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第7話 決戦の幕開け 〜義妹の涙は、実力主義の帝国では通用しません〜
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ガルガディア帝国の皇城大広間。
数千の魔法シャンデリアが輝くその場所は、大陸中から集まった貴族たちの熱気で満ちていた。
「あれが、噂の……」
「なんと美しい。それに、あの聡明そうな瞳……」
私、アリアがクライド様にエスコートされて会場に入った瞬間、さざめきが走った。
ミッドナイトブルーのドレスは、クライド様の純白の礼装と対になり、まるで夜空と月のような調和を生み出している。
注がれる視線は、かつての実家で感じた「嘲笑」ではない。「畏敬」と「称賛」だ。
「堂々としていればいい。君は、この国の誰よりも価値がある」
クライド様が耳元で囁き、腰に回した手に力を込める。
その温もりに安堵した、その時だった。
「お姉様っ!!」
静粛な会場の空気を切り裂くような、甲高い声が響いた。
貴族たちが顔をしかめて道を開ける。
そこから、ピンク色のドレスを纏ったミナと、その後ろで気まずそうにしているデリック殿下が姿を現した。
ミナは私を見るなり、頬を膨らませて駆け寄ってきた。
「ひどいじゃない! こんな華やかなパーティがあるなら、どうして私を招待してくれなかったの!? 私、入り口で止められそうになったのよ!」
ミナは私の目の前で仁王立ちになり、ジロジロと私のドレスを睨みつけた。
「それに、何そのドレス! すっごく綺麗……。ねえ、ズルいよ。お姉様だけそんな高いドレス着て! 私なんて、馬車の中でシワになったドレスしか持ってないのに!」
「……ミナ。ここは他国の公的な場ですよ。声を潜めなさい」
「だってぇ! お姉様が家のお金を全部持って逃げるから、新しいドレスも買えなかったんじゃない! みんな聞いてください! この人、ひどいんです!」
ミナは周囲の貴族たちに向かって、いつものように「ウルウルした瞳」を向けた。
両手を胸の前で組み、可憐な被害者を演じる。
「お姉様は、私をいじめて追い出したんです! 仕事を全部放り出して、家の金庫を空にして逃げたの! おかげで私とデリック様は、ご飯も食べられないくらい困ってるんですぅ……っ!」
目じりに涙を浮かべるその演技は、故郷の学園では無敵だった。
誰もがミナに同情し、私を悪者にした。
デリック殿下も、勝ち誇った顔で私を見ている。「さあ、どうだ」と言わんばかりに。
しかし――。
会場に流れたのは、同情の声ではなかった。
凍りつくような沈黙と、刃のような侮蔑だった。
「……なんだ、あの無礼な小娘は?」
「他国の王族らしいが……教養のかけらもないな」
「アリア様が仕事を放り出した? 逆だろう。あれほどの才女を使い潰して追い出したのが、あの愚かな国だという噂は本当だったか」
帝国の貴族たちが、扇子で口元を隠しながら冷ややかに囁き合う。
ここ、ガルガディア帝国は完全実力主義。
「可愛さ」や「涙」だけで渡り歩けるほど、甘い世界ではない。彼らはすでに、私が短期間で成し遂げた業務改革や、予算立て直しの功績を知っているのだ。
「え……?」
ミナの動きが止まった。
期待していた「かわいそうに」「アリアが悪い」という声が、一つも上がらないからだ。
逆に、冷たい視線が突き刺さり、彼女は居心地悪そうに身を縮めた。
「ど、どうして……? なんで誰も助けてくれないの……?」
私は静かに扇を開き、一歩前に出た。
「お戯れを、ミナ。私が金庫を空にした? それは貴女が先月、『新作の宝石が欲しい』と言って勝手に持ち出した分でしょう? 帳簿の証拠も残っています」
