61 / 70
―― 第五章 ―― 百鬼夜行
【061】一輪の花の元気
しおりを挟む
こうしてアリアに教わりながら、桜子は訓練を始めた。
掌に淡い光が溢れるイメージを頭の中に描くと、最初はほんのりと手が温かくなるだけだったが、今ではきちんと光が出るようになった。
「うーん」
これでよいのか悩みながら、カイを抱き上げる。
そしてベッドに座ると、アリアの声が響く。
『ええ。あなたの力は紛れもなく白い薔薇に近づいているわ』
そう耳にして、入浴時に体を見てみる。確かに黒が強かった薔薇の模様が、白とも金ともつかない色に薄れたようにも感じられた。
それからも訓練を繰り返すうち、桜子は詩乃が生けてくれた花を見る。
少しだけ、元気がない。
詩乃はすぐに花を取り替えようとしてくれたけれど、桜子はまだ咲いているからと制止した。ふと思い立って、その一輪挿しの花の前に立ち、両手を翳してみる。
「あ」
すると桜子の掌から温かい光が溢れてすぐに、花は元気を取り戻した。目を瞠り、本当に力があることに驚いて、桜子は少しだけ冷や汗をたらす。
『随分と自由自在に使えるようになってきたようね』
「これが、浄癒の力……?」
『ええ、そうよ。白い薔薇の力』
「私でも、誰かの力になれますか?」
桜子が問うと、ころころとアリアが笑った。
『それは分からないわ』
「……そうですか」
『強い力が、誰かを助けるわけじゃないもの。助けたいという気持ちが大切なのよ』
「っ」
『桜子さん、あなたが助けたいと望み願うのならば、きっと浄癒の力はあなたの背中を押すでしょう』
アリアの優しい励ましに、桜子はゆっくりと頷いた。
そうだ、気持ちが大切だと、そう感じる。過去、諦めてばかりいた己とは、決別しなければならない。今、自分には大切な人々が大勢いて、彼らは自分のこともまた大切にしてくれる。そう考えたとき、一番最初に脳裏を過るのは、礼人の顔だ。
『桜子さんには、大切な人がいるようね』
「……はい」
『ならばきっと、あなたにならばその相手の手を掴むことができるのではないかしら。助けてあげるといいわ』
アリアの声に頷いてから、桜子は窓の外を見る。
日差しが強い。夕日が、寒い中凍った路面にも反射しているかのようだった。
「私に出来ることならば、なんだってしてあげたいんです」
『優しいのは良いことだけれど、尽くしすぎてはダメよ?』
「え?」
『心配ならばきちんと、もっと自分を大切にするように唱えなくっちゃ。それをその人も望むでしょう』
「……」
それは礼人が己にしてくれたことでもあると、桜子は思った。そうだ、礼人にはきちんと、自分を大切にしてほしいとも伝えなければ。私自身が私を大切にするだけでは、だめだ。礼人にも、己を大切にしてもらわなければ。
アリアとそのようにやりとりをしているうちに、日が落ち始めた。
掌に淡い光が溢れるイメージを頭の中に描くと、最初はほんのりと手が温かくなるだけだったが、今ではきちんと光が出るようになった。
「うーん」
これでよいのか悩みながら、カイを抱き上げる。
そしてベッドに座ると、アリアの声が響く。
『ええ。あなたの力は紛れもなく白い薔薇に近づいているわ』
そう耳にして、入浴時に体を見てみる。確かに黒が強かった薔薇の模様が、白とも金ともつかない色に薄れたようにも感じられた。
それからも訓練を繰り返すうち、桜子は詩乃が生けてくれた花を見る。
少しだけ、元気がない。
詩乃はすぐに花を取り替えようとしてくれたけれど、桜子はまだ咲いているからと制止した。ふと思い立って、その一輪挿しの花の前に立ち、両手を翳してみる。
「あ」
すると桜子の掌から温かい光が溢れてすぐに、花は元気を取り戻した。目を瞠り、本当に力があることに驚いて、桜子は少しだけ冷や汗をたらす。
『随分と自由自在に使えるようになってきたようね』
「これが、浄癒の力……?」
『ええ、そうよ。白い薔薇の力』
「私でも、誰かの力になれますか?」
桜子が問うと、ころころとアリアが笑った。
