コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
12 / 107

第12話 騎士団への同行

しおりを挟む
 昨日の冒険譚は、大いに盛り上がった。
 ギルドに詰めかけた冒険者は驚き、笑い、そして喝采を上げた。

 痛快無比な冒険譚。
 得意げなエルダーマンティコアの鼻を明かし、子どもたちを救い出す。
 まるで英雄のような働きだ。

 お陰で、ギルドが運営する酒場は大繁盛。
 酒も料理も、いつもの倍は売れたらしい。
 後でギルドの職員に感謝された。

「いやいや、それほどでもないよ。俺もこうして、おひねりを頂いたからね。ちなみにこれは、ギルドへの上納金が必要で?」

「本来ならば、ギルド内での営業は場所代が必要なんだけどね。今回は特例だ。ガットルテ王国の間近にエルダーマンティコアがいたこと、そしてそれが腐食神の神官であり、良からぬことを企んでいたこと。企みは未然に阻止されたこと。これだけの情報を持ち帰ってきてくれたんだ。サービスだよ」

「やあ、ありがたい!」

 結構な金額のおひねりだったのだ。
 これがまるごと懐に入るのは実に嬉しい。
 消費したナイフや、道具の類を補充してお釣りが来る。

 かくして、道化師としての達成感を胸に、俺は眠りについたのである。
 無論、イングリドとは別室だがね。

 翌日の昼過ぎ。
 ひと仕事を終えた俺とイングリドは、その日は骨休めに当てるつもりだった。

 ガットルテ王国は隣国、マールイ王国との関係がどうも微妙になってきている。
 これは絶対に、大きな問題が起こるだろうと、俺の勘が告げていた。
 万一のために、体力を回復しておかなければならない。

「ちょっと行ってくる」

 イングリドが、ギルドの外に出ていくところだった。

「どこに行くんだ?」

「子どもたちのところだ。私は子どもが好きなんだ……」

「なるほど。奇遇だな、俺もだ」

 そういうことで、二人で連れ立ち、アキンドー商会へと向かう。
 ここで保護された子どもたちは、商会で読み書きや計算を覚えながら、ここの従業員として育てていくことになっていた。

