俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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77・旅立ちの時

第234話 船上のちょっと良いご飯

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 スープフィッシュのソテーと、スープが完成した。
 スープの方にはちょっとバターを浮かせてある。

 船の中には食堂があり、そこに全船員の半分ほどが入ることができる。
 そこに料理が並ぶと、食堂内を満たす素晴らしい香りに、誰もが感嘆の声を上げた。

「スープだけでもご馳走だってのに、それだけじゃないぞ!」「スープフィッシュが焼かれてる……。しかも贅沢に油を使って!」「これ、バターの匂いだ! オブリーオイルの匂いもする!」

 注目は僕に集まる。
 ここはきちんと説明せねばなるまい。

「この船の世話になる以上、お礼をしておきたいと常々思っているんだ。これはその一つだと思って欲しい。スープフィッシュはたっぷりの油とともに炒めると、素晴らしい料理に変身した。恐らく、前代未聞のソテー。世界で一番最初に、みんなに食べてもらいたい」

 僕が宣言すると、誰もがうおーっ雄叫びを上げた。
 中には船主と船長も混じっており、彼らも喜色満面だ。

 一斉に、ラム酒っぽいのが入ったジョッキを掲げて乾杯を叫ぶ。
 アルコール度数が多い酒は腐りにくいからね。
 それに柑橘類の汁を絞って飲むわけね。

 酒とともにスープとソテーを食べ始める一同。
 付け合せはカッチカチに焼かれたパンだ。
 こいつをスープでふやかして食べる。

 そりゃあ美味いに決まってる。

「むほおおおお」「うんっまあああああ」「ソテー、口の中でほろほろっと崩れて無くなる!」「たまらーん!!」

 味が濃くて脂っこい料理を食ったら、酒で相殺。
 そしてまた料理を食う。
 いやあ、止まらなかろう。

 彼らがデスクワークをするような人間だったら、こんな食事は命取りだ。
 だが!
 彼らは世界で最もハードな仕事、船員をやってる連中なのだ!

 超高カロリー、塩分、油たっぷり!
 そして流し込むアルコール!
 これが彼らの明日の燃料となる。

 ざっとあのソテー、一人前で2000kcalは下るまい。
 それがぺろりと平らげられていく。
 おかわりした者までいた。
 健啖~。

 みんなはち切れんばかりに食い、そしてわいわいと甲板、あるいは船底に向かっていった。
 彼らは夜番で仕事をする者たち。

 つまり、さっきのが朝食である!
 あの超ハイカロリーが朝食!?

 船の安全な旅は彼らに掛かっている。
 任せたぞ。

 船主と船長はもう、血糖値スパイクですごく眠そうだ。
 幸せに至るがよい。
 僕は彼らを部屋まで送っていった。

 次にやってきた第二陣は、これから寝る連中だ。
 ソテーは控えめにしようねえ。

 少ないぞ、と文句が出たが、ひとくち食べてみんな納得したようだ。

「こ、これは……ちょっと食べただけで凄まじい満足感!!」「こんなん一尾まるごと食べたら寝れないぜ……」「なるほど、寝るのも仕事の俺らに気を使ってくれたってわけか」「夜組は一人一尾食ったらしい」「いいなあ! いつもは夜組は外れだけど、今夜ばかりは羨ましい……」

「みんながスープフィッシュを釣ってくれれば、またごちそうするよ」

 僕が宣言したので、船員一同がウワーッと盛り上がったのだった。

 超高カロリーのエネルギーフードだ。
 こいつをまた食べたいと言うなら、積極的にハードワークをしてくれ!
 そうじゃないと天国が近づくぞ。

 昼組はせっせと酒を飲んだ。
 もうすぐに寝てしまうからだろうな。
 既に何人かはこっくりこっくりと船を漕ぎ始めている。

 船の上で船を漕ぐとはこれいかに。
 昼組の食事も終わりだ。

 最後に、僕とコゲタとリップルと、ダイフク氏とマキシフの食事。

「いやあ、この油の量は凄いね。私はスープをちょっととソテーを一欠片だけにしておく」

「リップル、正しい」

 僕もそれよりちょっと多いだけにした。
 コゲタとマキシフには、火を通しただけのスープフィッシュに軽く塩を振ったもの。

 コボルドは犬に近いので、あまり脂っこかったりするものはよろしくない。
 それでも、嗅覚に優れる彼らはハフハフと美味しそうに食べるのだ。

「ご主人ー! とってもおいしーい!!」

「そりゃあよかった!」

 なお、ダイフク氏はつるりとスープフィッシュを呑んだ。

「相変わらずジューシィーな喉越し」

「喉越し!」

 アビサルワンズは色々想像を超えてくるな……。
 一応、人間のように咀嚼して食事することもできるのだが。

 たまにこうしてカエルっぽい食事をしたりもするとのこと。
 僕が見てる限り、常にカエルじゃない?

 こうして、スープフィッシュを使った豪勢な食卓が終わった。
 海の上は食材が限られるから、料理がシンプルでいいな。
 ビタミンは柑橘類と漬物で摂取するのだ。

「ダイフク氏、あとどれくらいで到着する?」

「そうですね」

 ダイフク氏が無い顎を撫でながら中空を見つめる。
 虫でも飛んでるのかな?

「あと十日ほどでしょうか」

「あー、遠いなあ」

 片道で恐らく二週間。
 向こうへの滞在と往復を入れると、アーランを二ヶ月空けることになる。

 戻った頃には、完全に春だろうなあ。
 帰ったら冒険者ギルドの大掃除が待っている。

 いやいや、到着する前から帰った後のことを考えるやつがあるか。
 僕は今後も旨い料理を提供しつつ、船のやる気を維持しながらこの度を続けていくつもりなのだった。

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