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―― 第二章 ―― 紅い血の刻印
【024】黒椿女学院への道中
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その日の朝は陽光が白く、朝食の席についたときには、いつもより明るく感じた。
桜子は目の前に座る礼人を見る。
いつもの軍服とも、普段着の和服とも異なり、上質な洋服を着ている。
茶色のベストとシャツ、タイ。よく似合っている。
あまり洋服のことは分からなかったけれど、上流階級の出自なのだろうなというのは、この装いだけでも分かってしまうだろうと考えた。
「おはよう、桜子さん」
「おはようございます、礼人様」
本日の食事は洋食だった。金色の輝くようなスクランブルエッグと、輸入されたものらしい大きめのハムがある。付け合わせのサラダに箸を向け、味わいながら桜子は自分の量――礼人と比べたらずっと少ない量だけれど満腹になる量を食べた。お腹いっぱい食べられるようになったのは、ここ最近のことだ。胃が弱っていただけではない。天羽家では満足に食事を与えられなかったからだ。女学院へと持参する弁当だけは、天羽の父が周囲の目を気にして、ある程度一般的な握り飯とおかずを用意してくれたので、それが唯一と言っていいまともな食事だった。四峰家に来てからのお弁当は、色彩も具材も豊かだ。なにも家格と富裕度の違いではない。桜子への扱いと思いやりの違いだ。
食後二人で外へと出て、礼人に手を引かれて馬車に乗りこむ。並んで座ると、距離が近いのを実感した。桜子は礼人の横顔を見る。礼人は視線を下げて、英文が書かれた紙を見ている。それから少しして、礼人が顔を上げた。
「どうかした?」
「あ……」
ただ、見惚れていただけだ。そう気付いて桜子は言葉に窮した。頬が熱くなる。
「……」
「桜子さん?」
「……え、ええと……な、なんでもありません」
「そう? 顔が赤いようだけどね?」
首を傾げた礼人が、片手で桜子の額に触れる。
「熱は無さそうだけど、具合が悪くなったらきちんと保健室に行くように」
「はい」
桜子が小さく二度頷いたとき、馬車が停まった。
「俺はここからは歩くよ。毎朝そうする。この路地なら、降りるところが見えないからね」
「はい……でも、私が歩く方がよいのでは?」
「ダメです」
「何故ですか?」
「俺が心配だからだよ」
笑うでもなく怒るでもないいつもの表情で、さもそれが当然であるように礼人は言う。桜子はさらに照れそうになってしまった。礼人の優しさが嬉しい。
こうして礼人が先に降りた。隣を馬車で通り過ぎるとき、歩く姿を見て、やはり桜子は見惚れた。外見だけが好きなわけではない。けれど、自分に優しい顔をしてくれる礼人が好きだから、それはやはり外見が好きだと言うことなのだろうか? 緑色の優しさが滲む目と、時に不器用に笑う表情が、桜子には大切でたまらない。
まだ――いまだ、礼人に己の恋心を伝えられていない。言い方が分からない。それが最近の、桜子の悩みだ。もし、礼人には気持ちがないのだとしても、自分の想いを伝えたいと願ってしまう。そんな胸の疼きは、しかし決して不快ではなかった。
桜子は目の前に座る礼人を見る。
いつもの軍服とも、普段着の和服とも異なり、上質な洋服を着ている。
茶色のベストとシャツ、タイ。よく似合っている。
あまり洋服のことは分からなかったけれど、上流階級の出自なのだろうなというのは、この装いだけでも分かってしまうだろうと考えた。
「おはよう、桜子さん」
「おはようございます、礼人様」
本日の食事は洋食だった。金色の輝くようなスクランブルエッグと、輸入されたものらしい大きめのハムがある。付け合わせのサラダに箸を向け、味わいながら桜子は自分の量――礼人と比べたらずっと少ない量だけれど満腹になる量を食べた。お腹いっぱい食べられるようになったのは、ここ最近のことだ。胃が弱っていただけではない。天羽家では満足に食事を与えられなかったからだ。女学院へと持参する弁当だけは、天羽の父が周囲の目を気にして、ある程度一般的な握り飯とおかずを用意してくれたので、それが唯一と言っていいまともな食事だった。四峰家に来てからのお弁当は、色彩も具材も豊かだ。なにも家格と富裕度の違いではない。桜子への扱いと思いやりの違いだ。
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「どうかした?」
「あ……」
ただ、見惚れていただけだ。そう気付いて桜子は言葉に窮した。頬が熱くなる。
「……」
「桜子さん?」
「……え、ええと……な、なんでもありません」
「そう? 顔が赤いようだけどね?」
首を傾げた礼人が、片手で桜子の額に触れる。
「熱は無さそうだけど、具合が悪くなったらきちんと保健室に行くように」
「はい」
桜子が小さく二度頷いたとき、馬車が停まった。
「俺はここからは歩くよ。毎朝そうする。この路地なら、降りるところが見えないからね」
「はい……でも、私が歩く方がよいのでは?」
「ダメです」
「何故ですか?」
「俺が心配だからだよ」
笑うでもなく怒るでもないいつもの表情で、さもそれが当然であるように礼人は言う。桜子はさらに照れそうになってしまった。礼人の優しさが嬉しい。
こうして礼人が先に降りた。隣を馬車で通り過ぎるとき、歩く姿を見て、やはり桜子は見惚れた。外見だけが好きなわけではない。けれど、自分に優しい顔をしてくれる礼人が好きだから、それはやはり外見が好きだと言うことなのだろうか? 緑色の優しさが滲む目と、時に不器用に笑う表情が、桜子には大切でたまらない。
まだ――いまだ、礼人に己の恋心を伝えられていない。言い方が分からない。それが最近の、桜子の悩みだ。もし、礼人には気持ちがないのだとしても、自分の想いを伝えたいと願ってしまう。そんな胸の疼きは、しかし決して不快ではなかった。
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