追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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閑話 昔の思い出を携えて

*クレアのかくしごと (セイルクside)

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*今回の話は読むとネタバレ(?)になる部分が含まれています。

もし、最後の方まで真相を待っていたい方は読まないでください。
待っていられない、またはある程度知った状態で読み進めたい方は読んでください。





























クレアの旅立ちを見送った次の日、俺は学校の寮でいつもより遅く起きた。
事情聴取などの手続きで疲れが溜まっていたのかもしれない。

冬はまだまだ続くみたいだ。昼がほぼ近い今日も雪が降っている。
寒さに少し布団から出るのが億劫になりながら、俺はのそのそと着替えを済ませて、朝食を食べることにした。

食堂に行くとまばらではあるが食べている寮生がいて、こんな時間でも食べている人はいるものだったのかと驚いてしまった。
俺はミュゼの部屋があるほうをちらりと見てから朝食をとりに行った。

クレアが指名手配犯

ミュゼにそう言われたのが2日前。
正直信じられないし、信じたくもない。
クレアとの別れも少しぎこちなくなってしまった。

教えた張本人であるミュゼは風邪で寝込んで今日も部屋から出てこない。

クレアはフードで顔を隠す理由について、西に行くほど自分を探している人がいると言っていた。
探しているのは悪い意味でだったのだろうか。

このままわからないままにするのも嫌だと思って、俺は今日図書館に行くことを決めていた。
答えが見つかるかわからないけど、確かめに行くだけでも、この気持ちも晴れる気がする。

俺は食べ終えた朝食を厨房に戻して、すぐに図書館へ向かった。















「ない……………」

俺はがくりと項垂れた。

図書館に来て、俺は地理・歴史系統の棚からクレアの故郷であるアナスタシア王国をについて書かれた本を片っ端から読んだ。

クレアの出身というこの国は、7年前のクーデタで滅亡してトランスヴァール帝国に吸収されたと、当時騒がれていた。
正直なところ、俺はあのとき8歳でちょうど引き取られた辺りなだけあって忙しすぎて覚えていない。

だから調べようと思ったのに、出版年代が「あのクーデタ」よりも前のものしか置いていなかった。

きっと、クーデタ後から出たアナスタシア王国関連の本は国として取り扱っていないのだろう。
それが何故なのかはわからないが、そんな気がした。
俺はため息をついてから出してきた本を元の場所へすべて戻して図書館を出た。




「学校の図書室、大陸博物館…………名のあるところは全部行ったのか」 

俺は指を折って呟きながら雪の街中を歩く。
結局、国の管轄にはクーデタ以降のアナスタシア王国に関する本がなかった。
数週間前まで大陸博物館で企画展示されていた「滅びた国の遺物」も、国からの命令で当初の予定より早い段階で展示を終了したらしい。
何か掴めると思ったが手遅れだった。

どうしたものかと思いながら歩いて、俺はある店の前で止まった。
何かあるといつもここに来る癖は治っていないみたいだ。

カランコロン

扉を開けると備え付けられた錆びた鉄製のベルが鳴って、店主に来店を知らせる。

「いらっしゃ………セイルク?どうしたんだい」

店の奥から急ぎ足で出てきた店主、先生は俺を見て驚いた顔を見せた。
まあ、少し前にここには来ないって言ってたから驚かれるのも当然だ。
俺が店内に入って、立ち止まっているのを見て、先生はすぐに笑いかけてくれた。

「おいで」

手招きされてようやく動いた俺の体は、吸い寄せられるように先生のもとまで歩いた。
先生はカウンター前に来た俺を見て、近くの椅子を勧めて奥へ行った。

俺は言われたとおりに座って、あたりを見回す。
天井まである本棚にびっしりと入った本から漂う紙の匂い。
静まり返っていて暖かく心地のいい場所。
久しぶりだ。

久しぶりの空間を堪能していると、先生がコーヒーを淹れたカップを持ってきた。
差し出されたコーヒーを飲んで一息ついた俺はそのまま話を切り出した。

「実は今アナスタシア王国について調べてて、クーデタ以降の記載がある本が国が管轄している施設にはなかったんだ。
それで、歩いてたらここまで来てて……」
「ふむ…………」

俺がそう言うと、先生は少し考えるそぶりをしてから席を立った。
カウンターから出てきて、関係者用の扉の方まで行ってしまったため、俺も立ち上がって後を追う。
扉の奥は店のように整理されていなくて、段ボールの上やマットの上など乱雑に置かれていて、通路もないくらいに散らかっていた。

