235 / 337
78・波高き船の旅
第235話 平和ではない
しおりを挟む
のんびりと船は行く。
アーランから遠く離れ、今は南の海の上。
垂れ耳コボルド族の暮らす島はどこにあるのだろうか。
まあ、ここはまったりと過ごしながらたまには命の洗濯を……。
「うわーっ! 海竜種だーっ!!」「シーサーペントとアクアドラゴンが出たぞー!!」「こいつら水中で喧嘩してやがったんだ!」「どうりで魚がどこにもいねえはずだ!!」
まったりじゃない、全然まったりじゃない。
こんな感じで、船というのは様々な障害に出会うものだ。
「僕らがいない時、ああいう化け物とぶつかったらどうすんの」
「デカ銛をぶっ放してダメージを与えてですね、引っ張り合いをしてあっちの体力を消耗させて、疲れたところを逃げるかんじですかね」
船員の中でも砲手担当の人、プロっぽい雰囲気を漂わせている。
左右の舷側に銛を発射する装置があり、これで戦うようだ。
銛にはぶっといロープがくくりつけられており、これで化け物を攻撃した後、他の船員が帆をコントロールして風を受け、操舵手が船を自在に動かして攻撃を回避。
そして十分くらい付き合うと、相手はへとへとになるのでこれで離脱ということのようだ。
「案外スタミナ無いのね」
「相手も水の中で泳ぐにはいいんでしょうが、バタバタ大暴れするのは非日常ですからね。そうしたらくたびれるってもんです。それに動くと体温が上がるんですが、あいつらは水で常に冷やされている前提なんで、熱くなるととたんに動けなくなるんですよ」
「なーるほどなあ! 船もこうやって戦うんだな!」
勉強になるー。
実際、アクアドラゴンにはこの戦法で挑んだ。
アクアドラゴンというのは、言うなればバカでかいプレシオサウルスだ。
全長30mくらいある。
船の左舷から首を伸ばしてきて、船員たちに噛みつこうとしている。
「おりゃーっ! いい的だぜえーっ!」
砲手がここに銛をぶち込んだ!
『モギャーッ!!』
アクアドラゴンが吠える。
そこで操舵手が慣れた手つきで、舵輪をグルグルと回した。
おお、船がアクアドラゴンの周囲を回り始める!
アクアドラゴンはこちらに追いつこうとしてバタバタするが、刺さった銛からの流血と、ロープがぐるりと巻き付いて動きづらくなるやらで、なかなか船に組み付くことができないでいるようだ。
この調子なら、アクアドラゴンは疲れ切ってこちらをあきらめるだろう。
だが今回はもう一頭いるのだ!
シーサーペントが水中をニョロニョロと泳いでくる!
ウミヘビかあ。
毒がありそうだし、厄介だなあ。
しかもでかい。
かなりのデカさだから、ここから見てもエラがはっきり見える。
……エラ?
もしかしてこいつ、ウミヘビではなく細長い魚なのでは?
「砲手、つかぬことを聞くんだけど」
「なんですかね! こっちはロープのコントロールがなかなか大変なんですがね!」
「シーサーペントって魚で、焼くと美味かったりする?」
「ええ! 難物ですが、漁できればかなりのご馳走ですよ! 脂が乗ってますからね! うおおおお!!」
仕事に専念してもらおう。
しかし、そうか。
細長くて、脂が乗っててニョロニョロ泳ぐ魚。
他の、シーサーペントに狙いをつけて銛を打とうとしている船員にも確認。
「シーサーペントの表面はぬるぬるしていて、なかなか銛が刺さらないのではないか」
「ナザルさんよく知ってますね! あいつは海の盗賊と呼ばれるヘビみたいな魚で、あの長い体で船に入り込んでは樽を海に放りだして中身を食っちまうんですよ! だが、美味いこと捕まえられたらご馳走に……!!」
なるほど、これは人間とシーサーペントの化かし合い!
