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閑話 西に向かって
吹雪の宿で親睦会 3
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「シェントゥ、カシェル」
互いに抱きしめ合って喚く彼らをチャトゥラは笑顔で呼んだ。
2人、そして周りで笑っていた商人も全員が口をつぐんだ。
クレアの向かいに座っていたチャトゥラは立ち上がって、後ろにいる2人を見据えた。
チャトゥラの表情は見えないが、商人たちが怯えているあたり、相当恐ろしいのだろう。
『これ以上騒いだら、私がお前の○○を○○○○にしてあげてもいいんだよ?
本当は今すぐにでも○○○して○○○○○させてあげたいけど、残念。可愛いお嬢ちゃんがいるから出来なさそうだ。あとでやってあげよう。
ほら、返事は?』
「「は、はい………」」
チャトゥラは東方の言語でクレアに気づかれないように灸を据えたようだ。
チャトゥラはふぅ、とため息をついて笑顔でクレアに向き直った。
「悪かったね、ちょっと悪ふざけが過ぎたね」
「あ、の……」
「ん?」
爽やかな笑顔で話しかけるチャトゥラに、クレアはおずおずとしていた。
少し恐れている様子が不思議でチャトゥラが首を傾げると、クレアは勢いづいて口を開いた。
「2人をナントカ不全にさせないでください!!」
「…………………え」
ぴし、と爽やかな笑顔にヒビの入った音がした。
クレアは東方の言語が理解できるようだ。
思春期の女の子が言うと、いささか問題になりそうな単語はわからなかったようだが。
チャトゥラは我に返って「困ったね」と苦笑いした。
「クレアちゃん、君は天使だ……」
「俺たちの尊厳を守ってくれてありがとう…!!」
「あ、はい……?」
クレアはシェントゥとカシェルにこれでもかとお礼を言われた。
まさかクレアが東方の言語を理解できるとは思っていなかったチャトゥラが「怖がらせちゃったね」と言って、2人へのお咎めがなしになったのだ。
散々お礼を言った2人は他の数人と自室へ戻って行った。
残されたクレアとチャトゥラたち商人の間には微妙な空気が流れていた。
さっきから(東方の)女の地雷を踏んだり、危ない単語が出そうになったりで、何を言っても大丈夫なのか探っているようだった。
しばしの沈黙が流れて、クレアが口を開いた。
「その、チャトゥラさんって皆さんの中では偉い方なんですか?」
クレアの問いに商人たちはやっと緊張が解けたようだ。
何人かの商人が答えてくれる。
「偉いっつうか、まとめ役だな。
チャトゥラは俺ら商人の中で唯一魔法を使うし、このへんの地理に詳しい」
「腕を認められて貴族にも気に入られてるし、口が上手いんだよ」
「ま、おかげで仕草が貴族っぽいんだよなぁ」
「だから俺らはチャトゥラが母さんみたいなもんだな」
「君たちね………」
チャトゥラが恥ずかしそうにクレアに答えた商人を小突いた。
皆がチャトゥラを信頼していて楽しそうだ。
チャトゥラも同じに見える。
仲がいい様子を見てクレアはくすくすと笑った。
そして、思い出したようにまた質問する。
「さっき、魔法が使えるって言ってましたよね?
チャトゥラさんはどんな魔法を使うんですか?」
質問されたチャトゥラは最初驚いた顔を見せたが、すぐに納得した顔になった。
チャトゥラは胸元から正方形の古紙を取り出して机の上に置いた。
紙にはひとつの円の中に東方の言語で『温』と書いてあった。
チャトゥラは紙の上に自分の飲みかけのコップを置いた。
「私は東方出身だからね、魔法も東方のものなんだよね。今紙の上にある飲み物、ちょっと冷えちゃったから温めるね」
そう言ってチャトゥラは紙に手を置いた。
数秒後、紙が赤く光ったかと思うと、飲み物から湯気が上がった。
チャトゥラはクレアに温まったことを確認させて「おしまいだね」と言った。
クレアは目を輝かせた。
「すごい、これが東方の魔法……!
魔法を貯められるって本当だったんですね!
しかも紙に手を置いただけで飲み物が温まるなんて、無詠唱の領域なんですか?
あ、それとも東方だとこれが普通とか?
