コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第75話 キングバイ王国との交渉

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「なぜ……そちらにオーギュストがいるのだ……?」

 キルステン騎士団長を従えた、エミル王子。
 彼ら二人は、困惑を隠しきれぬ様子だ。

 戸惑うのも当然と言えよう。
 つい先日、マールイ王国から追放された一冒険者として旧交を温めたばかりなのだ。

「オーギュスト殿。あなたは……まさかスパイに……いやいやいや。そんなことをする理由がない。あなたがマールイ王国にいたならば、国はこのような惨状になってはいないはずだからな」

「その通りです。理由があって王国に立ち寄ったところ、ご覧の有様でしてね。そして俺を追い落とした者たちは皆落ちぶれ、まっとうな状態ではありませんでした。私はキュータイ三世陛下から直々に要請され、改めてマールイ王国に戻ってきたのですよ」

「なるほど……。だが、我らキングバイ王国は海賊の末裔。奪う時は、例え知己であろうと容赦はせぬぞ」

「存じ上げておりますとも」

 顔見知りであるからこそ、厳しく行くというのは分かる。
 縁もゆかりもない相手であれば、事務的にいけば良い。

 だが、相手が知己ならば、そうであるからこそ手心を加えたような事は注意深く見られる。
 エミル王子は、ほぼ次期国王として内定している実力者だ。
 だからこそ、彼の失点を探そうとする政敵はいくらでもいる。

 キングバイ王国の王宮は、戦場なのである。
 彼がこちらに、手心を加えることはできないし、その性分からしてもありえない。

「ですから、こちらはあらかじめ、差し出せる限りの最大限のものを提示致します」

「最大限……?」

 エミル王子が訝しげな表情を浮かべた。

「御覧ください。マールイ王国の地図です」

「ほう! 地図をこの俺の目の前に出すとは……!」

 地図とは、そこに描かれているものが偽りでなければ、国土そのものを忠実に表している。
 故に、これを敵国に掴まれる事は、致命的な事態を意味するのである。

「本気か」

「ええ。この地図は差し上げましょう。なぜなら、我が国には必要なくなるものですから」

「なんと!?」

 エミル王子が目を見開き、キルステンも呆然とした。

「ここから……ここまでの土地を、賠償金として献上致します」

「なん……だと……!?」

 マールイ王国が直接支配する地域の、ほぼ半分である。
 広大と言っていい広さの土地だ。

 それらは、耕作に適した地域もあれば、鉱山などもある。
 その全ては地図に書き記されていた。

「確かに、これだけの土地を奪えるのならば、賠償金として十分だ」

「ええ。キングバイ王国にとって、ミーゾイ以外の土地が大陸側にできるというのは大きな意味を持つでしょう。これで、キングバイ王国は海洋国家ではなくなるのです」

「うむ……!」

「そして、これをエミル殿下が勝ち取った戦果としてお持ち帰りいただきたい」

「なにっ!?」

 さきほどから、エミル王子は驚きっぱなしである。
 あまりに驚愕が続いたので、喉が乾いたらしい。
 出されている茶を、ごくごくと飲み干した。

「で、殿下、毒味を……」

 キルステンが慌てる。

「必要ない! オーギュストがいる場だぞ! そんな安い計略などやるわけがあるまい!」

「はっ、もっともです」

「オーギュスト……。これは……俺に対する賄賂か?」

「誠意ですよ。これだけのものを差し出せば、キングバイ王国は十分な賠償金を得たと言えるでしょう」

「うむ……。何が望みだ?」

「話が早い。今後、マールイ王国はゼロからスタート致します。その際、キングバイ王国との交易は重要になってまいりますからね。エイリーク陛下、そして次なる王位につかれる方とは、仲良くしておきたい」

「なるほど……。恐ろしい男だな、お前は。つくづく、この戦争でマールイ王国にオーギュストがいなかったことが幸運だった。だが、ここまでの譲歩をしては、マールイ王国も苦しいのではないか?」

「生きようとするから苦しむのですよ。相手が文句を言わぬ程度に割譲し、しかしここより多くを求めるならば、全滅戦前提の戦争再開。ここまで札を用意しておりましたからね。生きるためには、死に近づかねば」

「おお……。今の、オーギュストがいるマールイ王国とか……? ゾッとする」

「殿下。私は騎士団長として申し上げますが、この私がオーギュスト殿に勝つことは、極めて困難ですからね」

「敵に肩入れする騎士団長がどこにいる、キルステン!」

 エミル王子が苦笑した。

「俺も、お前とはやり合いたくない。戦争そのものは勝っても、我が国に何か、致命的なダメージが残ることになるだろうからな」

「お分かりいただけて幸いです。マールイ王国は、新たなやり方で再生して参ります。ご安心ください」

「お、おう」

 ここで、ずっと後ろにいたイングリドがぽつりと呟いた。

「どうして君はそんなに恐れられているんだ……」

 一応、ガットルテ王国の王女であるイングリド。
 今回はガットルテからの正式な書状がでて、イングリドをイングリッド姫として、この場の立会人とすることになったのである。
 つまり、対外的に、ガットルテ王国はイングリドを王族の一人であると宣言したことになる。

「では、両国の関係はこれにて手打ちということで……異存はございませんかな?」

「ああ、無い。お土産まで持たせられてしまってはな……。これで、俺の地位は盤石となる。誰も俺の立場を脅かすことはできまい」

「おめでとうございます」

「俺の立場を固めた男が何を言う」

 苦笑するエミル王子に小突かれた。
 これで、交渉は終わりということになる。

 つまり、終戦だ。
 この報はすぐさま、城中に、そして城下町へと伝えられた。

 自暴自棄になっていた人々は皆、少しだけやる気を取り戻したようである。


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