恐らくは全長50mはあるシーサーペント。
胴の太さだけでも直系1mはある。
人間だって丸呑みだろう。
実際、海中に落ちてしまえばシーサーペントの餌食らしい。
だが、海上なら話が違う。
向こうはせいぜい、樽を狙うのが精一杯。
空気中だと動きの精度が落ちるらしい。
そこを狙って、神経の集まる後頭部を銛で一撃!
これが狙い目のようだ。
「しかし、くっそー! アクアドラゴンと一緒に出てきたから、集中できねえ! アクアドラゴンなんか食っても不味いんだから、さっさと諦めて消えてくれりゃいいのに!」
「アクアドラゴンも食べられるんだ!?」
僕はとても感心してしまった。
海は苛烈で、戦いに満ちている。
負ければ魚の餌食。
勝てば魚がご馳走。
最高ではないか!
だが、今回は僕の出番はないかも知れない。
この一大スペクタクルを見学させてもらおう。
「ご主人~」
あっ、コゲタが甲板に出てきた!
危ない!
「あ~」
船が傾いた時に、ころころと転げていくコゲタ。
僕は油でつるーんと滑りながら追いかけた。
「うおー! つけてて良かったリード!!」
リードをキャッチ!
対面では、ダッシュで回り込んだマキシフがコゲタをキャッチしていた。
「お互いファインプレーだ。やるねマキシフ」
「ありがとうございます。船の上は危なくなっているので、踏ん張る力が足りないコゲタは隠れている方がいい」
「そっかー。でもありがとー!」
うんうん、仲良きことは美しきかな。
僕がコボルドの友情を見てジーンとしている間に、アクアドラゴンの方は片付いたようだった。
船の軌道がまともなものになる。
砲手はロープをわっせ、わっせと巻き取っているのだ。
さて、次はシーサーペント戦であろう。
頑張れ、右舷の砲手!
アーランから遠く離れ、今は南の海の上。
垂れ耳コボルド族の暮らす島はどこにあるのだろうか。
まあ、ここはまったりと過ごしながらたまには命の洗濯を……。
「うわーっ! 海竜種だーっ!!」「シーサーペントとアクアドラゴンが出たぞー!!」「こいつら水中で喧嘩してやがったんだ!」「どうりで魚がどこにもいねえはずだ!!」
まったりじゃない、全然まったりじゃない。
こんな感じで、船というのは様々な障害に出会うものだ。
「僕らがいない時、ああいう化け物とぶつかったらどうすんの」
「デカ銛をぶっ放してダメージを与えてですね、引っ張り合いをしてあっちの体力を消耗させて、疲れたところを逃げるかんじですかね」
船員の中でも砲手担当の人、プロっぽい雰囲気を漂わせている。
左右の舷側に銛を発射する装置があり、これで戦うようだ。
銛にはぶっといロープがくくりつけられており、これで化け物を攻撃した後、他の船員が帆をコントロールして風を受け、操舵手が船を自在に動かして攻撃を回避。
そして十分くらい付き合うと、相手はへとへとになるのでこれで離脱ということのようだ。
「案外スタミナ無いのね」
「相手も水の中で泳ぐにはいいんでしょうが、バタバタ大暴れするのは非日常ですからね。そうしたらくたびれるってもんです。それに動くと体温が上がるんですが、あいつらは水で常に冷やされている前提なんで、熱くなるととたんに動けなくなるんですよ」
「なーるほどなあ! 船もこうやって戦うんだな!」
勉強になるー。
実際、アクアドラゴンにはこの戦法で挑んだ。
アクアドラゴンというのは、言うなればバカでかいプレシオサウルスだ。
全長30mくらいある。
船の左舷から首を伸ばしてきて、船員たちに噛みつこうとしている。
「おりゃーっ! いい的だぜえーっ!」
砲手がここに銛をぶち込んだ!
