追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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閑話 西に向かって

吹雪の宿で親睦会 2

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「私たちは皆で物資を貰いに行ってるんだね」
「物資を、ですか?」
「うん、私たち皆東方出身でね。
今はたくさんの国が争ってて物が足りないんだね。だから特産品を売りながら物を分けてもらってるんだよね」
「えっ、皆さん東方出身なんですか?」
「そうだね、何か不思議にしてるね」

吹雪が強まっていく中、クレアはチャトゥラの開催する親睦会に参加していた。
そこでチャトゥラ以外の仲間の商人も皆東方出身だと知って、クレアは驚いていた。

反応が意外だったのか、チャトゥラは首を傾げる。
クレアは興味津々といった様子でチャトゥラの疑問に答える。

「東方はあまり外に出ないと聞いたことがあって」
「あぁ、それは修行する人に多いね」
「修行、ですか?」

今度はクレアが首を傾げる番になると、チャトゥラは「リャン」と仲間の方に声をかけた。
リャン、と呼ばれて出てきたのは商人というよりは戦い慣れた騎士のような風貌をした女性だった。
細い体だが、均一に鍛えられた筋肉がタイトな服を通して伝わってくる。

リャンはチャトゥラの横に来て跪いた。

「お呼びですか」
「いやね、今回の仲間でシャナは君だけだからね。説明に呼んだんだよね」
「左様でございましたか」

チャトゥラが人差し指をくい、と上に動かすとリャンはすぐに立ち上がった。
そして、クレアの近くまで歩いてきた。

リャンはクレアを見据えて、右腕を体の前、左腕を後ろへ自分の体を挟むようにして深くお辞儀をした。

「私は東方ハンナベル出身、シャナのリャンと言います。短い間ですがよろしくお願いいたします」

リャンは挨拶をするとすぐに元の姿勢に戻った。
クレアはリャンの礼儀正しい挨拶につい、自分も姿勢を正してお辞儀をしてしまった。

「クレアです。よろしくお願いします。……その、シャナというのはなんですか?」

クレアが問いかけると、リャンは机の上に紙とペンを置いた。
リャンは紙に棒人間と周りが外だとわかるように太陽を描いた。


「東方は、自然と調和できる者が悟りを開き、真の力を手に入れるとされています。
長い年月をかけて修行を積み、悟りを開いた者のことをシャナと言います」

「自然と調和したとどうやってわかるんですか?」

「人には気力というものが存在します。気力は私たちの体内にもありますが、自然にもあります。
自然の気力はとても澄んでいて力も強いため、体内にある気力とは波長が合いません。

修行とひとくくりにしましたが、自然の中で何十年と武道を極めながら過ごして、自然の恩恵、厄災、私たちの本来の姿を知っていきます。
そうして体内を巡る自分の気力が自然と同じくらい澄んだときに、自分の力を知るとともに自然と一体化したことを実感します。

自然と調和すると、自然の気力や人の気力が色をつけて見えるようになります。
しかも、自然の気力を自分の気力として扱うことができるため、武道では相手の動きが見えやすくなり、より小さな衝撃で大きな攻撃を与えることができます。
こうやって自分が調和したことを知ります。

しかし、誤った力の使い方をすれば体内の気力の透明度はまた落ちていきます。濁れば濁るほど力は失われます。
私たちシャナは己の力を慢心せず、見誤らないように日々自分を磨き、自然との調和を怠らないように生きていかなければなりません。
そして真の力という高みを目指していきます」


絵を交えての説明を終えると、リャンはこちらを見て「ご納得でしょうか」と聞いてきた。
クレアは顎に手を当てて珍しそうに絵を見ながら答えた。

「なるほど……自分の体内にある気力?を元々の姿である自然の気力に近づけて一体化することで悟りを開くのですね」

「はい。その解釈で合っています」

リャンが少し口角を上げてクレアに頷くと、彼女はすぐに立ち上がって元の姿勢に戻った。
クレアが驚いていると、静かに話を聞いていたチャトゥラが「大丈夫だね」と言った。

「シャナはいつでも自然を感じていたいんだよね。だから、1分、1秒も無駄にしたくなくてこうして調和をするんだね」
「……シャナというのは、悟りを開いた後も大変ですね」

クレアが理解があって助かったのか、驚いたチャトゥラはまた袖で口もとを隠して「ふ、ふ、は」と笑った。






リャンは「この辺りの気力とはまだ調和が未熟ですので」と言って自室に戻って行ってしまった。
その後すぐにチャトゥラと残りの仲間の商人たちがクレアに詰め寄ってきた。

「私たちが紹介したら、次はクレアちゃんの番ね」
「私ですか?」
「これ、親睦会。忘れてないね?」
「あっ………!」

クレアはすっかり忘れていたようで赤面すると、皆がどっと笑った。

「かぁ~っ!可愛いねぇ!俺も『大人になりたて』の娘が欲しいもんだよ!」
「やめとけやめとけ?こんくらいの年ごろは1番口うるさいぞ?『思春期を抜けた頃』だから」
「こんなに可愛いのはクレアちゃんだけさ」

ワイワイ賑わっているうちに、気付けばクレアは皆に囲まれていた。
逃げられないみたいだ。
クレアは楽しい雰囲気に微笑んだ。

「えっと、何を言えばいいんでしょうか」
「なんでもいいぜ!迷うんなら、チャトゥラがしたみたいに出身と目的を言うだけでもいいさ」

1人の商人にそう言われ、クレアはフレンティアでルークに「旅の終点」を問われたときを思い出した。

あのときルークは飼っていた猫が家出したくらい驚いていた。
アナスタシア王国が滅亡した国だからだ。
旧国名で言ったのが驚かせた原因だろう。


同じ反応をされるだろうか。
それでも、意志は曲げられない。


「……クレア=モルダナティスです。15歳で、西方出身だと思います。
アナスタシア王国で人と会うために旅をしています」

クレアがへらりと笑って答えると、周りがしん……とした。
思わず下を向いてしまって顔を見れない。
アナスタシア王国はそんなに驚くのか。

そう思っていたのだが。



「「クレアちゃん15歳………!?」」



思わぬところに着眼点を置いた商人がいた。

クレアがぱっと顔を上げると、さっきクレアみたいな娘が欲しいと言っていた商人が頭を抱えていた。

「え、え?クレアちゃん15歳なの……?
俺めっちゃ失礼じゃね?さっき大人になりたてとか言っちゃったんだけど??
女の歳間違えると再起不能なんだろ!?
え、俺死んだ????」

意味不明なことを早口で言っている商人の背中を、今度はこの年ごろが1番口うるさいと言っていた商人がぽんぽんと叩いた。

「落ち着けシェントゥ……!俺も娘を持っている身でありながら、クレアちゃんを成人だと思っていた………死ぬなら俺もだ」
「カシェル………!!」

シェントゥとカシェルは今生の別れのように抱き合った。
一体何が起きていると言うのか。 
状況を掴めていないクレアと抱き合うシェントゥたちを見て周りの商人が爆笑する中、袖で口もとを隠すも体を小刻みに震わせて笑うチャトゥラはクレアに説明した。

「東方は20歳が成人だからね。
私たちからしたら15歳なんて、まだまだ親元を離れられない雛なんだよね。
それに、東方は女の子の歳を読み間違えて大事な部分が使いものにならなくなった男の話があるからね。
クレアちゃんの歳を読み間違えて怖くなっちゃったね」


チャトゥラの説明を受けてようやく納得したクレアだが、この場をどうやって収めればいいのかはわからないままだった。
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