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1stフェーズ 始
No.14 帰るまでが社会科見学です
しおりを挟むウルティメイト社の代表執行役のリリィからユキチカを引き渡す話を持ち掛けられるジーナ達。
リリィ達の目的はユキチカを利用し、彼の育った故郷であるインファマス刑務所を手中に収めることだった。
一触即発の空気を打ち破って現れたのは忽然と姿を消したユキチカだった。彼は何事も無かったようにジーナ達を連れてエレベーターに乗り下の階へと降りて行く。
閉じたエレベーターの扉を確認して部屋に戻るリリィと姫塚。
「ふぅ、まさかの登場だったねー」
「名演技でしたね」
二人は先ほどの部屋よりも更に奥の部屋へと向かう。
「中々の強敵ぞろいだったね。うちに欲しいくらい」
「あの鬼丸ユキチカは一体どうやってエレベーターを使用したのでしょうか」
姫塚は手元の端末を操作し始めた。
「監視カメラの映像をチェックしていますが、彼はどこにも映っていません。直通エレベーターの映像にも……一体どこから」
「さあね、もしかしたらそのカメラの映像もいじられているのかも」
姫塚は社内の映像をチェックしていた、だがユキチカが学校の集団から抜け出したその後はどこにも彼の姿が映っていなかった。
「そんな事は」
「ありえない?」
リリィはそう言ってため息をつく。
「ふぅ、彼に対して私達の常識を当てはめるのはやめておこう。なんせあの刑務所で育てられたんだ。それにあの身体、彼個人が持つ技術は我々の知識の先を一体どれほど行っているんだろうね」
リリィはそう言って部屋の奥へと向かう。姫塚も後について部屋へ。
奥の部屋には個人用のデスクと作業用のPCが置かれており、他には外に向かって配置されたソファだけ。これだけ立派なビルの最上階にあるしてはなんとも質素な部屋だ。
「そもそもあの直通エレベーターを当たり前のように操作している時点でもう我々のセキュリティなんて彼の前じゃあ意味をなさないという事じゃないか。本当どうやったんだろうねぇ。彼の頭の中にそういうツールが内蔵されているとか?システムに侵入された形跡も無い、それともこうなる事を予知して準備してたとか?」
色々と仮説を立てながらジャケットを脱ぐリリィ。
「いずれにせよ、セキュリティ向上のための見直しが必要ですね」
「彼個人に合わせて調整ってのはあまりにも酷な話だとはおもうけどね。まあ検討ぐらいはしてもらうよう、伝えておけば良いんじゃないかな」
リリィが脱いだジャケットを受け取り丁寧にハンガーにかける姫塚。
「鬼丸ユキチカ……彼はきいていた以上の存在のようだね。まあ色々と謎は残るが、あのお方が求めるのも分かる気がするな」
大きく伸びをするリリィ。
「んーっ、あのアンドロイド達にも悩ませられるねぇ。好き勝手やってくれる、板挟みは苦労するな」
リリィと姫塚はソファに座った。
「にしてもさっきは一発くらいブン殴られるかと覚悟したよ。あの二人の剣幕凄かったね、でも踏みとどまるなんて最近の子は大人だねぇ」
ネクタイを緩め、横になるリリィ。
「そうなれば私があの子達を生かしては返しません」
姫塚は彼女に膝枕をして、そう言った。
「姫塚、さっき銃取り出しそうとしたろ?君ももう少し大人になって頂きたいね、大企業の秘書が学生相手に発砲事件なんて、洒落にならんよ」
リリィは姫塚が着ているジャケットのシャツの間に手を入れる。
「あっ、いきなり人の懐をまさぐるなんてっ」
姫塚は嬉しそうにそう反応した。
彼女のジャケットの下には、ホルスターに収められた銃があった。
鈍く黒い光を反射させるその銃に触れるリリィ。
「もしそうなれば、君を守るために全力でもみ消すけどね」
「ふふ、ありがとうございます。リリィさん」
姫塚はリリィの頭を右手で優しくなでながら本日の予定を確認していた。
「今日の業務はこれで終わりですが」
「本当かい?はぁ、テクノロジー最高!面倒で無駄話ばかりの会議もないし、来客の対応はアンドロイドや部下に任せればいい。それにあのお方もいるこの世界、はぁ、なんて素敵な場所なんだここは」
仕事が終わったことに対して嬉しそうなリリィ、そんな彼女をみて姫塚は口を尖らせてこういった。
「あー、私の前で他の人の話しちゃうんですか?」
「ふふふ、嫉妬した君も素敵、新しい発見だね。こうやって君とソファでくつろげるのもこの世界が素敵だという理由だよ、とっても大事なね」
姫塚の懐にやった手をそのまま彼女の顔に移動させ、ゆっくりと輪郭をなぞるように撫でるリリィ。
「っもう、本当にお上手なんですから」
姫塚は頬を赤らめた。
「ふう、それじゃあ君も疲れているだろうし。一緒に少し休もうか」
「はいっ」
その部屋の横に備え付けられた部屋、リリィの寝室。
二人は手を繋ぎその部屋へと入って行く。
一方その頃ユキチカ達はロビーに戻り先生たちと共にバスに乗り込んでいた。
「うう、またバスね。みんな、先生がダウンしてても気にせず学校についたら解散してくれて大丈夫ですからね。最後の点呼はユキチカ君に頼んであるので」
先生はバスに乗り込む生徒たちにそう言った。
まだバスは発信していないが既に彼女は少し気分が悪そうだ。
「う、来るときの記憶がフラッシュバックして……」
するとユキチカがヒトツバシ先生に手を差し出す。錠剤が紙の上に置かれた状態で掌の上にあった。
「先生、これ。車酔いなくなるよ」
ユキチカがヒトツバシ先生に酔い止め薬を渡す。
「ありがとうユキチカくん、酔い止め持ってるなんて偉いね。先生自分の忘れて来ちゃって、先生猛省」
先生はそう言って礼を言ってその薬を受け取った。
「酔い止めなんて持ってたの?でもユキチカ使わないよね?」
身体が機械であるユキチカが乗り物酔いをするとは思えなかった。
ジーナは席につき後ろに座っているユキチカに話しかける。
「ううん、あれ持ってきてないよ?さっき作ったのカフェに素材あったから」
ユキチカはおかしを食べながらそう答える。
ウルティメイト社のカフェで扱われている商品をいつの間にか持っていた。
「ふーん、ん?今なんて?」
「さあ!しゅっぱーつ!帰るまでが遠足!」
バスのエンジンがかかる。
「社会科見学な、というかさっき何て言った?作ったって言った?まって!」
ジーナは席から立ち上がって先生の方をみる、しかし先生は既にユキチカから貰った薬を飲んだところだった。
「んん!凄いですね!フワフワした気持ち悪い浮遊感が無くなりました!」
「効いてる感じだよ」
ジーナの隣に座るシャーロットが先生の様子をみてそう言った。
「え、ああ、大丈夫なんだ。良かった」
「もちろん!効果バツグン!」
ジーナ達の後ろの席でユキチカが胸を張った。
「先生、なんだか今ならどんな大荒れの海でもサーフィンできそうよ!!三半規管が研ぎ澄まされてしょうがないわ!!」
少しばかり効きすぎているようだ。
「やっぱダメじゃない?」
「ユキチカ様ッ!!一体なにをされたんですか!!」
ウルルがユキチカを掴んで揺らす。
「”ウルルよい”する~」
そんなやり取りをしながらユキチカ達は帰路についた。
こうして色々見れた社会科見学は終わったのであった。
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