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第8話 愚か者たちへの断罪、そして世界で一番幸せな婚約発表
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「あ、あ、……」
クライド様の圧倒的な覇気を受け、デリック殿下は床にへたり込んだまま、金魚のように口をパクパクさせていた。
全身から脂汗を流し、目の前の格の違いに震えている。
「聞こえなかったのか? 答えてみろ。私の『最愛の婚約者』に対し、貴様は今、なんと言った?」
クライド様が、氷の微笑を浮かべたまま一歩近づく。
その一歩だけで、デリック殿下はひっ、と短い悲鳴を上げて後ずさりした。
「ご、誤解だ! ク、クライド皇太子殿下! 私はただ、我が国の迷える子羊を連れ戻そうと……」
「迷える子羊? 違うな。貴様が捨て、私が拾い上げ、磨き上げた『至宝』だ」
クライド様は私の腰を抱き寄せ、見せつけるようにその長身を屈めた。
「貴様らの国の財政報告書を見たぞ。酷いものだな。アリアがいなくなってから、物流は滞り、結界は崩壊し、借金は膨れ上がる一方だ。……それを解決するために、我が国に泣きついてきたのだろう?」
「そ、そうだ! 我々は同盟国だ! どうか資金援助を……!」
「断る」
冷徹な一言が、断頭台の刃のように振り下ろされた。
「え……?」
「支援などするわけがないだろう。貴様らは、我が国が最も重要視していた『有能な管理者』を不当に追放したのだ。アリアのいない貴国に、投資する価値などない」
クライド様は冷たく言い放つと、周囲の貴族たちに向けて声を張り上げた。
「皆様、聞くがいい! この愚か者は、自身の無能さを棚に上げ、すべての功績を立てていたアリアを『可愛げがない』という個人的な理由で追放した。その結果が、今の彼らの国の惨状だ。……これほどの愚行、帝国貴族として看過できるか?」
ざわっ、と会場が沸き立つ。
貴族たちから、デリック殿下とミナに向けられる視線は、もはや侮蔑ですらなく、「汚物を見る目」そのものだった。
「救いようがないな」
「そのような判断力で国を背負うとは」
「アリア様が抜けた穴の大きさすら理解していなかったのか」
四方八方からの嘲笑。
デリック殿下の顔色が、土気色に変わっていく。
「そ、そんな……。アリア、嘘だろう? 君からも言ってくれ! このままでは僕は廃嫡されてしまう! 君も、故郷が滅んでもいいのか!?」
デリック殿下が私にすがるような目を向けてきた。
かつて、婚約破棄を宣言した時の傲慢な態度はどこにもない。ただの、情けない男がそこにいた。
私は扇を口元に当て、ゆっくりと首を横に振った。
「デリック殿下。申し上げたはずです。『サインをお願いします』と。……貴方はご自身の手で、私との縁を切り、破滅への同意書にサインをなされたのですわ」
「あ、あぁ……」
「それに、故郷が滅ぶ? ご安心ください。優秀な人材はすでに帝国へ引き抜いておりますし、善良な領民の受け入れ態勢も、クライド様が整えてくださいました。困るのは、貴方たち王族だけです」
私の言葉は、彼にとっての死刑宣告となった。
デリック殿下はガックリとうなだれ、その瞳から光が消えた。
「嫌よぉ! こんなの嫌ぁ!」
その時、沈黙を破ってミナが暴れ出した。
「私はヒロインなのよ!? 幸せになるはずだったの! なんでお姉様ばっかり! そのドレスよこしなさいよぉ!」
「……衛兵。つまみ出せ」
クライド様が短く命じる。
即座に屈強な衛兵たちが現れ、暴れるミナと、放心状態のデリック殿下の両脇を抱えた。
「離して! 私はデリック様の婚約者よ! 未来の王妃よぉ!」
「あ、アリア……アリアァァッ!!」
二人の叫び声は、重厚な扉の向こうへと消えていった。
後には、静寂と、どこか清々しい空気が残された。
「……騒がせてすまなかったな、アリア」
クライド様が、ふわりと私の髪を撫でた。
その表情は、先ほどの修羅のような形相とは打って変わって、とろけるように甘い。
「これで、過去の亡霊はいなくなった。……ここからは、我々の未来の話をしよう」
クライド様はその場にひざまずくと、懐から小さな箱を取り出した。
パカッ、と開かれたその中には、私の瞳と同じ色をした、大粒のサファイアの指輪が輝いていた。
「アリア・ローズブレイド。君の頭脳、君の精神、そして君という存在のすべてを愛している」
会場中の視線が、私たち二人に集中する。
緊張と、期待と、祝福の予感。
「君が望むなら、私はこの国の全てを使って君を甘やかそう。もう二度と、君に『可愛げがない』なんて言わせない。……私と結婚して、世界で一番幸せな妃になってくれるか?」
胸がいっぱいだった。
書類仕事ばかりしていた指先。愛想笑いが苦手な唇。
そんな私の「欠点」だと思っていたすべてを、この人は「愛しい」と言ってくれた。
私は涙をこらえ、満面の笑みを浮かべた。
きっと、今までの人生で一番、可愛げのある笑顔で。
「……はい、喜んで。貴方の有能なパートナーとして、そして最愛の妻として、生涯お仕え……いえ、お慕い申し上げます!」
わぁぁっ!!