これって、矢につけて飛ばしたりしたらかなりの効力を発揮しませんか?
持続性さえあれば可能かも……?
貯めない場合ってどうやって使うんですか?
私も習得できたりしませんか?」
「……ス、ストップストップ。ちゃんと答えるから、落ち着いて、ね」
「落ち着けませんよ!」
「そ、そう?」
フレンティアでも似たようなまくし立ててクレアの魔法を褒めまくった魔法使いがいた気がするが、クレアも大概同じだ。
もしや魔法使いは皆こんなにオタク気質なのだろうか………。
急に饒舌になったクレアに困惑するチャトゥラは「何から話そうね」と言った。
クレアが気になって身を乗り出すと、商人の皆も興味があるようだった。
どうやらチャトゥラはあまり魔法の話をしてくれないらしく聞く機会がなかったみたいだ。
本人は「東方では魔法なんて使えても馬鹿にされるだけだね………」と、やれやれといった感じで理由を教えてくれた。
気を取り直して皆でひとつの机を囲み、チャトゥラの東方魔法講座を聞くことになった。
「さて、と。
興奮してくれたのはありがたいけどね、さっきの魔法は無詠唱ではないね。
こうした紙に事前に書いたものを、私たちは『札』なんて呼ぶけれど、これは魔力さえ流しちゃえば魔法が使えるものだね。
無詠唱は魔法陣の構築から魔力の循環とその放出をするというサイクルを早めてくれる魔法語による詠唱を飛ばして、簡単な言葉でそのサイクルを一瞬にして補完するね。
だからこれは、魔法陣の構築の段階は終わっているし、魔力を流すだけだから無詠唱には入らないね」
「そうか、確かに魔法陣は完成しているから定義から外れますね。
じゃあ、『札』じゃなくて即席の場合はどうなるんですか?」
勉強熱心、というか好奇心旺盛なクレアの質問にチャトゥラは先生になったように答えた。
「いい質問だね。
緊急時に用意していた『札』を使い切ってしまった、なんて状況に陥れば、書くところから始まるね。
書ければなんでもいいからね、紙に書くのはもちろん、地面に木の棒で書いたり体の一部を切り落として血で書いたりしても効果はあるね。
ただ、魔力を流し続けて書く必要があって面倒なんだよね。
書いてる途中で魔力が途切れたり箇所によって魔力のバランスが取れていなかったりすると、本来の威力も出せなくなるんだよね。
だから普通は『札』を常備して使うのが普通だね」
「それって、相当な魔力がないとキツくなりませんか?」
クレアの質問はもっともだ。
一定量の魔力を均一に流し続けて魔法陣を書く魔力操作もそうだが、魔力量もなければできないことだ。
話を聞いていた商人たちも不思議そうにしていたが、そのうちの1人が「もしかして」と言った。
「気力で補うのか?」
その回答にチャトゥラはにっこり笑って「そうだね」と答えた。
「足りない分は気力で補うね。
リャンが教えてくれたからもうわかると思うけど、体内の魔力も自然にある気力も元はおんなじ力だからね。
自然の気力に近い魔力になるまで修行すれば、気力を使って魔法を使うこともできるね。
私は体内の魔力が少し多くて修行を怠っていたから、まだ気力は使えないね。
それに、多くはシャナになっちゃうからあんまり見ないね………」
「それじゃあ、私が使うような魔法は体内の魔力で勝負が決まるときがありますが、東方は修行さえ積んでいればその魔力差を埋めて互角に戦うこともできるということですか?」
「うん、その解釈で合ってるね」
「じゃあっ、」
クレアはそこでガタッと椅子から立ち上がった。
とても真剣な表情だ。
チャトゥラが首を傾げると、クレアはチャトゥラに詰め寄った。
「じゃあっ、私も東方の魔法を使えたり、気力を操れるようになったりしますか?」
よく見れば、真剣というよりは欲が前のめりに出ている。
気力を扱えるようになればほぼ無限に魔法が使えるのも同然なのだ。それは魔法使いとして喜ばしいことに他ならない。
チャトゥラは困り笑いをした。
「うーん、と。難しいね。
私たちの魔法はもしかしたら使えるかもしれないけど、気力は難しいかもしれないね。
説明が難しいけど……気力は自然と調和してきた東方の発見だからね。
自然を感じる心がないと、気力の存在すらわからないと思うね」
難しい、と言われてクレアはとても残念そうな顔をした。
互いに抱きしめ合って喚く彼らをチャトゥラは笑顔で呼んだ。
2人、そして周りで笑っていた商人も全員が口をつぐんだ。
クレアの向かいに座っていたチャトゥラは立ち上がって、後ろにいる2人を見据えた。
チャトゥラの表情は見えないが、商人たちが怯えているあたり、相当恐ろしいのだろう。
『これ以上騒いだら、私がお前の○○を○○○○にしてあげてもいいんだよ?
