コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
13 / 107

第13話 対決、騎士団長

しおりを挟む
 ガットルテ騎士団からの依頼は、すぐさまギルドに受諾された。
 そして俺たちが仕事として引き受けることになる。

「やれやれ。中間を通すと、実に面倒くさい……」

 騎士ダガンがため息をついた。

「気持ちは分かるがね。こういう中間組織が無ければ、俺たちのような冒険者はやっていけないのさ。何せ、雇い主との直接取り引きだと、俺たちの身を守る手段がない。契約が口約束であれば、そいつを反故にされたって、世間はきちんとした身元がある依頼人につくだろう?」

「お前は口が回るなあ……! まあ、確かにそうだな。冒険者ギルドが、冒険者の身元を保証して、冒険者の報酬も保証する。だから中間マージンを持ってくわけだもんな」

 中間業者というものは、必要があって存在しているものなのだ。
 人と人の間を取り持ってきた俺としては、この役割の大切さを訴えていきたいところである。

「それで、ダガン卿。どこに行こうというのだ」

「うむ」

 イングリドの問いかけに、ダガンは頷いた。
 
「マールイ王国との国境線だ。そこで、釈明を受けることになっている。あの騎士団長が大人しく頭を下げるとも思えんし、我々の団長の怪我はまだ治っていない。実際のところ、我が騎士団の血気盛んな団員は、落とし前をつけてやると燃え上がっているのだ」

「それはまずい。戦争になる」

「うむ……。国を守る騎士たる我々が、戦争の火種になってはいかん」

 そうそう、こういう責任感こそが騎士には大事なのだ。
 騎士には二種類おり、国に直接雇われた上級兵士としての騎士と、一代限りの貴族として爵位を授けられる騎士爵がある。
 ダガンは前者だ。

 騎士とは、兵士よりも高度な戦闘訓練を受けており、有事の際に国の守り、その要となる存在。
 それが戦争を引き起こすなど、冗談にもならない。
 つまり、今回のいざこざの原因になっているマールイ王国の騎士団長は、お話にならない男だと言えよう。

 俺とイングリドは、ダガンに連れられて国境線へ向かう。
 ほんの数日前に通った道だな。
 まさか、全く違う立場になってこの道をすぐに通ることになるとは。

 ちなみに現在、馬の上。
 いやあ、よく調教されたいい馬だ。

 ぱかぽこと快適に走らせる。

「オーギュスト、君は乗馬もかなりのものだな」

 堂に入った様子で馬を走らせているイングリドが、そんなことを言う。

「君こそ大したものじゃないか。まるでどこかのお貴族様だ」

「やめてくれ。しかし、道化師というのは馬にも乗れないといけないのだな……」

「何でも経験してこそ、芸には深みが増すものだからね」

 当然乗馬スキルもあるし、派生スキルの曲乗りも持っている。
 まだまだ色々持っているが、それは必要な時にお見せするとしよう。

 さて、国境線が見えてきた。

「馬に乗っていると、速いな。実に速い。マールイ王国、近すぎだろう」

「うむ。だからこそ、危険なのだ」

 ダガンがしかめ面をしている。
 気持ちは分かる。
 近い隣国の騎士が、とんでもない狼藉者だったら、困るなんてものではない。

 そしてその狼藉者が、既に待ち構えているぞ。

「遅かったなあ、ガッテルト王国の騎士!!」

 聞き覚えのあるどら声が響き渡る。
 そこには、戦用の甲冑を身に纏った、見上げるほどの背丈の巨漢がいた。

 マールイ王国騎士団長、その名はバリカス。
 戦闘能力ならば、間違いなく騎士団でもトップクラスだろう。
 だが、知性、品性、性格、その全てが騎士団長という地位には相応しくない。

