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1stフェーズ 始

No.13 怪しいお偉いさんと交渉

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目を離した隙にいなくなっていたユキチカ。
ジーナ、ウルル、シャーロットの三人は彼を探していると、突然黒スーツを着た女性に遭遇する。

その者はユキチカの名前を出し、3人を引き留めた。

「申し遅れました、姫塚と申します。ウルティメイト社で秘書をしております。カラ・ジーナ様、シャーロット様、さぁこちらに鬼丸ユキチカ様について弊社の者からお話したい事がございます」

姫塚と名乗る女性はすぐ後ろにあったエレベーターに手を向けた。

「あなたも付いて来て良いですよ、No.13U223577」

3人は警戒しながらもエレベーターに乗り込んだ。


最上階の80階に到着。エレベーターを降りて姫塚は正面の扉へと向かう。

正面の扉は3メートル程あり、真っ黒だった。無機質な白で統一された空間に真っ黒なその巨大な扉は嫌と言うほどの存在感を放っていた。

「お客様をお連れしました」
姫塚が扉に手をかざすと、ゆっくりと扉が開く。

部屋の奥には大きなデスク、手前には来客用と思われるテーブルと椅子が用意されていた。壁にはよく分からない抽象画が数点程飾られていた。

「どうぞこちらにお掛けください」
姫塚は3人を先に部屋へと入らせ、用意されていた席に座るように案内する。


恐る恐る3人は席に腰をかけると、部屋の更に奥の扉から一人の女性が現れた。

「初めまして、代表執行役を務めております、リリィと申します」

リリィという女性は名乗ってから席に着く。
グレーのスーツを着て、ショートのブロンドヘア、青い瞳が美しい女性だ。

「ふふふ、そんな警戒しないでください。そうだ!喉乾きませんか?飲み物でも、お腹が空いているのでしたら何か持って来させましょうか?」

このリリィという女性、終始ニコニコと笑顔をしているが、それが胡散臭さに拍車をかけていた。

「結構です」
他の者に代わってジーナがそう返答する。

「さようで、では早速本題に入りましょう。鬼丸ユキチカ君の話です」
彼女は手を軽くパンッと叩く。

「是非彼を私達に任せて頂けませんか?」
彼女はそう言ってニッコリ笑った。

「任せる?」
突然の申し出に困惑するジーナ。

「そうです、彼は素晴らしい才能の持ち主です!」
リリィは3人の前に映像を映し出す。

それはあの路地裏でアンドロイド達に襲われた際の映像だ。

「この映像!」
「やっぱりあんた達が!!」
ジーナとシャーロットが立ち上がる。

「この件に我々は一切関係ありません」

「じゃあなんで映像を!!すぐに消された筈なのに!」
シャーロットが声を荒げる。

「貴女が私達に不信感を抱くのはよく分かりますよシャーロットさん。ですが我々は常に前に進んでいるのです、あなたも過去は過去として前に進まれては?」

「過去って?」
ジーナがそう言うと、リリィは彼女が話についてこれていない事に気付く。

「おや、お話されてなかったんですか?シャーロットさんがかつてウルティメイト社の研究機関に属していたと」

「ッ!!」
シャーロットが彼女の発言に対して何か言おうと口を開く、しかしその前にリリィが話を始めた。

「話がそれましたね。こちらの映像は確かに私達が削除したものです。いくら私共が犯人でないとは言え、アンドロイドは弊社の看板です。それをこのような悪用をされたとあれば信用に響きますからね」

「それでユキチカ様を任せるというのは?」
ウルルが最初にリリィが言った事に対して質問をする。

「アンドロイドが疑問を抱きますか、興味深い……」
リリィは少し驚いた様子でウルルの方をみた。

「はっ、申し訳ございません」
「謝らなくて良いよウルルちゃん。私たちもずっと気になってた事だから。きいてくれてありがと」
頭を下げるウルルの前に手をやり、ジーナはそう言った。


ウルルの質問に対してリリィは答えた。

「私達に任せてくだされば彼にとって最高の環境を用意します。ここ以上に彼の才能を活用出来る場所などありません。彼と私達が手を取り合えば、きっと世界を大きく躍進させることでしょう」