「っ!? そ、それは……!」
「それに、仕事を放り出したのではありません。『解雇』されたのです。デリック殿下に、衆人環視の中で」
私が淡々と事実を述べると、周囲の貴族たちが「おお……」と納得の声を漏らす。
「なんと愚かな」
「宝石のために横領とは」
「アリア様のような傑物を解雇するとは、正気の沙汰ではないな」
四面楚歌。
ミナの顔が真っ赤に染まっていく。
彼女の最大の武器である「無知な可愛さ」は、ここでは「無能な愚かさ」としてしか映らない。
「う、うそよ……うそよっ! デリック様ぁ、なんか言ってよぉ!」
ミナが泣きついても、誰も手を差し伸べない。
私は冷ややかに見下ろした。
これが、貴女が甘えてきた世界の「外側」の現実よ。
「……待て」
その時、沈黙を破ってデリック殿下が前に進み出た。
妹の失態を挽回しようと必死なのだろう。顔を引きつらせながらも、虚勢を張って私を指差した。
「アリア! 口が過ぎるぞ! ミナはまだ子供なんだ、少しは配慮したらどうだ! ……まあいい。君が強がりたい気持ちは分かった」
デリック殿下は、呆れたように肩をすくめてみせた。
まだ、自分が優位だと思っているのだ。
「アリア、君を許してやる。僕の慈悲深い心に感謝して、今すぐ僕の元へ戻ってこい。そうすれば、今回の家出は不問にして、再び婚約者として――」
「『私の』婚約者に、誰の許しが必要だと?」
デリック殿下の言葉を遮ったのは、地獄の底から響くような低音だった。
それまで静観していたクライド様が、一歩前に出た。
ドッッッ!!
ただ前に出ただけで、空気が重く震えた。
圧倒的な覇気。
帝国の頂点に立つ者が持つ、王者の威圧感が会場を支配した。
「ひっ……!」
デリック殿下が悲鳴を上げて尻餅をつく。
クライド様は氷のような瞳で彼らを見下ろし、口角だけで嗤った。
「面白い余興だ。……続けろ、有象無象。私の愛しいアリアに対して、その薄汚い口で何を言おうとした?」
さあ、本当の処刑の始まりだ。
数千の魔法シャンデリアが輝くその場所は、大陸中から集まった貴族たちの熱気で満ちていた。
「あれが、噂の……」
「なんと美しい。それに、あの聡明そうな瞳……」
私、アリアがクライド様にエスコートされて会場に入った瞬間、さざめきが走った。
ミッドナイトブルーのドレスは、クライド様の純白の礼装と対になり、まるで夜空と月のような調和を生み出している。
注がれる視線は、かつての実家で感じた「嘲笑」ではない。「畏敬」と「称賛」だ。
「堂々としていればいい。君は、この国の誰よりも価値がある」
クライド様が耳元で囁き、腰に回した手に力を込める。
その温もりに安堵した、その時だった。
「お姉様っ!!」
静粛な会場の空気を切り裂くような、甲高い声が響いた。
貴族たちが顔をしかめて道を開ける。
そこから、ピンク色のドレスを纏ったミナと、その後ろで気まずそうにしているデリック殿下が姿を現した。
ミナは私を見るなり、頬を膨らませて駆け寄ってきた。
「ひどいじゃない! こんな華やかなパーティがあるなら、どうして私を招待してくれなかったの!? 私、入り口で止められそうになったのよ!」
ミナは私の目の前で仁王立ちになり、ジロジロと私のドレスを睨みつけた。
「それに、何そのドレス! すっごく綺麗……。ねえ、ズルいよ。お姉様だけそんな高いドレス着て! 私なんて、馬車の中でシワになったドレスしか持ってないのに!」
「……ミナ。ここは他国の公的な場ですよ。声を潜めなさい」
「だってぇ! お姉様が家のお金を全部持って逃げるから、新しいドレスも買えなかったんじゃない! みんな聞いてください! この人、ひどいんです!」
ミナは周囲の貴族たちに向かって、いつものように「ウルウルした瞳」を向けた。