『モギャーッ!!』
アクアドラゴンが吠える。
そこで操舵手が慣れた手つきで、舵輪をグルグルと回した。
おお、船がアクアドラゴンの周囲を回り始める!
アクアドラゴンはこちらに追いつこうとしてバタバタするが、刺さった銛からの流血と、ロープがぐるりと巻き付いて動きづらくなるやらで、なかなか船に組み付くことができないでいるようだ。
この調子なら、アクアドラゴンは疲れ切ってこちらをあきらめるだろう。
だが今回はもう一頭いるのだ!
シーサーペントが水中をニョロニョロと泳いでくる!
ウミヘビかあ。
毒がありそうだし、厄介だなあ。
しかもでかい。
かなりのデカさだから、ここから見てもエラがはっきり見える。
……エラ?
もしかしてこいつ、ウミヘビではなく細長い魚なのでは?
「砲手、つかぬことを聞くんだけど」
「なんですかね! こっちはロープのコントロールがなかなか大変なんですがね!」
「シーサーペントって魚で、焼くと美味かったりする?」
「ええ! 難物ですが、漁できればかなりのご馳走ですよ! 脂が乗ってますからね! うおおおお!!」
仕事に専念してもらおう。
しかし、そうか。
細長くて、脂が乗っててニョロニョロ泳ぐ魚。
他の、シーサーペントに狙いをつけて銛を打とうとしている船員にも確認。
「シーサーペントの表面はぬるぬるしていて、なかなか銛が刺さらないのではないか」
「ナザルさんよく知ってますね! あいつは海の盗賊と呼ばれるヘビみたいな魚で、あの長い体で船に入り込んでは樽を海に放りだして中身を食っちまうんですよ! だが、美味いこと捕まえられたらご馳走に……!!」
なるほど、これは人間とシーサーペントの化かし合い!
恐らくは全長50mはあるシーサーペント。
胴の太さだけでも直系1mはある。
人間だって丸呑みだろう。
実際、海中に落ちてしまえばシーサーペントの餌食らしい。
だが、海上なら話が違う。
向こうはせいぜい、樽を狙うのが精一杯。
空気中だと動きの精度が落ちるらしい。
そこを狙って、神経の集まる後頭部を銛で一撃!
これが狙い目のようだ。
「しかし、くっそー! アクアドラゴンと一緒に出てきたから、集中できねえ! アクアドラゴンなんか食っても不味いんだから、さっさと諦めて消えてくれりゃいいのに!」
「アクアドラゴンも食べられるんだ!?」
僕はとても感心してしまった。
海は苛烈で、戦いに満ちている。
負ければ魚の餌食。
勝てば魚がご馳走。
最高ではないか!
だが、今回は僕の出番はないかも知れない。
この一大スペクタクルを見学させてもらおう。
「ご主人~」
あっ、コゲタが甲板に出てきた!
危ない!
「あ~」
船が傾いた時に、ころころと転げていくコゲタ。
僕は油でつるーんと滑りながら追いかけた。
「うおー! つけてて良かったリード!!」
リードをキャッチ!
対面では、ダッシュで回り込んだマキシフがコゲタをキャッチしていた。
「お互いファインプレーだ。やるねマキシフ」
「ありがとうございます。船の上は危なくなっているので、踏ん張る力が足りないコゲタは隠れている方がいい」
「そっかー。でもありがとー!」
うんうん、仲良きことは美しきかな。
僕がコボルドの友情を見てジーンとしている間に、アクアドラゴンの方は片付いたようだった。
船の軌道がまともなものになる。
砲手はロープをわっせ、わっせと巻き取っているのだ。
さて、次はシーサーペント戦であろう。
頑張れ、右舷の砲手!
32
あなたにおすすめの小説
ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。
あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。
彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。
初配信の同接はわずか3人。
しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。
はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。
ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。
だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。
増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。
ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。
トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。
そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。
これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる