と王によって村の周りを守護していた三本角の群は殲滅され、村も占拠されてしまったもよう。
 この時、最初に抵抗した村の老婆であるシスターとその妹が殺害され、使い物にならない幼い孤児たちや、老人たちも同様に見せしめとして殺されたもよう。
 王都では仮面の人間は、ギルド本部のギルドマスターであることで間違いないようで、転移系のスキルでクリスタル国のギルドマスター夫妻を含めた生き残り数名を助ける。
 のちに、皇都のとある地区の施設にて彼らの生存を確認致しました。
 これにより報告書を修了いたします。最後に彼の国の大臣の所存が確認できなかったのが、少しばかり気になる所です》


 報告書を読み終わって、瞬間転移の魔法を手に入れて直ぐにでもグレンの元に行っていたら助けられたかも知れないと思うと、後悔しかない。現状、俺に出来ることは何もないかも知れないが、今すぐにでもグレンの元に行きたいという気持ちでいっぱいになり、すぐさまシオンたちの部屋に行った。
 部屋ではシオンとシーバスに姐さんがパーティハウスとなる場所について話し合っていた。

「うお!ノックぐらいしろよ。そんな血相を変えてどうした?」
「シオンちゃんの言う通り、ノックくらいしなきゃよ。それで、それを読んだのね」
「ああ、今直ぐにでもグレンに会わせて欲しい!俺なら欠損した手足くらい簡単に元に戻せるからさ!」
「ミツルギちゃん、もう夜も遅いし、また明日シオンちゃんと一緒に行ったらいいわ。
あたしじゃ、お兄ちゃんとメリッサさんの心の傷を癒せないから」

 そう姐さんに諭されて、報告書を返して渋々自室に戻った。自室に戻っても、グレンのことや、彼の国で起こった出来事が想像出来て寝るに眠れない夜を過ごし、いてもたってもいられず、ギルド本部のギルドマスターの所に想像魔法による転移で向かう。
 だがやはり、こんな夜更けなだけあって真っ暗な部屋で彼は居なかった。
 それどころか、部屋に転移した瞬間に足元に魔法陣が現れ、指一本動かすことができない状態になって、身動きどころか声も出そうと思っても出すことができなくなり、立ったまま夜が明けるのを待ち続けた。

「ミツルギか、どうした。夜更けに勝手に入ったか?」

 夜が明け、早朝になってギルドマスターが部屋に転移で現れると、俺を一瞥してそう言って手を翳した。

「はい。申し訳ないです。仲間から彼の国の状況とギルドマスターであったグレンの話を聞いて、居ても立っても居られなくなって此処に転移したら、この有様です」
「ふ、お前もいい歳なんだ。少しは冷静になって考えれば、夜更けに此処に来ればどうなるか分かるだろうに」

 手を翳されたら、声のみが解除され正直に答えたら、彼は呆れたようにそう言い、もう一度手を翳したことで身体の拘束も解除された。

「貴方がグレンを助けてくれたのか?貴方が助けたあの国の人たちは何処で保護しているんだろうか」
「それは、近いうちにでもお前の仲間たちに連れて行ってもらうんだな。お前でもしばらくはどうにもならないだろうがな」

 身体の拘束が解かれたことで、グレンのことを改めて聞いたところ、彼の返答にこれから帰ってシオンに連れて行ってもらおうと、彼に頭を下げて転移で宿に戻ってみるも、早朝過ぎることもあって、起きたばかりのヤスドルが庭で鍛錬をやり始めていた。

 他のメンバーはまだ就寝中であるようで、どうしたらいいものかと、シオンの部屋の扉の前で座り込んでいたら、昨晩は拘束されていたこともあって全く寝ていなかったことで、ウトウトと眠気に誘われて意識を失った。






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