両手を胸の前で組み、可憐な被害者を演じる。
「お姉様は、私をいじめて追い出したんです! 仕事を全部放り出して、家の金庫を空にして逃げたの! おかげで私とデリック様は、ご飯も食べられないくらい困ってるんですぅ……っ!」
目じりに涙を浮かべるその演技は、故郷の学園では無敵だった。
誰もがミナに同情し、私を悪者にした。
デリック殿下も、勝ち誇った顔で私を見ている。「さあ、どうだ」と言わんばかりに。
しかし――。
会場に流れたのは、同情の声ではなかった。
凍りつくような沈黙と、刃のような侮蔑だった。
「……なんだ、あの無礼な小娘は?」
「他国の王族らしいが……教養のかけらもないな」
「アリア様が仕事を放り出した? 逆だろう。あれほどの才女を使い潰して追い出したのが、あの愚かな国だという噂は本当だったか」
帝国の貴族たちが、扇子で口元を隠しながら冷ややかに囁き合う。
ここ、ガルガディア帝国は完全実力主義。
「可愛さ」や「涙」だけで渡り歩けるほど、甘い世界ではない。彼らはすでに、私が短期間で成し遂げた業務改革や、予算立て直しの功績を知っているのだ。
「え……?」
ミナの動きが止まった。
期待していた「かわいそうに」「アリアが悪い」という声が、一つも上がらないからだ。
逆に、冷たい視線が突き刺さり、彼女は居心地悪そうに身を縮めた。
「ど、どうして……? なんで誰も助けてくれないの……?」
私は静かに扇を開き、一歩前に出た。
「お戯れを、ミナ。私が金庫を空にした? それは貴女が先月、『新作の宝石が欲しい』と言って勝手に持ち出した分でしょう? 帳簿の証拠も残っています」
「っ!? そ、それは……!」
「それに、仕事を放り出したのではありません。『解雇』されたのです。デリック殿下に、衆人環視の中で」
私が淡々と事実を述べると、周囲の貴族たちが「おお……」と納得の声を漏らす。
「なんと愚かな」
「宝石のために横領とは」
「アリア様のような傑物を解雇するとは、正気の沙汰ではないな」
四面楚歌。
ミナの顔が真っ赤に染まっていく。
彼女の最大の武器である「無知な可愛さ」は、ここでは「無能な愚かさ」としてしか映らない。
「う、うそよ……うそよっ! デリック様ぁ、なんか言ってよぉ!」
ミナが泣きついても、誰も手を差し伸べない。
私は冷ややかに見下ろした。
これが、貴女が甘えてきた世界の「外側」の現実よ。
「……待て」
その時、沈黙を破ってデリック殿下が前に進み出た。
妹の失態を挽回しようと必死なのだろう。顔を引きつらせながらも、虚勢を張って私を指差した。
「アリア! 口が過ぎるぞ! ミナはまだ子供なんだ、少しは配慮したらどうだ! ……まあいい。君が強がりたい気持ちは分かった」
デリック殿下は、呆れたように肩をすくめてみせた。
まだ、自分が優位だと思っているのだ。
「アリア、君を許してやる。僕の慈悲深い心に感謝して、今すぐ僕の元へ戻ってこい。そうすれば、今回の家出は不問にして、再び婚約者として――」
「『私の』婚約者に、誰の許しが必要だと?」
デリック殿下の言葉を遮ったのは、地獄の底から響くような低音だった。
それまで静観していたクライド様が、一歩前に出た。
ドッッッ!!
ただ前に出ただけで、空気が重く震えた。
圧倒的な覇気。
帝国の頂点に立つ者が持つ、王者の威圧感が会場を支配した。
「ひっ……!」
デリック殿下が悲鳴を上げて尻餅をつく。
クライド様は氷のような瞳で彼らを見下ろし、口角だけで嗤った。
「面白い余興だ。……続けろ、有象無象。私の愛しいアリアに対して、その薄汚い口で何を言おうとした?」
さあ、本当の処刑の始まりだ。
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