【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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7 アルバート視点

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『私にはあなたしかいないの』

あの日、ぽろぽろと綺麗な涙を流すエマを見て僕は誓ったんだ。一生をかけて彼女を大切にするって。




*****

「エマっ!エマはどこだい?!」

通い慣れた場所。
昼だというのに薄暗く、使用人も数人しかいないこの屋敷はラングレー男爵の家だ。
その一番奥にある部屋のドアを勢いよく開ければ、いつものようにベッドの上で本を読むエマがいた。

「まぁアルバート、こんなに早く会いに来てくれるなんて嬉しいわ!どうしたの?」
「聞いてエマっ!夜会に行こう」

僕の顔を見てパァと嬉しそうな顔をする。
僕はすぐさま彼女に駆け寄り、さっきシャロンに聞いた内容を口早に伝えた。

「今度ロットバレン家が主催の夜会があるそうなんだ。君も一緒に行こう」
「あら、いいの?この間も連れて行って貰ったのに、しかも公爵家の夜会だなんて……」
「ああ、いつもより美味しい料理もいっぱいあるし。そうだ!沢山の貴族たちの前で一緒に踊ろう!」

小さい頃のエマはベッドに寝たきりだった。
それが今や踊ることも走ることも出来る。だが本人曰く「日差しは今でも肌が焼けてしまうから嫌い」なんだとか。

彼女が活動するのは決まって夜。
そして多くの貴族たちが集まる夜会は、引きこもりの彼女にとって息抜きするには最高のイベントだった。

高級なドレスを着て、美しい金髪をまとめ上げ、光り輝く宝石を身につける。そんなエマはいつも参加者たちの視線を集めていた。

(そのせいで他の令嬢たちから疎まれてるけど)

単純にそれはエマへの嫉妬だ。
美人な彼女に対し、パッとしない他の令嬢たちが陰口を言っているに過ぎない。

(しいて対抗出来るとすれば……シャロンくらいか。だがどちらもである事に変わりはない)

その快感はとてつもなく心地いい。
高貴な子息たちが伯爵家の次男である僕を羨ましげに見ているんだから。

「ねぇアル」
「ん?なんだい」
「夜会に行くなら新しいドレスが必要よね?」

エマの言葉にピタッと動きが止まる。

「きっと流行のものを着ないと周りの女の子たちに笑われてしまうわ」
「……この間プレゼントしたドレスなんか良いんじゃないか?ほら、あのさくら色のやつ凄く似合っていたし」
「んーでもやっぱりちゃんと新調した方が良いわ。ロットバレン公爵令嬢様だってきっとドレスや宝石を新調すると思うの」

エマは当然のように語る。
無意識にシャロンと肩を並べる彼女の言葉に思わず苦笑してしまった。

確かにエマは美しい。でもそれだけだ。
彼女は学校に行っていない事もあって学がない。貴族としての作法も礼儀もなってない、だが彼女自身は特に危機感を持っていなかった。

(お馬鹿なエマもまた可愛い)

貴族の妻としては相応しくないエマ。
だが……愛人としてなら間違いなく最高だろう。

「そうだね……いいよ!とびきりの高級品を君にプレゼントしよう」
「わぁ!すっごく嬉しい!」

起き上がったエマは勢いよく僕に抱きついた。

(しかし今月のロットバレン家からの援助は使い切ってしまったから……うん、やっぱりもう一度シャロンに頼もう)

元はと言えばロットバレン家主催の夜会なんだ。おしゃれ代くらいは工面してもらわないと。

「ドレスを新調してそれに合うアクセサリーも必要だし。そうだっ!アル、せっかくだから衣装もお揃いにしましょ?」
「僕も?」
「うん、同じ色を使いましょ!そうね……赤はどう?きっと会場で目立つと思うの」

お揃い、ということはオーダーメイド。
今から仕上げるとなると特別料金がプラスでかかるな……それに社交界では衣装をペアにするのは恋仲である証拠になってしまう。

(婚約者であるシャロンならまだしも、エマとペアにしたら間違いなく噂が立ってしまうな)

「楽しみね!アル!」

(……まぁいいか)

嬉しそうに笑うエマを見たらそんな事はどうでも良くなった。

「嬉しいかい?エマ」
「えぇとっても!やっぱりアルは最高ね!」
「ハハッ、可愛いな」

ぎゅうぎゅう抱き着いてくるエマを抱きしめ返す。

「……ねぇアル、今日も泊まってくでしょ?」

とろんと甘い声で囁かれ、吐息まじりの高い声に背筋がぞくっとなった。
いつもの無邪気な顔とは違い、明らかに発情した雌猫のように身体を密着させてくる。

「……今日は帰らないと。兄さんが怪しんでる」

彼女の腕を掴み解こうとするもエマの唇がそっと耳に触れた。

「あら、私たちはただの幼馴染よ?」

クスクスと笑いながら襟元のボタンをぷちぷちと外してくる。

(こうなったら止められないんだよなぁー)

でも嫌な気はしない。
男として求められるのは名誉なことだ。
僕はそのまま彼女を抱き上げいつものベッドの上にそっと下ろした。

「エマ、君は悪い子だね」

幼馴染、そう言って彼女が僕を求めてくるようになったのは何年前からだろう。
物心がつき気付いた時には彼女は白くて柔らかい肌を曝け出して僕の名前を呼ぶようになった。

「ふふっアルにだけよ?こんなことするの」
「当たり前だよ、もし僕以外にいたら発狂してる」
「かわいい。私にはアルバートだけ、貴方にも私だけでしょう?」

彼女の服を脱がせていれば、エマは縋るような目で真っ直ぐに僕を見る。

一瞬、脳裏にシャロンの顔が思い浮かぶ。
清く正しく美しすぎる彼女が僕にとっては重い存在だ。完璧で優秀な人間の側にいるのは辛い、自分が無能であると思い知らされるから。

(兄さんにそっくりだ)

兄のヴィンセントもまた彼女と同じ「選ばれし優秀な人間」だ。人気者の兄の隣に立つ僕はオマケのように昔から扱われている。

(でも、僕はになるんだ。兄さんが伯爵で、僕が公爵……ようやく兄さんに勝てる!)

そう、シャロンと結婚すればロットバレン家を継ぎ公爵となれる。そうすれば財はもちろん地位も名誉も手に入るんだ。

「アル?聞いてるの?」

そのためにはこの関係を知られないようにしないと。

「……エマ」
「なぁに?」
「待っててね。いつでも君と一緒にいられるように僕も頑張るから」
「ふふっ、ありがと」

ふにゃっと微笑む彼女にそっと口付ける。エマとは結婚しない、でもずっと側にいたいし彼女の願いは全部叶えてあげたい。

(公爵になってしまえば何とでもなるんだから)
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