会場中から、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
祝福の嵐の中、クライド様は私を抱き上げ、その唇を重ねた。
――こうして、私は冷徹皇太子の溺愛という、予想外のハッピーエンドを手に入れた。
元婚約者の国がどうなったかは、風の噂でしか知らない。
けれど、今の私には関係のないことだ。
だって私は今、忙しい公務の合間を縫って、愛する旦那様に全力で愛されるのに忙しいのだから。
クライド様の圧倒的な覇気を受け、デリック殿下は床にへたり込んだまま、金魚のように口をパクパクさせていた。
全身から脂汗を流し、目の前の格の違いに震えている。
「聞こえなかったのか? 答えてみろ。私の『最愛の婚約者』に対し、貴様は今、なんと言った?」
クライド様が、氷の微笑を浮かべたまま一歩近づく。
その一歩だけで、デリック殿下はひっ、と短い悲鳴を上げて後ずさりした。
「ご、誤解だ! ク、クライド皇太子殿下! 私はただ、我が国の迷える子羊を連れ戻そうと……」
「迷える子羊? 違うな。貴様が捨て、私が拾い上げ、磨き上げた『至宝』だ」
クライド様は私の腰を抱き寄せ、見せつけるようにその長身を屈めた。
「貴様らの国の財政報告書を見たぞ。酷いものだな。アリアがいなくなってから、物流は滞り、結界は崩壊し、借金は膨れ上がる一方だ。……それを解決するために、我が国に泣きついてきたのだろう?」
「そ、そうだ! 我々は同盟国だ! どうか資金援助を……!」
「断る」
冷徹な一言が、断頭台の刃のように振り下ろされた。
「え……?」
「支援などするわけがないだろう。貴様らは、我が国が最も重要視していた『有能な管理者』を不当に追放したのだ。アリアのいない貴国に、投資する価値などない」
クライド様は冷たく言い放つと、周囲の貴族たちに向けて声を張り上げた。
「皆様、聞くがいい! この愚か者は、自身の無能さを棚に上げ、すべての功績を立てていたアリアを『可愛げがない』という個人的な理由で追放した。その結果が、今の彼らの国の惨状だ。……これほどの愚行、帝国貴族として看過できるか?」
ざわっ、と会場が沸き立つ。
貴族たちから、デリック殿下とミナに向けられる視線は、もはや侮蔑ですらなく、「汚物を見る目」そのものだった。
「救いようがないな」
「そのような判断力で国を背負うとは」
「アリア様が抜けた穴の大きさすら理解していなかったのか」
四方八方からの嘲笑。
デリック殿下の顔色が、土気色に変わっていく。
「そ、そんな……。アリア、嘘だろう? 君からも言ってくれ! このままでは僕は廃嫡されてしまう! 君も、故郷が滅んでもいいのか!?」
デリック殿下が私にすがるような目を向けてきた。
かつて、婚約破棄を宣言した時の傲慢な態度はどこにもない。ただの、情けない男がそこにいた。
私は扇を口元に当て、ゆっくりと首を横に振った。
「デリック殿下。申し上げたはずです。『サインをお願いします』と。……貴方はご自身の手で、私との縁を切り、破滅への同意書にサインをなされたのですわ」
「あ、あぁ……」
「それに、故郷が滅ぶ? ご安心ください。優秀な人材はすでに帝国へ引き抜いておりますし、善良な領民の受け入れ態勢も、クライド様が整えてくださいました。困るのは、貴方たち王族だけです」
私の言葉は、彼にとっての死刑宣告となった。
デリック殿下はガックリとうなだれ、その瞳から光が消えた。
「嫌よぉ! こんなの嫌ぁ!」
その時、沈黙を破ってミナが暴れ出した。
「私はヒロインなのよ!? 幸せになるはずだったの! なんでお姉様ばっかり! そのドレスよこしなさいよぉ!」
「……衛兵。つまみ出せ」
クライド様が短く命じる。
即座に屈強な衛兵たちが現れ、暴れるミナと、放心状態のデリック殿下の両脇を抱えた。
「離して! 私はデリック様の婚約者よ! 未来の王妃よぉ!」
「あ、アリア……アリアァァッ!!」
二人の叫び声は、重厚な扉の向こうへと消えていった。
後には、静寂と、どこか清々しい空気が残された。
「……騒がせてすまなかったな、アリア」
クライド様が、ふわりと私の髪を撫でた。
その表情は、先ほどの修羅のような形相とは打って変わって、とろけるように甘い。
「これで、過去の亡霊はいなくなった。……ここからは、我々の未来の話をしよう」
クライド様はその場にひざまずくと、懐から小さな箱を取り出した。
パカッ、と開かれたその中には、私の瞳と同じ色をした、大粒のサファイアの指輪が輝いていた。
「アリア・ローズブレイド。君の頭脳、君の精神、そして君という存在のすべてを愛している」
会場中の視線が、私たち二人に集中する。
緊張と、期待と、祝福の予感。
「君が望むなら、私はこの国の全てを使って君を甘やかそう。もう二度と、君に『可愛げがない』なんて言わせない。……私と結婚して、世界で一番幸せな妃になってくれるか?」
胸がいっぱいだった。
書類仕事ばかりしていた指先。愛想笑いが苦手な唇。
そんな私の「欠点」だと思っていたすべてを、この人は「愛しい」と言ってくれた。
私は涙をこらえ、満面の笑みを浮かべた。
きっと、今までの人生で一番、可愛げのある笑顔で。
「……はい、喜んで。貴方の有能なパートナーとして、そして最愛の妻として、生涯お仕え……いえ、お慕い申し上げます!」
わぁぁっ!!
会場中から、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
祝福の嵐の中、クライド様は私を抱き上げ、その唇を重ねた。
――こうして、私は冷徹皇太子の溺愛という、予想外のハッピーエンドを手に入れた。
元婚約者の国がどうなったかは、風の噂でしか知らない。
けれど、今の私には関係のないことだ。
だって私は今、忙しい公務の合間を縫って、愛する旦那様に全力で愛されるのに忙しいのだから。
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