「道化師のひと来た!」

「強いお姉ちゃんも!」

 俺とイングリドの姿を見つけて、子どもたちが集まってきた。
 後からは、彼らの教育係らしい年配の男性も。

 商会の奥には、客らしき姿が幾つかある。
 剣を携えているから、王宮の騎士か何かであろうか。

「お二人とも、昨日はどうも! 取引先だったジョノーキン村が無くなったのは痛かったですが、子どもたちだけでも無事で何よりでしたわ」

「いやいや。大人が一人でも生き残っていたら良かったのですが」

 イングリドが殴り倒した村人は、事の首謀者の一人として捕まっている。

「子どもたちの顔を見に来たのだ」

 イングリドはそれだけ、年配の男性に告げると、子どもたちに構い始めた。
 本当に子どもが好きなのだな。
 こうして見ると、年相応の普通の娘に見える。

 待てよ。
 彼女は一体何者なのだろうか。
 俺は死神と呼ばれていることしか知らない。

 身のこなしは一流の戦士のそれである。
 そして判断力もある。
 食事をする仕草には、どことなく気品のようなものもあるように思えた。

 どこかのいい家の生まれではなかろうか?
 注意深く見れば、彼女が何者なのかはすぐに分かろう。

 しかし、仲間を詮索することはマナー違反である。
 彼女の人柄からして、悪人ではない。それだけで十分だ。

「あの、もしや今日は、子どもたちに会いにだけ?」

「ええ。彼女も俺も、子どもが好きでしてね。子どもはいい。俺が見せる芸が、よくできているか今一つか、すぐに反応して教えてくれる。嘘がつけないですからね」

「ああ、そう言えばあなたは道化師でしたな! 珍しいクラスですなあ……」

「道化師? 珍しいな。お!? 昨日の子連れの冒険者ではないか」

 俺と男性の会話に、騎士らしき人物が加わってきた。
 よくよく見れば、昨日俺と言葉を交わした騎士ではないか。

「ダガン卿。この人はですな。たった二人でジョノーキン村に潜んでいたエルダーマンティコアを倒し、子どもたちを救い出した英雄ですぞ」

「大げさな。だが、間違ってはいない」

 商会の男の言葉を、肯定しておく。
 下手に謙遜をするものではない。
 これから名を売ろうとしている、俺とイングリドならばなおさらだ。

「なんと、エルダーマンティコアを二人でか!? あの化け物は、対魔法兵装を用意した上で、騎士団でかかるような代物だぞ」

「魔法の対抗策は、対魔法兵装以外にも色々ありますからね」

「なるほど。できる男のようだ」

「ええ。俺も彼女も、腕は立ちます。もしや、お仕事の相手を探されていた?」

 騎士の口ぶりから、彼の思考を読む。
 そしてちょっと突くと、彼は目を丸くした。

「分かるか! 俺の顔に出ていたかな。しかし、その洞察力も並ではないな。よし、冒険者、お前に依頼することにしよう」

「依頼とは」

「昨日の件だ」

「ああ、了解しました。事が起こった場所に向かい、話し合いをされるんですね」

 騎士ダガンは感心した。

「お前は話の早い男だなあ、いちいちその通りだ。しかも事の仔細を口に出さずにぼやかせる辺り、気遣いもある。是非とも、俺たちガットルテ騎士団に同行してくれ。中立な立場の立会人が必要なんだ。それも腕が立つ、な」

「了解しました。ただ、仕事は一旦ギルドを通していただけると。俺も彼女も、ギルドに所属する身です。あそこの顔は立てないといけませんからね」

「おおっ、そうだったそうだった。面倒なシステムだなあ……。ああ、いや。もともとギルドに向かうつもりだったのだ」

 ダガンが歩き出す。
 その背中が、ついて来いと言っていた。

「イングリド、仕事だ」

「なんだって!? 今日一日、子どもたちと遊ぶつもりだったんだが……」

 子どもたちからもブーイングが上がる。
 だが、商会の男がこれをなだめた。

「ほらほらガキども。お前ら、これからやる事は山程あるんだ! てめえの力で食っていけるようにならないといけないんだぞ。冒険者のお二人は仕事なんだから、応援して見送るくらいやるもんだ」

 教育係の男の言葉に、子どもたちはしぶしぶと頷いた。
 つい先日まで、マンティコアのもとで生贄にされかかっていた子どもたちだ。
 空気を読むくらいのことはする。

「戻ってきたら、俺のとびきりの芸を見せてあげよう。勉強して待っているといい」

 俺は彼らに向かって、何もないところからパッとお手玉を取り出してみせた。
 ワッと子どもたちが沸く。

 お手玉は、一つ、二つ、三つ、四つと指の間に出現する。
 あらかじめ小さく縮めて握ってあったものを、次々取り出しているのだが、これはハッタリと手技の鮮やかさが説得力を生むのだ。

「すげえー」

「魔法みたい!」

 ついに、俺のお手玉は八個になった。
 これを次々に空へと放り投げ、俺はお手玉を始めた。

「ということで! この次は戻ってきてからだ。またの開演をお楽しみに」

 お手玉を一度に放り投げ、宙を舞わせると同時。
 俺はその全てを片手で掴み取った。
 掴むと同時に、小さく縮めて袖の中に滑り込ませている。

 開いた手のひらには、何もない。

 わあーっと子どもたちが叫んだ。
 教育係の男まで、思わず笑顔になって手を叩いている。

 あんまり子どもたちが喜ぶので、ギルドへ戻る道の途中で、イングリドが俺に言うのだった。

「おい、今のを私に教えてくれ! 私もやりたい! やって子どもを喜ばせたい!」

「この仕事が終わったらね」

 俺は空約束をするのだった。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位 2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位 2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位 2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

処理中です...