この回答に対してジーナは鋭くこう言い放つ。

「今の話に微塵も気持ちがこもって無かったんだけど。そんな建前を聞きたいんじゃない。本音は?」

「おや、これでもこういう話は得意な方なのですが、見抜かれましたか。どうです?将来はうちで働きませんか?本質に切り込める人材は貴重ですから」

リリィはその笑顔を変える事無く軽口を叩いてみせた。

「ふぅん、まず彼がどこから来たか、皆さんはご存知ですか」

「どこからって、たしか港町で……」
彼女の質問に対してジーナが答える。学校から離れた場所にある港町、そこから転校してきたと聞いていた。

「そうでしょうね。この場所の名は秘匿されていますからね」
リリィは別の映像をテーブルの上に映し出した。


そこに映し出されたのは波しぶきが舞う断崖絶壁に囲まれた建物。
その重々しい外見は要塞にも見える。

「彼の出身はここ、インファマス刑務所。世界でも指折りの犯罪者が収容される場所。ここに送られた者は世間では死者として扱われ、残りの人生をここで過ごす」
リリィは刑務所についての説明を始めた。

「ここにいる者たちはそんな立場ではありますが、世界中の権力者から仕事を引き受けているとか。まあ一級品の悪党はそれだけコネクションや実力もある、表沙汰にしたくない仕事をさせるのにはうってつけですからね。加えてここはどの国にも属さない。世界の様々な機関に入り込めている私達ですら、現状この刑務所には手を出せていないのです」

「ユキチカを起点として世界に顔が効くこの刑務所をどうにかしようって事ね……」
一連の話をきいたジーナはそう言った。

「ふふふ、理解が早くて助かります」
リリィは笑って答える。

その態度をみてシャーロットが怒りを再度あらわにした。
「いい加減にしてよッ!!アンタ達は人をなんだと思ってるの!」

「自分の過去が重なりましたか?何度も言うようにあれは事故、貴女の才能に責任はありません。そうだ!どうでしょう貴女達も鬼丸ユキチカ君と一緒にうちに来るのは!?そうすればずっと一緒にいれますよ」

リリィは怒るシャーロットに一切動じる事無く提案をする。

この神経を逆なでするような提案にシャーロットは更に怒りを募らせた。

「アンタはッ!!」
シャーロットが飛び掛かりそうな勢いになる、ジーナがそれを止める。

「シャロ!落ち着いて、気持ちは分かるけど、相手の挑発に乗らないで」
すると彼女達の背後にあった扉がひらいた。

「あっ、みんないた!」
ユキチカが開いた扉の向こう側からひょっこり現れる。

「ユキチカ様ッ!?」
「もーみんな探したよー」
「こっちのセリフだ!どこ行ってたの?」
ジーナとウルルはユキチカに駆け寄る。

少し遅れてシャーロットもユキチカの元へ。
「あれ、シャロなんか嫌な事あった?」
「え?ううん、大丈夫。ユキチカが無事でよかった」

ユキチカをみて姫塚とリリィは少しばかり驚いていた。

(いつの間に?ここに来る唯一の手段である直通エレベーターが動けばこちらに通知が来るはずなのに、いやそれ以前にあのエレベーターを使うには専用のパスが必要なのに)

リリィの方をみてユキチカが首を傾げる。

「あれ……?」
「……ど、どうも、鬼丸ユキチカくん」
平静を装っているが明らかに想定外のことに呆気に取られている様子のリリィ。

「あ!どうもはじめまして」
ユキチカは挨拶をして頭を下げた。

「みんな待ってるよー、いこ!」
そして彼は皆を連れてエレベーターの方へ向かう。

「さようならー!」
リリィと姫塚に向かって手を振るユキチカ。

「いいよ!別にそんなことしなくて」
「なんで?」
ジーナがユキチカの手を掴んで下ろさせた。

ユキチカ達を乗せたエレベーターは扉を閉じ、下へと向かった。
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