93 / 173
第二部:神都ラグナスの冒険 7
第84話 おびき出せ忘却派! 一網打尽作戦 その2
しおりを挟む
作戦の目的は、忘却派をおびき寄せて一網打尽にすること。
忘却派の首魁は、俺が出会った男アストラル。
あれが全ての原因だ。
「アストラルは千年前の時代を蘇らせようとしている。つまり魔王の再来だね。あの時代に、世界の盟主であった人間はその地位を失った。数ある人族のうちの一つでしかなくなったわけだね。そのような時代が再び来ればどうなる? 人はこの世界で生きる場所すら失ってしまうだろう」
アルマースの使者アキムが朗々と告げる。
使者とは言うが、俺はこの男がザクサーン教における中心人物であろうと睨んでいる。
この神都ラグナスに、三大宗教のうち二つの宗教のトップがいるわけだ。
「アストラルは、魔王の力の一端を手にしたと言われているよ。彼は世界中から優れた魔術師を集めた。その中に、アドポリスで騒ぎを起こした召喚士が混じっていたのだろうね。千年前にも、東方の亜大陸にあった帝国で召喚士が確認されている。それもまた、オースと同じ世界にとっての異分子だったと言えるだろう。おっと、話がそれてしまった」
アキムは朗々と語りながら、枢機卿の部屋を行ったり来たり。
彼の言葉は難解なので、ここに集まった俺の仲間、クルミとカイルは眠そうにしている。
ちなみに、ファルクスとアリサは目を輝かせて話を聞いている。
「ファルクスはともかくとして、アリサもこういう話好きなの?」
「好きも何も……。千年前の神話の時代が、今に蘇ったようなものですわ! わたくし、幼い頃に教会の図書館で歴史を学びましたの。神話の時代には、人と神と、そして精霊王という存在がいたのですわ。そこに魔王が降り立ったと言われているのですけれど……。今、神都に起ころうとしているのは、神話の再来を狙う策謀なのですわね……!!」
「ふうん、そういうことか。俺はぶっちゃけ、ピンとは来ないんだけど。神話についても、うちにあった数少ない蔵書じゃろくに分からなかったしね」
俺は没落貴族の息子だ。
俺が生まれた頃には、家はもう貴族ではなく、ただの農民になっていた。
家には何冊もの本があったが、それらの中に、神話を語るものはなかったように思う。
もっと実践的な、知識と経験が詰め込まれた本ばかりだった。
あれは俺の一族の趣味だったのかも知れないな。
「神話はですね、我ら吟遊詩人にとっては必須の演目でしてな。口伝という形で伝わっておりますぞ。逆に言えば、これをマスターせねば一人前とは言えませんで。しかし……わたくしめが知る神話とはまた大きく異なりますなあ」
うんうん、と頷くファルクス。
彼はエルフの血が半分混じっている。
エルフは魔王とともにこの世界に来た種族らしい。
つまり、魔王がいなければファルクスはいなかった。
これはクルミも一緒だ。
ゼロ族もまた、魔王とともにこの世界に来た。
ただ、彼らは戦を好まない平和な種族だったため、魔王の軍勢と人間が争っているときも静観していたのだとか。
「神話の真実が広範に知れ渡らぬことが不思議か?」
枢機卿が口を開いた。
「それは簡単だ。この世界のあり方を魔王が作った。だが、魔王が来なければ、世界は人のものだった。そう言われて亜人達に隔意を抱かぬ者がいると思うか? 余計ないさかいが起きる」
「なるほど、それは確かに。彼らとはともに生きていかないといけないですもんね」
「そういうことだ。時間を戻すことは誰にもできない。今ある世界を維持するためには、神話を広く伝えることは無用。しかし……時を巻き戻そうとする忘却派のような馬鹿者が、いつ魔王の時代を蘇らせようとするかが知れぬ。教会は正しい神話を継承せねばならん」
これはどうやら、世界の裏側の話だ。
「ということでだ!」
アキムが壁をバーンと叩いた。
半分寝てたクルミとカイルが、ビクッとして起きる。
ドレはクルミの足元で、それでも爆睡している。
『ちゅっ!?』
俺の頭の中から、ローズが顔を出してキョロキョロした。
びっくりしたかな?
