「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第13話:勇者廃業。そして全世界にバレた「ハリボテ」の真実

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 ――ドサッ、ドサッ、ドサッ。

 辺境の森の出口付近。
 泥だらけの人間が三人、ゴミ袋のように吐き出された。
 シロ(フェンリル)とクロ(古竜)による、手厚い「お見送り」の結果である。

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」

 勇者ライオネルは、震える足で立ち上がろうとして、泥に滑って転んだ。
 全身打撲に、精神的な摩耗。ミスリルの鎧はスクラップ同然にひしゃげ、自慢の金髪は見る影もない。

「最悪……あたしの服、ドロドロじゃない……」
「剣が……俺の剣が……」

 ルルと剣士も放心状態だ。
 だが、彼らの地獄はここからが本番だった。

 ブブブブブッ……!
 泥の中に落ちていたルルのスマホが、異常な振動を始めた。
 通知の嵐だ。

「な、なによこれ……?」

 ルルがおそるおそる画面を見る。
 そこに表示されていたのは、SNSのリプライ、DM、そしてニュースアプリの速報通知だった。

 【速報】勇者ライオネル、配信中に土下座! Sランク詐称疑惑が浮上
 【炎上】元メンバーへのパワハラ、給料未払い、手柄の横取り……元関係者が次々と暴露
 【悲報】チャンネル登録者数、異例の「マイナス」記録へ

「ひっ……!」

 ルルがスマホを取り落とす。
 さきほどの「重力土下座」の配信は、アーカイブとしてネットの海に永遠に刻まれた。
 それだけではない。
 あの配信を見たかつての依頼人や、ライオネルにいじめられていた元ギルド職員たちが、一斉に声を上げ始めたのだ。

『あの時の討伐成功、やっぱりジンの魔法のおかげだったんだな』
『ライオネルの手柄だと言われてたけど、映像見返したら全部ジンがサポートしてるわ』
『こいつ、打ち上げの代金をいつも「ツケ」にして逃げてたぞ』
『脱税疑惑も出てきたぞ』

 ダムが決壊したように、過去の悪事が全て噴出していた。
 「勇者」というメッキが剥がれ、中から出てきたのはただの醜悪な小悪党だった。

「お、おいルル! ギルドに連絡しろ! これは誤解だ、ジンの捏造だって言えばまだ……!」

 ライオネルが縋るように叫ぶ。
 だが、ルルは冷ややかな目で彼を見下ろした。

「……触らないでよ、犯罪者」
「は?」
「あんたのせいで、あたしのキャリアもめちゃくちゃよ! どうしてくれんの!? 詐欺師! 無能! ペテン師!」
「な、なんだとぉ!? お前だってノリノリだったじゃないか!」
「あたしは騙されてた被害者なの! ……そうよ、これから配信して『脅されてました』って泣けば、まだ助かるかも……」

 ルルはブツブツと呟きながら、壊れた杖を引きずって王都の方角へと歩き出した。
 剣士もまた、無言でライオネルに背を向けた。

「お、おい! 待てよ! 俺を置いていくな! 俺は勇者だぞ! これから復活するんだ!」

 ライオネルの絶叫が虚しく響く。
 誰も振り返らなかった。
 残されたのは、巨額の違約金請求と、社会的信用の喪失、そして二度と消えない「土下座動画」のデジタルタトゥーだけ。

 数日後。
 冒険者ギルドは『シャイニング・ブレイバーズ』の解散と、ライオネルのライセンス永久剥奪を公式に発表した。
 理由は「虚偽報告」および「配信規約への重大な違反」。
 かつて栄華を極めた勇者は、路地裏の借金取りに怯えるただの浮浪者へと転落したのだった。

 ◇◇◇

 一方その頃。
 辺境の廃棄ダンジョン。

「ふんふんふ~ん♪」

 俺は鼻歌交じりに、畑で採れたばかりの「ダンジョン芋」を収穫していた。
 重力耕運のおかげで、土はふかふか、芋は丸々と太っている。

「シロ、クロ! おやつだぞー」

 俺が呼ぶと、森の奥から銀色の風と黒い暴風が飛んできた。
 二匹は俺の前で「おすわり」をして、尻尾(片方は極太)を振る。

「はい、蒸かし芋。熱いから気をつけろよ」

 ホクホクの芋を投げてやると、二匹は幸せそうに頬張った。
 平和だ。
 王都の方では何やら大騒ぎになっているらしいが、ここには関係ない。
 勇者たちがどうなったかは知らないが、まあ、自業自得だろう。

 俺はふと、タブレットを確認した。
 チャンネルの登録者数は【102万人】。
 動画サイトから「金の盾ゴールド・シールド」を送りたいという通知が来ていたが、住所がバレるので「受け取り拒否」にしておいた。

「ま、俺はここでのんびり暮らせればそれでいいしな」

 名声も、地位もいらない。
 美味しいご飯と、快適な住処と、ちょっとしたペットたち。
 それだけで十分だ。

 俺は満足げに空を見上げた。
 「地味で映えない」と言われた俺の魔法は、ここでは誰よりも役に立ち、誰よりも輝いている(主に整地とかマッサージで)。

 ――だが。
 俺はまだ知らなかった。
 「100万人登録」の影響力が、俺の想像を遥かに超えていることを。
 そして、この平和な辺境に、勇者よりも遥かに面倒な「お客様」たちが押し寄せようとしていることを。

 遠くの空から、王家の紋章が入った飛空艇が、こちらに向かって飛んできていた。
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