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閑話 昔の思い出を携えて
帰宅 (ファルside)
しおりを挟む2章 「はやる気持ち (セイルクside)」の改稿を行いました。それに伴って題を「羨望と期待 (セイルクside)」に変更しました。
閑話は章の名の通り、思い出についての話が多いです。
今回はネタバレ要素はありませんが、次回以降の閑話ではもう少し昔の話を取り上げる予定です。
前回同様、まだ見たくないという方は読まなくて大丈夫です。
ガタゴト ガタゴト
「……………はぁ」
俺は外の景色を眺めながら大きくため息をついた。
見慣れた景色、グラントに戻ってきた。
ルクレイシアで事情聴取を終えた俺は、早朝、ルクレイシアにある転移魔法陣からグラントに移った。
今はグラントの転移魔法陣から馬車で家に戻っている最中だ。
本当はクレアともう少しいたかったが、やることが残っているから仕方がない。
「公子様、ため息をつくのはやめてください。士気が下がります」
「はいはい」
俺のため息に対して苦言を呈した、補佐官のメルオンは向かいに座って小言を言ってくる。
メルオンは昔は俺の遊び相手として城に呼ばれていて、今は父親と同じように補佐官になって俺を支える旧友だ。
補佐官になってからは小言ばかり言ってくるが、俺のことを一番にわかってくれる。
クレアのところへ行けたのも、メルオンのおかげだったりする。
メルオンから目を逸らして、俺は窓から見える景色に目を向けた。
昨日、ルクレイシアが猛吹雪だったように、グラントも雪が降って、過去一番の寒さになっていた。
困窮している地や体の弱い者を持つ家庭から魔法石の嘆願書が来たり、寒さに耐えられずに大量に魔物が山から降りてきたりして大変だった。
魔法石は頼まれた分を支給し、魔物のほうも話を聞く限り酷い怪我人を出さずに討伐できたと聞く。
魔物に関しては逆に山に登る手間が省けたと父上が喜んでいたようだ。
父上も帰ってくるかもしれない。
そう思うと少し嬉しくて、俺はにやけてしまった。
「着きました」
御者の声で馬車の扉が開かれ、メルオンが先に降りて安全を確認してもらう。
確認が終わったメルオンは恭しくお辞儀して俺を迎える態勢になり、俺はそれを見て馬車を降りる。
この作業ができたのはクレアが来てからだ。
馬車を降り、御者を労って城に入ると、エントランスで母上が笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい。寒かったでしょう?」
「ただいま戻りました。雪は降っていましたが、ルクレイシアのほうが暖かかったですね」
簡単にひと言交わして談話室まで移ると、母上はメルオンと母上の懇意にしている侍女1人以外を下がらせた。
談話室の温かさにほっとしているのもつかの間。
がばっと抱きついてきた母上は俺の体をぎゅうっと抱きしめる。
「もう~本当に寂しかったのよ!1人だけクレアちゃんに会いに行くのもずるいわ!
………元気にしてた?」
「うん、元気だった。だから早く離して………」
母上はいつも表向きは淑女の手本として優雅な雰囲気と仕草をしているが、家族とメルオンたちの前では素を見せる。
子どもの頃から寒がりだから誰かにくっついて暖をとってきたらしい母上は、こうして心や体が寒いときは俺や父上に抱きついてくる。
おかげで反抗期のときは苦労した。
ようやく母上を剥がすことに成功した俺は母上の向かいに座って、メルオンが出したお茶を飲んで落ち着いた。
さすがに諦めがついた母上も席に座って美しい所作でお茶を飲んだ。
一旦落ち着くと、母上はいつものおっとりとした顔で微笑んだ。
「クレアちゃんもこのお茶好きだったから、懐かしくなっちゃったわ」
俺は母上の笑顔にクレアがここに来た頃を少し思い出した。
それに、このお茶は…………。
「母上は……………」
いつも思っていることを言おうとして、でも母上の笑顔が崩れるのが怖くて、俺はまた口を閉じた。
いつも、すんでのところで出なくなるこの言葉が、いつか言えたらいいと思うし、一生言えなくていいとも思ってしまう。
俺が何か言おうとしているのに気づいた母上が俺の顔を見てくれるが、俺はすぐに笑顔を見せた。
「すみません、疲れているので戻ります」
俺の一言で、メルオンと母上の侍女は察したように一瞬表情を歪ませた。
長年仕えていたら分かりたくなくても分かるものか。
それなら母上だって気づくはずなのにな。
「え?一緒に飲みましょう?」
母上は何も気づいていない様子でお茶を勧めてくる。
時間は関係ないのかもしれない。
興味の問題だ。
「いえ…………またの機会に」
俺は首を横に振ってそう告げると、談話室を後にした。
醜い感情が顔を出しそうになった。
「メルオン、悪いが少し休ませてくれ。その間に重要な書類とまだ猶予があるもので仕分けて持ってきてほしい。
あとは…………『影』の報告をまとめてくれ」
仕事をすればこの感情もどこかへ行く。
少し休んだら何もかも忘れて仕事をしよう。
俺は着ていた服を乱雑に脱ぎながらメルオンに指示を出す。
メルオンは俺の気持ちをなんとなく察している。
だから俺が談話室を出てから心配そうに見ている。
「………公子様、夫人は公子様のことを、」
あぁ、やっぱりわかっている。
俺はそこまで来てメルオンの口に手を当てた。
しっかり目を見て黙らせる。
「───わかってる。頼んだぞ」
「…………はい」
まだ何か言いたげな顔をしながらもメルオンは一度礼をして部屋を出た。
着替えて動きやすくなった俺は窓辺に置いた椅子に座って外を見る。
クレアと会ったからなのか、母上がクレアの話をしたからなのか。
昔の話を思い出した。
あの日も、今日のように吹雪の次の日で父上が討伐から帰ってくる日だった。
久しぶりに剣の稽古をつけてもらおうと喜んで出迎えに行った先にいたのは、父上と傷だらけの銀髪の少女だった。
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