【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

文字の大きさ
8 / 22

しおりを挟む

ヴィンセントとの約束通り私は急いで夜会の準備を進めていた。

招待客のリスト、料理の手配、もてなし役の教育や綿密な打ち合わせまで全て自分で行うのが公爵家の掟。
『当主たるもの、このくらい出来て当然だ』
それがお父様の口癖。

(長年の教育の賜物ね、急に決まったとはいえ我ながら何とかしちゃうのが恐ろしいわ)

学校に仕事に準備。
正直にいうとかなりハード、でもやると決めた以上は何が何でも完遂したい。

(それに、ヴィンセントと約束したから)

きっと彼の事だ、ちゃんと今後のことをしっかり考えて私に頼んで来たと思う。

「お嬢様」

夜会まで3日を切った日。
いつものように自室で書き物をしていれば、一人の侍女が部屋にやって来た。

「どうしたの?」
「旦那様がお呼びでございます」
「お父様が?」

珍しい、というか屋敷にいらっしゃったのね。
公爵という立場柄、お父様は王宮に出向いたり領地を視察したり忙しい身だ。そんなお父様が私を呼び出すなんて……

「分かったわ、すぐに向かうと伝えて」
「かしこまりました」




*****

久しぶりに顔を合わせたお父様は、深刻な表情で俯いていた。

「お、お父様……?」
「……はぁ」

大きなため息。
いつにも増して疲れた顔をしている。

「シャロン」
「何でしょうか」
「お前、ここ最近のキュレッド家について何か知ってた事はあるかい?」
「えっ……いいえ、ただ資金繰りが厳しいから援助額を上げてくれとしか言われていませんけど。もしかして何か分かったのですか」
「分かったなんてもんじゃない!」

お父様は力いっぱいテーブルを叩いた。

「アイツら、ロットバレン家の名前を使って好き放題しているそうじゃないか!」

激怒するお父様から聞いた話に、私もお母様も唖然としてしまった。

キュレッド家は徐々に散財が増したという。
似合いもしない高級な服と派手な装飾品を身にまとい、価値も分からぬまま高価な骨董品やアンティークな家具に手を出していた。
そして彼らの口癖は……

が爵位を継ぐから大丈夫』

そう。お父様が怒っているのはこれだった。

「ヴィンセントなら良い、だがその口ぶりはまるでアーノルドにも爵位が与えられるかのよう。つまり、ロットバレン家の次期当主があの恥知らずになると周りに言い回ってるんだ!」
「お父様っ、落ち着いて?」

激昂するお父様を慌てて制する。

キュレッド夫妻はこの婚約が決まった瞬間、必然的に爵位を継ぐのはアルバートだと確信したらしい。この国では一般的に爵位は男性が継ぐ。もしその家に女児しか産まれなかった場合は、他の家より婿を貰いその男性に爵位を譲るケースが多い。

だが、爵位の譲渡は全て現当主の一存だ。

(実際にロットバレン家の歴史上、女性が爵位を継承した例もあるし……いやでもあの二人がその事例を調べ上げてるとは考えにくいわね)

あくまでうちは『実力主義』
男であろうが女であろうが、能力のない者はこの家に必要ない。

「しかもうちが面倒を見ている店を訪れては、さも自分たちが公爵家のような顔で商品を手にするそうだ。しかも代金を払わずにだ!」
「まぁ……」
「あり得ないわね」

ロットバレン家が面倒を見ている店や飲食店は少なくない。彼らはそこを訪れては「いずれ息子が当主になるんだから」と半ば強引にタダで貰おうとするらしい。
商人たちからしてみればいい迷惑。
でも世話になっているロットバレン家の頼みを断ることも出来ず、ニコニコと商品を差し出していたらしい。

「やっている事が半グレと同じね」
「全くだ。今後商人たちにはキュレッド夫妻とアルバートが来たら追い返すように話をした」

お父様の疲れた顔の意味が分かった。
きっと商人達は直接私たちに相談出来なかったのだろう。

「一ついいかしら。私もね、婦人会の奥様たちから聞いた噂話なんだけれども」

お母様は暗い表情で小さく手を挙げる。

「先月アグニール侯爵夫人が開いた夜会にキュレッド夫妻とアルバートが参加したそうなんだけど、その時ラングレー家のお嬢さんも一緒に来たそうなの」
「ラングレー嬢と?」
「ええ、しかも事前連絡もなしに突然」

驚愕する。
アグニール侯爵夫人と言えば社交界じゃ顔が広いことで有名な貴族だ。その夜会に無断で同行者、しかも身内でない人間を連れて行くなんて。

「侯爵夫人は唖然としたそうよ。男爵令嬢であるその子、夫人に向かって何て言ったと思う?」
「え……分からないわ、分かりたくないけど」
「『アルバートを今後とも宜しくお願いします』ですって。まるで自分が彼の妻のように振る舞って、しかも夫人にそのような態度よ?」

考えられないわ。
お母様は身震いするマネをした。

貴族の世界では礼儀が最も重要。
本来であれば男爵令嬢であるラングレー嬢が格上の侯爵夫人に話しかける事自体あり得ない、初対面であろうアルバートですら怪しいものだ。
そんな夫人相手に宜しくだなんて……

「周りのご婦人たちもキュレッド家とは今後関わらないようにするそうよ。まぁ無理はないわね」
「私も同じ立場だったらそう言うわ」

常識知らず。
そんな爆弾を抱えた人間たちに付き合ってられないわ。

「やりたい放題のお嬢さんね、ラングレー嬢は」
「キュレッド家とは昔から親しい仲のようだから勘違いしているのよ」

その調子じゃ私と会った時も同じことを言いそうだわ。
しかし、アルバートだけが非常識かと思えば両親も幼馴染もそんな調子とは先が思いやられる。

「ヴィンセントが家を出て行ったのも無理ないわ」
「そうそう、そのヴィンセントなんだがね」

お父様は思い出したように言う。

「ここに来るそうだよ」
「い、今からですか?!」
「ああ。彼と今後について語らおうと思ってね」

ニコニコ笑うお父様。
お母様も怒っていた顔から一転して柔和に戻る。

(そんな突然……顔を合わせるのだって久しぶりなのに全然準備出来てないわ!)

「私、ちょっと身を整えてきます」
「あらあら」
「ん?そのままで良いじゃないか」
「良くないです!」

化粧をし直して髪も結び直さなきゃ。
彼に会う時くらいは完璧な姿でいたいもの。

私は急いで部屋へと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「可愛げがない」と婚約破棄された公爵令嬢ですが、領地経営をしていたのは私です

希羽
恋愛
「お前のような可愛げのない女との婚約は破棄する!」 卒業パーティの会場で、婚約者である第二王子デリックはそう宣言し、私の義妹ミナを抱き寄せました。 誰もが私が泣き崩れると思いましたが――正直、せいせいしました。 だって、王子の領地経営、借金返済、結界維持、それら全ての激務を一人でこなしていたのは「可愛げのない」私だったのですから。 「承知しました。では、あとはミナと二人で頑張ってください」 私は手切れ金代わりに面倒な仕事を全て置いて国を出ました。 すると、国境で待っていたのは、隣国ガルガディア帝国の冷徹皇太子ことクライド様。なぜか彼は私を溺愛し、帝国で最高の地位と環境を与えてくれて……。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

処理中です...