 何より、彼は戦争をしたがっている男だ。
 俺が彼を抑えるために、どれだけ苦労してきたことか。

「時間通りのはずだ! 遅くはない!」

 ダガンが怒鳴り返す。
 既に、ガッテルト王国騎士団は、怒りに燃えている。

 対するマールイ王国騎士団は、ニヤニヤ笑いながら応じているではないか。
 一触即発。
 これはいけない。

 二つの騎士団がにらみ合う。

「謝罪の言葉を考えてきたか!」

「なんだあ、それは?」

 ダガンに対して、バリカスがふざけた答えを返す。

「貴様……このままでは戦争になるぞ!! いいのか!」

「構わんさ! この俺様の実力があれば、お前ら雑魚騎士団など敵ではないからな! 勝てると分かっている戦争ならば、吹っかけても問題あるまい!!」

「貴様ーっ!!」

 このやり取りを見て、イングリドが唖然とした。

「あの身の丈ばかり大きなチンピラみたいな男が、マールイ王国の騎士団長なのか?」

 彼女の声は、朗々としていてとてもよく聞こえる。
 マールイ、ガットルテ、両騎士団の言い争いの中、この正直な物言いは誰の耳にも届いたことだろう。

「いかにも。彼我の戦力差も分からぬ、大男、知恵が総身に回りかね……を体現した彼こそが、マールイ王国騎士団長バリカス!」

「な、ん、だ、と!?」

 バリカスの目が、こちらを睨みつける。

「なんだ、その女は! それと、お前は! お前……おま……お前は……」

 バリカスの口がパクパクする。
 彼の目が丸く見開かれた。

「な……なぜお前がそこにいる、オーギュスト!!」

「なぜと言われても……王宮をクビになりましたもので。わたくしはこうして、ガットルテ王国にて再就職を果たしました」

 俺はわざと、道化師らしい、大仰な身振りの礼をしてみせた。

「な、な、な! う、裏切り者ーっ!! 敵国につくとは、裏切り者め!」

「はて。クビになりました道化師が、どこに再就職しようがわたくしの勝手では……? それとも、バリカス閣下はわたくしの再就職先を斡旋しようとでも思っていらっしゃったので?」

「そ、そんなわけあるかーっ!! お、俺がどうしてそんなことを」

「ならば裏切り者などと発せられるはずがございませんなあ。わたくしは自由、バリカス閣下も自由。そしてわたくしはマールイ王国から離れ、ガットルテ王国の世話になっている身。そんな我が寄る辺たる国を愚弄されるのは気分がよろしいものではございません。ここは国家間の道義上、ごめんなさいするものですよ閣下? 閣下が新人で、訓練所で腕力任せに暴れていた時、わたくしめが閣下を叩きのめしてお教えしたはずですが?」

「な、な、な、な」

「本当に……」

「口がよく回るなあ、君は」

 ダガンとイングリドが、呆れ半分、笑い半分で呟いた。
 ドッと笑い出す、ガットルテ騎士団。

 そして、これがバリカスを激怒させたようだ。

「ゆ、ゆ、ゆ、許さんぞ貴様ーっ!! この俺様をバカにしやがって! お前、あれだ! あれだろ! 俺を、バカだとおもってるだろうー!! この野郎、殺す! 殺してやるぞおーっ!!」

「閣下、落ち着いて下さい。わたくしは、過去の思い出話をしたまでですよ。それとも何か」

 俺はスタスタと前に出る。

「久方ぶりに、試合をしてみましょうか? わたくしめが訓練所を管理していた頃には、閣下は一度もわたくしに勝てなかったようですが……さて、今はどうでしょう」

「コ、ロ、ス」

 バリカスが剣を抜いた。

「おい、君、どうして君がやるんだ」

 ダガンの問いに、俺は肩をすくめた。

「それはもう。彼を相手に、騎士団が手を汚したら、それこそ戦争になるでしょう。どこの馬の骨とも知らぬ、誰かも分からぬような冒険者が無礼な騎士団長を叩きのめしたのなら……どこにも角は立ちますまい」

 俺はくるりと振り返り、ガットルテ騎士団へ一礼した。

「さぁてお立ち会い。これよりこの道化師オーギュストめが、道化の剣技にてかの乱暴者を鎮めて見せましょう! 上手く行ったら、どうぞ万雷の拍手喝采を!」
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

処理中です...