俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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100・二世誕生

第305話 縁談だと!? はやいはやい!

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 首が据わったカルボナルは、様々なものをじーっと見るようになった。
 目が大きい気がする。
 その目をぐーっと開けて、じーっと見るのだ。

 今、息子は世界のありとあらゆる情報を取り入れ、脳を急成長させているのであろう。
 なお、この頃にはリップルは冒険者ギルドに出るようになっていた。
 特に何をするわけでもないのに、また安楽椅子探偵を再開しているのである!

 主に昼間のカルは僕が担当することになった。
 なお、母乳はリップルがなんか魔法で送ってくる。
 あいつめ、また不思議で使い勝手の無い専門的な魔法を作り出して。

 専用の哺乳瓶に送り込まれてくるので、定時毎にカルに飲ませればいい。
 僕はカルを特製ベビーカーに乗せて、遺跡に出勤するのだ。

 油でビュンビュン走る。

「あおー」

 素晴らしい速度に、カルがうめき声を漏らした。
 何か彼の中で、感嘆みたいな感情が湧き上がっているのかもしれない。

 第四階層に連れて行くと、我が家のちびは大人気だった。

「旦那さんのお子さん? かわいいねえー!」「目がぱっちりしてるよ!」「それに大きいねえ……」

「おっぱいをたくさん飲んでぐんぐん育っているんだ。すでに生まれた時の倍の重さになっているぞ」

 同年代の赤ちゃんと比較しても大きい方であろう。
 カルは周りにいる大人たちを、目だけ動かして見回している。
 寝返りを打てるまではもう少しだもんな。

 さて、職人の奥様方にカルを任せ、時間になったら哺乳瓶に母乳が溜まるから飲ませてくれと頼んだ。

「時間になったら……!?」「あっ、母さん! 哺乳瓶の中にどんどんミルクが溜まっていく!」「不思議!」

 リップルの謎魔法炸裂!!
 安心して仕事に打ち込めるというものだ。

 おしめの交換から寝かせつけまで奥様方に頼んでしまい、僕はひたすら仕事をした。
 そして帰宅!

 奥様方に礼を言い、ベビーカーを押して自宅まで帰るのである!
 途中で、コゲタとリップルと合流する。

「どうだい、私の開発したカルの空腹感知魔法と連動した、母乳転送魔法は」

「恐らく魔法界の革命なんだろうと思うけど、前代未聞の事をこういうパーソナルなところでやるのはどうかと思う」

「その様子だと満足してもらえたようだねえ、ふふふ」

「カルーげんきだった? いっぱいねた?」

「あうわー」

 コゲタに構われて、カルが赤ちゃん語を発した。
 まだその身は不動。
 もぞもぞ動くものの、身体能力は寝返りにも至らない。

 だが、小さい手のひらをゆっくりグーパーしているので、コゲタに手を伸ばしたいのだろうなーとは思う。
 カルー、お姉ちゃんだぞー。

 そんなこんなで帰宅すると、お手伝いさんが夕食を作ってくれていた。
 これをもりもり食べていると……。

 なんと夜に訪れる客人が。

「ナザル殿、夜分に失礼いたします。実はバスコンティン侯爵からカルボナル様に縁談の話が……」

 バスコンティン侯爵とやらの使者か!?
 縁談!?
 何を言っているんだこの男は。

 僕は飯をもりもり食べて、よく噛み、ごくりと飲み込んでからビールをぐいっとやった。

「ナザル、返答するためにたっぷり間をあけるねえ」

「食事中だからな。バスコンティン侯爵が夜分にいきなりどうしてそんな話を持ってくるんだ」

 使者は困った顔をした。

「昼間ずっと留守だったもんで、この時間しかアタックできなくて……」

「そっか、僕はカルを連れてずっと遺跡にいたもんな」

 例え貴族の使者と言えど、遺跡の中に入り込むのは一苦労なのだ。
 なにせ用事がないし、それに土地勘もまったくない。

 貴族街で暮らしているような貴族が、遺跡内部の農場に詳しいわけがないのだ。
 それに、第三層の半ばから第四層までは僕の領土になっている。
 勝手に侵入ができないのである。

「とにかく夜にやってくるのは失礼だぞ。後で来い、後で。明日の朝、出るのを遅くして待っててやるから」

「あ、ありがたい! ではその時にでも伺います!」

 使者は帰っていった。
 なんだったんだ。

 そして翌日。
 今日はリップルも家に残っている。
 さあ、来るがいい使者よ。

 僕ら夫婦は美味しい朝ご飯をお腹いっぱい食べて、エネルギー充填済みだぞ。
 迎え撃ってやろう!

 そう思っていたら……。
 使者の数が三人に増えていた。

「バスコンティン侯爵から縁談のお話が……」
「ウエスタンチン伯爵から縁談のお話が……」
「パンチドランク子爵から縁談のお話が……」

 使者たちが勝ち合い、なんかわあわあ言い合い始めた。
 爵位の差はあれど、この国の貴族たちはあんまりそういうの関係なくやり合うからなあ……。

 爵位が高いほど持っている土地が広く、そして国にたくさん税を収めるので発言権がある……くらいの差だ。
 しばらく使者の取っ組み合いを見ていたが、あまりに見苦しいので油をぶつけてやった。

「うりゃあ」

「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」

「落ち着け落ち着け!」

「さすがナザルの油玉だ。見事に鎮圧されて地に伏して、油でつるつるするから起き上がることすらできないでいる。私もこの油の再現だけは無理なんだよなあ」

 再現に挑戦してたのか!
 それはともかく。

「うちのカルボナルはまだ生後三ヶ月とちょっとである。縁談なんか早い。お引き取り願おう」

「そのう、貴族は割と生まれたときから縁談とかするので」

 使者が言う言葉に僕はびっくりした。

「そうなの!?」

「そういうもんだよ。普通、王族貴族は恋愛なんかしない。然るべき見合った地位の相手と縁談をして、家々の結びつきという形で結婚するんだ」

「ははあ、なるほどー」

 僕は感心した。
 でも、カルと婚約させるなら、シャザクの家にもうすぐ生まれる子どもが女の子らしいから、その娘にしたいな。

 とにかく僕は、使者をよこして縁談だとか抜かすのが気に入らなかったので、彼らを帰らせたのだった。
 帰れ帰れ。

「こ、後悔なさりますぞ!」「バスコンティン家の方、その捨て台詞はちょっとダサい……」「侯爵は美食伯の敵に回ると? 命知らずな」「あ、いや、そんな気は全くなくて……」

 なんかわちゃわちゃ言いながら帰ってしまったな。
 なんと面倒な連中だろう!!

「よし、シャザクと話をして、婚約を取り付けてくる」

「それがいいね。行ってらっしゃい」

 今日は一日、カルを見てくれるらしいリップル。
 彼女に任せて、僕はシャザクの家に向かうのだった。

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