あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

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―― 第二章 ―― 紅い血の刻印

【025】三人の高嶺の花

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 その後教室へと向かうと、薫子が机に手を突いて立ち上がった。

「桜子さん! お聞きになりました?」
「おはようございます、薫子さん。なにをですか?」
「新しい英語の先生がいらっしゃるそうなの。ほら、前のおじいちゃん先生、腰の療養をしたいと話していて、少しの間お休みになるそうなの。その間の代理ですって!」

 薫子が頬を紅潮させて、目を輝かせている。

「どこのお家の方なのかしら?」

 薫子が首を傾げると、舞子がチラリと二人に振りかえる。長くまっすぐで艶のある黒髪が揺れた。公家華族の出自なのだというが、武家華族の女学生よりも凜とした威圧感がある。

「さきほど先生達が、一条侯爵家の遠縁の方だとお話ししていたわよ」
「まぁ! こ、侯爵家の!」

 よりいっそう薫子の顔には喜色が浮かび、目を丸くしている。
 その隣をゆっくりと歩き、桜子は自分の席に着いた。

「おはようございます、桜子さん」
「おはようございます、尋子さん」

 今日も陽だまりの中に咲く大輪の花のような雰囲気の尋子は、桜子を見ると優雅に笑った。彼女の明るい存在感は、場の空気を変える。桜子は時分が陰気で暗いたちだと考えている。それもそうなのかもしれない、太陽の下で告白するのが厳しい境遇に置かれていたのだから。ただ実際の桜子は美麗な顔立ちをしている繊細な美の持ち主で、夜桜のような気配を放つ、そんな美少女だ。彼女には、その自覚はないが、尋子と並んでも引けを取らない。だから尋子も、桜子には一目置いている。ただそれで仲が良くなったわけではないが。

 このクラスでは、凜とした舞子、太陽のような尋子、夜桜のような桜子の三人が、ひそやかに高嶺の花だと囁かれている。特に下級生にそう呼ばれることが多い。お姉様を求める少女は、女学院では思いのほか多い。

「桜子さんも気になりますか?」
「え、ええ……」

 礼人のことだ。迂闊に迷惑をかけるような発言をしてはならないからと、桜子は慎重に言葉を選ぶ。尋子はふぅんと笑うと、黒板の方を見た。

「朝から教室中がそのお話で持ちきりなの」

 尋子は大体教室に一番早くくるらしい。そして観葉植物や植木鉢に水や養分を与えるのが好きなのだという。本来は係の者の仕事なのだが、今は尋子がそれを行っている。そのため、尋子が係の者だということに決められた。

 その後鐘がなり、今泉先生が入ってきた。彼女の後ろから礼人様――改め、一条礼人先生が入ってくる。すると教室内の雰囲気が露骨に変わった。皆が見惚れているのが空気で分かる。長身の礼人は少し屈んでドアをくぐった。明るい髪色と緑の目のコントラストが美しい。国語担当の斑目先生もハーフなので茶系統の日本人離れした色彩だが、礼人の方は顔立ちは整ってはいるけれど、帝都の人間にしか見えない。

「ご紹介します。本日より皆さんに英語を教えて下さる、一条礼人先生です。皆さん、失礼がないように」

 今泉先生はそう告げてから、礼人を見た。


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