本当は今すぐにでも○○○して○○○○○させてあげたいけど、残念。可愛いお嬢ちゃんがいるから出来なさそうだ。あとでやってあげよう。
ほら、返事は?』
「「は、はい………」」
チャトゥラは東方の言語でクレアに気づかれないように灸を据えたようだ。
チャトゥラはふぅ、とため息をついて笑顔でクレアに向き直った。
「悪かったね、ちょっと悪ふざけが過ぎたね」
「あ、の……」
「ん?」
爽やかな笑顔で話しかけるチャトゥラに、クレアはおずおずとしていた。
少し恐れている様子が不思議でチャトゥラが首を傾げると、クレアは勢いづいて口を開いた。
「2人をナントカ不全にさせないでください!!」
「…………………え」
ぴし、と爽やかな笑顔にヒビの入った音がした。
クレアは東方の言語が理解できるようだ。
思春期の女の子が言うと、いささか問題になりそうな単語はわからなかったようだが。
チャトゥラは我に返って「困ったね」と苦笑いした。
「クレアちゃん、君は天使だ……」
「俺たちの尊厳を守ってくれてありがとう…!!」
「あ、はい……?」
クレアはシェントゥとカシェルにこれでもかとお礼を言われた。
まさかクレアが東方の言語を理解できるとは思っていなかったチャトゥラが「怖がらせちゃったね」と言って、2人へのお咎めがなしになったのだ。
散々お礼を言った2人は他の数人と自室へ戻って行った。
残されたクレアとチャトゥラたち商人の間には微妙な空気が流れていた。
さっきから(東方の)女の地雷を踏んだり、危ない単語が出そうになったりで、何を言っても大丈夫なのか探っているようだった。
しばしの沈黙が流れて、クレアが口を開いた。
「その、チャトゥラさんって皆さんの中では偉い方なんですか?」
クレアの問いに商人たちはやっと緊張が解けたようだ。
何人かの商人が答えてくれる。
「偉いっつうか、まとめ役だな。
チャトゥラは俺ら商人の中で唯一魔法を使うし、このへんの地理に詳しい」
「腕を認められて貴族にも気に入られてるし、口が上手いんだよ」
「ま、おかげで仕草が貴族っぽいんだよなぁ」
「だから俺らはチャトゥラが母さんみたいなもんだな」
「君たちね………」
チャトゥラが恥ずかしそうにクレアに答えた商人を小突いた。
皆がチャトゥラを信頼していて楽しそうだ。
チャトゥラも同じに見える。
仲がいい様子を見てクレアはくすくすと笑った。
そして、思い出したようにまた質問する。
「さっき、魔法が使えるって言ってましたよね?
チャトゥラさんはどんな魔法を使うんですか?」
質問されたチャトゥラは最初驚いた顔を見せたが、すぐに納得した顔になった。
チャトゥラは胸元から正方形の古紙を取り出して机の上に置いた。
紙にはひとつの円の中に東方の言語で『温』と書いてあった。
チャトゥラは紙の上に自分の飲みかけのコップを置いた。
「私は東方出身だからね、魔法も東方のものなんだよね。今紙の上にある飲み物、ちょっと冷えちゃったから温めるね」
そう言ってチャトゥラは紙に手を置いた。
数秒後、紙が赤く光ったかと思うと、飲み物から湯気が上がった。
チャトゥラはクレアに温まったことを確認させて「おしまいだね」と言った。
クレアは目を輝かせた。
「すごい、これが東方の魔法……!
魔法を貯められるって本当だったんですね!
しかも紙に手を置いただけで飲み物が温まるなんて、無詠唱の領域なんですか?
あ、それとも東方だとこれが普通とか?
