「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第14話:降りてきた王女様は、「重度のおっさん配信ファン」でした

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 巨大な影が、俺の自慢のダンジョン芋畑に落ちた。
 見上げれば、王家の紋章である「双頭の鷲」が描かれた豪奢な飛空艇が、轟音と共に降下してくるところだった。

「おいおい、着陸するならそこじゃねえ。芋が潰れるだろ」

 俺は眉をひそめた。
 勇者ライオネルの一件が片付いて、ようやく平穏な日常が戻ってきたと思ったのに。今度は国のお出ましか。

 俺の背後では、シロ(フェンリル)とクロ(古竜)が、喉の奥で低く唸っている。

「グルルル……(主よ、落としていいか?)」
「ワフッ(ブレスで消し炭にする?)」

 二匹ともやる気満々だ。
 俺は慌ててそれを手で制した。

「待て待て。いきなり喧嘩売るな。とりあえず話くらい聞いてやる」

 飛空艇が地響きと共に着陸し、タラップが下りる。
 整列した近衛騎士たちの間から現れたのは、煌びやかなドレスに身を包んだ、銀髪の美少女だった。
 王国の第二王女、アイリス・フォン・キングダム。
 国民的な人気を誇る「深窓の姫君」が、なぜこんなド田舎の廃棄ダンジョンに?

(……やっぱり、フェンリルとドラゴンを違法飼育してる罪で逮捕か?)

 俺が身構えた、その時だった。

「は、はわわ……っ!」

 王女アイリスは、俺――いや、俺たちの姿を確認した瞬間、その白磁のような頬を紅潮させ、口元を両手で押さえた。

「ほ、本物ですわ……! 本物の『おっさん』様と、シロちゃんとクロちゃんですわ……!!」

 ……は?
 おっさん様?

 俺がきょとんとしていると、王女は侍女の制止も聞かず、ドレスの裾を翻して駆け寄ってきた。

「こ、こんにちは! 初めまして! わたくし、いつも配信を拝見しております! ハンドルネーム『魔法少女マジカル☆アイリス』ですの!」

 俺は記憶を検索した。

 『魔法少女マジカル☆アイリス』。

 毎回の配信で、とんでもない額(たぶん国家予算レベル)の赤スパチャ(高額投げ銭)を連投してくる、視聴者ランキング1位の石油王……いや、石油王女だ。

「え、あの……?」
「はいっ! いつも『シロちゃんの肉球ぷにぷに』とかコメントしております!」

 王国の姫が何やってんだ。
 俺が呆気にとられている間も、王女の興奮は止まらない。

「ああっ、尊い……! 生で見ると破壊力が違いますわ! 見てくださいじいや、シロちゃんのあの無防備なお腹! クロちゃんのつぶらな瞳! そして何より、このやる気のないジン様の目! 解像度が無限大ですわ!」

 王女は俺たちの周りをくるくると回りながら、黄色い声を上げている。
 殺気立っていたシロとクロも、毒気を抜かれたように顔を見合わせている。

「ワフ?(こいつ、敵か?)」
「グルァ(いや、ただの変な奴だ)」

 俺はこっそりと起動していた配信タブレットを確認した。
 この状況は、もちろん配信されている。

『ファッ!? 王女様!?』
『マジカルアイリスの正体、姫だったのかよwww』
『国一番のVIPが認知厨だった件』
『「やる気のない目」が推しポイントなのか……』
『逮捕エンドかと思ったら、聖地巡礼だった』
『王族公認配信者爆誕』

 コメント欄も大混乱だ。
 俺は溜息をつき、興奮冷めやらぬ王女に声をかけた。

「えーと、姫様? 今日は一体何のご用で? まさかサイン色紙が欲しいとか言いませんよね」
「はっ! いけません、取り乱しましたわ」

 アイリス王女はコホンと咳払いをし、努めて真面目な顔を作った。

「実は、父上……国王陛下からの親書を持って参りましたの。単刀直入に申し上げます」

 彼女は一歩踏み出し、俺の手をギュッと握りしめた。

「ジン様。この土地を、王国の『特別保護地区』……いえ、『聖域』として認定させてくださいません? そして、できればわたくしをここに住まわせて……いえ、弟子にしてくださいまし!」
「……はい?」

 俺は耳を疑った。
 聖域? 弟子?
 何を言っているんだこの姫は。

「お断りします」

 俺は即答した。
 面倒くさい。絶対に面倒くさい。
 王族なんて関わったら、スローライフが崩壊するに決まっている。

「ええっ!? 即答!? 王女の頼みですのよ!?」
「知ったことですか。俺はここで静かに暮らしたいんです。お引き取りください」
「そ、そんなぁ……! ああっ、待ってください、せめてシロちゃんのモフモフを一回だけでも! 一度吸わせてもらえれば帰りますからぁ!」

 王女の威厳もへったくれもない悲鳴が響き渡る。
 だが、俺たちのドタバタ劇を冷ややかな目で見ている人物が、飛空艇からもう一人降りてきていた。

「……ええい、見苦しいぞアイリス様!」

 鋭い声と共に現れたのは、軍服に身を包んだ神経質そうな男だった。
 髭を蓄えたその顔には、俺たち「平民」と「魔獣」に対する隠しきれない軽蔑が浮かんでいる。

「私は軍務大臣のゲルマンだ。……貴様がジンだな? 王女様は下手に出ているようだが、私はそうはいかんぞ」

 ゲルマン大臣は、背後の近衛兵に目配せをした。
 ガチャリと、無粋な鎧の音が響く。

「そのフェンリルとドラゴン、危険生物として国軍が接収する。大人しく引き渡せば、貴様の不敬罪は不問にしてやろう」

 ……あーあ。
 せっかく姫様が場を和ませてくれていたのに。
 俺はちらりとシロとクロを見た。
 二匹の目が、一瞬で「肉をねだる犬」から「捕食者の目」に変わっていた。

「グルルル……(主よ、こいつは食っていいか?)」
「ワフッ(骨までしゃぶる)」

 俺は小さく首を横に振った。まだだ、まだ早い。
 だが、俺の口元には自然と冷ややかな笑みが浮かんでいた。

「接収、ですか。……やれるものなら、やってみればいい」

 平和なスローライフは、どうやら前途多難なスタートになりそうだ。
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