召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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終末の王編

第165話 仕合からの切り札尻移動

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 コンボの達人対策。
 これは実に面倒くさいのだ。

 まず、コンボの達人はこれまで俺が戦ってきた異世界召喚者や神様と違い、一発芸に頼るタイプではない。
 こいつの戦い方はあくまで徒手空拳。
 なんか波動の拳とかパワーのウェイブみたいな飛び道具もあるようだが、それでもそこまでの威力ではない。

 コンボの達人の真価は、対応力だ。
 あらゆる攻撃に対応し、適切かつ連打可能な攻撃を放って相殺する。
 敵の攻撃が途絶えたところで、コンボのきっかけとなる攻撃をねじ込んで攻め立てる。

 相手がなんであろうと、この必勝パターンを押し付けてくるわけだ。
 ある意味、俺と同じ、自分のルールの中に相手を巻き込んで倒すタイプと言えよう。

「さーて、このチュートリアルモードでどう対処するかだが……」

 時間が止まったチュートリアルの中で、コンボの達人と向かい合う。
 まともにやり合ってもいいが、そんなもん、どれだけ時間が掛かるか分からない。

 ルインマスターのように無限の体力があるからというわけではなく、俺とこいつの場合、同じ方向性の能力どうしが噛み合うことで、勝負は千日手になるのだ。
 そんな時間はないというか、掛けるのが勿体ない。

 ここは、奇襲による決着でお茶を濁そう。
 俺はそう決めた。

 こうして、何通りかのやり方を試してから戻ってきたぞ。
 もちろん、チートモードも発動している。

「仕掛けるぞ」

「来るがいい!」

 俺はじりじり間合いを詰めながら、牽制のパンチを放った。
 ……と見せかけて、ギリギリ相手の攻撃が届かないところで空振りしつつ指パッチンした。

「うおっ!?」

 間合いを見切っていたコンボの達人だが、届くか届かないかで指パッチンされるのは想定外だったらしく、反射的に手が出る。
 奴の最速の攻撃、弱パンチだ。

 当てられてひるめば、そこからコンボに持っていかれる。
 だが、意図しない理由で空振った時……そこに大きな隙が生まれるのだ。

 俺はそこに潜り込む。
 チートモードによってあらわになった、達人の弱点を突く……。

「なるほど! 俺の戦いにこんな弱点が! いや、ナーフされたな!」

 達人はそう呟きながら、いきなりバックステップした。
 そして何もない空間を弱パンチ連打で叩く。

 俺の視界の端に表示が出た。

『チートモードを破られました』

「マジかー」

 初手でチートモードの攻撃を見抜いて、それを相殺してくるとは。
 いや、マジで最強だなこいつは。

 達人の蹴りやパンチを、俺はチュートリアル通りに捌く。
 散々でたらめな相手と戦ってきたために、速い攻撃には慣れているのだ。

 そもそも、速いだけなら技巧神イサルデが最速だった。
 そんなイサルデの半身とは言え、コンボの達人はそれを倒している。

 つまり、強さは速度では決まらない。
 こいつの怖さは……。

 意識の外から、パンチが来た。
 これだ。
 見えているのに避けられないパンチ。

 牽制の攻撃が全て、コンボのスタートになる達人。
 どんな弱い攻撃だろうと無視はできない。
 だからこそ、相手の意識がそれらに割かれて散漫になったところで、明らかにリズムの違う攻撃が差し込まれる。

 これ、ルインマスターにすら通じていたようなので、達人最強のワンパターンというやつだろう。
 もちろん、チュートリアルしていながら俺も引っかかりそうになった。

 なので、そう言うときはステーンと地面に寝転ぶに限る。

「ほう!」

 達人が嬉しそうになった。
 この攻撃を避けたのが意外だったのだろう。

「この世界でこいつを避けたのは、オクタゴンだけだぞ!」

「うむ。恐ろしい攻撃だな。食らったらそこからコンボだ」

「だがお前は寝転んだ。そういう姿勢からの型か? 起き上がるか、体勢を少しは高くせねば技は出まい」

 俺はニヤリと笑った。
 そここそが、達人の意識の穴である!

 寝たまま、俺は尻移動を開始した。
 繰り出された達人の踏み潰しを、横スライディングしながら回避。

「なにっ!?」

 そのまま回転しながら、達人の足を払う。

「ばかな!!」

 よろけた達人。
 なんとか素早く体勢を立て直す。
 身体コントロールは流石である。

 だが、完全に建て直される前に、スピンしながら移動していた俺が達人の膝裏にいた。
 そこから尻の反動にて高速で起き上がり、達人の膝裏に膝を当てたのである。

「そいっ」

「ウグワーッ! ウグワーッグワーッワーッーッ」

 秘技、尻移動膝カックン!!
 コンボの達人は、身体バランスを完全に崩されて、地面に転がった。

「尻移動を甘く見たようだな……」

「俺が……地に顔をつけて……!? 俺は……負けたのか……」

 転んだら負けとか相撲かな?
 だが、達人は俺を見上げ、

「参った。この勝負、俺の負けだ。謎の技を使われても、そんなものは相殺すればいいと思っていた。だが、俺の力の及ばぬなんだかよく分からないものを見せつけられた気分だ」

 素直に負けを認めたのである。
 どうやら達人ルール的には、コンボの出かかりを全て潰され、その上、初めて意図せず背後まで取られ、膝カックンされたあげく自分が死に体になった状況が敗北に値するらしい。

「俺は慢心していた。お前がその気なら、俺は死んでいただろう……。謎の寝ながら移動からの膝カックン……。恐るべき技だ」

「達人も、俺のチートモードを平然と破っただろ。あれ普通に俺の超必殺技みたいなもんだからな」

「あれは別に怖くはなかった。見切って相殺すればいいだけだからな」

 俺が手を差し出すと、達人は手を握って立ち上がった。

 ここに、なんか信頼関係っぽいものが生まれたのである。

 ちなみにこの光景を、ずーっとカオルンが見ていたりする。

「はー、異次元の戦いだったのだなあ。何が起こってたのかカオルンはさっぱり分からなかったけど、中に入ったらまずいということだけわかったのだ! あと、前々から思ってたけど、マナビのお尻はなんなのだ?」

「今疑問に感じられてもなあ。あくまで、俺がスマホをポチポチやりながら寝そべりつつトイレまで移動するための技だぞ。ベッドから降りる必要もあったし、こたつから座布団を乗り越えて移動する必要もあった。緊急事態でトイレに駆け込む必要もあった。故に、俺は尻移動を鍛え続けたのだ」

 その尻移動が、異世界でそれなりに役立つとはなあ。
 人生分からないものだ。

 ともかく、これでコンボの達人を仲間にしたのである。
 ここからターンして、今度はオクタゴンを連れて来なければなるまい。

 色々考えている俺の横で、コンボの達人とカオルンが仰向けになり、尻移動をしようとジタバタ動いているのであった。
 尻移動は一夜にしてならずだぞ。
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