これって、矢につけて飛ばしたりしたらかなりの効力を発揮しませんか?
持続性さえあれば可能かも……?
貯めない場合ってどうやって使うんですか?
私も習得できたりしませんか?」
「……ス、ストップストップ。ちゃんと答えるから、落ち着いて、ね」
「落ち着けませんよ!」
「そ、そう?」
フレンティアでも似たようなまくし立ててクレアの魔法を褒めまくった魔法使いがいた気がするが、クレアも大概同じだ。
もしや魔法使いは皆こんなにオタク気質なのだろうか………。
急に饒舌になったクレアに困惑するチャトゥラは「何から話そうね」と言った。
クレアが気になって身を乗り出すと、商人の皆も興味があるようだった。
どうやらチャトゥラはあまり魔法の話をしてくれないらしく聞く機会がなかったみたいだ。
本人は「東方では魔法なんて使えても馬鹿にされるだけだね………」と、やれやれといった感じで理由を教えてくれた。
気を取り直して皆でひとつの机を囲み、チャトゥラの東方魔法講座を聞くことになった。
「さて、と。
興奮してくれたのはありがたいけどね、さっきの魔法は無詠唱ではないね。
こうした紙に事前に書いたものを、私たちは『札』なんて呼ぶけれど、これは魔力さえ流しちゃえば魔法が使えるものだね。
無詠唱は魔法陣の構築から魔力の循環とその放出をするというサイクルを早めてくれる魔法語による詠唱を飛ばして、簡単な言葉でそのサイクルを一瞬にして補完するね。
だからこれは、魔法陣の構築の段階は終わっているし、魔力を流すだけだから無詠唱には入らないね」
「そうか、確かに魔法陣は完成しているから定義から外れますね。
じゃあ、『札』じゃなくて即席の場合はどうなるんですか?」
勉強熱心、というか好奇心旺盛なクレアの質問にチャトゥラは先生になったように答えた。
「いい質問だね。
緊急時に用意していた『札』を使い切ってしまった、なんて状況に陥れば、書くところから始まるね。
書ければなんでもいいからね、紙に書くのはもちろん、地面に木の棒で書いたり体の一部を切り落として血で書いたりしても効果はあるね。
ただ、魔力を流し続けて書く必要があって面倒なんだよね。
書いてる途中で魔力が途切れたり箇所によって魔力のバランスが取れていなかったりすると、本来の威力も出せなくなるんだよね。
だから普通は『札』を常備して使うのが普通だね」
「それって、相当な魔力がないとキツくなりませんか?」
クレアの質問はもっともだ。
一定量の魔力を均一に流し続けて魔法陣を書く魔力操作もそうだが、魔力量もなければできないことだ。
話を聞いていた商人たちも不思議そうにしていたが、そのうちの1人が「もしかして」と言った。
「気力で補うのか?」
その回答にチャトゥラはにっこり笑って「そうだね」と答えた。
「足りない分は気力で補うね。
リャンが教えてくれたからもうわかると思うけど、体内の魔力も自然にある気力も元はおんなじ力だからね。
自然の気力に近い魔力になるまで修行すれば、気力を使って魔法を使うこともできるね。
私は体内の魔力が少し多くて修行を怠っていたから、まだ気力は使えないね。
それに、多くはシャナになっちゃうからあんまり見ないね………」
「それじゃあ、私が使うような魔法は体内の魔力で勝負が決まるときがありますが、東方は修行さえ積んでいればその魔力差を埋めて互角に戦うこともできるということですか?」
「うん、その解釈で合ってるね」
「じゃあっ、」
クレアはそこでガタッと椅子から立ち上がった。
とても真剣な表情だ。
チャトゥラが首を傾げると、クレアはチャトゥラに詰め寄った。
「じゃあっ、私も東方の魔法を使えたり、気力を操れるようになったりしますか?」
よく見れば、真剣というよりは欲が前のめりに出ている。
気力を扱えるようになればほぼ無限に魔法が使えるのも同然なのだ。それは魔法使いとして喜ばしいことに他ならない。
チャトゥラは困り笑いをした。
「うーん、と。難しいね。
私たちの魔法はもしかしたら使えるかもしれないけど、気力は難しいかもしれないね。
説明が難しいけど……気力は自然と調和してきた東方の発見だからね。
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