「アブラ……いや、今はアキムだったな。私の部屋の壁を叩くな。埃が立つ」
「俺の名を言うのはやめてくれないかな……? 無意味に壁を叩いたのではないよ。ほら」
アキムって偽名なのか。
アキム(仮)が叩いた壁面に、何かが浮かび上がってくる。
それは、実態のない黒板のようなものだった。
ここに、アキムが指先で文字を綴り始める。
あれは……アルマース語?
綴る端から、それが翻訳されてイリアノス語になる。
「作戦概要はこの通りだよ。俺を囮にし、彼らを集める。この大教会にだ。警備は厳重なようで抜けを作り、侵入できるようにする。フランチェスコ、間違いなく大教会にスパイが入り込んでいるぞ」
「ふん、つまり私の口で、大教会の者達へ大々的に告げろというわけか。いいだろう。題目はお前の歓迎会とでもしておくか」
「歓迎会では間抜け過ぎるのではないかな? ここは普通、親睦会だろう。世界を二分する教えの、その中でも高い地位にある二人が一堂に会するのだから」
今、意図してエルド教を外したな。
やっぱり3つの宗教は仲が悪いんだなあ。
深く関わらないようにしておこうっと。
「センセエ、どうなったですか?」
まだ眠そうな目をしながら、クルミが尋ねてくる。
よし、俺なりに聞いたことをまとめるため、要約して彼女に伝えよう。
「このアキムさんを囮にして、忘却派っていう悪い奴らを集めるんだ。そこを俺達でやっつけるんだよ」
「そうだったですか! クルミ、よく分かったですよ!」
「俺の説明を一言にまとめたねえ……。オース、君は頭がいいな」
アキムに誉められても、微妙な気持ちになるなあ……。
忘却派の首魁は、俺が出会った男アストラル。
あれが全ての原因だ。
「アストラルは千年前の時代を蘇らせようとしている。つまり魔王の再来だね。あの時代に、世界の盟主であった人間はその地位を失った。数ある人族のうちの一つでしかなくなったわけだね。そのような時代が再び来ればどうなる? 人はこの世界で生きる場所すら失ってしまうだろう」
アルマースの使者アキムが朗々と告げる。
使者とは言うが、俺はこの男がザクサーン教における中心人物であろうと睨んでいる。
この神都ラグナスに、三大宗教のうち二つの宗教のトップがいるわけだ。
「アストラルは、魔王の力の一端を手にしたと言われているよ。彼は世界中から優れた魔術師を集めた。その中に、アドポリスで騒ぎを起こした召喚士が混じっていたのだろうね。千年前にも、東方の亜大陸にあった帝国で召喚士が確認されている。それもまた、オースと同じ世界にとっての異分子だったと言えるだろう。おっと、話がそれてしまった」
アキムは朗々と語りながら、枢機卿の部屋を行ったり来たり。
彼の言葉は難解なので、ここに集まった俺の仲間、クルミとカイルは眠そうにしている。
ちなみに、ファルクスとアリサは目を輝かせて話を聞いている。
「ファルクスはともかくとして、アリサもこういう話好きなの?」
「好きも何も……。千年前の神話の時代が、今に蘇ったようなものですわ! わたくし、幼い頃に教会の図書館で歴史を学びましたの。神話の時代には、人と神と、そして精霊王という存在がいたのですわ。そこに魔王が降り立ったと言われているのですけれど……。今、神都に起ころうとしているのは、神話の再来を狙う策謀なのですわね……!!」
「ふうん、そういうことか。俺はぶっちゃけ、ピンとは来ないんだけど。神話についても、うちにあった数少ない蔵書じゃろくに分からなかったしね」
俺は没落貴族の息子だ。
俺が生まれた頃には、家はもう貴族ではなく、ただの農民になっていた。
家には何冊もの本があったが、それらの中に、神話を語るものはなかったように思う。
もっと実践的な、知識と経験が詰め込まれた本ばかりだった。
あれは俺の一族の趣味だったのかも知れないな。
「神話はですね、我ら吟遊詩人にとっては必須の演目でしてな。口伝という形で伝わっておりますぞ。逆に言えば、これをマスターせねば一人前とは言えませんで。しかし……わたくしめが知る神話とはまた大きく異なりますなあ」
うんうん、と頷くファルクス。
彼はエルフの血が半分混じっている。
エルフは魔王とともにこの世界に来た種族らしい。
つまり、魔王がいなければファルクスはいなかった。
これはクルミも一緒だ。
ゼロ族もまた、魔王とともにこの世界に来た。
