召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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終末の王編

第164話 喜ぶ達人からのそういうことになった

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 砦に立てこもったバーバリアンたちが、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら攻撃を仕掛けている。
 弓や槍、石などが降り注ぐが、その中をコンボの達人は平然と歩いているのだ。

 ちょっと歩行速度が遅いのは、ちょっと進んではパンチを繰り出して、落下物を相殺しているからであろう。
 後ろにエリイが隠れてて、「うんうん、やっぱ頼りになるじゃん! ねえねえ君さあ、あたしといいことしようよ」「しません」「ええー」
 なんてことをやっている。

 あまりに面白い光景だったので、俺は降り注ぐ武器の中をトコトコ歩きながらコンボの達人に近づいた。

「イヨウ! なんか美女に迫られて困ってるらしいじゃん」

「お、お前は……!!」

 コンボの達人の顔がパッと明るくなる。
 これは、やっと顔見知りが来てくれたという表情だ。
 そんなに追い詰められていたか。

 この世界に来てから二度目の危機だったんだな。

 とりあえず砦は、カオルンとナルカに行ってもらった。
 無造作な斧の一撃で、魔法の城門を叩き割るナルカ。

 砦の上にいるバーバリアンたちを、猛烈な速度で処理していくカオルン。

 あと数分で終わるぞ、これは。
 この光景を見て、コンボの達人はウームと唸った。

「俺の能力は効率が悪いからな。こんなにスピーディーに制圧できない。これは羨ましいな……。こんなことができていれば、今頃また逃げていたのに」

「もう逃げられないわよ!」

「ウグワー」

 コンボの達人、エリイに後ろから捕まってしまった。
 めっちゃ顔が赤いじゃん。
 女子への耐性ゼロじゃん。

「助けてくれーっ!!」

「そんな迫真の叫び初めて聞いたわ。よし、コンボの達人。俺はお前を助けてやることができる」

「本当か!」

 砦がすっかり静かになったので、達人のでかい返答がやたら響く。

「本当だ。実は魔導王が出てな。あんたの力を借りたい」

「……魔導王?」

 コンボの達人が首を傾げた。
 おい!

「知らんのか! 世界最強の三人の一人だろ!」

「俺はほんの数年前にこの世界に召喚されたので、よく分からない。世俗のことは何も知らないまま、敵を求めてずっと彷徨ってたんだ」

「モンスターみたいな生活してるやつだな。だが、その数年でオクタゴンと戦い、世界最強の一人だと認めさせたのは凄いのかもしれない」

 物を知らぬコンボの達人のために、説明をすることにした。
 まずは一服するために、砦の中へ。

 バーバリアンの死体がたくさん転がっている。

「中庭に骨塚があるじゃん」

「あれはバーバリアンが殺した魔法使いたちを集め、焼いた後でしょうね」

「ひえー、バーバリアン的所業!」

 なお、そのバーバリアンも全滅したので、骨塚の仲間入りである。
 進行方向にいるから悪いのだぞ。

 砦の備蓄食料があった。
 キラキラ光る干し肉である。

「マナビさん! それ食べていいですか! これですねー、水につけると新鮮なお肉に戻るんですよ」

「ルミイ! あんたいたの!?」

 今まで大人しかったルミイ、腹が減ってたのか。
 突然勢いを増して登場すると、肉を抱えて水場に走っていった。

 エリイは、コンボの達人とルミイを交互に見やった後、俺に目線を向けて頷いた。

「ルミイの旦那がいるなら逃げないでしょ。逃がすなよ」

 なんか俺に釘を差して、ルミイの後を追いかけていったのである。
 コンボの達人、ようやく一息をつく。

「助かったあ……。女子に近づかれるとどうしていいか分からなくなる……。敵意以外の感情は処理できない」

「悲しき殺人マシーンみたいなこと言ってる」

 俺たちは光る干し肉をそのままかじりながら、今後の話を始めた。

「魔導王が出てきて、こいつは強い。手を貸してくれ」

「よし」

 用件が済んだ。
 敵が強いと、本当に話が簡単だなあ!

「だがマナビ。お前に一つだけ言っておかなければならないことがある」

「なんだなんだ」

「俺とルインマスターとの決着に水を差したな? 女子からの脅威を払ってくれたことには感謝しよう。だが、それとこれとは話が別だ」

 おおっ、コンボの達人の中に湧き上がる覇気!
 やる気か。

「言い訳は無駄だと思うが、あれだぞ。あのまま戦うとこの星がやばかった」

「そうかも知れないが、勝負の方が大切なんでな! マナビ。ここで俺と仕合え。俺との勝負を二回に渡って逃げていたお前だが、ここで逃げるならば許さんぞ!」

「許さなければどうする?」

 ここで、コンボの達人が困った顔をした。
 何も考えていなかったらしい。

 多分、俺が勝負を避けても、こいつは何もしないだろうなあ。
 だが、けじめというものもある。

「いいだろう。やってやる」

 俺の返答を聞いて、コンボの達人が凄みのある笑みを浮かべた。
 こいつ、めちゃくちゃに喜んでいるんだな。

「やっと……歯ごたえのある相手と戦える……!!」

「ルインマスターじゃ物足りなかったのか?」

 距離を少し取りながら、俺は問う。
 達人は難しい顔をした。

「でかいだろう。殴り甲斐はあるが、対戦している感じじゃなかった。ギミックが仕掛けられたステージを攻略しているみたいな……」

「あー、ゲームだとそうなるよな。なるほど、なるほど。じゃあ人間サイズの相手とやり合うのは俺が久々か」

 つまりこの男、技巧神くらいでは歯ごたえを感じなかったということになる。
 なるほど、最強だ。

 俺はネクタイをほどき、拳に巻き付けた。
 魔法のネクタイが輝き出す。

 コンボの達人と向かい合うために、奇しくもドンデーン教授と同じスタイルだなあ。
 達人もまた、半身に構えた。

 こいつ、戦う時にきちんと構えを取るのだ。
 無形の構えもカッコいいが、きちんと構えるやつのほうが強いと、テンション上がるよな。

 なので、俺も礼儀として身構えた。
 ボクシングっぽい見様見真似の構えである。

 これで、コンボの達人がまた嬉しそうな顔をする。

「やるか」

「やろうか」

「やろう!」

 達人の一声で、そういうことになったのだった。
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