記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第1章 あなたは誰
ワケあり王子②(SIDEアンドレ)
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「あの子、男がいるのか……」
「ええ。彼女には夫か婚約者か、恋人がいるようですね。それなのに、魔力なしだから刺客として目を付けられたんでしょう。僕を油断させて近づくには適任ですしね」
「アンドレ……。あの子が気に入ったんだろう。じゃなきゃ、人を避けているアンドレが、そこまで他人に肩入れするわけないもんな」
気に入った? ジュディを……。
いや、それはない。
僕が心を惹かれたのは、たった一人だけだ。一度でいいから直接会いたいと願った幻の聖女。
それ以外の女性には、興味もない。あの人に比べれば、誰もが霞んで見える。
けれど、どうしてか……。イヴァン卿が発した言葉を否定する気になれなかった。
ジュディは僕を害する者だと気づいているのに。
「そんなことより。軍の連中にジュディの紹介をしっかりと頼みますよ」
と申し出れば、彼は僕の話を、知らん知らんと手で振り払う。
「やぁなこったぁ。これまで頑なに若い女性を雇わなかったのは、隊員たちが女を見れば見境なく手を出すからだって、言ってたのはアンドレだろう。別に得体の知れない女に俺は肩入れする気はないしな」
「僕が言っても、プライドの高いあの連中が、大人しく引き下がるわけはないからお願いしますよ」
イヴァン卿へ頭を下げる。
「無理だな。そんなことを言えば、兵士の士気が下がるからな。事が起きて、彼女から相談されたら考える」
「起きてからって……」
「俺は、軍の連中の行動には干渉しないからな」
「まあ、期待はしていなかったからいいですよ」
「悪いな」
「もう一つ頼みがあります。中央教会に行けば魔力なしとして『ジュディ』の情報が残っているかもしれません。探って来てください」
「ああ、もちろん言われなくてもするに決まっているだろう。大事なアンドレが既に変な女に騙されているんだからな」
カステン辺境伯が真面目な顔で答えた。
「はは、変な女ですか……まあ、その彼女と買い物へ行くので、もう帰ってくれませんか」
「なあ、一つ気になる話がある」
いつもは陽気なイヴァン卿が、またしても真面目な口調で告げた。
話を早々に切り上げたいと思いつつも、深刻そうな様子を無下にできないと感じる。
……聞かないわけにはいかないか。
そう思ったが、強引に部屋へ戻してしまったジュディが一人でどうしているか気にかかる。
長話にしたくないため、あまり興味はないと伝わるように、そっけなく返す。
「何ですか?」
「瘴気の気配はないが魔虫が飛んでいる。何かの前兆か、一時的なものかは分からないが、しばらく警戒が必要だ」
「どうせ結界をすり抜けてきたんでしょう。筆頭聖女の代替わりで、新しい筆頭聖女が結界を張る練習をしているだけだと思いますよ。そのうち安定するんじゃないですか?」
「慣例では、婚礼の儀より前倒しで引き継ぐことはないが。まぁ、おそらくそうだろうな。——歴代稀に見る結界を張り続けていた王妃殿下も、その座を王太子妃に譲り渡すときが来たんだな」
時の流れを痛感した僕は、返す言葉は何も見つからなかった。
返事をせずにいれば、空気を読んだイヴァン卿が、にかッと笑う。
「じゃあ用事はそれだけだ。俺は中央教会に行って、ジュディの素性を探ってくる。彼女が刺客じゃないことを期待しておけよ」
彼女が刺客じゃなければ――。賑やかしい彼女と、この先も一緒にいられるのだろうか?
にこにこと笑って楽し気なジュディ。そんな彼女との毎日を想像して、思わず笑った。
「別に……」
「なあに隠すなって、本当は嬉しいくせに」
「嬉しいって……」
「白黒付くまで楽しく過ごすといいさ。アンドレが、あのご令嬢を忘れるいい機会だしな。男がいるとはいえ今はアンドレの元にいるんだ。仲良くすればいいさ」
「僕たちは、そういう関係ではないですよ。買い物と言っても、ただの日用品の買い出しですからね」
「いいんじゃないの、お互い割り切っちゃえば。楽しくやっちゃう分には問題ないって」
「そういうの興味がないんで」
平静を装い、口にした。
――一体何を言い出すんだ。
あんたのその一言で、忘れなきゃならない残像が、また頭に浮かんでしまった!
余計なことを言わずに帰ってくれと思う僕は、エントランスの扉を開き、イヴァン卿を外へと誘導した。
だが腹立たしいことに、最後まで、にやけ顔を向けられた。
――何か顔に出ているのかと心配になる僕は、思わず両頬に手を当てた。
浴室での一件。
彼女の叫び声が聞こえ、慌てて扉を開けてしまった。
何をやっているんだ僕は……。
ジュディから「見たか?」と聞かれ、咄嗟に誤魔化した。いや。お互いの平和のためには、見たと言わない方が正しいはずだ。おそらく……。
だが、彼女の体を見ていない方があり得ないだろう。
一瞬で、余す所なく確認してしまった……。
いや、あれは不可抗力。
すかさず上から下まで目を動かしたのは、急に攻撃魔法を仕掛けられないかと警戒した、日ごろからの条件反射だ。
そうやって、己の中で言い訳を続けている。
――ジュディ……。
何かを企んで僕に近づいて来たんだと分かっているのに、どうしてか、彼女のことが、気になって放っておけない。
彼女を森の中で抱き上げた時。僕と彼女が切れない関係で繋がっている気がした。
もちろん、そんなことはただの勘違いで気のせいだとは分かっているのだが。
おそらく、王宮の彼女への想いを紛らわすための、都合のいい勘違いだ。
だが、そんな僕の気も知らず――……。
男と二人きりだというのに、なんであんなに無防備なんだよ。
平気な顔で男の家に上がり込むし。
ずかずか心に入ってきて、僕の感情をぐちゃぐちゃにかき乱してくれて、変になる。
◇◇◇
「ええ。彼女には夫か婚約者か、恋人がいるようですね。それなのに、魔力なしだから刺客として目を付けられたんでしょう。僕を油断させて近づくには適任ですしね」
「アンドレ……。あの子が気に入ったんだろう。じゃなきゃ、人を避けているアンドレが、そこまで他人に肩入れするわけないもんな」
気に入った? ジュディを……。
いや、それはない。
僕が心を惹かれたのは、たった一人だけだ。一度でいいから直接会いたいと願った幻の聖女。
それ以外の女性には、興味もない。あの人に比べれば、誰もが霞んで見える。
けれど、どうしてか……。イヴァン卿が発した言葉を否定する気になれなかった。
ジュディは僕を害する者だと気づいているのに。
「そんなことより。軍の連中にジュディの紹介をしっかりと頼みますよ」
と申し出れば、彼は僕の話を、知らん知らんと手で振り払う。
「やぁなこったぁ。これまで頑なに若い女性を雇わなかったのは、隊員たちが女を見れば見境なく手を出すからだって、言ってたのはアンドレだろう。別に得体の知れない女に俺は肩入れする気はないしな」
「僕が言っても、プライドの高いあの連中が、大人しく引き下がるわけはないからお願いしますよ」
イヴァン卿へ頭を下げる。
「無理だな。そんなことを言えば、兵士の士気が下がるからな。事が起きて、彼女から相談されたら考える」
「起きてからって……」
「俺は、軍の連中の行動には干渉しないからな」
「まあ、期待はしていなかったからいいですよ」
「悪いな」
「もう一つ頼みがあります。中央教会に行けば魔力なしとして『ジュディ』の情報が残っているかもしれません。探って来てください」
「ああ、もちろん言われなくてもするに決まっているだろう。大事なアンドレが既に変な女に騙されているんだからな」
カステン辺境伯が真面目な顔で答えた。
「はは、変な女ですか……まあ、その彼女と買い物へ行くので、もう帰ってくれませんか」
「なあ、一つ気になる話がある」
いつもは陽気なイヴァン卿が、またしても真面目な口調で告げた。
話を早々に切り上げたいと思いつつも、深刻そうな様子を無下にできないと感じる。
……聞かないわけにはいかないか。
そう思ったが、強引に部屋へ戻してしまったジュディが一人でどうしているか気にかかる。
長話にしたくないため、あまり興味はないと伝わるように、そっけなく返す。
「何ですか?」
「瘴気の気配はないが魔虫が飛んでいる。何かの前兆か、一時的なものかは分からないが、しばらく警戒が必要だ」
「どうせ結界をすり抜けてきたんでしょう。筆頭聖女の代替わりで、新しい筆頭聖女が結界を張る練習をしているだけだと思いますよ。そのうち安定するんじゃないですか?」
「慣例では、婚礼の儀より前倒しで引き継ぐことはないが。まぁ、おそらくそうだろうな。——歴代稀に見る結界を張り続けていた王妃殿下も、その座を王太子妃に譲り渡すときが来たんだな」
時の流れを痛感した僕は、返す言葉は何も見つからなかった。
返事をせずにいれば、空気を読んだイヴァン卿が、にかッと笑う。
「じゃあ用事はそれだけだ。俺は中央教会に行って、ジュディの素性を探ってくる。彼女が刺客じゃないことを期待しておけよ」
彼女が刺客じゃなければ――。賑やかしい彼女と、この先も一緒にいられるのだろうか?
にこにこと笑って楽し気なジュディ。そんな彼女との毎日を想像して、思わず笑った。
「別に……」
「なあに隠すなって、本当は嬉しいくせに」
「嬉しいって……」
「白黒付くまで楽しく過ごすといいさ。アンドレが、あのご令嬢を忘れるいい機会だしな。男がいるとはいえ今はアンドレの元にいるんだ。仲良くすればいいさ」
「僕たちは、そういう関係ではないですよ。買い物と言っても、ただの日用品の買い出しですからね」
「いいんじゃないの、お互い割り切っちゃえば。楽しくやっちゃう分には問題ないって」
「そういうの興味がないんで」
平静を装い、口にした。
――一体何を言い出すんだ。
あんたのその一言で、忘れなきゃならない残像が、また頭に浮かんでしまった!
余計なことを言わずに帰ってくれと思う僕は、エントランスの扉を開き、イヴァン卿を外へと誘導した。
だが腹立たしいことに、最後まで、にやけ顔を向けられた。
――何か顔に出ているのかと心配になる僕は、思わず両頬に手を当てた。
浴室での一件。
彼女の叫び声が聞こえ、慌てて扉を開けてしまった。
何をやっているんだ僕は……。
ジュディから「見たか?」と聞かれ、咄嗟に誤魔化した。いや。お互いの平和のためには、見たと言わない方が正しいはずだ。おそらく……。
だが、彼女の体を見ていない方があり得ないだろう。
一瞬で、余す所なく確認してしまった……。
いや、あれは不可抗力。
すかさず上から下まで目を動かしたのは、急に攻撃魔法を仕掛けられないかと警戒した、日ごろからの条件反射だ。
そうやって、己の中で言い訳を続けている。
――ジュディ……。
何かを企んで僕に近づいて来たんだと分かっているのに、どうしてか、彼女のことが、気になって放っておけない。
彼女を森の中で抱き上げた時。僕と彼女が切れない関係で繋がっている気がした。
もちろん、そんなことはただの勘違いで気のせいだとは分かっているのだが。
おそらく、王宮の彼女への想いを紛らわすための、都合のいい勘違いだ。
だが、そんな僕の気も知らず――……。
男と二人きりだというのに、なんであんなに無防備なんだよ。
平気な顔で男の家に上がり込むし。
ずかずか心に入ってきて、僕の感情をぐちゃぐちゃにかき乱してくれて、変になる。
◇◇◇
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