『それは分からないわ』
「……そうですか」
『強い力が、誰かを助けるわけじゃないもの。助けたいという気持ちが大切なのよ』
「っ」
『桜子さん、あなたが助けたいと望み願うのならば、きっと浄癒の力はあなたの背中を押すでしょう』
アリアの優しい励ましに、桜子はゆっくりと頷いた。
そうだ、気持ちが大切だと、そう感じる。過去、諦めてばかりいた己とは、決別しなければならない。今、自分には大切な人々が大勢いて、彼らは自分のこともまた大切にしてくれる。そう考えたとき、一番最初に脳裏を過るのは、礼人の顔だ。
『桜子さんには、大切な人がいるようね』
「……はい」
『ならばきっと、あなたにならばその相手の手を掴むことができるのではないかしら。助けてあげるといいわ』
アリアの声に頷いてから、桜子は窓の外を見る。
日差しが強い。夕日が、寒い中凍った路面にも反射しているかのようだった。
「私に出来ることならば、なんだってしてあげたいんです」
『優しいのは良いことだけれど、尽くしすぎてはダメよ?』
「え?」
『心配ならばきちんと、もっと自分を大切にするように唱えなくっちゃ。それをその人も望むでしょう』
「……」
それは礼人が己にしてくれたことでもあると、桜子は思った。そうだ、礼人にはきちんと、自分を大切にしてほしいとも伝えなければ。私自身が私を大切にするだけでは、だめだ。礼人にも、己を大切にしてもらわなければ。
アリアとそのようにやりとりをしているうちに、日が落ち始めた。
23
あなたにおすすめの小説
紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜
五城楼スケ(デコスケ)
キャラ文芸
──人とあやかしたちが混在する、大正時代に似たもう一つの世界。
名家、天花寺(てんげいじ)家の娘である琴葉は14歳の頃、十日もの間行方不明になったことがあった。
発見された琴葉にその間の記憶は一切なく、そればかりか彼女の髪の毛は雪のように真っ白に変わってしまっていた。
そんな琴葉を家族や使用人たちは、人目に付かないよう屋敷の奥深くに隠し、”穢れモノ”と呼び虐げるようになった。
神隠しに遭った琴葉を穢らしいと嫌う父からは使用人より下に扱われ、義母や双子の義姉弟たちからいじめられていた琴葉が、十六歳の誕生日を迎える直前、ある転機が訪れる。
琴葉が十六歳になった時、天花寺家の遺産を琴葉が相続するように、と亡くなった母が遺言で残してくれていたのだ。
しかし、琴葉を狙う義兄と憎む義姉の策で、琴葉は絶体絶命の危機に陥ってしまう。
そんな彼女を救ったのは、どこか懐かしい気配を持つ、妖しくも美しい青年だった。
初めて会うはずの美青年は、何故か琴葉のことを知っているようで……?!
神聖な実がなる木を守護する家門に生まれながら、虐げられてきた少女、琴葉。
彼女が十六歳の誕生日を迎えた時、あやかしが、陰陽省が動き出す──。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】偽りの華は後宮に咲く〜義賊の娘は冷徹義兄と食えない暗愚皇帝に振り回される〜
降魔 鬼灯
キャラ文芸
義賊である養父を助けるため大貴族の屋敷に忍び込んだ燕燕は若き当主王蒼月に捕まる。
危うく殺されかけた燕燕だが、その顔が逃げた妹、王珠蘭に似ていることに気付いた蒼月により取引を持ちかけられる。
逃げた妹の代わりに顔だけは綺麗な暗君である皇帝の妃を決める選秀女試験に出て不合格になれば父の解放を約束するという密約を交わした。
記憶力抜群、運動神経抜群、音楽的才能壊滅の主人公が父のために無難な成績での選秀女試験不合格を勝ち取れるのか。
実は食えない性格の皇帝と冷徹だがマメな義兄蒼月に振り回され溺愛される燕燕は無事2人から解放されるのか。
後宮コメディストーリー
完結済
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる