37 / 173
第一部:都市国家アドポリスの冒険 7
第31話 デュラハンとその事情 その1
しおりを挟む
「いやですわいやですわ!! わたくしは残るのはいやですわーっ!!」
アリサがブランにしがみついていやいやする。
それを見て、教会の司教が心底困り果てた顔をした。
「なあ、オースさん。なんとかならんかな」
司教は、髪もヒゲも真っ白なおじいさんだ。
先ごろ、アドポリスで発生するようになった失踪事件と、被害者がレブナントになるアンデッド事件解決のため、しばらくアリサを貸してくれというのである。
仲間になったばかりで離れるのは寂しいが、これも街のためだしなあ。
──なんて思っていたら、本人がめちゃくちゃにいやがっている。
「アリサ、だめです! お仕事おねがいされてるですから、ちゃんとやるですー!」
クルミがアリサのお尻を抱えて引っ張っている。
「あーん! 後生ですクルミさん! わたくし、大教会からようやく出てこられたのですわー! このまま教会で仕事をしてたら、また大教会に戻らなくちゃいけなくなりますっ!! それにこのっ、モフモフ、ふかふかのブランちゃんと」
くるっと振り返ったアリサが、クルミをぎゅっと抱きしめた。
「ひやー」
「ふわふわ尻尾のクルミさんとお別れするのはいやなのですーっ!! ああ、モフモフ……モフモフこそ正義……。わたくしの地位も栄誉も全て投げ売っても構わない……。これからモフモフが増えるかも知れないのでしょう? だったらわたくしがいるべき場所は、オースさんのパーティです……!!」
おお、アリサの目に闘志の炎が燃えている。
「それはそうとクルミを放してやってくれないかな」
「ひやー」
「ほら。尻尾ごとさわさわしながら抱きしめるのは彼女には刺激が強い。ゼロ族の習性としてはね……」
俺がウンチクを語り始めたら、アリサがむくれた。
「クルミさんは人質です!! わたくしを! 教会から! 解放してくださいまし!!」
俺はじっと司祭を見た。
「どうも無理みたいです」
「ああ、だめかあ……。大教会も、なんてエキセントリックな司祭を送ってくるんだ……。あそこ直属の司祭は独自の権限を持っているから、私ら地方の司教では命令ができんのだよ……。まあ、初めから来なかったものと考えてあきらめるか……」
がっくり肩を落とし、司教が去っていった。
「あの、司教様! この仕事が終わったら俺達、モフライダーズ全員で手伝いますよ!」
「なにっ、本当かね!?」
「ええ。その代わりと言ってはなんですが……」
「教会の蔵書を読みたいのだね……? 君も交渉上手だなあ」
「いや、催促したようで申し訳ない」
「催促してるじゃないか……」
ひとまず、事態は解決した。
俺達はこれから、デュラハン退治に旅立とうというところである。
それと言うのも、しばらくアドポリスに留まってレブナント研究をしていた俺に、ギルドから直々に依頼が来たからだ。
ここからは、昨日の話になる。
「オースさん、いいですか?」
受付嬢が俺に声を掛けてきた。
酒場の一角を利用して、レブナントの結晶に水を掛けたり、アルコール漬けにしたりしていたのが咎められるのだろうか。
とりあえず、アルコールでレブナント結晶の輝きがかなり減衰するのは面白いな。今度試してみよう。
「オースさん、酒場を実験室みたいに使うのはこの際目をつぶりますから、お仕事の依頼を聞いてください!」
「はい」
聞かないと追い出されかねない空気を感じたので、俺は彼女に向き直った。
「オースさんのお陰で、コカトリス討伐依頼はあちこちで片付き始めています。オースさんが考案したやり方は、オース・メソッドとして若い冒険者の人達に広まったようですから」
「それは良かった。対処方法さえ分かれば、コカトリス退治は簡単だからね」
俺は微笑んだ。
「はい。そちらはギルドも感謝しています。何しろこの、呪いのモンスター大量発生に当たり、少なからぬ犠牲者が出ていますから。ギルドも冒険者から批判を受けています」
「それはそうだろうね。本来ならば、依頼を受けられる基準パーティランクを下げるべきじゃなかった。それじゃあ、手が回らなかったのも確かだろうけど」
「はい……。それで、デュラハン依頼だけはBランク以上としていたんです。ほら、オースさんがショーナウン・ウインド時代にBランクでデュラハンを倒したでしょう」
「うん。一人でやるのは大変だった」
「一人で……!?」
受付嬢が目を剥いた。
周囲の冒険者達も、飲んでいた酒を吹き出す。
「そ、そ、それはともかく! 今のデュラハン依頼は、Aランクパーティのドラゴンアックスが受けていたのですが……」
「ドラゴンアックスか。彼らはベテランだし、強いよね」
「はい。ですが、そのリーダーである戦士ガンスがデュラハンの死の呪いを受けて亡くなりました。パーティは機能不全に陥っているということです」
「ええ……。彼らほどのパーティなら、並のデュラハンは討伐できそうなものだけど。ああ、いや、常に不測の事態というものはある。今回は彼らがしくじったのか、それとも……」
「はい。デュラハンが強かったんです。恐らく、かなり強力な個体が暴れまわっているものと思われます。オースさん、危険を承知でお願いします。デュラハンの討伐を……」
「よし、引き受けた」
そういうことになったわけだ。
アリサがブランにしがみついていやいやする。
それを見て、教会の司教が心底困り果てた顔をした。
「なあ、オースさん。なんとかならんかな」
司教は、髪もヒゲも真っ白なおじいさんだ。
先ごろ、アドポリスで発生するようになった失踪事件と、被害者がレブナントになるアンデッド事件解決のため、しばらくアリサを貸してくれというのである。
仲間になったばかりで離れるのは寂しいが、これも街のためだしなあ。
──なんて思っていたら、本人がめちゃくちゃにいやがっている。
「アリサ、だめです! お仕事おねがいされてるですから、ちゃんとやるですー!」
クルミがアリサのお尻を抱えて引っ張っている。
「あーん! 後生ですクルミさん! わたくし、大教会からようやく出てこられたのですわー! このまま教会で仕事をしてたら、また大教会に戻らなくちゃいけなくなりますっ!! それにこのっ、モフモフ、ふかふかのブランちゃんと」
くるっと振り返ったアリサが、クルミをぎゅっと抱きしめた。
「ひやー」
「ふわふわ尻尾のクルミさんとお別れするのはいやなのですーっ!! ああ、モフモフ……モフモフこそ正義……。わたくしの地位も栄誉も全て投げ売っても構わない……。これからモフモフが増えるかも知れないのでしょう? だったらわたくしがいるべき場所は、オースさんのパーティです……!!」
おお、アリサの目に闘志の炎が燃えている。
「それはそうとクルミを放してやってくれないかな」
「ひやー」
「ほら。尻尾ごとさわさわしながら抱きしめるのは彼女には刺激が強い。ゼロ族の習性としてはね……」
俺がウンチクを語り始めたら、アリサがむくれた。
「クルミさんは人質です!! わたくしを! 教会から! 解放してくださいまし!!」
俺はじっと司祭を見た。
「どうも無理みたいです」
「ああ、だめかあ……。大教会も、なんてエキセントリックな司祭を送ってくるんだ……。あそこ直属の司祭は独自の権限を持っているから、私ら地方の司教では命令ができんのだよ……。まあ、初めから来なかったものと考えてあきらめるか……」
がっくり肩を落とし、司教が去っていった。
「あの、司教様! この仕事が終わったら俺達、モフライダーズ全員で手伝いますよ!」
「なにっ、本当かね!?」
「ええ。その代わりと言ってはなんですが……」
「教会の蔵書を読みたいのだね……? 君も交渉上手だなあ」
「いや、催促したようで申し訳ない」
「催促してるじゃないか……」
ひとまず、事態は解決した。
俺達はこれから、デュラハン退治に旅立とうというところである。
それと言うのも、しばらくアドポリスに留まってレブナント研究をしていた俺に、ギルドから直々に依頼が来たからだ。
ここからは、昨日の話になる。
「オースさん、いいですか?」
受付嬢が俺に声を掛けてきた。
酒場の一角を利用して、レブナントの結晶に水を掛けたり、アルコール漬けにしたりしていたのが咎められるのだろうか。
とりあえず、アルコールでレブナント結晶の輝きがかなり減衰するのは面白いな。今度試してみよう。
「オースさん、酒場を実験室みたいに使うのはこの際目をつぶりますから、お仕事の依頼を聞いてください!」
「はい」
聞かないと追い出されかねない空気を感じたので、俺は彼女に向き直った。
「オースさんのお陰で、コカトリス討伐依頼はあちこちで片付き始めています。オースさんが考案したやり方は、オース・メソッドとして若い冒険者の人達に広まったようですから」
「それは良かった。対処方法さえ分かれば、コカトリス退治は簡単だからね」
俺は微笑んだ。
「はい。そちらはギルドも感謝しています。何しろこの、呪いのモンスター大量発生に当たり、少なからぬ犠牲者が出ていますから。ギルドも冒険者から批判を受けています」
「それはそうだろうね。本来ならば、依頼を受けられる基準パーティランクを下げるべきじゃなかった。それじゃあ、手が回らなかったのも確かだろうけど」
「はい……。それで、デュラハン依頼だけはBランク以上としていたんです。ほら、オースさんがショーナウン・ウインド時代にBランクでデュラハンを倒したでしょう」
「うん。一人でやるのは大変だった」
「一人で……!?」
受付嬢が目を剥いた。
周囲の冒険者達も、飲んでいた酒を吹き出す。
「そ、そ、それはともかく! 今のデュラハン依頼は、Aランクパーティのドラゴンアックスが受けていたのですが……」
「ドラゴンアックスか。彼らはベテランだし、強いよね」
「はい。ですが、そのリーダーである戦士ガンスがデュラハンの死の呪いを受けて亡くなりました。パーティは機能不全に陥っているということです」
「ええ……。彼らほどのパーティなら、並のデュラハンは討伐できそうなものだけど。ああ、いや、常に不測の事態というものはある。今回は彼らがしくじったのか、それとも……」
「はい。デュラハンが強かったんです。恐らく、かなり強力な個体が暴れまわっているものと思われます。オースさん、危険を承知でお願いします。デュラハンの討伐を……」
「よし、引き受けた」
そういうことになったわけだ。
51
あなたにおすすめの小説
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?
mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。
乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか?
前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる