記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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第2章 あなたは暗殺者⁉
窺い合う二人①
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「ジュディ、待たせてしまい申し訳ありませんね」
廊下からノックと共に声が聞こえる。
アンドレが部屋まで迎えに来てくれたと分かり、すぐさま扉へ駆け寄り彼の顔を覗く。
何故か顔が赤い。それに酷く項垂れている。
おそらくだが、彼はカステン辺境伯と相当揉めたに違いない。
そうでなければ、ここまでへこまないわよね。
一体何を話していたのかと、心配になる。
「カステン辺境伯様のことは、大丈夫なの?」
「ええ、イヴァン卿の事は、全く問題はないので心配しなくて大丈夫ですよ」
そう言う割に、彼は嘘くさい澄まし顔をする。
「じゃあ、どうしてそんなに落ち込んでいるのかしら」
「ジュディの……いいえ。何を言おうとしたか忘れました、すみません」
申し訳なさげに告げたが、どうしたと言うのだろう。
よく分からず「ん? 本当に問題はないの?」と、首を傾げる。
「突然イヴァン卿が来て、ジュディを驚かせて申し訳ありませんでした。彼のことは気にする必要はありませんので、気を取り直して買い物へ行きましょう」
うんと返すわたしは、当初の予定どおり買い物へ向かう。
なんだろう……。言い争うカステン辺境伯とアンドレは、随分と親しい間柄に見えた。
どういう繋がりなのかと、二人の関係を知りたい。
けれど、この手の質問で昨日は、図々しいと呆れられたのよね。
今一度冷静になり、口走りそうな感情を必死に堪えた。
たかだか年齢と仕事を訊ねたくらいで野宿に変わったんだ。布団は逃したくないもの。
苦い出来事を思い返したわたしは、カステン辺境伯との関係を、もう少し関係が深まってから訊ねることに決めた。
それからわたしたちは、彼の馬に乗って、領内にある服屋へ到着した。
彼が連れてきてくれたのは、辺境伯領の目抜き通りの角にある大きな服屋だ。
その店は、なかなか小洒落た外観の店舗である。窓から見える店内には、男女問わずの衣服が並ぶ。
パッと見たところ、女性の間では、オーガンジーの素材が流行っているのかしら。
飾ってあるブラウスにしても、スカートにしても、とても薄くて軽い素材で作られた、女性らしい衣裳が飾られている。
年ごろのくせに、「流行っているのかしら」なんて思うくらい、お洒落に疎いところみると、あんまりお金のある暮らしを送っていなかったのね。
お嬢様ではないなと、しみじみ痛感する。
そう思いながら店のガラス扉に手をかけ開けようとすれば、スラックスの裾をまくり、あり合わせの白いシャツを着ている野暮ったい自分の格好が映る。
嫌だな、なんだか恥ずかしい。
一緒に入店するアンドレは、同伴者の格好を気にしていないかしらと、様子を窺う。
すると、至って平気な顔をしている彼は、わたしのためにさっと扉を開いてくれた。
「さあ、どうぞ」
「ありがとう」
彼の目を見て礼を告げた後、今めかしい服がひしめく店内へ入る。すると、キラキラと素敵な服が目に飛び込んでくる。
うわぁ~、なんて可愛い服がいっぱいなの!
決して欲張りではないと信じたいのだけれど、ついついあれも、これもと目移りしてしまう。お金もないくせに。
気に入ったのを手当たり次第、目星を付けた。
そして、店内を流し見しているわたしの視界に、ランジェリーコーナーが目に止まった。
やばい。下着の存在を忘れていた。気づいて良かったわ。これは必須だ。
けどな……。無駄に種類が多いなと顔が引きつる。
……そう。
形や生地が違う、色とりどりの下着がわんさとある。
そもそも彼にも予算というものがあるはずなのよ。
ってことは、お金を払ってもらう手前。最後には買いたい品を見せる必要があるのよね。
絶対に買って帰らないといけないけど、「こんな子どもっぽいのを選ぶんだ」とか「ふしだら」とかアンドレに思われたらどうしよう。
不安になってアンドレをちらりと見る。
すると、先ほどまで真横にいたはずの彼の姿がない。
どこへ行ったのかと思い、ぐるりと見渡し彼を探す。そうすると、彼は買い物に付き合うのに飽きたのだろう。
扉から外の景色を眺めている。
何を見ているのかと思って窺っていると、ガラス越しにアンドレとばっちり目が合った。
わたしが彼を見ているのがバレて、パッと視線を戻した。
よし、下着を吟味するなら彼が外を見ている今がチャンスだな――。
そう判断して、無造作にたくさん入っている下着コーナーから物色する。
そうだなぁ~。とは悩んでみたけど、無難なのってどれを指すんだろうか?
全部同じ白一択で選ぶと、無難を通り過ぎて、無頓着な人みたいじゃない。
ええ~、何がいいんだろう……。
それに、何の違いがよく分からないのに、お値段も結構違うし。
人様に見せる予定のない下着ごときに散々迷った挙句。パステルカラーの紫、黄緑、水色、ピンクで一揃え集めてみた。
それと先に店内を歩いている時に気になった、ワンピースやスカート、ブラウスを何点かずつ手に取る。
下着は服に隠すように混ぜ込み、空いていた商品棚へと広げた。
よし! これでいいわね。
「ねぇねぇ、どの服が似合うかしら。気に入ったのがいっぱいありすぎて、選べないわ。アンドレの気に入ったのを買おうと思うのよね」
「なんでそんなことを、僕に聞くんですか?」
何故か恥ずかしげに口ごもる。
下着は隠れて見えないわよねと、不思議に思う。
「ん? 何が? アンドレの好みを聞いているのよ」
「好みって……。それは、ご自分で選んでください。僕の好みは関係ないでしょう」
「ええぇ~。そんな釣れない事を言わないでよね。こっちは困って聞いているんだから。わたしに、似合う服はどれかしら?」
「似合う服って言われても……」
「なんかね。こうして誰かと一緒に服を選びたいと思っていた気がするの。自分が身に着ける服を、あーだ、こーだ言いながら決めるのを、ずっと憧れていた感覚があるわ」
「そうなんですか――」
「うん。胸の中がふわふわしていて不思議な感じがするわ。こうしてアンドレと話をしながら買い物をすれば、何かを思い出せるかもしれないもの。アンドレは何がいいと思う?」
「ジュディが選んだのは、全部、露出が多いのでどうかなぁ……。できれば軍の連中の気を引く様な、肩の開いた刺激の強い服は着ないで欲しいですね。トラブルの原因になるので」
「そんなぁ~。じゃあ、アンドレはどの服がいいって言うのよ」
「僕は、今ジュディが着ている。……僕の服が一番似合っていると思います」
アンドレがそれを言い切ると、顔を逸らした。
その態度を見て、ははぁ~ん。なるほどなと思う。
「そう。その手できたのね!」
「何がですか⁉」
「服を買ってくれると約束したのに、いざ目の前にしたら、思っていた以上に高くて、買うのを躊躇っているんでしょう」
「え⁉ どうしてそうなるんですか?」
目をパチクリさせるアンドレから、動揺の色が見える。ほらね。
「もういいわよ自分で何とかするから。やっぱり指輪を売って、お金に換えてから出直すわ」
「だから、それは売るなと言ったはずです。分かりました。そういうことなら、ジュディが気に入ったものを全部買うとしましょう!」
廊下からノックと共に声が聞こえる。
アンドレが部屋まで迎えに来てくれたと分かり、すぐさま扉へ駆け寄り彼の顔を覗く。
何故か顔が赤い。それに酷く項垂れている。
おそらくだが、彼はカステン辺境伯と相当揉めたに違いない。
そうでなければ、ここまでへこまないわよね。
一体何を話していたのかと、心配になる。
「カステン辺境伯様のことは、大丈夫なの?」
「ええ、イヴァン卿の事は、全く問題はないので心配しなくて大丈夫ですよ」
そう言う割に、彼は嘘くさい澄まし顔をする。
「じゃあ、どうしてそんなに落ち込んでいるのかしら」
「ジュディの……いいえ。何を言おうとしたか忘れました、すみません」
申し訳なさげに告げたが、どうしたと言うのだろう。
よく分からず「ん? 本当に問題はないの?」と、首を傾げる。
「突然イヴァン卿が来て、ジュディを驚かせて申し訳ありませんでした。彼のことは気にする必要はありませんので、気を取り直して買い物へ行きましょう」
うんと返すわたしは、当初の予定どおり買い物へ向かう。
なんだろう……。言い争うカステン辺境伯とアンドレは、随分と親しい間柄に見えた。
どういう繋がりなのかと、二人の関係を知りたい。
けれど、この手の質問で昨日は、図々しいと呆れられたのよね。
今一度冷静になり、口走りそうな感情を必死に堪えた。
たかだか年齢と仕事を訊ねたくらいで野宿に変わったんだ。布団は逃したくないもの。
苦い出来事を思い返したわたしは、カステン辺境伯との関係を、もう少し関係が深まってから訊ねることに決めた。
それからわたしたちは、彼の馬に乗って、領内にある服屋へ到着した。
彼が連れてきてくれたのは、辺境伯領の目抜き通りの角にある大きな服屋だ。
その店は、なかなか小洒落た外観の店舗である。窓から見える店内には、男女問わずの衣服が並ぶ。
パッと見たところ、女性の間では、オーガンジーの素材が流行っているのかしら。
飾ってあるブラウスにしても、スカートにしても、とても薄くて軽い素材で作られた、女性らしい衣裳が飾られている。
年ごろのくせに、「流行っているのかしら」なんて思うくらい、お洒落に疎いところみると、あんまりお金のある暮らしを送っていなかったのね。
お嬢様ではないなと、しみじみ痛感する。
そう思いながら店のガラス扉に手をかけ開けようとすれば、スラックスの裾をまくり、あり合わせの白いシャツを着ている野暮ったい自分の格好が映る。
嫌だな、なんだか恥ずかしい。
一緒に入店するアンドレは、同伴者の格好を気にしていないかしらと、様子を窺う。
すると、至って平気な顔をしている彼は、わたしのためにさっと扉を開いてくれた。
「さあ、どうぞ」
「ありがとう」
彼の目を見て礼を告げた後、今めかしい服がひしめく店内へ入る。すると、キラキラと素敵な服が目に飛び込んでくる。
うわぁ~、なんて可愛い服がいっぱいなの!
決して欲張りではないと信じたいのだけれど、ついついあれも、これもと目移りしてしまう。お金もないくせに。
気に入ったのを手当たり次第、目星を付けた。
そして、店内を流し見しているわたしの視界に、ランジェリーコーナーが目に止まった。
やばい。下着の存在を忘れていた。気づいて良かったわ。これは必須だ。
けどな……。無駄に種類が多いなと顔が引きつる。
……そう。
形や生地が違う、色とりどりの下着がわんさとある。
そもそも彼にも予算というものがあるはずなのよ。
ってことは、お金を払ってもらう手前。最後には買いたい品を見せる必要があるのよね。
絶対に買って帰らないといけないけど、「こんな子どもっぽいのを選ぶんだ」とか「ふしだら」とかアンドレに思われたらどうしよう。
不安になってアンドレをちらりと見る。
すると、先ほどまで真横にいたはずの彼の姿がない。
どこへ行ったのかと思い、ぐるりと見渡し彼を探す。そうすると、彼は買い物に付き合うのに飽きたのだろう。
扉から外の景色を眺めている。
何を見ているのかと思って窺っていると、ガラス越しにアンドレとばっちり目が合った。
わたしが彼を見ているのがバレて、パッと視線を戻した。
よし、下着を吟味するなら彼が外を見ている今がチャンスだな――。
そう判断して、無造作にたくさん入っている下着コーナーから物色する。
そうだなぁ~。とは悩んでみたけど、無難なのってどれを指すんだろうか?
全部同じ白一択で選ぶと、無難を通り過ぎて、無頓着な人みたいじゃない。
ええ~、何がいいんだろう……。
それに、何の違いがよく分からないのに、お値段も結構違うし。
人様に見せる予定のない下着ごときに散々迷った挙句。パステルカラーの紫、黄緑、水色、ピンクで一揃え集めてみた。
それと先に店内を歩いている時に気になった、ワンピースやスカート、ブラウスを何点かずつ手に取る。
下着は服に隠すように混ぜ込み、空いていた商品棚へと広げた。
よし! これでいいわね。
「ねぇねぇ、どの服が似合うかしら。気に入ったのがいっぱいありすぎて、選べないわ。アンドレの気に入ったのを買おうと思うのよね」
「なんでそんなことを、僕に聞くんですか?」
何故か恥ずかしげに口ごもる。
下着は隠れて見えないわよねと、不思議に思う。
「ん? 何が? アンドレの好みを聞いているのよ」
「好みって……。それは、ご自分で選んでください。僕の好みは関係ないでしょう」
「ええぇ~。そんな釣れない事を言わないでよね。こっちは困って聞いているんだから。わたしに、似合う服はどれかしら?」
「似合う服って言われても……」
「なんかね。こうして誰かと一緒に服を選びたいと思っていた気がするの。自分が身に着ける服を、あーだ、こーだ言いながら決めるのを、ずっと憧れていた感覚があるわ」
「そうなんですか――」
「うん。胸の中がふわふわしていて不思議な感じがするわ。こうしてアンドレと話をしながら買い物をすれば、何かを思い出せるかもしれないもの。アンドレは何がいいと思う?」
「ジュディが選んだのは、全部、露出が多いのでどうかなぁ……。できれば軍の連中の気を引く様な、肩の開いた刺激の強い服は着ないで欲しいですね。トラブルの原因になるので」
「そんなぁ~。じゃあ、アンドレはどの服がいいって言うのよ」
「僕は、今ジュディが着ている。……僕の服が一番似合っていると思います」
アンドレがそれを言い切ると、顔を逸らした。
その態度を見て、ははぁ~ん。なるほどなと思う。
「そう。その手できたのね!」
「何がですか⁉」
「服を買ってくれると約束したのに、いざ目の前にしたら、思っていた以上に高くて、買うのを躊躇っているんでしょう」
「え⁉ どうしてそうなるんですか?」
目をパチクリさせるアンドレから、動揺の色が見える。ほらね。
「もういいわよ自分で何とかするから。やっぱり指輪を売って、お金に換えてから出直すわ」
「だから、それは売るなと言ったはずです。分かりました。そういうことなら、ジュディが気に入ったものを全部買うとしましょう!」
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