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第2章 あなたは暗殺者⁉

わたしは誰①

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 第一部隊の兵士たちは、土蜘蛛の死骸を片付けるのに忙しくしている。
 それなのに隊長ときたら、アンドレとわたしに手を振り続け、いつまでも見送っていた。

 笑っていないで「働きなさいよ」と物申したくなったが、わたしもサボッている気がしてならない。

 さっきからアンドレの表情が浮かないし、こんなわたしに怒っているのかもしれないと感じた。

「そろそろ真面目に仕事をしないといけないし、わたしたちは帰りましょう」

「……ああ、そうですね。午後から仕事をしてもらいたいですし」

 わたしたちが乗ってきた馬の元へ戻ると、再び、彼の腕の中にすっぽりと収まり寄宿舎を目指す。

 彼はやたらと辺りを見渡している。周囲を警戒しているのか? 彼が手綱を握る馬の歩みは遅い。

「そういえば、アンドレは自分の魔力量を知られたくないと言っていたでしょう。あんな大きな上位魔法を使ったら、第一部隊のみんなに魔力量がバレたんじゃない?」

「おそらく大丈夫でしょう。炎柱は彼らが第一部隊に選定されるために使う、定番の魔法ですから。その魔法を使ったところで魔力量が大きいとは思わないですよ。少々火力が強すぎたけど、彼らには見分けはつかないので」

「そうなの? 彼らもちゃんと攻撃魔法が使えるのか……。それなのにどうしてみんな土蜘蛛を見ただけで、あんなに驚いていたんだろう?」
 唇を尖らせて訊ねた。

 兵士の中に、魔物を見て腰を抜かした者までいたのだ。

 か弱い乙女のわたしは平気だったのに。
 そのせいでこっちが、魔物にてんでビビりもしない、ふてぶてしい女みたいな絵ずらになった。

 ——気に食わないわねと、納得いかずに首を捻る。

「この辺りでは、瘴気だまりが発生して魔物が生まれることは、まずあり得ませんからね。日ごろ、ゲートから突進してくる魔物の侵入だけ注意を払えばいいので、退治する魔物は基本的にいないんですよ」

「この国ではそうなのよね……。だけど、どうしてだろう。わたしはいっぱい魔物が存在する場所にいた気がする」

「それならジュディは、ルダイラ王国の外で暮らしていたのかもしれないですね。この国の筆頭聖女が張る結界は完璧ですし、国内で魔物に遭遇することは、ほとんどあり得ませんので」

「ねえ……。わたしって、魔力なしで、欲深くて、魔法や魔物の知識だけ聖女並みで、国の外で暮らしていたの……。一体、どういう生活をしていたんだろう。おかしいわねぇ」
 半ば自分自身に呆れて言った。

「それは……。僕の見解をお伝えしても怒らないですか?」

「何かしら、聞かせてちょうだい」

 それではと、アンドレは一瞬で纏う空気を張り詰め、一度馬を止めた。

「高額な報酬が欲しいジュディは、誰かを殺める任務を引き受けて、魔物がいる隣国で実戦訓練でもしていたんでしょう。魔力なしであれば、相手を油断させられるからね。——あなたは、うってつけの人選です」

「ええぇ~。さらっと怖い話をしないでよ。真顔で言われたら、冗談に聞こえないわよ。そういうのはユーモアを混ぜて言ってくれないと、真に受けるでしょう」

「僕は本気で話しているんですが。まさかジュディの詰めが甘くて、記憶を失くしているとは仲間も思っていないでしょうね。くくっ」

「もう! 変な人物像を、確信を持って言わないでよ!」
 怒ってみたものの、ゲラゲラと笑うアンドレは少しも気に留めていないようだ。

 全く身にならない会話を繰り広げているのに、アンドレは「名前でも思い出せましたか?」と笑って聞いてきた。

「は~ぁあ、さっぱりよ。すっかりジュディが馴染んできたから、それでいいわよ」
 自分の正体に不安を感じ始め、ため息混じりに返す。

 当初、大司教のガラス玉を大量所持していたことで、アンドレから疑いをかけられた、犯罪者説。

 これが、あながち本当な気がしてならない。

 実は彼には打ち明けていないが、わたしの過去に、荒々しい男性たちの気配がある。

 顔は思い出せないけど、周囲には男性しかいなかった気がする。兵士なのか軍人なのか分からない血の気の多い男たちと、肉が焼ける匂い。

 わたしに残っている記憶が、不思議なくらい年頃の女性と乖離している。

 調理や洗濯、掃除などの生活に関する記憶は、恐ろしいくらい持っていない。

 マズいな……。アンドレの話を笑えないじゃない。

 頭の中に存在するのは、魔法と魔物の記憶と頻回に魔力計測器に触れていたことばかりだ。

 ――どう考えても普通じゃない。
 過去についてはこのまま蓋をして、何も思い出さない方が幸せな気もする。

 だけど何かが引っかかる。
 このままでもいけない。何かを取り戻さないと――。
 そうしなければ大変な事態が起きる気がする。
 って何が?
 ちっとも分からないわ……。

 ぐるぐると思考を巡らせ考えにふけていると、既に目的の場所まで来ていた。
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