「足元に気をつけて」

先生に倣って少し進んだところで、先生は周辺の本を漁り始めた。
周りを見てみると、地図が中心の歴史本や地方の魔法書や神話が積まれていた。
ここにあるのだろうか。

勝手に触るのもいかがなものかと触れずに立っていると、先生が動いて本の山にぶつかった反動で近くにあった本が数冊落ちてきた。

拾い上げて戻そうと本を手に取って俺は見つけたと思った。

『アナスタシア王国の革命と変遷』
『新・詳説地図で見る世界史 西部編』

拾い上げた本は俺が探していたものだった。
年代を確認して1年以内に発行されているのもわかって、俺はすぐに立ち上がった。

「先生ごめん、これ借りる」
「え?探しものは見つかったかい?」
「うん」

俺はそれだけ言って先生を置いてすぐにカウンターで本を開いた。






『…………【大陸暦×××年の地図】
この年、西の勢力図が一気に変化した。
前頁に載せた地図と比較すると一目瞭然だが、ひとつの国がトランスヴァール帝国に飲み込まれているように見える。飲み込まれたのはアナスタシア王国。

西方の東に位置し、国土の4分の1をトランスヴァール帝国との間にある、カラギナ砂漠が占めていた。

砂漠の近くでは年中砂嵐が吹き、日の昇るうちは暑く、月の昇るうちは寒いという最悪な天候であり最高の防御壁のカラギナ砂漠を持っていた当国は、外部からの侵入が少なく、平和な生活を送っていたとされる。

7年前起きたこのクーデタは、トランスヴァール帝国と革命軍が手を組んだもので、革命後は領土を互いに割譲する密約が結ばれていたことが明らかになっている。
現在確認されている旧アナスタシア王国民は革命軍に所属していた者及びその家族のみで、他は革命時に殲滅したとトランスヴァール帝国が宣言している。

厄介な天候を持つカラギナ砂漠がトランスヴァール帝国領になると、トランスヴァール帝国は一気に勢力を増した。
ここ7年でトランスヴァール帝国は領土戦争をするようになり、西方の覇権を着々と握り始めている。』


『本書ではアナスタシア王国でクーデタが起こる前後にあった強い出来事を取り上げて紹介する。


………クーデタの起こる5年前、今から12年前。突然アナスタシア王国から信じられないほどの魔力が一瞬にして感知されたことが話題となった。
当時のことについて王国は何も発表していない。
以来2年間、王宮の近くにあった離宮が封鎖されたという内容が王国貴族の日記から発見されたが、真相は不明のままである。

…………クーデタ後、トランスヴァール帝国による王国派の国民殲滅が始まった。トランスヴァール帝国からの要請を受けた国はアナスタシア王国民を見つけたら直ちに捕えて連れてくることになる。
このクーデタと殲滅計画により殺害された王族を含む王国民の数は、国民の人口の7割、約300万人を超えたとされている(大陸暦○○○年現在)。
しかし、帝国はまだ殲滅しきれていないとした上で、以下の5人を指名手配とした。

リュカオン・カンゲイツ
ヘスティア=リューディア
シュナイ=アークリッド・アルディス
エルセ・ネリアン
クレア=モルダナティス

リュカオンは指名手配から数ヶ月で発見されて身柄が拘束されていたが、3年後に行方不明になった。
シュナイは指名手配されるより前に自決していたとされているが、死体は見つかっていない。
クレアはアナスタシア王国から北へ向かう道中で魔法攻撃による傷を残して死体となって出てきた。
残るヘスティアとエルセは行方をくらませ、生死すら判明していない。

次頁に添付した実際の指名手配の写真の人物を逃した者として、この5人は重要犯罪人として西部で指名手配されている。
ただし、この人物が国政に与えた影響はどの文献を探っても出てこないため、今ではトランスヴァール帝国の妄言と捉える者も少なくない』



そうして、隣のページには実際に写真が添付されていた。

長い銀髪に少し曇った水色の瞳の少女──────。

ひとつひとつ特徴を調べなくてもわかった。
幼いけれど、クレアだ。

それはつまり、ミュゼの言ってることが正しいことを証明したことになる。

俺は本を捲る手を止めて、写真をなぞる。
本当に、クレアが指名手配されている───────。


「あれ、クレアって…………?」

俺はそこでさっきまで読んでいた記述を読む。

『クレアはアナスタシア王国から北へ向かう道中で魔法攻撃による傷を残して死体となって出てきた』

このクレアは同姓同名か?
でも、それならわざわざ別の頁にする必要はない。
それに、この写真の人物は名前が明かされていない。

それは、もしかして、

「クレアは偽名………」

そうだとしか考えられない。
クレアは実際に指名手配されている。
けれど、名前は知られていない。


ずっとこの『クレア』の名前を借りて逃げ続けていたのか?
だとしても1人も名前を知らないのか?
クレアは何をしてしまったんだ?
クレアは本当に悪い人なのか?


考えることが多すぎる。
クレアは一体……何者なのだろうか。

すっきりするために始めたことだったが、俺の心に謎を残す結果となった。
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