ただ、彼らは戦を好まない平和な種族だったため、魔王の軍勢と人間が争っているときも静観していたのだとか。
「神話の真実が広範に知れ渡らぬことが不思議か?」
枢機卿が口を開いた。
「それは簡単だ。この世界のあり方を魔王が作った。だが、魔王が来なければ、世界は人のものだった。そう言われて亜人達に隔意を抱かぬ者がいると思うか? 余計ないさかいが起きる」
「なるほど、それは確かに。彼らとはともに生きていかないといけないですもんね」
「そういうことだ。時間を戻すことは誰にもできない。今ある世界を維持するためには、神話を広く伝えることは無用。しかし……時を巻き戻そうとする忘却派のような馬鹿者が、いつ魔王の時代を蘇らせようとするかが知れぬ。教会は正しい神話を継承せねばならん」
これはどうやら、世界の裏側の話だ。
「ということでだ!」
アキムが壁をバーンと叩いた。
半分寝てたクルミとカイルが、ビクッとして起きる。
ドレはクルミの足元で、それでも爆睡している。
『ちゅっ!?』
俺の頭の中から、ローズが顔を出してキョロキョロした。
びっくりしたかな?
「アブラ……いや、今はアキムだったな。私の部屋の壁を叩くな。埃が立つ」
「俺の名を言うのはやめてくれないかな……? 無意味に壁を叩いたのではないよ。ほら」
アキムって偽名なのか。
アキム(仮)が叩いた壁面に、何かが浮かび上がってくる。
それは、実態のない黒板のようなものだった。
ここに、アキムが指先で文字を綴り始める。
あれは……アルマース語?
綴る端から、それが翻訳されてイリアノス語になる。
「作戦概要はこの通りだよ。俺を囮にし、彼らを集める。この大教会にだ。警備は厳重なようで抜けを作り、侵入できるようにする。フランチェスコ、間違いなく大教会にスパイが入り込んでいるぞ」
「ふん、つまり私の口で、大教会の者達へ大々的に告げろというわけか。いいだろう。題目はお前の歓迎会とでもしておくか」
「歓迎会では間抜け過ぎるのではないかな? ここは普通、親睦会だろう。世界を二分する教えの、その中でも高い地位にある二人が一堂に会するのだから」
今、意図してエルド教を外したな。
やっぱり3つの宗教は仲が悪いんだなあ。
深く関わらないようにしておこうっと。
「センセエ、どうなったですか?」
まだ眠そうな目をしながら、クルミが尋ねてくる。
よし、俺なりに聞いたことをまとめるため、要約して彼女に伝えよう。
「このアキムさんを囮にして、忘却派っていう悪い奴らを集めるんだ。そこを俺達でやっつけるんだよ」
「そうだったですか! クルミ、よく分かったですよ!」
「俺の説明を一言にまとめたねえ……。オース、君は頭がいいな」
アキムに誉められても、微妙な気持ちになるなあ……。
30
あなたにおすすめの小説
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?
mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。
乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか?
前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?
辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~
リーフレット
ファンタジー
「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」
帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。
アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。
帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。
死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。
「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる